第109話、ダンジョン変異
尻つぼみに声が小さくなる真琴は、俯きもじもじしている。
そこで俺たちの輪に、一歩踏み出す事で一人の女性が加わる。
青味がかったショートヘア、真琴より大きな胸を保有しスタイル抜群で絶世の美女であるリアさんだ。
リアさんはただでさえパックリ胸元が開いたドレスにブルマか水着なのかと思わせるほどの堂々とした下半身部分を露出していると言うのに、その胸元付近の布に指を引っ掛け露出度をさらに上げようとしている。
「リアさんリアさん、貴女まで何をしてるのですか! ?」
「いえ、七番目様が負けるなとおっしゃっていますので」
「これは勝負ではないですからね! だから競い合う必要は一切ないんですからね! 」
俺は手で自身の顔を隠しながら指と指の間からリアさんを見据えて言った。するとリアさんは寂しそうに「そうなんですね」とポツリと呟く。
因みにリアさん、七番目さんと言う別人格が体内に同居している。またこれからはリアさんが表に出てくる事をみんなに説明し、それに伴ってトレードマークであった黒縁メガネをしなくなっていたりする。
そこで神秘猫耳である黒猫の獣人で、アズの専属メイドさんでもあるクロさんと目が合う。
「はわわわっ、私は、……ごめんなさい無理です」
しまった!
今の流れがあったため、咄嗟にクロさんの胸にも視線を送ってしまった。
彼女は広げた手でメイド服の上から胸を押さえつけると、こちらに背中を見せるようにして身をよじる。
そこで腕を引っ張られる、アズだ。
「アズ、どうかした? 」
「ユウト、……あんた本当は胸が大好きでしょ? 」
なんと腕に引っ付いているだけだと思っていたアズは、見上げながらずっと冷静に俺を観察していたのだ。
そして恥ずかしながら核心をつく質問に、俺は身体が震えて声が出ない。
「あら違ったかしら? 」
えぇい! 俺はこういう時、後悔しないよう正直に生きると決めたじゃないか!
「……いや、好きですけど! ?」
「そう、なら今晩私の胸を好きにしていいわよ」
なんだと!?
「えっ、いや、でもそれは、……いいの? 」
「えぇ、私たちは恋人同士なのだかーー」
「ちょっと待った! 」
俺たちの会話に待ったをかけたのは、幼馴染でアズと同じく俺の恋人である真琴だ。
「女狐! 今晩はボクの順番の約束だろ! 」
「そうだったかしら? 」
「あぁそうだよ! だから今晩ユウトと寝るのは、……このボクだ」
「それで真琴は、ユウトに胸を好きにさせるわけ? 」
「えっ? もっ、もちろんだ! 」
そう宣言する耳を真っ赤にしている真琴は、さっきとは打って変わりこちらに視線を一切送ろうとはしない。
「それなら私は明日にするわ」
「なに! ?ぬぐぐぐぐぅ」
二人の言い争いの中、俺が履いているスカートの裾が軽く引っ張られた。
「ご主人様、濃ゆいのちょうだい」
両手を受け皿のようにして顔の前に持ってきて、聞きようによっては卑猥なおねだりをして来ているのは、見た目幼い女の子で着物姿であるセンジュ。
えーと、この子はなんて説明すれば良いんだろう?
アイテムが人に化けたと言うか、植物の擬人化と言うか、とにかく簡単に言うとファンタジー映画とかに出てくる森の精霊ドライアドみたいな存在であり、俺もよく分からないことだらけである女の子だ。
それよりーー
「ねぇセンジュ、そのポーズってもしかして、その手のうえに白濁液を落としてって事? 」
「そう、ここに出して欲しい」
「突然どうしたの? 今まで投げた白濁球をキャッチするようにして、その髪の毛で食べていたよね? 」
「思い出した」
「なにを? 」
「カトリーナお嬢様の命令で、リークラフト君の液体をマリーがそうやって飲んでいた事を。マリーは一見嫌がってるように見えたけど、内心あの飲み方が一番、嬉しそうだった」
「そのくだりはヤバイから! 幼い子がそんなことを口にするのはヤバイから! とにかく、これからあの人たちの話題は出さないようにして! 」
「なんで? 」
えっ、どう説得しよう?
「それは、その……今のご主人様は俺なんだよね? だから前の人たちの事は、思い出して欲しくないんだ! 」
「変なご主人様、でもわかった」
そしてセンジュは髪の束の毛先に口を作ると、俺の生み出した白濁球を一口でガブリと食べた。
と言うか、ダンジョンの話をしようとしていたのに、話がかなり脱線してしまいました。
あと思ったのだけど、こう言う話はクロさんが一番詳しいかも。
「あのクロさん」
「……なんでしょうか? 」
クロさんは両手で胸を隠したまま、涙目でこちらに応対してくれる。
目の前でそんな仕草をされると余計に意識してしまっているわけなんですけど、クロさんはさっきのくだりがある中できちんと接してくれているので、彼女をガッカリさせないためにも絶対に胸には視線を向けないと自身に誓う。
「ここって本当に迷宮王国なんですか? 」
「……そうです」
「なんかここ、ダンジョンって感じが全然しないんですけど? 」
「そうですね、何も知らなければそう見えますよね」
あれ? クロさんが勿体ぶった言い方をしている。もしかしてクロさん、オークションの時もそうだったけど、こう言うトンチ系が好きなのかな?
ならあのときのように、謎解き感覚で挑んでみるか。
「と言いますと? 」
「この場所は、朝から翌朝までこの風景のままです」
「という事は……ずっとお日様がでている、つまり夜が来ないのですか? 」
「はい、その通りです」
やった、一発正解だ。
たしかに今までのダンジョンも時間が切り取られたように景色が固定されていたわけだから、迷宮王国も同じ状態である事になんら不思議ではないのだろうけど、……普通に外の風景なものだから違いが分からなかったです。
「それとユウトさん」
「はい? 」
「迷宮王国内は気をつけないといけない事があります」
「あっ、ダンジョンの中のモンスターは好戦的って事ですよね? だから普通に移動している時も危険、って事ですよね? 」
「それもあるのですけど、それよりも遭遇に気をつけないといけない物が一つあります」
うーん、モンスターより危険な物。 なんだろう?
そだ、もしかしてーー
「病、とかですか? 」
「違います……と言うかこれは少し難しすぎたですね。答えは、ダンジョンです」
「え? ダンジョン、ですか? 」
「はい、ダンジョンです」
ダンジョン、遭遇? ……ダンジョンに遭遇?
「もしかしてダンジョンが襲ってくるのですか! ?」
「大きく捉えると正解ですけど、厳密に言うと不正解です」
「クロさん、これもギブです。答えを教えて下さい」
クロさんは口元を手の甲で隠すと、満面の笑みでクスクス笑う。
「わかりました、それでは解答に移りますね。迷宮王国は年々その規模を大きくしていっています。そして迷宮王国が領土を増やす際、そこにダンジョンがあればそのダンジョンも取り込みます。取り込まれたダンジョンはどうなるかと言うと、迷宮王国内に移動します。移動と言ってもただ移動するのではなく、迷宮王国を介する事で変異するのです」
「変異、ですか」
「はい、変異です。それで変異するとどうなるかと言うと、まず一つ目はダンジョンの中と外を行き来する出入り口が無くなります。次に迷宮核も消失してしまうそうなんですけど、代わりに迷宮核があった場所には転移空間が現れます。この転移空間、ダンジョンボスやフロアボスを倒しても現れ、いっときの間現れるその空間を通過するとそこから一瞬でそのダンジョン外に出られるため、迷宮王国外のダンジョンよりこちらの方が便利だと言う人もいたりします」
そこでリュックからゴソゴソ取り出したクリスタルを見せてくれる。
「この転移アイテムは高価なため、皆さん余程の事がない限り使いたがらないので」
へぇー、転移アイテムってキラキラして綺麗だなー。
「その他にも取り込まれたダンジョンは、中の景色や出現する敵、宝箱の出現スポットや中身が微妙に変わったりするそうなんですけど、やっぱり一番大きな変異とはダンジョンが移動するようになる事だと言われてます」
「つまり、歩いているとダンジョンが突然降ってきたり、とかするのですか! ?」
「そう言うケースもあるのかも知れませんけど、そうですねー。風に乗ってというか、……これはなんと言ったらーー」
そこでクロさんは説明に困ったのか、腕組みをしてあーでもない、こーでもないとウンウン唸り始める。
「風に乗る? そしたら……うわぁ、あの霧みたいに風に吹かれて来るって事ですか! ?」
俺の前方、クロさんからしたら背後から、猛烈な勢いで眼前一面を真っ白に塗り替えるようにして大量の霧がドンドンと迫ってきていた。
「えっ! ?」
その迫る霧を確認したクロさんから笑みが消える。
「今からダンジョン内に突入します! 皆さん、手を繋いで下さい! 」
突如迫り来る霧が俺たちを一瞬で包み込む。そしてあっという間に一寸先が真っ白に。
強風に乗った霧が次から次へと通過する中、アズとすぐ近くにいたクロさんと手を繋いだところで更に風が強さを増した。かと思ったら、次の瞬間には風は止み見知らぬ洞窟の中に。
そうして俺たちは、突然ダンジョン内に入っていたのであった。




