第26話、真琴の思い出
石畳を踏みしめるカツンカツンという音が四方の壁により反響する。
小鬼の砦の中に入ると、そこは今までの洞窟のような通路ではなかった。
地面には石畳が轢かれ壁や天井も平らに加工されていた。
見渡せば、そのだだっ広く正方形であるフロアは数珠つなぎでいくつか続き、そのフロアのどこかの壁には扉が設置され、その扉の先には同じようなフロアが続いていた。
またフロアの壁際には太い円柱が並んでいるため、そこが死角となり何度かそこから飛び出してきたゴブリンとの戦闘にもなっていた。
そしてフロアの安全が確保されると、ルルカが『お姉ちゃんの魂を探ります! 』とノートをリュックにしまう代わりに、L字の金属棒を二本取り出し各々の手にそれを掴むと歩き始めた。
いわゆるダウジングって奴だ。
なんでも魔力を流すイメージで棒を持ち、無心で探すモノの事を頭に思い浮かべると棒がそこへ案内してくれるらしい。
っていうか、それ地球にもあるやつだし。
しかしダウジングが魔法の一種だったとは知らなかったな。
……いやそうか、足りなかったのは魔力だったのか!
魔力を流していなかったから、テレビとかでやっている検証番組では精度が低く微妙な結果に終わっていたのか!?
ちなみに人探しに関して言えば、赤の他人より肉親や恋人とかのほうが精度が高まるそうで、どこの街でも時々浮気調査でこの棒、ロッドを持ってフラフラ歩いている人を見かけるそうな。
ちなみにお姉さんの魂の痕跡は今のところ見つかっておらず、また各フロアを丹念に歩いて回っているため、まだ小鬼の砦の入り口から近かったりする。
そんな感じで扉を開き、次のフロアに移動し警戒しながら進んでいると、前方10メートルの所にゴブリン二体が飛び出してきた。
その手には矢を番えた弓が。
俺とルルカがゴブリンを注視しながらその場で身をかがめる中、真琴は悠然と一人前進を続ける。
そして放たれる矢。
空気を裂き距離を詰めてくる二本の矢を、真琴はビンタする要領で空中で撃ち落とす。
続いて一歩踏み込み両腕をゴブリンに向かいデコピンをする事により、各々のゴブリンの頭を吹き飛ばし撃破してみせた。
◆ ◆ ◆
「……反応がないです」
ルルカが何度目かの同じセリフを言った。
そんな落ち込むルルカを見て、警戒に当たっていたユウトが慌ててルルカの元へと駆け寄る。
「ルルカ、まだ始まったばかりだよ? 俺たちはこれと言った予定が入ってないからさ、じっくり探そう! とことん付き合うからさ」
「……いいのですか? 」
ルルカが申し訳なさそうな声で聞いた。
「あぁ、でも探しても無理そうな時は、ごめんだけど諦めさせてもらうから、そんなにかしこまらなくてもいいからね」
「わかりました、ありがとうございます! 」
今ユウトが言った事には嘘が含まれている。
彼という人間は、探して無理そうな場合でも諦めずにひたすら探し続ける。
他人の事を自分の事のように考え、その人と同じように心を痛め、一生懸命になり、そしてその人と一緒に心底嬉しそうに笑う。
「じゃ、慎重にいこうか」
「はい、でしたら今度はこっち方面からいきます! 」
そんなユウトとルルカのやり取りを見ていると、ひとりあの日の事を思い出していた。
ボクが自身の事を、ボクと呼ぶようになったキッカケを。
ユウトは忘れてしまっているだろうけど、初めてキミと出会った頃のボクは、肉親の前ではまこちゃん、そして人前ではわたしと言っていた。
また当時のボクはスカートはもちろん、フリルの付いたワンピースとかをいつも着ているような女の子で、まだ元気だったお母さんとお揃いで麦わら帽子も上下白で統一した、今では考えられないような可愛らしい着こなしとかもしていた。
そんなある日、ボクはお母さんに貰ったお気に入りの髪留めを外で遊んでいる時に無くしてしまう。
今でも友達であり親友の由香と一緒になって探したけど、それはどこを探しても見つからなかった。
時刻は夕暮れ時。
その時ユウトがブランコをしに公園に現れた。
そこで必死になって探しているボクたちを不思議に思った彼は事情を聞くと、それから数日かけて、公園、歩道、みぞ、草むらと、落ちていそうな場所を一緒になって探してくれる事になる。
しかしユウトは、連日ボクたち女の子と一緒にいるところを男子に見つかってしまい、その事でからかわれてしまった。
それでも彼はそんな事を気にせず、雨が降ってる時でも一人探し続けてくれた。
そして髪留めは予想外の場所で見つかる。
ボクの勘違いだった。
お気に入りの髪留めは外には持ち出しておらず、散らかしていたからとお母さんがボクの部屋のオモチャ箱の中に片付けていたのであった。
ボクは謝った。
ボクの勘違いで二人に迷惑をかけたと。
由香は苦笑しながら許してくれた。
そしてユウトは『見つかって良かったね』と、責めるどころか嬉しそうに優しい声をかけてくれた。
でも男子たちは容赦なかった。
事あるごとにユウトを、女子と一緒にいた軟弱者とからかい続けた。
ボクは悩んだ。
ユウトはボクのために我が身を顧みずに行動してくれた。
そんなユウトに、ボクはなにか出来ることはないのだろうか?
そこで幼いボクが出した答えは、ボクの見た目が男っぽくなればいいんじゃないのか、であった。
髪の毛をショートカットに切って貰い、それに合わせて今まで使っていたわたしをボクに変えた。
そしていつしか男子たちの輪に溶け込んだボクは、それからユウトの後をずっと付いて回るようになる。
口元が緩む。
なんだか久しぶりに懐かしい事を思い出したな。
「反応がありました! 」
ロッドを持つルルカの声が聞こえてきた。
「真琴、こっちこっち」
ユウトが呼んでいる。
ボクは一呼吸置いていつものようにクールを装うと、はしゃいでる二人の方へと笑顔を隠さずに向かうのであった。




