第0話
西暦2084年3月15日、午前11時47分。
人類史上最も暗黒の日として、後の歴史書にその日付が刻まれることになる。
その瞬間、地球上の12ヶ所で同時に異次元への扉「アビスゲート」が開かれた。東京湾、ニューヨーク港、ロンドンのテムズ川、モスクワの赤の広場⸺世界各地の主要都市で、突如として巨大な黒い
渦が空に現れたのだ。
ゲートから這い出てきたのは、人類が想像すらしたことのない異形の化け物たちだった。
スライム、ゴブリン、オーク、トロール⸺まるでファンタジー小説から抜け出してきたような魔物たちが現実世界に姿を現し、容赦なく人々を襲った。そして何より恐ろしかったのは、12体の「アビスロード」と呼ばれる災厄級の存在だった。
破壊王バルバトス、疫病女王ペスティレンス、絶望帝ディスペア——。
それぞれが一国を滅ぼすに足る圧倒的な力を持つ彼らの前に、人類の近代兵器は無力だった。戦車の主砲は傷一つ付けられず、戦闘機のミサイルは炎の中に消え、核兵器すらも意味をなさなかった。
アビス災害⸺後にそう名付けられたこの大惨事により、わずか1年で人類の人口は35億人から7億人まで激減した。
8割の人類が失われた世界。廃墟と化した大都市。絶望に沈む生存者たち。
しかし、その絶望の底で人類に一筋の希望が与えられた。
「WORLD システム」
災害翌日の3月16日、生存者全員の脳内に突如として謎のシステムが起動した。まるでゲームのようなステータス画面、レベル、ジョブ、スキル——現実世界に RPG の概念が適用されたのだ。
【WORLDシステム起動】
World Order Reincarnation Level-up Database
適用対象:アビス災害生存者全員
目的:人類の生存率向上および反撃能力付与
ようこそ、新世界へ——
人々は魔物を倒すことで経験値を得て、レベルアップ
し、様々な職業に就くことができるようになった。ウォリアー(戦士)、メイジ(魔法使い)、アーチャー(弓使い)、ヒーラー(僧侶)⸺かつて空想の産物だった職業が、現実世界で力を発揮する
ようになったのだ。
このシステムにより力を得た人々は「ハンター」と呼ばれ、人類反撃の希望となった。
しかし、魔物たちもまた強大だった。
廃墟と化した建物や地下施設は「ダンジョン」と呼ばれる魔物の巣窟となり、その奥深くにはより強力な魔物が潜んでいる。
そして12体のアビスロードは依然として人類の脅威として君臨し続けていた。
生き残った人類は、防衛に適した要塞都市の建設を開始した。
トーキョー・フォートレス⸺かつての東京の中心部に建設された巨大な要塞都市。地下5層から地上200階に及ぶ超高層建造物に約50万人が暮らしている。最新の魔法工学技術により、強固な魔法障壁で守られたこの要塞は、人類最後の砦の一つだった。
同様の要塞都市が世界各地に建設され、人類はかろうじて生存を維持していた。ニューヨーク・シティ、ロンドン・キープ、モスクワ・ウォール⸺他にも小規模な要塞都市が点在し、合計で約7億人の人類が細々と生活を続けている。
そんな世界で、ハンターたちは日々ダンジョンに潜り、魔物と戦い、人類の生存圏を少しずつ拡大していた。
しかし、アビスロードという絶対的な壁が存在する限り、人類の真の勝利は程遠く思えた。
アビス災害から3年が経過した2087年現在、人類社会は混沌としていた。政府やハンターギルド連合
が従来の秩序を維持しようと努める一方で、災害は神の裁きだと主張する新世界教団や、強者のみが生き残るべきだと考えるエリート至上主義者たちも勢力を拡大していた。
そんな混乱した世界で、一人の少年が運命と向き合おうとしている。
神代蒼真⸺17歳の高校生。
家族をアビス災害で全て失い、ハンター学校では最下位の劣等生。WORLDシステムでは最弱の「見習い冒険者」というジョブに就いている平凡な少年。
しかし、彼にだけ与えられた不思議な力があった。
死亡すると72時間以内に戻り、記憶と経験を保ったまま再挑戦できる⸺そんな奇跡とも呪いともつかない能力。
ただし、この秘密を誰かに話すことは固く禁じられており、能力の存在自体が彼に重い精神的負荷をもたらしていた。
果たして一人の弱小ハンターが、この絶望的な世界で何を成し遂げることができるのだろうか。
2090年3月18日、午前6時
トーキョー・フォートレス21階-C区画のアパート、6畳一間の部屋で神代蒼真が目を覚ます。
今日は彼にとって運命の日⸺初めてのダンジョン実習の日だった。
まだ彼は知らない。
これから始まる無数の挫折と小さな成長を。
仲間たちとの出会いと複雑な人間関係を。 世界の真実
と、自分が背負うことになる重い責任を。
そして、どんな結末が待ち受けているのかも⸺
『死に戻りハンターの英雄譚』、ここに開幕。




