第9話、小説家になろうぜ
ダンジョンと聞けばRPGゲームに出てくる迷宮を思い出すんだけど、要は異界の別称である。
ちなみにこのダンジョンって言葉を初めて女神から聞いた時、真琴が強い反応を示したらしい。
と言うか、なんだダンジョンって?
ゲームでしか聞いた事のない言葉だけど、この今から行く世界にはゲームのダンジョンみたいに魔王とか怪物が跋扈しているとでも言うのだろうか?
そもそもそんなモノが本当に実在する世界って、どんな世界なの?
「ねぇねぇ真琴、ダンジョンがあるって事は、勇者とかがいる世界なの? 」
「え? 勇者って冒険者のことを言ってるの? 」
「冒険者? それはオーパーツとかを求める鞭の使いに長けたロシア系アメリカ人の冒険野郎の事を言ってるの? 」
真琴の呼吸が一瞬止まった。
「えーと、キミは最近の小説とか読まないのかな? 主にラノベとか、ラノベとか、ラノベとか」
「活字はちょっとね。どちらかと言えば理数系だし。でも映画なら、話題の新作から親世代の名作までと古今東西、色んな作品を観てきているよ! 」
「ふむふむ、そんなに映画が好きだったのは知らなかったな。そしたらさ今度、是非一緒にオススメな……ではなくて——」
そこで真琴の表情が、何かに気づいたようにハッとしたものへと変わる。
「という事はまさか、なろうも知らないなんて言わないよね!? 」
「なろう? 何に? 」
「小説家にだよ! 」
そう叫ぶと、真琴が頭を抱えた。
小説家に、なろう?
なにを言っているんだろう?
しかもそのワードを聞いて反応出来ない事は、そんなに変な事なのかな?
「わかったよ、なろうに関しては元の世界に帰ったら、実際にボクの部屋で底辺作者であるボクの作品を見せながら手取り足取り教えてあげるから良いとして——」
そこで真琴が、俺の事を残念なモノを見るようにしてため息をついた。
「世の中には異世界転生や異世界転移願望がある少年少女がわんさかいると言うのに、キミときたらまさに化石だよ」
そこで真琴が表情を改める。
「ちなみにレベルとかスキル、あとステータスカードとかは設定してないんだって。ただし眼を細める感じで対象物を見つめれば、相手の思想や生い立ち、生き方、特技や趣味などが考慮された、その生物にふさわしい二つ名が直接頭に流れ込んで来るようにはなってるそう。それでこの世界に住む生命体は、これを上手く使ってコミュニケーションを取り合ったり危険を察知してるんだって」
「へぇー、それは面白そうだね。ちなみにそれって、俺達も出来るのかな? 」
「女神の世界に足を踏み入れれば、大した技術がなくても普通に見れるようになるんだって」
「そうなんだ」
「そうそう、話は戻ってダンジョンマスターは女神らしいんだけど、所有権を奪われてしまっているらしく、管轄外になってしまっているんだって。でも最大級のダンジョン、『迷宮都市』の迷宮核を破壊、もしくは取り外せば全てを女神の管轄に取り戻せるらしいよ」
なんだかんだで真琴は優しいから、余程の事がない限りは迷宮核を破壊する旅をするんだろうな。
「あとさっきみたいな本気の掌底打ちをしたら、即刻レッドカードって言われちゃった」
そしてその後も説明は続き、ダンジョンマスターとはダンジョンを管理する者の事で、宝箱などでダンジョンへ冒険者を誘き寄せ、その潜り込んだ冒険者を狩る事でその力を増大させる不思議な存在である事がわかった。
それから早速お互いの二つ名を確認しあったところ、真琴は『深淵の覚醒者』と言うなんか凄い二つ名だという事が判明。
そして俺の二つ名はと言うと、真琴は本当に精密な作業が苦手なようで、かろうじて『超』の部分がわかるのみで後はぼかしが酷すぎ、結局わからずじまいとなってしまっていた。
「ユウトー、いつになったら着くのかな? 」
「方角は間違ってないはずだから、もうひと頑張りじゃないかな? 」
この世界に来て結構な時間ずっと原野を進んでいるが、もう何個目か忘れたけど小高い丘を登っている最中、吹き上げる風が正面から通り抜け、白に染まる俺の髪の毛を少しの間持ち上げる。
そして自然のやさしい緑色とは違った色合いが、この世界に来て初めて見えてきた。
もしかしてあれって!
「ユウト、見て見て! 」
「あぁ」
あのチョコッと見えるのは街の一部、やっと目的の街が見えてきたのだ!
二人してそのまま丘を駆け上がると、視界が開け遥か先にだがグルッと外周を高い壁に囲まれた街が見えた。
またその街の外壁の左右から生えるようにして伸びる街道が確認出来、進行方向からは外れているが左側に伸びる街道の先には巨大な森も広がっているようだ。
良かった、まだ陽が高い。
あそこまでならこの疲れた足ででも、休憩なしで行けそうだ。
『\ % カ +< ○ 〒 テ』
ん?
「真琴、いまなにか聞こえなかった? 」
「うんうん? ボクはなにも聞こえなかったよ? 」
微かに人の声が聞こえたような気がしたんだけど、……さっきから寝ているバングルかな?
とそこで左側に広がる森の一部分に違和感を感じる。
なんだろうと思って視線を移しよくよく見れば、その森の中央付近は霧がかっているようであった。
とそこで、真琴が俺の前にサッと陣取る。
「気をつけて」
真琴が前方を見据え背中越しに、短く吐くようにして言った。
その緊迫した声色につられ同じく前方を注視していると、耳が風切り音を捉える。
そしてその音の正体を正確に確認できた頃には、二本の矢が俺たちのすぐ近くの地面に仲良く並んで突き刺さっていた。




