第114話、隻眼のアンダーワールド②
そいつはまるで俺たちを迎える事を嬉々としているようにして、両手を横へ広げて舞い降りる。
そして漆黒に包まれたそいつは、片手で表情を隠そうとしているが、手の隙間から残忍な笑みを溢していた。
と言うか、先程の映像にもあったように、吸血鬼って言ったら常人離れした膂力が警戒に値する!
どうにかしてこちらの間合い、中距離で戦わないと!
そうこう考えていると、太腿に痛みが!
なんだこれ、奴のここまで異様に伸びた影から、鋭い紅の刃が太腿にまで伸びて突き刺さっている!?
ツタでその刃を破壊し、太腿に刺さる刃も抜き捨てる。そして回復したあとすぐさま影から距離を取る。
そうか、映画のヴァンパイアって言ったら変身とかの異能を操るのが大半だった。よし、同じ手は喰らわないようにしないと!
そして吸血鬼に視線を向けると、ちょうど手で空間を薙ぎ払うところであった。
その薙ぎ払いにより黒霧が辺りに撒き散らされ、視界が一瞬にして真っ暗になってしまう。
まずい、これで接近を許したら!?
「お任せください」
涼しい声が聞こえた、リアさんだ。
そして霧が晴れると、赤騎士と吸血鬼が接近戦を繰り広げているのが目に入った。
そんな中、リアさんはこちらへ歩みを寄せる。
「結界の中に赤騎士共々閉じ込めました。後は接近戦に優れた赤騎士に任せれば、7分ジャストで黒霧に変えるでしょう」
確かに赤騎士、怒涛の攻撃をしており強い!
影から飛び出た刃を槍で一蹴すると、突きで胴体に風穴を開ける。そしてその際、槍を掴まれてしまうが、前蹴りで吸血鬼を吹き飛ばす。
「さらに赤騎士には特殊能力がありまして、その六つの瞳が開けば相手を一瞬だけ縛りつける事が出来ます。このハイレベルの戦いで一瞬の隙を見せるのは、敗北が決定するのと同義」
ふぅー、という事で良いとこなしだったけど、なんとかこのダンジョンから無事抜け出せそうであります。
そこで不意に、視界に違和感を感じる。
なんだあの人?
大きな鎌にもたれ掛かり佇む、気だるそうな黒髪の女性がいた。ただし人の形をしているのに、なぜか人間というより異質な雰囲気のため、シェリーさんのようなモンスターのような気がしてならない。
視線をリアさんに向けると、思考を読み取ってくれたようで、その口を開いてくれる。
「ユウト様、どちらかといえば——」
『あれはセンジュと同種の存在』
リアさんの声を遮るセンジュのテレパシー。という事は、どっからどう見ても怪しい大きな鎌が、呪われているという危険なアイテム!?
そしてあの女性は、俺と同じで宿主みたいなもの!?
『違う、あの女性もセンジュと同じ。つまりあの女と鎌が危険なアイテム。あの擬人化プラス鎌の質量からして、宿主はとうの昔に死んでいる』
そこですかさずソウルリストを確認すると、首刈り悪魔ということがわかった。
「ナンダオ前? 人間ガ生キテイルノカ? 」
指で長髪をクルクル巻いていた女性が、突然気怠そうにしていた目を見開き問いかけて来た。
どうやらセンジュに向かって話しているようだ。
「ドウイウ事ダ? ナゼ最初二死ンデイナイ? ナンナラ殺シテヤロウカ? 」
「センジュは最高な御主人様を手に入れている。邪魔だてするなら、……お前を喰い殺す」
「オマエジャナイ、シックル様ト呼べ。出来損ナイ」
ゆらりと左右に揺れながら、シックルが歩を進める。鎌を前面に出しながら。
「出来損ナイハ、排除スル」
『御主人様、くる』
「リアさん、離れていて下さい! 」
地面を踏み締める音、と同時にこちらへ向けて飛び上がるシックル。
はっ、早い!
横薙ぎが来る!
「ぐうわぁっ」
センジュが動かすまま腕を上げ、緑色の籠手で漆黒の鎌を防いだのだけど、あまりの重さで真横に吹き飛ばされてしまう。
なんだ今の!?
『質量が違いすぎる』
えっ、つまり重いって事だよね? だったらなんであんなに早く動き回れているの!?
『恐らく——』
こちらからの突き攻撃を、シックルは姿勢を低くし真横へ高速移動することで避けていく。
それなら、薙ぎ払い攻撃だ!
しかし直角に曲がって、避けるだと!?
俺の首筋目掛けて、煌めきが走る!
『ガキュン』
センジュだ、完全に反応が遅れていた俺をセンジュが腕を動かして守ってくれたのだ。
しかしまだ油断してはならない。
鎌を交えた状態で引く事により、さらに俺の首を狙ってきていたのだ。それもセンジュが籠手でガードをしてくれる。
『グガッ』
そしてやった、と思ったのだけど——
籠手から飛び出した近距離からのツタの噛みつきが、シックルの腹部に炸裂していた。しかし何事もなかったかのように、そのまま距離を取られてしまう。
硬い!
『あれは重心が移動している』
重心移動? つまりシックルの身体の中、……いや鎌も含めた全てを対象に重心移動を。だからあんな複雑な動きが出来ているのか!
あとは質量が多い場所があれば少ない場所もあるという事で——
『脆い部分がある、それを今から攻める』
「脆い部分がわかるの? 」
『大丈夫、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』
そこでシックルが駆け始める!
これは受け止めちゃ駄目だ!
勢いに乗った攻撃は受けると吹き飛ばされてしまうので、かわす事に神経を集中。
その後の背筋が凍る鋭い攻撃は、なんとか籠手で防いでいき、センジュが噛み付き攻撃でダメージを蓄積させていく。
そして密かに足元に這わせていたツタが、シックルの足首に巻きついた!
これは最大のチャンスだ!
『俺は捨てて攻撃に専念して! 』
咄嗟の念話。
『わかった』
きらめきが俺の腹部へ走り、俺は胴体をきれいに切断されてしまう。
しかしその一瞬を見逃さなかったセンジュが、シックルの身体中に噛み付いていた。
白濁球を腹部へ飛ばし治療をする中、喰われていく人間部分のシックルが視界に入る。
「馬鹿ナ! バカナ馬鹿ナバカナ——」
そこで籠手から分離したセンジュが、髪を巻き付かせて残っていた鎌をへし折り、シックルを完全に黒霧へと還すのであった。
その後長い年月、多くの人達がシックルの毒牙にかかっていたらしい事をリアさんから聞いた。
「ねぇ、御主人様」
センジュが俺の袖を軽く引っ張る。
「どした? 」
「センジュもいつか、御主人様みたいに人のために生きていけるかな? 」
「センジュなら大丈夫だよ。現に今も助けられたわけだしね」
「センジュ、頑張る」
センジュはシックルとは違う。そういう運命の導きを俺は信じている。
それとダンジョン内で亡くなった人達は、まだ天国へ行けていない事は確か。
魂の解放の意味でも、早く迷宮王国の迷宮核を破壊しなければいけないと改めて思うのであった。
そこから旅は順調に進み、多くの霧を抜けるたびに俺はセンジュの扱いをマスターしていく事になる。
そして舞台は遊楽街。
リアさんからヴィクトリアさんの人格を呼び戻すには俺と沢山触れ合わないといけない事を聞いた一同は、ヴィクトリアさん復活のため俺とリアさんが二人っきりで一晩を過ごす事を了承するのであった。




