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大好きな幼馴染のボクっ娘は、神気で魔物を薙ぎ払う!【健全版】  作者: 立花 黒
第一章

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第24話、ダンジョン悪鬼要塞

 湿った風が木々の間を縫い、小枝を軽く揺らして行く。

 

 それは街道から外れ雑木林を進んで行くと、隠れるようにして鎮座していた。

 それはジメジメとした濃い緑に埋没し、その周辺にのみ発生している霧に抱かれるようにして存在している。


 鬱蒼と生い茂る蔦や苔に覆われた、岩石で出来た小高い丘。

 その霧がかった岩石の一部に、初のダンジョンとなる悪鬼要塞へと続く入り口があると言う。


 ダンジョンの入り口がある場所は、おそらく先ほどから冒険者が入って行っている、丘の中でひときわ濃い霧がかかっているあの大木の左付近。

 俺たちよりあとから着いた人たちも、見ているとそこに入って行っているのでまず間違いないだろう。


 さてと——


「朝昼兼用の食事をしようか? 」


「オッケー」


 俺たちは、他の冒険者たちが霧の中に入っていくのを眺めながら、少し離れた木の根っこに陣取り冒険者メシを広げる。


 今朝起きてからなにも食べてなかったけど、ダンジョンに潜るという緊張感からか、お腹はそこまで空いていない。

 でもちゃんと食べておかないとね。


 それから俺たちは、二人前の中身を仲良く三つに分け合い食すと、非常用にオニギリを三つだけ残しそれをルルカのリュックに戻した。

 そしてルルカがお姉さんの形見の品、ノートを取り出ししっかりと両手で握ると、他の冒険者同様、岩石の一部にかかる霧の中へと進んで行っていると——


 不意に脚に力が入らなくなる。

 頭の中がぐわんぐわん揺れ始める。

 そして平衡感覚を失い上も下もわからなくなってしまう中、まるで森に引き摺り込まれるようにして視界が揺らぎ出した。



 ◆



 ここは……どこだ?

 気がつけば俺は、暗くてどんな場所にいるのかさえ分からない場所に立っていた。


 そう言えば真琴は?

 そして正常に機能し出している五感の内の嗅覚が、この部屋に充満している異臭を嗅ぎ分け始める。


『パシャッ』


 その濃い匂いにくらりときたため倒れまいと咄嗟に足を後ろに出すと、水気を帯びた音が鳴った。

 あれ?

 もしかして俺は、さっきから水の中に立っている? しかも水深はそこそこあるようで、生ぬるい水は足の踝まであるようだ。


 それに気持ち悪い、水草かな?

 水面に浮かぶ何かが、さっきから足に纏わり付いてきている。


 手を伸ばしそれを引き上げてみようとしたのだけど、これっ、意外に重い。

 それになんだ、この掴んだ時のズリュッとした感触は?

 それが何であるのかを確かめるため、思いきって目線まで上げて顔に近づけてみる。


 今もなおその一部を水面にまで伸ばしている、それはーー


 根元に頭皮が付着している長い長い髪の毛であった。


 おぉうぁわぁあ!


 咄嗟に投げ捨てる、そして手が真っ赤に濡れている事に気がつく。

 もしかしてこの水溜り……ちっ、血の海!?


 よくよく見れば、その血の海には他にも浸かるようにして沢山散らばっていた。千切れた人間の腕や脚、そして肉塊としか呼べないようなよく分からないモノが。


 うぐぅぇっ。


 辺り一面に充満する血やぶちまけられた臓物の匂いに、むせ返り口元をふさぐ。

 この部屋は、いったい! ?


 とそこで視界の端、部屋の片隅に違和感を感じとり、視線をそちらに向ける。

 そうして壁に背中を預けるようにして力なく座っている、俺たちと同年代くらいの女の子を見つけた。

 死人のように顔を真っ青に染めてしまっているその子は、静かに目を閉じている。


「ぅっ、ごふぉ、ごほごほ」


 突然その女の子がむせるようにして血を吐き出した。

 というかこの子は生きている!


「キミ、大丈夫!? 」


 急いで駆け寄りながら、呼びかけて気がつく。

 死角のため見えないと思っていた少女の右腕が、肘から先で千切れている事に。


「ぁぁ、あ、……助けぇ……てーー」


 少女は薄っすらとだけ片目を開くと、虫の音のように小さな声を上げながら俺に向かってか細い左腕を伸ばしてくる。

 俺はその子の冷たい手を両手で力強く握ると、その場にしゃがみ込む。


 そして励ましの声を掛けようとして、声を失う。

 この子、女の子座りをしていると思っていたのだけど、……なんて酷いんだ。

 血に浸かる曲げられていると思っていたこの子の両足は、右足は脛のあたり、左足は太もものあたりで千切れてしまっていた。


「ユウト! 」


「……あれ? ……俺は? 」


 次の瞬間、俺はずっと、真琴に抱きしめられる形で地面に腰を下ろし座り込んでいた。


「急に蹲ったかとおもったら倒れて動かなくなったから、心臓が止まるかと思ったんだよ! 」


 そうだ、俺は目の前の霧が立ち込めた森を進んで行っていると、突然目眩がして次の瞬間には暗闇の部屋にいたんだった。


 でもあれは、あの少女は?

 俺は夢を見ていたのか?

 気分は時間とともに回復しているけど、あの助けを求める女の子の姿、弱々しい瞳が、克明に俺の脳裏に刻まれてしまっていた。


「大丈夫、ユウト? ダンジョン探索はまたの機会にする? 」


「いや、……大丈夫だよ」


「なら良いんだけど、少しでも異変を感じ取ったら遠慮なく言ってね」


「ありがとう」


 なんとなくだけど、さっきの子がこの先で助けを求めている気がしてならない。俺が行かないと!

 そうして俺は二人に心配をかけないよう笑顔を作ると、歩みを再開させた。


 そして霧を抜けると普通に洞窟の中であった。


 人が悠々と両手を広げられるくらいの横幅に、思いっきりジャンプしてギリギリ手が届くくらいの高さがある一本道が、曲りくねりながら奥へと続いている。


「ふーん、洞窟自体が光を放ってるんだ」


 そう、洞窟内は明るい。

 どういう原理か分からないけど、地面は薄っすらと赤味を帯び、逆に天井の方は薄っすらと青味を帯びた光を灯している。


 とにかく目の前に広がる洞窟は、今まで見た事がない不思議な洞窟であった。


「きれいです」


 ルルカが呟いた。


「やるね、実にいい仕事だよ」


 真琴がゾクゾクと震えながら、心底褒め称えるようにして薄ら笑いで呟いた。


 たしかに綺麗ではあるが、ここには、ここから先には危険な生物モンスターが徘徊しているのである。

 俺にはこの洞窟の鮮やかな色が、逆に不安を掻き立てるシグナルに見えてならない。


 それにここは、外の風に草木がそよぐ音、陽光の明かり、蒸せ返るような植物独特の濃い匂いが、ここに来た途端にぷつりと千切られたようにまったく存在しない。

 その代わりに耳を澄ませば、遠くから金属を打ち付ける音が等間隔に聞こえ、地鳴りのような低い音も時折聞こえてくる。


 不安が募る中、事前にルルカのノートを見せて貰ってたほうが良かったかな?

 と言う思いが大きくなってきた。


 ……でもそうか、そうなるよね。


 言えばルルカはいい子なので快く見せてくれたかも知れない。

 だけどノートは大切なお姉さんの形見の品だ。そういう物を赤の他人が、しかも自身が怯えたがためにルルカを信じず自身で確認したいと言うのは、ちょっと酷い話のような気がする。


 話ではこのダンジョン、罠という罠がないそうだし、仮になにか対策が必要な事があったりしたら、ルルカもダンジョンに入る前に教えてくれてたはず。


 それに今は団体行動中だ。

 互いの信頼を損なうような発言は極力慎むべき。

 結果、見せて貰わなくて良かったのかもしれない。


「どうかしたの? 」


「いや、なんでもないよ」


 そう、なんでもない。

 なにか物事に囚われて萎縮していては、盗賊が現われた時のように右往左往するだけで終わってしまう。

 今の俺には回復魔法がある、俺は俺の役割を果たすのみなのだ。


 俺の目標は、全員が無事にダンジョンから帰還して、イドの街に戻る事。

 今はそれだけを。それ以外の考え事は、無事に街に戻ってからすればいいのだ。


「真琴、全力でサポートするね」


 すると真琴が大胆不敵にニヤリと笑みを作る。


「うん、頼りにしてるよ相棒」


 真琴を先頭に、真ん中はノートへ視線を落として歩いているルルカ、そして俺が最後尾で続く順で進んでいる。

 そして暫く進むと、道が三叉路になっていた。

 分かれ道か。

 ルルカに視線を送ると、緊張した面持ちで顔を上げる。


「ここは左に進みます」


 その言葉を受け真琴と俺が歩こうとした時、ルルカから声が上がる。


「あとここから先は敵がいるみたいです! 」


「オケー」


 軽い口調で返事をする真琴は終始余裕の表情を崩さないが、逆に俺の顔は結構ガチガチに固くなってるっぽい。


 回復、俺は回復をするんだ。


 それから少し進むと、キィキィッと生物が鳴く甲高い声が、この道の先から微かに聞こえだしていた。

 少しの音も聞き逃さないよう神経を集中させる。

 そしてそこから洞窟が道なりに左へカーブをしたあと、少し大きめの空間へと出た。


 そこの空間は、二階建ての民家がまるっと入る高さがあり、それが奥へ100m程続いた先に今まで通ってきたような小さな通路への入り口が見える。


 左右の壁には所々突起があり足をかけれそうだけど、側面の上のほうを奥へと向かって走る段差までは、流石に高低差がありすぎて届きそうにない。

 そして先ほどから聞こえている鳴き声は、この大きめの空間のちょうど中間位置の段差のところ、下からは死角になる場所から聞こえてきていた。


 あそこになにかが潜んでいる!


 その場から動けずゴクリと固唾をのんでいると、そいつは不意に顔を覗かせた。

 それに驚いたルルカが『ひっ』と小さな悲鳴を漏らす。


 潰れたような低い鼻に下顎から上へと向けて伸びる飛び出した牙、そして不健康そうな緑色をした顔色。

 あいつは十中八九——


「へぇー、ゴブリンだね」


 そう、ゴブリンだ!


 ゴブリンは甲高い声を短く一度上げると、その足場から下へと飛んだ。

 途中壁にある突起に足をかけることにより衝撃を分散して地面に降り立ったゴブリンは、有名ファンタジー映画であるリングの物語に出てくるゴブリンそのままで、俺たちの胸元ぐらいの背丈で手にはショートソードと木の盾、そして防具に少し大きめの鉄の兜を被っていた。


 その時チクリとした視線を感じる。


 ……え、ゴブリンから?

 これって、モンスターもソウルリストを確認するって事!?

 慌ててこちらも確認すると、『喧嘩っ早い悪童』と出た。


 そこで真琴が動く。

 右手の指先を揃えて伸ばし手刀の形を作る。


「先手必勝! 」


 そしてその場に佇む真琴が、ゴブリンへ向けて軽く斜めにチョップをした。

 すると低いうなり声を出し威嚇をしていたゴブリンの体を二分するかのように、斜めに深い傷がビシッと入った。


 そして『ギャァァー』と断末魔を上げたゴブリンは、突然ボンッと破裂音を立て黒い粒子となると、空気中に溶けるようにして霧散してしまう。


 なにが起きたのかわかっていないルルカがポカンとする中、真琴がゆるゆると語り始める。


「ダンジョンのモンスターって、もしかしたら魔法的ななにかか魂そのものが実体化した存在なのかもだね」


「なんでそう思うの? 」


「だって今の攻撃、生身の人間だと外見上一つも傷が入ることはないからね」


 つまり盗賊たちにした攻撃と今の攻撃は同質の攻撃ってことなのか。


 しかしこれは、真琴の強さが予想していたようにダンジョンに来ても変わらずであるという、喜ばしい事実である。


「真琴さん、凄いです! 」


 ルルカの嬉しそうな声に、真琴が顔の前に右の手の平をバッと広げ斜に構えた。

 そして見下ろすようにして、その指の隙間から鋭い視線を送ってくる。


「惚れたら因果……」


 それって決め台詞?

 とにかく真琴はノリノリ、絶好調のようだ。

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― 新着の感想 ―
ユウト氏! あなたの回復水球の実力は「治療」だけに有らずっ!! 活用法は色々と有りますぞ! 粘り気の有る液体だから剣の斬撃や矢の軌道を逸らしたり、石礫程度なら受け止めたりもできるでしょう。 火炎魔法と…
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