第15話、勘違い
ソウルリストを見ても良いか、どうか。
正直見られたくない。
内容が内容だけに、特に小さな女の子には。
でも隠してもすぐわかる事だしなー。
て言うかソウルリスト、見るのにいちいち聞くのが普通、礼儀なのかな?
そう言えば、最初にルルカも自身のソウルリストを見ていい事を、わざわざ許可するような口ぶりで言ってた気がする。
「見てもいいけど、なんでいちいちそんな事を聞くの? 勝手に見ちゃわないわけ? 」
「えっ、知らない人から勝手に見られたら、嫌な気分にならないですか? 」
「そりゃ嫌だけど、勝手に覗き見られたらわからないから——」
ん?
待てよ。
「もしかして、ルルカは人からソウルリストを見られたら、その場でわかっちゃうわけ?」
「はい、わかります」
なんだと!
「それはどうして? 」
「独特の視線を感じるからですけど? 」
「そっそれじゃ、今俺のを見てみて」
「はい! 」
すると確かに一瞬、なにか先端が尖ったもので肌をそっと触れられたような感触が、ルルカ方面からした。
「これがそうなのか」
「それよりお兄さん、このソウルリストって——」
ルルカの瞳が大きく見開かれている。
またこの流れか。
ついつい大きなため息が出てしまう。
「超絶って。この倫って意味がわからないですけど、お兄さんってなにか凄い能力の持ち主だったりするのですか? 」
「えっいや、それは、……よく覚えていないんだ」
そこでルルカは腕を組んで考え込むと、一人でうんうんと頭を上下させる。
と言うかこの状況、どうやら勘違いしてくれてるようである。
よかったー。
「なるほどですね。だからこその、あの回復水って事になるのですね」
呟くように言ったルルカの視線が、隣の真琴へ向けられた。
「その、お姉さんもいいですか? 」
俯いている真琴が、僅かな頷きで了承をする。
「では失礼します。っ、深淵の覚醒者!? 」
驚きの声。そして——
「決めました! 」
「え? なにが? 」
「私がお兄さんたちのナビゲーターをします! 」
あのー、流れが全くわからないのですけど。
するといつの間に完全復活していたのか、真琴が俯いたままで前髪の間から鋭い視線をルルカへと向けた。
「ルルカ、キミは先走る癖があるみたいだね。ほらっ、深呼吸をした後に順を追って説明してくれないかな? 」
「そ、そうですね。わかりました! 」
真琴に促され、素直にすーはーすーはーと深呼吸をするルルカ。そして口を開く。
「私が知ってる情報はなんでも話しますし、この街から一番近くにあるダンジョン『悪鬼要塞』なら、私も同行して直接道案内をさせて頂きます」
「へー、それでルルカはどんな報酬をボクらに望むのかな? 」
そこでルルカは声のトーンを落とす。
「報酬はいらないですけど、ダンジョン内では私を守って下さい。あとダンジョンに同行することは、絶対にギルドには内緒で」
「その内緒にするわけは? 」
「その、ダンジョンは冒険者しか入ったらダメな決まりになってるんですけど、私はまだ十六歳になってないから冒険者登録できなくて……」
「なるほどね。じゃ、他に要求はある? 」
「ないです! 」
「報酬にお金はいらないの? と言ってもあげられるお金はないんだけどね」
「はい、大丈夫です。お金はタダでいいです! 」
うーん。
この条件って、俺たちだけに利があって、申し出た彼女にはなんの得もない。
って事は、ルルカは何かを隠している?
とその時——
「ユウトさん、真琴さん、カウンターまでお越しください」
受付嬢さんの声だ。
まだ話の途中だったんだけどしょうがない。
視線をルルカに戻す。
「今からカードを貰うんだけど、これからの手続きってどれくらいかかるものなの? 」
「カードの交付とギルドからの様々な説明がありますから、一時間ちょっとくらいですけど? 」
「それまで待てる? 」
「はい、大丈夫です! 」
「じゃごめん、少し待っててね」
席を立ちカウンターに向かう途中、真琴に確認をする。
「あの子、なにか隠してるよね? 」
「そだね、もう少し質問してみてからどうするのか考えてみたほうが良いかもだね」
そうして受付嬢さんのところに着いたわけなんだけど、向かう途中に目が合ったと思った黒猫の彼女は、相も変わらず俯いたままで話を始めた。
そしてパスポートほどの大きさの薄いカードを机の上に置くと『どうぞ』と言われたので、さっそく手にしてみる。
まずカードの一番上に、でかでかとEランクと記載されていた。
次に俺の氏名、発行元である街名と、最新の依頼受領所である街名には同じくイドと来て、次に出身地が来た。
ここもイドか。
そして最後の所にはランク表示よりは小さいが、他の記載よりは心なしか少し大き目な文字で超絶倫と書かれていた。
よし、もし身分確認とかでギルドカードを提示しなければいけない時は、迷わずソウルリストの部分は指で隠すとしよう。
そしてEと書かれたランクについてや、ギルドの仕組み、使える施設なんかあれば教えて貰おうと思ってたんだけど、なにを思ったのか受付嬢さんは、『お祈りをさせて頂きます』と神に祈るポーズで目を閉じてしまう。
そして祈りを終えると、あろうことかカウンター上に休憩中と書かれた三角柱の札を起こし、『お疲れ様でした』の言葉と共にすぐに奥へと引っ込んでしまった。
「えっ、あの、ちょっと! 」
思わずその場で呆然となり立ち尽くす俺たち。
じゃなくて、聞きたい事が何も聞けなかった。おかげで時間はものの五分で終わったんだけどね。
チラリと隣のカウンターを見れば、一人待ちが出来ている状態である。
なんかこんな状態になってるのって、やっぱり俺のせいなのかな?
「真琴、なんかごめん」
「仕方がないよ」
そして追い討ちをかけるように、隣のカウンターにもう一人待ちが増えたのが見えた。
そこで互いの視線が自然とルルカの方へと向く。
「最悪お金を払ってでも、彼女から情報を買ってもいいかな? 」
「うん、時間も有限だしそうしようか」
チラリと真琴の顔を覗くと、人差し指で頬をかく彼女は優しい笑顔であった。
それを見てると、やっぱり申し訳ない気持ちで一杯になり、俺はため息と共に肩を落としてしまうのであった。
『オ腹スイタ』
うわぁ、ビックリした。
と言うか存在忘れていた。
人前であるため心の中で話をしたほうが良いよね。
『また回復水が欲しいんだよね? 』
『ウン、チョウダイチョウダイ』
そこで回復魔法を唱えていると、真琴から声がかかる。
「どうかしたの? 」
「あぁ、バングルからおねだりされて」
「そういうこと」
そしてバングルに手を当て作り上げた白濁球が、あっという間に萎んでいくのを見ながら思う。
バングルにも名前があったほうが便利だなと。
今度時間がある時にでも、考えてみようかな。




