第22話、夜迦ちゃった?
そこで俺の瞳から、涙が滲み出てきてしまった。
高まる感情——
「ごめん、真琴ごめんね」
「うん? なにが? 」
「さっきの俺の言葉、違ったんだ。本心じゃなかったんだ。本当は真琴と一緒に寝て、肌のぬくもりを感じたかった、触れていたかった。でも俺は、あんな酷い事を言ってしまった」
「ふむふむ」
「俺は真琴を深く傷つけてしまったと思う。本当に、本当にごめんなさい」
「キミは恥ずかしがり屋さんだからね——」
頭を撫でられた。
とてもゆっくり何度も撫でられた。
「でもやっとキミの本心が聞けたようで嬉しいかな」
おでことおでこが当たる。
「ボクに触れていたい? 」
少しおでこを押す感じで頷くと、真琴は優しく微笑んだ。
「キミは、ボクがいないと駄目なんだね」
距離を更に縮める真琴。
そしてキスをした。
前回のキスとは違い、ゆっくりと時間をかけて丹念にキスをした。
互いに下着姿で布団の中にいるため、柔らかな感触と共に身体の熱も直に伝わってくる。
呼吸のために何度目かの口を離した時、そのまま距離が少し離れる。
頬をピンクに染める真琴は微笑んでいる。
「ボクの前世の記憶が蘇ったのは、小学三年生の時だったんだ。八歳の時。そして……密かに恋心を抱いていたキミが、前世でも関わりがある事に気付いた時は飛び跳ねるぐらい嬉しかったよ。まっ、実際飛び跳ねたわけだけどね」
そう言う真琴は上目遣いでこちらを見つめている。
「……キミのそばにいれるよう転生したのはボクなんだけどね、記憶が戻った時にすでに好きだったのは、やっぱり運命なんだなと心が、震えたよ。……だってもしかしたら、記憶が戻った時にキミを嫌いだった可能性や、逆にボクがキミに嫌われてた可能性もないとはいえなかったわけだしね」
ドックンドックンという血の流れ。
俺の顔が耳まで真っ赤に染まり、自身でもかなりの熱を帯びているのがわかる。
「つまり今のボクは、人間として生まれた五条橋真琴の記憶に、前世の記憶が少しだけ足されたような状態なんだ」
「そうなんだ」
心臓の鼓動が高鳴る中、それらの事実、告白を嬉しく思う自分がいる。
「それと断片的に思い出した記憶の中で、これだけはハッキリと覚えているよ。キミが助けてくれた時の事。その後キミが、遠くに行ってしまった事——。そして今のキミから滲み出ている優しさが、あの時のキミの優しさと同じである事を」
照れ笑いをする真琴、そしてその全てが愛おしいと思った。
「んっ」
真琴の唇から吐息が零れた。
それは俺が、真琴のスラリとした身体を両腕で強く抱きしめているから。
そして暫くその状態でいると、身体と頭を預けてきていた真琴が視線を上げる。
「ユウト、これから毎日、こうして一緒に寝ようか? 」
「うん、……あとごめん」
「ん? 」
「真琴に色々言わせてしまって……」
「ふむふむ」
「それとまだまだ至らない点だらけだろうけど、頑張るから、良ければこれからもよろしくお願いします」
「オッケー」
「……それでさ」
そこで布団の中で上体を起こし下着姿の真琴の上で四つん這いになると、見下ろす形で真琴の指に俺の指を絡ませ、体重をかける事で両腕の自由を奪う。
「——俺から、するね」
すると真琴が大きな瞳を見開いたのち、視線を横に逸らし恥ずかしそうに聞いてくる。
「ユウト、今からボクは裸にされちゃうのかな? それと……最後までしちゃうのかな? その、心の準備をするから、聞いておきたいというか——」
「下着は脱がさないし、最後まではしないよ。だって避妊具がないから」
沈黙の後、真琴から笑い声が聞こえる。
「キミはやっぱり真面目だね。そしたらさ、その、その時が来たらね、たくさん愛してほしい、かな」
「わかった」
「ただボクたちは学生だから、元の世界に帰れば今みたいに自由に使える時間はそんなにないのかもしれないけど」
「そうかもだね。でもこれからは俺も正直になるから、時間は絶対に作るよ」
「ありがとう。……それと我慢できなくなったら教えてね。出来る事ならなんでもするから」
「ごめん、今ちょっと我慢出来ないかも」
そうして指を絡ませ強く握ったまま、身体ごと覆い被さるようにして唇を重ねた。
◆ ◆ ◆
多くの時間が流れた気がする。
そして朦朧とする意識の中、気がつくとボクはユウトの腕枕で横になっていた。
宣言通りに最後までしなかったけど、いつかは——
「ユウト、……大好き」
頬にフレンチキス。
それからボクたちは、多くを語らず目だけで通じ合い、抱き締めあいながら幸せな口づけを交わしていった。




