第64話、地下水路
「この下からなにか感じるわね」
アズが隠し通路の突き当たりにある、下へと続く石段を見つめながらに言った。
ちなみにポルターガイストとの戦いでまた魔力がすっからかんになったらしく、現在俺の腕に絡みつく感じでべったりひっついている。
さてと、真琴の回復も終わった事だし進むか。
階段は人が並んで歩ける程の広さがあり、通路と同じく等間隔で明かりが灯っている。
しかし灯る明かりが弱く場所によっては完全な闇があるため、クロさんが魔光石を階段下へ転がすように投げ放ち明かりの補強をしている。
それとこの意外に長い階段は、索敵能力が高いと言う事でクロさんが先頭を歩いてくれていたりもする。
「今のところ敵の気配はないようです」
ちなみにクロさんは投げた魔光石を拾うと再度下へと投げているんだけど、この魔光石、クロさんは片手で簡単に放り投げていたからプラスチックぐらいの重さと思ってたんだけど、試しに一つ持たせて貰うと、実際は同等の鉄ぐらいの重さがあり、そのため少しとは言え一気に持つとなると結構な重さになりそうである。
そう言えばクロさん、オーバーオールの小さな人形を瞬殺していたし、ヴィクトリアさんからは千年に一人の天才でたしか『色濃く出た者』って言われていたよね。
実はクロさん、そんなふうには見えないけど、かなり凄い人なのではないのかなと思う。
階段を一番下まで降りきると道なりに少し狭い通路が伸びており、その通路が終わると暗くてよくわからないけど大きな空間へと出た。
魔光石を持ち掲げるように周囲を照らすと、半円型の大きな通路がここから左右に伸びているのが分かる。
またこの通路の中央には下水のような水路が走っており、どうやらこの道と水路はワンセットでずっと続いているようだ。
中央の水、緑色に濁っており見るからに水質が悪そうなんだけど、臭いがきつくないのが救いかな。
ただやっぱりここも、ジメジメしていて不気味である。
クロさんが魔光石で左方面を奥まで照らすと、すぐ行き止まりなのがわかった。
つまりここは右一択だ。
そこで気がつく。
流れがなく溜まっているだけの水路の水が、不自然に所々で波打っている事に。
えっ、まさかこの下に何かいる!?
ジッと注視してみる。
するといっときすると治った水面の揺らめきが、また揺らぎ始める。
絶対この下に何かいる!
しかし透明度が全くなく、魔光石の明かりだけでは何がいるのか全く分からない。
ダンジョンの中だから、普通の魚とかじゃないよね?
突然飛び出してきたりしないよね?
流石に俺も、そんなのされたらびっくりしますよ?
そこで不意にクロさんと目があう。
するとすかさず頭を下げてしまうクロさん。
「ごめんなさい、水の中までは敵がいるかどうかはわかりません。まだ濁っていなかったら、目視で確認する事もできるのですけど」
「いえいえ、そんな気にされないで下さい」
そして俺たちは歩みを再開させた。
コツコツと歩く音だけが反響して聞こえる中、道なりに大きく右へカーブをしている通路を進む。
そして魔光石の光が弱まってくる中、水面に落としてしまう事を懸念したクロさんが、初歩的なためすぐに壊れやすいけどと言う前置きの元、光魔法『ライティング』を唱え手の平上に握りこぶし程度の弱々しい光量の光球を生み出していた。
周囲に広がる深い闇は錯覚で重さを感じさせる中、俺たちから少し先の床までが淡い光により闇を取り除かれていく。
誰も一言も喋らずに、黙々と歩いていく。
とそこで、先頭を歩いていたクロさんが急に脚を止めた。
「どうかしたのですか? 」
恐る恐る声をかけてみると、クロさんがある一点を指差し小声で『あれです』と言った。
言われ指さされた場所を覗いてみると、ぬっと水面から生えるようにして階段が現れこの通路と繋がっていた。
そしてその階段には真新しい濡れた足跡が。
その足跡は俺たちの進行方向、この闇に包まれた通路の先へと続いている。
「みなさん、この先に敵がいるようです」
クロさんが静かに言った。
つまりこの先には、水面から上がってきた何かが徘徊している事になるわけで——
「はーはははっ、ボクの出番だね! 」
その元気な言葉とは裏腹に、真琴の瞳からは光彩が欠落している。
カラ元気なのか、それとも心を痛めてしまったのか、真琴が防衛本能で精神を保つために心を閉ざしているのか。
「はははっ、はははははははっ」
「真琴、くれぐれも足元だけは気をつけてね! 」
「ははははっ」
真琴、次の町に付いたら頭を撫で撫でしながら、思いっきりずっとずっとハグハグしてあげるから、頑張って!
そしてキラーモードになった真琴が、敵を察知したのか一人暗闇へ突撃していった。
続けて上がる破裂音に、こちらまで僅かに届く黒い粒子。瞬殺したようだ。
とその時、後方から濡れた足音がしたっしたっと聞こえ始めた。
それも複数!?
早足で進み出す俺たちは、途中棒立ちで止まっていた真琴を回収してなおも進む。
そしてなんとか、通路に明かりが灯っている場所にまできた。
通路は少し進むと行き止まりになっており、その傍に一枚の鉄扉が見える。
なおも耳は、後ろからゆっくりと迫る足音だけを正確に拾い上げている。
「中に入ってみよう! 」
ギギギッと音を立て鉄扉を押すと、細心の注意を払いながら部屋に入ってみる。
……ここはどうやら、とてつもなく広く天井の高い部屋のようだけど、照明が入り口付近にあるのみなため奥まで見えない。
また入った鉄扉に薄い霧がかかった状態で閉まっており、……脱出不可能な状態になっていたりも、する?
これって、もしかしてフロアボス部屋じゃないのかな! ?
咄嗟に前方の闇に向けソウルリストを確認すると頭に流れ込んでくる情報。
『TYPE-879借り暮らしの屍主』
未知なるモンスターがすぐそこにいた!
しかもナンバリングもされているモンスター!?
「ごめんなさい、これが最後の魔光石です! 」
ライティングの魔法効力が切れてしまっていたクロさんが申し訳なさそうに言いながら、魔光石を三つ前方に投げた。
そして床に転がる魔光石が、前方の山の一部を照らし出す。




