第8話、真琴の秘密?
俺と真琴は手を繋ぎなおし歩みを再開させる。
そうして進んで行っていると、程なくしてもう一つの疑問がふつふつと湧いてくる。
「ねぇねぇ、前世で俺に会った事があるっていう真琴の前世についても、やっぱり聞いたりしちゃったらダメだったりするのかな? 」
「それなら、ある程度までなら教えられるけど——」
「まじっ! 言える範囲でいいから教えて! 」
すると脚を止めた真琴が、顔を寄せ意地悪そうな笑みを見せる。
「どうしようかな? 」
大きな瞳でこちらを見つめる真琴は、握っていた手の力を抜くと、スルリと動かし俺の人差し指だけを全ての指で軽く握り込んだ。
そこから俺の人差し指を、真琴は絡みつかせていた指から柔らかな手の平へと変えながら触れてくる。
そして今度は刺激する俺の指を、小指であったり中指であったりと移動させてくる。
またくすぐったいぐらいに軽く擦り合わせているかと思えば、熱が直接送り込まれてくるぐらいのギュッとした密着度になったりと。
なんだろうこの感覚。
俺の血流が酷く早く、そして熱くなっているのが自分でもわかる。
そして止まることを知らない真琴の綺麗な手が、俺の手の甲を包み込むようにして上から握ってきた後に恋人繋ぎとなったところで、真琴が小首を傾げて笑顔を見せる。
「——気分が乗ったらね」
その甘くも悪戯っぽい言葉に、俺の理性が大きく揺さぶられる。
そして俺の視線が無意識のうちに、スラリとした健康的な身体であり男子高校生の欲望にも十分な満足を与えてくれそうな、ワイシャツがピンッと張った双丘と、これまた見惚れてしまうくらい小さくも綺麗な弧を描くお尻の方へと……。
そこでブレザー姿の真琴が身をよじり制服にシワを寄せる。
「そんなに熱い視線に晒されると、恥ずかしいかな」
「ごご、ごめん」
慌てて真琴の手を振りほどく!
おっ、俺はいま、何を考えていたんだ!?
落ち着かないと!
でも俺は思う。
真琴の前世は、戒律とかにゆるそうなサキュバスとかの悪魔系だったのではないかと!?
女神も平然と攻撃してたわけだし。
……うん、それで間違いないと思う!
とそこで真琴が、右腕を庇うようにして左手を添えている事に気がつく。
「もしかして、腕を痛めちゃってるの? 」
「気にしなくていいよ。大した事じゃないし、キミのせいではないからね」
俺のせいじゃない?
その不自然な言い回しに違和感を感じた。
そしてその違和感を感じた事で、真琴が女神に向かって右腕を突き出すシーンが思い出される。
「真琴、もしかして女神に攻撃した時、あの時に痛めちゃってたの? 」
「まぁ、ね」
真琴はそっぽを向くと照れくさそうに頬をかく。
「とにかく手当てしないと! 」
「あっもう、痛みは些細なものになってるし、ほらっ、傷はないから」
真琴がボタンを外し袖を捲る事により、陽に焼けていない色白で柔肌である二の腕を見せてくれた。
見たところ、たしかにアザになっているところはどこもなさそうであるが——
「なら神経を痛めた、とか? 」
「うん、痛めてるのは神経と言うか、魂の結びつきのところ付近なんだ。あの時、そう言う攻撃をしたから」
魂を攻撃。
それは人が出来ない、人外の攻撃。
「まぁボクの身体は他の人に比べれば頑丈みたいだけど、結局のところボクも人間だからね。凄い攻撃が出来ても、その負荷に身体が耐えられないみたいなんだ」
人を素手で殴れば、殴った方も拳を痛めてしまう事があるのと一緒って事か。
しかしやっぱり、真琴が怪我をしているのがわかっているのに、何もできないというのはもどかしい。
「って事はさ、真琴は回復系の魔法とかは使えないって事だよね? 」
「うん、回復と言うか魔法のような小難しいのはちょっと。ただ攻撃に関しては大船に乗ったつもりで任せて貰って大丈夫だよ。——そうそう、立ち話もなんだから、歩きながら話そっか」
本当だったら、これから男である俺が前衛を務めないといけないのだろうけど。
体育の選択授業で、剣道ではなく柔道を選んでるのは失敗しちゃってるな。
どう考えてもこれから対峙するであろうモンスターと戦うには、武器を持った時の技術や経験のほうがいきそうだ。
それに今まで一度も喧嘩をした事がないのに、いきなり映画に出てくる登場人物やアニメのキャラのように華麗な、また攻撃的に立ち回れるはずもなく。
はっきし言って、回復魔法しか出来そうにない。
こんな俺と真琴では、本当に月とスッポン状態だ。
しかしそうなると、これから俺が出来ることとは何なのかな?
出来たら役立たずで終わりたくはない気持ちはある。
となれば、攻撃魔法とかも使えるようになるのがベストになるのかな?
「そうそう、この世界についてを軽く説明しておくね。えーと、なにから話そうかな」
真琴は立ち直っていた女神から、街の場所以外にもこの世界についての話を聞いていた。
まず降りた地点から山へ向かって進めば人の集落、街がある事。
大気中に魔素と言う魔法エネルギーが溢れているため、人は呼吸をする要領で自然に、元から持っている自身の僅かな魔力にそれを取り込み魔法が扱える事。
そして一度地上に降りてしまうと、女神と一切交信する事が出来なくなる事、を。
ちなみにその時、真琴は女神が転移者にいつも行なっていると言う学問の奔流と言う魔法をかけられた。
そのため言葉が違う現地人との会話、読み書きに支障がない状態になっていたりする。
俺はと言うと回復魔法を教えて貰った時に、ついでにラーニングスペルをかけられたらしい。
しかしやはり不安がないと言えば嘘になる。
これから二人で、ダンジョンを冒険か。
そうこの異世界には、ダンジョンと言う不思議な空間が世界各地に点在しているそうなのだ。




