第112話、避妊薬を入手しちゃいました
街をぐるりと囲む高い壁が見えて来る。
やった、街が見えて来た!
ここに来るまでの間、一度だけ霧の塊を見ていた。
ただ幸いにもその霧は俺たちから少し離れた場所を猛烈な勢いで流れて行ったため難を逃れたんだけど、仮にその軌道上にいたら間違いなくまた見知らぬダンジョンに突入する羽目になっていたはず。
みんなダンジョンは懲り懲りなようで、気がつけば足早で街を目指していた。
そしてお目当てである街に入った途端、真琴が目を輝かせ感嘆の息を漏らす。
「凄いよユウト、ここは完全に中世ヨーロッパ風の街だよ! やっぱりダンジョンの中の街だから、モンスターの襲撃に備えてこの頑丈そうな壁を築いてるんだろうか? 」
「そうかもね、ダンジョン内のモンスターは好戦的らしいからね」
「あっ、あっちに見えるあの大きな建物は教会かな? ユウト、行ってみようよ! 」
そこで袖を引っ張られる、アズだ。
「私は疲れたわ、早く宿に行って休みましょう」
うーん、俺としても早くこの女装をやめたかったりするので——
「真琴、先に宿を確保してから街の探索に行かない? 俺も早く着替えたいから」
「オケー、じゃ、そのあとデートだね! それとこれでユウトの姿をみるのも見納めになるわけだ」
真琴がヴィクトリアさんの眼鏡をクイクイ上げる真似をしながら、舌舐めずりをした。
最初の街ではお金がなかったのでウインドウショッピングになり、次の街ではオークションに参加する等バタバタしていたため、必要な物の購入しか出来ずマジックショップには立ち寄ってさえいなかった。
そのためそこそこ時間とお金がある今、俺と真琴は異世界成分満載であろうマジックアイテムショップを初めて訪れていた。
趣のある木の扉を手前に引き、上部に取り付けられた呼び鈴をチャリンチャリンと鳴らしながら入店する。店内はそこそこの広さがあった。
しかし薄暗く限られたスペースに出来るだけ詰め込むようにして商品が陳列されているため、狭っ苦しい印象が。
そしていつものように最初は二手に分かれて店内を見てまわる事に。
おっ、本棚に多くの本が収納されているのだけど、あの本は魔法の書とかなんかだろうか? 視線を落とせばルルカが使っていたようなダウジング用のロッドから魔法の杖、噛めば魔力が回復すると言う木ノ実やリラックス効果があるお香、あとお祈りようの十字架なんて物も置かれている。
そして店内の半分を見て回った俺は真琴のほうへ足を運ぶ。真琴は手にした小瓶に貼られているラベルを見ているようだ。
「真琴はなに見ているの? 」
「えっ、あ、いやっ別に、そうそう、ユウトはなにか見つけた? 」
真琴はそう言うと、後ろ手に小瓶を棚に戻す。
「俺はこれ、魔力が回復する木ノ実だって。なんか苦そうだよね? あとは見てるぶんには良いけど、特にはなにもなかったかな? 」
「そなんだね! 」
真琴、明らかに挙動不審だよね?
それなら——
「これをちょっと持っていてくれる? 」
俺は商品棚から手にしたばかりの木ノ実を真琴に差し出す。そして慌ててそれを受け取ろうとする真琴の隙を突き、俺は真琴の背後の棚に置かれている小瓶へと手を伸ばした。
「あっ、それは! 」
俺は手にした小瓶を目線にまで上げると、真琴が虚空に手を彷徨わせる中、貼り付けられたラベルを音読する。
「なになに、子宮結界Z。女性が1錠服用すれば、いくら性交を——」
——性交をしても24時間以内ならば妊娠は……しない、こここれって!?
真琴の顔をさっと見ると、真っ赤にしている真琴が恥ずかしそうに口を開く。
「……避妊薬、だよね」
そう、避妊薬だ! しかしまさか異世界に避妊薬があるとは!? いや、確かに異世界の人たちも家庭の事情とかで避妊しないといけない時とかあるのだろうけど——
このマジックアイテムの存在は、今後の俺たちに与える影響は計り知れない! だって俺と真琴は避妊薬がないからエッチが最後まで出来ない。しかし目の前には異世界産ではあるけど、紛う事なく避妊薬がある。
チラリと値札を見てみる、……4千ルガか。安くはないけど、今の俺たちにとっては決して高い買い物でもない。ただ一つ問題があるとしたら、俺たち未成年者に売ってくれるのか、と言う事だ。
……いやまてよ、真琴はたしかに避妊薬があるとは言ったけど、これを使ってエッチをしたいとは一言も言っていない。でも子供が欲しいとか今すぐ食べたいとかもちょいちょい俺に言ってきている。
真琴はどっちなんだ?
俺は、俺たちは危険な冒険者をしているわけだから、いつ死んでしまうかわからない状態に身を置いている。だからやりたい事をしなくて後々後悔とかしたくない。
それに俺は真琴を愛している。真琴と色々な経験もしたい。それは勿論エッチな事もだ。
でも流石に直接は聞けないから、ここは遠回しで探ってみるか。
◆ ◆ ◆
避妊薬と知ったユウトは、すぐに購入しようとは言わなかった。どうするのか悩んでいるみたい。
……ボクはユウトにギュッとされたい、たくさんキスをされたい。でもけっしてエッチがしたいわけではない。だって知らない世界に足を踏み入れるのは、やっぱり怖いから。
でもユウトとなら、この世界に来た時みたいに頑張れそうな気もする。それにユウトの初めてはボクでありたいし、ボクの初めてもユウトしか考えられない。それに今の状態だと、二の足を踏んでるとアズやヴィクトリアにユウトの初めてを奪われてしまうかもしれない。
だから怖いけど、ボクは——
その時白髪の中から真っ赤な耳を一瞬だけ覗かせながら、意を決したような表情でユウトがこちらに視線を向ける。
「これって、未成年でも買えるのかな? 」
その質問にボクは即答出来なかった、そして俯いてしまう。だってもしここでボクが購入に肯定的なことを言ったら、ボクたちは今晩結ばれてしまうかもしれないから。
嬉しいけど怖い。不安だけど求められたい。
そんな状態なのに、その決断を今ここでしないといけないの?
ユウトはボクの顔をチラチラ見ている。ボクの返答を待っているようだ。
どうしよう、取り敢えずなにか言わないと。
でも声が出ない、顔を上げれない。頭が真っ白になる。
「もしかしたら買えないかもだけど、とりあえずカウンターに持っていってみようか? 」
とそこでユウトがボクの手首を掴む。
エッと思ってユウトの顔を見上げると、ユウトが頬をかきながら苦笑する。
「さすがにこれだけ買うのはちょっと、だから、その木ノ実も貸して貰っても良いかな? 」
「……うん」
そんな照れ笑いを浮かべるユウトは、とても可愛いらしくてボクの母性本能をくすぐるのであった。
◆ ◆ ◆
カウンターに持っていったら、普通に買えた。そして店内なのにとんがり帽子に黒いローブに身を包んでいる店員のお姉さんは、顔が赤い俺と終始俯いている真琴を交互に見た後、ニマニマしながらこのマジックアイテムの説明をしてくれた。
その内容とはこうだ。
女性が服用してから三十分後に体内で魔法が発動、魔法陣が展開されるらしい。すると子宮に結界が施され、その間受精休止状態になるらしい。しかも24時間の間ずっとである。
ただし副作用があるらしく、まず効果が発動している時ずっと黒目が真っ赤に染まるらしい。また子宮内に異物が入り込むたびに魔力を使用するらしく、魔力が枯渇してしまうと黒目に戻り瞬間的に効力を失うらしい。そのため魔力切れを起こしそうになったら、回復するまで休憩をしっかりとりなさいとの事だった。
『カランカラン』
「買えたね」
「……うん」
そして時間が流れ、明かりの確保にランプの光に頼る時刻。いつものようにみんなで食事を済ませたあと、俺と真琴は最低限の会話のみで宿屋の一室へ戻ってきていた。そしてエッチをするしないは別として、購入した薬を試しに飲んで貰っていた。
「本当に黒目が赤くなったよ! 」
興奮気味にそう伝えたのだけど、ベットに腰掛ける真琴はなにも話さない。どころか俯いたまま何も反応しない。
そして訪れる二人の間の沈黙が、これからエッチなことが出来るのでは、と言う期待を膨らませてしまう。
それからもちょいちょい会話のキャッチボールをしようとしているのだけど、やはり途切れ途切れになってしまっていた。真琴も期待してるのかな、とか思ってたのだけど——
ふと気がつく。この真琴の状態って、緊張ではなくてどこか元気がないような気がする。そしてそんな真琴を見ていると、不意に先日の修羅場の事を思い出してしまっていた。
……もしかして、俺はまたやってしまったのではないのか? 考えてみると、真琴とエッチがしたいがばっかりに、また真琴の事を考えていなかった。
俺はまた真琴を悲しませる、泣かせてしまうところであったのでは?
「真琴、隣に座るね」
俺はあえて少し離れた位置に座る。
「正直に言って欲しいんだけど、……真琴はエッチをしたくない、よね? 」
「……ごめんなさい、やっぱり怖くて」
その言葉に少しだけガッカリしてしまったのだけど、こう言う事ってお互いの同意がないと、だからね。
……でもやっぱりショックです。
「いや、俺のほうこそごめんね! 全然気がつかなくて。俺も無理矢理は絶対に嫌だし」
「ユウトは悪くないよ、ボクの問題だし……」
涙目の真琴が胸の前で手を重ね合わせ、上目遣いで謝ってくる。その姿にドキリとすると共に、頭を撫で撫でしたい、ギュッと抱きしめてあげたい気持ちが溢れ出てきてしまう。
……少しぐらいなら、わがまま言ってもいいよね?
「真琴、ちょっとお願いがあるんだけど、今からその、ひっつきたいんだけど、それもダメかな? 」
すると少しの間が空く、そして——
「……だめじゃ、ないです」
やっ、やった!
「ありがと」
それから良い雰囲気になった俺たちは、少しずつ大胆な行動を起こしていって、遂には最後までするのであった。
◆
翌朝、布団の中で目を覚ます。
結局真琴の瞳が赤いものだから、何度も愛し合ったわけだけど、あれで妊娠しないのなら異世界の避妊薬は凄すぎである。
「ふぁ~」
真琴が目を覚ましたようだ。
暫くボーとしていた真琴だったのだけど、目が合うと恥ずかしそうに俯く。
「……おはよう」
「おはよう」
それから俺たちはみんなと集合するまでの間、時間が許す限りキスをしながら愛を語らった。
しかし幸せだ。部屋から出ると、真琴が俺の腕にべったり引っ付いてくるようになった。そしてアズが同じようにべったり引っ付いて来ても、彼女は気にしないようになる。
常に見ているのは俺だけのようだ。
こう言うのってラブラブ状態って言うんだろうか?
因みに終始その状態だと歩き辛いし人の視線が気になるので、宿屋以外ではベタベタは禁止にさせて貰う事にした。
そしてみんなで宿屋の一階で朝食をとっていると、話題は迷宮王国についてになっていた。
「リアさん、そうなるとまずはその日本人が作った街である、遊楽街に向かって進めば良いんですね」
「はい、ヴィクトリアに残された記憶にある情報なので間違いありません。遊楽街に着きそこから三日ほど北上すれば迷宮王国の深部、迷宮城へと辿り着きます」
「そしたら西に向かって進みましょう! 」




