第56話、デルタゾーン
人形がその手で握るカミソリで、クロさんの脚をスカートの上から斬りつけていた。
そしてなおも人形の攻撃は続く。
手にしたカミソリを振りかぶりながらクロさんの太ももを足場にして蹴り上げると、勢いのままクロさんの眼前にまで飛び上がり首を狙い——
「ゴグチャッ! 」
次の瞬間、地面に叩きつけられた人形の頭が押し潰される音が鳴った。
そして人形を破壊した人物はクロさんである。
そう、そこまでにいくのはまさに一瞬の出来事であり、その一部始終を俺の目は捉えていた。
まず眼前にまで接近を許してしまったクロさん、の表情から感情が消失、光彩を失う瞳。
それと連動しているのか、いつも以上に立つ猫耳に、ふわりと重力を失ったかのようにして逆立つ髪の毛。またその毛は黒から白へと変化した時には、肩に掛かるリュックの紐からすでに両腕が抜けていた。
クロさんは半身となる流れる動作の中、前方へ来た片方の手で人形の頭を上から鷲掴みにすると、両膝を綺麗に揃えて曲げる事で勢いに体重をのせそのまま腕を垂直降下!
人形の頭を地面へ叩きつけ破壊したのだ。
その叩きつけによる威力の反動は凄まじく、クロさんの揃えて曲げていた脚が宙に浮き上がるほど。
そして現在、砕けた人形が霧散する中、上下逆さまに近い体勢にまで傾いていたクロさんがピタリと体勢を静止させると、地面へ向け片脚をロングスカートからスッと伸ばす事により猫のように足音をさせずに俺の前へと降り立った。
そんなクロさんの太もも辺りのロングスカートに違和感を感じよく見てみると、ドンドンと血に染まっていってしまっているのがわかる。
そこでようやく光彩を失っていたクロさんの瞳にスッと光が戻り、髪の毛の色も白から黒へと戻る。
そして彼女はキョロキョロ顔を左右に動かすと、まるでしぼられた雑巾のように立った状態で身体を細めて震わせる。
「はわわわっ、その、ごめんなさい! ポイント取ってしまいました! 」
二、三歩よろけてしまうクロさんの謝る先は、戦闘中である真琴だ。
「いや、謝るのはボクのほうだ」
それに対して真琴は、部屋の奥から続々と飛びかかってくる人形たち相手に無双、蹴散らしながらクロさんを見据えて謝った。
器用なものだ。
「それとありがとう、ボクのユウトを守ってくれて」
「いっ、いえいえ御礼だなんてとんでもないです! 」
しかし真琴、弱体化してるって話だったけど、それでもかなり強い。
繰り出す掌底打ちや引っ掻き攻撃は、実際には直接当たっているようには見えない。
多分今までみたいに遠くまでは攻撃出来ないみたいだけど、目算で1メートルぐらいの攻撃判定は残っているようだ。
そして人形はあっという間にその数を減らし、既に数体しか残っていない。
しかしここはダンジョン内。
今もいつ新手が襲ってくるか分からない状況下である。そう、回復はできるうちにしておかないといけない!
真琴用に出していた無数に浮かぶ白濁球の内の一つを、クロさんに向け飛ばす。
クロさんの血で染まるロングスカート、その斬り裂かれた部分に向け飛ばした白濁球が、距離が短い事もあり見事狙った箇所にヒットした。
しかしすぐに、綺麗になったロングスカートはまた血で変色してきてしまう。
やはりスカートの上からでは傷まで届かなかったか!?
突然の白濁球の飛来に驚きながらも受け止めてくれたクロさんへ、念のため聞いてみる。
「怪我はどんな感じですか? 」
「えっ、あの、……変わらないです」
よし、それなら——
「クロさん、ジッとしていて下さい! 」
無数に浮かぶ白濁球の内の一つを新たに操作すると、クロさんに向け低空飛行で飛ばした。
それを足元まで来たところで急上昇。
クロさんのロングスカートの中へ、白濁球を飛び込ませる。
「ひゃっ! 」
クロさんはスカートを押さえながら可愛らしい悲鳴をあげた。
「どうですか? 」
しかし傷口には当たらなかったようで、涙目になっているクロさんは首をふるふると横に振る。
なら同時に二つだ!
同じ要領で、なおもスカートを押さえているクロさんのスカートの中に白濁球二つをヒュンヒュンと滑り込ませる。
それに加え、今度は着弾の前で意図的に形を崩させてみる!
バフバフッと散弾と化した白濁液がクロさんのスカートを上へと僅かに持ち上げる。
「んぅくぅっ」
「どうですか!? 」
しかし今回も駄目だったようで、肩で息をしているクロさんの頭は横へと振られた。
今ので駄目なら——
「これ以上は、その、ちょ、ちょっと待って下さい! 」
固い決意に燃え残り全ての白濁球を操ろうとしていると、突然クロさんから待ったがかかった。
「どうかしましたか? 」
「し、下着がベチョベチョ、……です」
そう言うクロさんは、俯きながら顔を横に向けて顔を赤らめる。
そして前屈の要領で両手が真下、スカートの裾へと伸びる。
クロさんはそのスカートの前面部分をちょこんと摘むと、なんとそれをゆっくり上へと持ち上げ始めた。
次第に見えてきたのは、所々に白濁液がねっとりと付着している生足。
しかしまだ傷口は見えてこない。
スカートの中にこもっていた熱気が、フローラルな香りと共に微かにこちらまで届く中、クロさんの尻尾と白濁に濡れた下着、デルタゾーンが丸見えになったところで傷口が確認出来た。
骨盤の下、ギリギリ太ももの辺りに深い切り傷が横へ一本入っている。
「直接塗って頂けると、助かるのですが……」
確かに乱暴であった。
気を使ったつもりが逆に困らせてしまっていたのだ。
……反省。
俺はクロさんの前に跪くと、耳まで真っ赤にしているクロさんの綺麗な脚へと治療を行うのであった。




