第61話、求められる対価
真琴が拾った物。
それは口に入れたり出したりすると、チュパッとかチャプスとか音が鳴りそうな飴玉みたいな球体の金属で、その金属部分から伸びている棒状の一辺からは様々な長さの突起が出ている。
どうやら鍵っぽいけど……。
ここは異世界である。
俺たちが知らない常識があったりするかもだから、確認のために現地人であるクロさんへ質問をしてみよう。
「これって、なんなんでしょうか? 」
「えーと、この形は恐らく鍵なんでしょうけど——」
普通に鍵でした。
「……鍵のドロップ品ですか。うーんと、このダンジョンでモンスターが鍵を落としたという話は聞いたことがないので、もしかしたら棚とかから床に落ちた物、の可能性もありますね」
「その感じだと、どこの鍵かわからないって事ですよね?」
「はい、……ごめんなさい」
おずおずと答えるクロさんは、最後に頭を下げて謝る。
「知らなくてあたり前だと思うので、気にしないで下さいね! 」
そこで閃く。
そうだ、もしかしたらがあるかもだから、一応ラノベでの展開も聞いてみよう。
「真琴はどう思う? 」
「鍵の入手かい? ……ふふっ。そうだね、どこかの扉か、宝箱の鍵の可能性が高いのだろうけど、実はかなりレアな場所の鍵だったり、最後の方のイベントで初めて効果を見せる、伏線的なアイテムの可能性も無きにしも非ずだね」
流石真琴。前置きしなくてもラノベ情報がわんさか出てきました。
しかし突然、得意げに話す真琴の顔つきが真剣なものへと変わる。
「それと可能性の一つなんだけど、ラビリンスであるこの迷宮、誰もこの鍵を見つけてないってことは、恐らくこのルートを通っているのはボクたちが初めてかもしれないね。仮に今まで見つけた人がいたとしても、生きて帰っていないため知られていない、ってのも含めてね」
この先には、まだ見ぬ強敵やフロアボスがいるかもしれないって事か。
まぁ事前になにも調べて来てない俺たちからしてみたら、人が通った事があるルートと、未開のルートの違いはないんだけどね。
それに危なければ引き返せばいいだけだし。
ただメインであるダンジョン『迷宮都市』を攻略すれば済む事なんだろうけど、今こうしてこのダンジョンに潜ったのも何かの縁である。
出来る事ならすぐにでも、このダンジョンに囚われている魂達を解放してあげたい気持ちもあったりする。
てゆーかこの鍵、少なくともこの部屋内には鍵穴なんて付いてる扉が存在しないから、今使う物ではなさそうだよね。
……いや待てよ?
イギリスの魔法物語の展開だと、この鍵を使えばいつもの扉が、違う世界の入り口とかに変わったりするんだっけ。
このエリアで言えば、その可能性があるのは入口に霧がかった扉になるのかな?
もしくは実はずっと気になっている、あの鏡の部屋の鏡だったりするのだろうか?
「オ腹空イタ」
「オケー」
恒例となったセンジュのテレパシー催促に、白濁球の一つを操作してバングルにぶつける事で与える。
とそこでクロさんが話しかけてくる。
「前から思っていたのですけど、その行為はどう言った意味があるのですか? 」
あれっ、話して無かったかな?
改めてセンジュの事を説明しようとして、どう説明したら良いのか分からなくなってしまう。
「その、不思議なアイテムを拾ってですね——」
「あの、そのアイテムのソウルリストを確認しても良いですか? 」
「はい、大丈夫です」
そうして左腕を曲げて前に持ってくることにより、俺の腕に巻きつきバングルと化した、喋る不思議アイテムを見せてみる。
するとクロさんの表情が一変。
口元があわあわと震え始めた。
「ユッ、ユウトさん、それは!? なっ、なんてこと……」
クロさんの尋常ではない様子に感化され、こちらまで落ち着きがなくなってきてしまう。
そこでクロさんが頭を横にブルブル振った。
「いえ、まだ間に合うかもしれません! ここは落ち着いて対処するためにも、気持ちを落ち着かせないとです。ユウトさん、落ち着かれて下さい」
「はっ、はい! 」
「それではユウトさん、そのアイテムのソウルリストを確認されて下さい! 」
「ソウルリストですね! 」
冷静さを取り戻しつつあるクロさんに促され、センジュのソウルリストを覗いてみる。
すると『危険なバングル』と言うのが分かった。
というか——
「アイテムでもソウルリストは見れるものなんですね」
「ごく稀に、サーガに出てくる伝説級の武器や防具の中の一握りに、ソウルリストが存在するものが出てきます 」
「えっ、そしたら、このバングルはめっちゃ高級品なわけなのですか!? 」
「いえ、それは——」
一瞬膨らみかけた俺の期待をよそに、クロさんは先程と変わらず暗い顔をしている。
「……そのバングルには、危険が付いてますよね」
「はい、危険って付いています」
「単刀直入に言いますので、心の準備をお願いします」
なんか、物凄くヤバイ感じなんですか!?
ちょっと本当に一回深呼吸をしておこう。
すーはーすーはー、……よし!
「お願いします! 」
「そのアイテムは、呪われています」
「えぇ! 本当ですか!? 」
「はい」
「それで、具体的には俺はどうなるんですか? 」
「このバングルはまだ分かりません。ただ他の危険と付いた物についてのお話なら出来ますけど——」
「お願いします! 」
「わかりました。それでは比較するためにも普通のレアアイテムの説明からさせて頂きますね」
クロさんは一呼吸置くと、話を再開させる。
「——ボスが落とすドロップ品はどれもが性能が良く、またかなりの貴重価値があり、この世に二つと存在しないと言われる物が多いです。人はそれらのアイテムの事を総じて、レアアイテムと呼びます。しかしレアアイテムの中の一部に、呪われた品が混じっています。それらは高性能であるレアアイテムより、さらに一つ頭が飛び抜けて力があると言われているのですが、代わりに付与されてしまっている呪い、即ち支払われる対価があまりにも大きくて——」
支払われる対価——
「旅芸人に伝わる歌などで知る限りでは、日光にあたれば火傷をし人の生き血でしか食欲を満たせなくなったり、別の歌では手足が腐れ落ちそこから異形の手足が生えてきてしまったり。また痛覚が麻痺した上で動くモノ全てに抑えようのない破壊衝動を感じたりする、という歌もあります。そしてこれらに共通しているのは、そのどれもが普通に生活を送るのが困難になるものばかりです」
「それだと俺も——」
「大変申しにくいのですけど、……どのような対価が支払われるのか見当もつきません」
『フムフム、ツマリアイテム毎二契ヤクノ内容ガ微妙二違ウワケ』
「そうなんです——って、えっ? 今どなたが話したのですか? 」
「今の声、このバングルなんですよ」
「はっ、話した! 」
『説明面倒い。御主人様、後デソノ牝猫ニ説明シテ』
「めっ、牝猫!? 」
「で、今の話だと俺、どうにかなっちゃうわけ? 」
『多分御主人様ハ大丈夫ダヨ? 血ノ契ヤクハ、タダ血ヲアゲレバ良イダケノ契ヤク。デモオ腹スクタビ数人分ノ血液ハ必要ソウダカラ、御主人様ジャナカッタラココニイル全員ノ血ヲ飲ミ干シテタカモダケド』
確かにこの短い間に、白濁球を結構な数飲み干してたりする。
そこでセンジュから熱い視線を感じる。
『デモモウ御主人様ノトリコ。ソノ白クテ濃ユイノヲ貰ウタメダッタラ、何デモ出来ル気ガスル』
「だそうです」
それを受けてかクロさんは、尊敬するような眼差しで俺の顔を眺めていた。
「流石ユウトさんです! 」
いやいや、俺はたまたま運が良かっただけで、他の契約だったら本当に危なかったですって。
とにかく今度からソウルリストを確認して危険が付いたアイテムは、絶対に触らないようにしないと、だね。




