第2話、校舎裏
◆ ◆ ◆
真琴がいない。
そこで待ち合わせ場所を間違えたのかなと思った俺は、まだ真琴がいるかもと教室に戻ろうとしていた。
すると後方から真琴が現れた。顔を真っ赤にして息をきらしているため、ここまで走って来たようだ。
「やあユウト、待たせてごめんね」
「いや、俺もさっき来たところだから。それより用事ってなに? 」
「その、実はね……」
そこで後ろ手に組んでもじもじしていた真琴が顔を上げた。彼女はその瞳に涙を溜め、触れれば壊れそうな顔で見上げるようにして笑顔を見せる。
そのキュンとくる姿に、思わず鼓動が早くなってしまう。
そして——
「ボク、……ユウトの事が大好きです」
「……え? 」
今のってもしかして、……愛の告白?
一拍の間心臓が停止し、その後に特大の鼓動を奏で始める。
頬っぺたをつねってみた。
痛い、夢じゃない!
それに目の前では後ろ手に組んで俯き加減の真琴が、太ももを摺り合わせながら恥ずかしそうに俺の方を見つめてきている。
「おっ、俺も真琴の事が、——好きです! 」
咄嗟に出た告白返し!
そして俺は口を止めず、ずっと好きだった事、またその想いを言えばこの親友と言う関係も壊れてしまいそうで臆病になってしまっていた事を、きちんと伝わるように一生懸命に頭を回転させて話した。
するとまだこちらが話している最中だったのだけど——
ふらりと近づいてきた真琴に、突然腕を抱きしめられた。
熱を帯びた柔らかな真琴の身体が、棒立ちになってしまっている俺の身体にギュッと押し当てられる。
「やっとボクの想いが伝わったみたいだね。……キミは気づいてなかったみたいだけど、何度もアプローチしてたんだからね」
今、どう言う事になっているのか、頭が理解した時には、心臓の音がばくばくと爆音を鳴り響かせ完全に手に負えない状態になっていた。
⚠︎髪の毛の色は、黒に変換ヨロヨロです。
とても恥ずかしかったけど、でも真琴の心臓も俺と同じくらいばくばく鳴っている事に気付き、なんだか嬉しかった。
そこで抱きしめてきている真琴が、恥ずかしそうに俯きながら瞳をそっと閉じた。
そして軽く顎を上げると口元を微かにふるわせながら、ほんの少し、ほんの少しずつだけど確実に俺の方へ、真琴の顔が近づいてくる。
——これってもしかして!?
「まっ、待って真琴、そそそれは、まだ早すぎると思う! 俺たちはいま、そう、いま付き合いだしたばかりだし! 」
すると瞳を見開いた真琴はキョトンとした表情になり、暫くすると再度両の瞳を閉じ眉間にシワを寄せ逡巡してみせたのち、その大きな瞳を開いて八重歯を覗かせた。
「そうだね、わかったよ。ボクも少し気持ちが高ぶってしまってて、……たしかに急ぎすぎたかなと思う」
真琴との距離を保つべく、彼女の両肩に手を置いているのだけど、くの字に曲がってしまっているのでまだ抱き締められたままだ。
そのため真琴の顔は目と鼻の先と、息がかかる程のとても近い場所に。
「お互いに初めてだからね。それと最後までするのもまたの機会にするね」
「えっ、最後までするつもりだったの!? 」
「そうだよ、ボクらは相思相愛の関係だからね。年も高校二年生と、初めてを経験していてもおかしくない年齢でもある。しかも互いの気持ちも確認し合ったんだから、そうなるのは至極当然の成り行き、……じゃないかな? 」
「いや、でも、俺は真琴の事を大切に思ってるし、その、まだ心の準備が……」
「その気持ちは嬉しいな。でもボクはずっとキミを見てきたし、そうなる事をずっと願ってきた。……でも無理矢理は良くないよね。一人は寂しいけど、今回はしょうがない。なんてったって告白出来ただけでなく、キミの気持ちも知れたわけだからボクは満足する事にするよ」
そう言うと身体は離れたが、代わりに手を握られる。
肩もそうだったけど、か細い手もとても柔らかい。そしてただ単に握っているのではなく、指を絡めての、いわゆる恋人繋ぎだ。
「でもできたら、……このままで帰りたいかな」
下校時間帯が過ぎたとはいえ、部活の生徒はまだ練習に明け暮れてるし、ホームルームが長引いたクラスの生徒たちはちょうど遅い帰宅を始める時間帯である。
手をつなぐのは嬉しいけど、やはり恥ずかしさが勝ち、抗議の意味を少しだけ込め真琴を見やると、彼女はどこか妖艶な笑みを浮かべて見せた。
そしてその艶やかな唇が開く。
「ボク達の関係、付き合っている事をみんなに知らせるんだ。キミはそう言うのに鈍いから全く気付いてないみたいだけど、その可愛い外見や仕草、そしてみんなに優しいため、狙ってる女子は大勢いるんだよ」
そこで一旦言葉を区切った。
そしてもじもじしながら、上目遣いで見つめてくる。
「ダメかな?……本当は、こうして繋がっていないと、ボクは得た幸福を失う不安で押し潰されそうなんだ。でもキミが嫌なら、諦めるけど……」
こうして空が夕焼けに染まる中、終始ドキドキしながら真琴と手を繋いで帰る事になった。
でもそのまま知らない大人達に混じりバスに乗るのは恥ずかしすぎたし、当初の他の生徒達に見せつけるという目的から逸脱していたので、学校前のバス停に着く頃には手を離して貰い、その日はそのまま帰路へと着いた。
◆ ◆ ◆
それから終始笑顔であるボクは、家に帰り着くと早速由香に電話で報告していた。
「——大好きって伝えたら、ユウトも好きですって」
すると電話口の由香がバタバタ言わせながらキャーキャー悲鳴を上げる。
「マコ、おめでとう! ついにやったね! 」
「うん、ありがと! これも全部、由香のおかげだよ! 」
「……ユズレアの苺抹茶パンケーキに、マカロンパフェだね」
「アイアイサー」
「んで、その後はなに話してたの? なんか抱き合ってるように見えたんですけど? 」
「えーと、キスを迫ったら断られたから、エッチをするのも諦めるねって言ったよ」
すると今度は『ガタッ』と大きな物音が電話口から聞こえてきた。
それからボクは、由香から延々説教をくらってしまい、朝方まで今後の作戦会議を開く羽目になってしまったのであった。
うぅぅ、他の子に奪われたらいけないって、ボクも必死だったんだよー。




