第105話、ワープゾーン
ダンジョンボス、神木二面樹。
山のようなとんでもない大きさと強さであったボス、を負傷者を出しつつも倒したわけだけど、俺たちはボスが霧散して消えたその場所に隠し通路も発見していた。
当初、そこは分からなかった。
と言うのも、ここは青く発光する湖しか照明になりそうな物が無く、またその場所を正面から見ても一つの大きな岩壁にしか見えなかったからだ。
だけど近づいてよく見てみると薄い岩が左から伸びており、正面の岩壁に重なるようにしてあることが分かった。
そしてその岩と岩の間が、まるで通路のようになって奥へと伸びていたのだ。
そこを発見した真琴は、顎に手を当てながらゴチる。
「こんなところに通路があるだなんて、怪しいね」
そうして俺と真琴、そしてクロさんの三人で調査を開始したのだけど、……そこは不思議な光景であった。
通路の途中から先に、真っ白な霧が猛烈な勢いで渦巻いている。
しかしこちら側には一切風はこない。
まるでそこに透明なガラスがあり、ここと向こう側を遮断しているようであったのだ。
「この先は、ワープゾーンですね」
クロさんが自信を持ってそう言った。
また今までボスが鎮座していたため、ここは恐らく未だかつて誰も通った事のないワープゾーン。
そして元々あるいくつかのワープゾーンは、そこを潜るとどこに出るのかランダムと言う話だけど、恐らくここもその可能性は高いだろう。
因みにどこへ出るのか噂程度の情報なんだけど、月の満ち欠けが関係しているのではと言う説が濃厚らしい。
ただ、これだけはわかっている。
この霧を抜ければ、必ず迷宮王国ラビリザード内のどこかに出ると言うことが。
危険な場所に出てしまうかもしれないけど——
まーぶっちゃけ、これからワープゾーンがあると言われる地点を探しにいく手間が省けたのは正直嬉しいんだけどね。
そうそう、それと俺たちは万全の状態とはいえなかった。
だからヴィクトリアさんが一人で歩けるまで回復するよう、一晩だけ休憩を取ることになっていた。
ただここは常に仄暗いダンジョン迷いの森の中。
そのため今が昼なのか夜なのかはわからない。
だから一晩という表現は間違いなのかもしれないけど、とにかく俺たちはこのダンジョン内で一泊する事が決まっていた。
という事で、現在俺たちは野営の準備をしています。
俺とクロさんの担当は一晩焚き火を燃やし続けるために必要な、薪となる木の枝や落ち葉の回収である。
ちなみに集めた落ち葉はその上に布を引き、寝るときに簡易のベッドとしても使用するそうです。
そこで大量に必要なそれらを効率良く集めるため、リュックの中身を拠点となる場所に全て出し、空の状態にしてその中に詰め込んでいくことにしていた。
実際やってみるとリュックの中が汚れてしまったけど、その甲斐あって順調に集めれていたりする。
まっ、いくら汚れてもベ・イヴベェですぐに綺麗に出来ちゃうからね。
ちなみに真琴とアズは、スライムの実を食べてみたいと主張しだしたため、その採取に向かっている。
たしかに美味と言われるモノがすぐ、それこそ手の届く所にあるのだ。
これをスルーする手はない。
しかも売れば高値で取引されるわけだし、なによりお腹が空いてるしね。
現在俺とクロさんが作業をしている所は、突然のモンスター乱入を警戒してボス部屋の端、壁のような岩石がある場所で、リュックなどを寄せて置く事により拠点にしている。
ちなみにクロさんの腹時計曰く、既に夜中の8時を回っているとの事だったので、俺は急ピッチで落ち葉の上に布を敷く事によって簡易ベッドを人数分作っていく。
またクロさんは炎魔法で焚き木に炎を灯すと、その炎を中心に円になって座れるよう、近くに転がっていた大きな石ころや木片を置いていっている。
そんなこんなで真琴たちが戻ってきたところで食事が始まった。
そうそう、真琴たちから一つ嬉しい報告があった。
それは湖の中に魚がいたのだ。
この魚はモンスターではなく、スライムの木同様、外から持ち込まれ繁殖したようで、釣り上げて締めた後も霧散して消える事はなかったそうだ。
そんな魚を焚き火で炙ると、クロさんの持ち物の中にあった塩をかけ齧り付く。すると脂が汁となって口の中に広がりを見せ、至福の時を与えてくれる。
またクロさんが朝握って作って来ていたという葉に包まれた握り飯を、炙って焼き飯にしたのも美味である。
そこでトリである食後のデザート、スライムの実の登場だ。
お皿代わりの葉っぱに乗せられたスライムの実。
どんな味が俺たちを待ち受けているのだろうか?
お皿を口に寄せ、啜ってみる。
口に流れ込むドロリとした食感。
含んだ口内に広がる、……異物感?
噛めば刺激臭! ?
そして俺は、口に含んだスライムの実を盛大に吹き出していた。
なんだこれ! ?
めちゃめちゃ不味いんですけど! ?
もしかして俺の味覚がおかしいとかなの! ?
そこで怖いもの知らずのアズが俺に続いて口にして、同じく盛大に吹き出した。
「なんなのよこれ! ? ちょっとクロ、確認しなさい! 」
そこでお皿に乗ったスライムの実に鼻を近付けたクロさんが顔を上げる。
「これは痛んでますね」
「なっ、なんでよ! ? 」
「……もしかしたら、ヴィクトリアさんが使った炎の魔法で熱されて——」
そこで横になっているヴィクトリアさんが、軽い感じで手を上げる。
「それは申し訳ありませんでした」
あの、七番目さん、動作と台詞の雰囲気がちぐはぐですよ!
そうして残念感に包まれたまま食事会はお開きになり、1日の締め括りである就寝の時間となった。
ちなみに戦闘には間接的にしか参加せず一番疲れていないということで、俺が最初の見張り役となっている。
「ユウトさん、お先に失礼します」
「ユウト、……おやすみなさい」
壁際方面で横になる女性陣を尻目に、俺は焚き火を挟んだ反対側に置かれた石の上に腰を下ろした。
俺の身体を温める焚き火の熱が心地よい。
『ネェネェ、御主人様』
「ん? どうかした? 」
『オ腹空イタ』
「うーん、……そしたらあげても良いんだけど、今日はそれ相当の対価を貰おうかな? 」
『対価? アゲレル物ハ何カアルカナ? 』
「いやね、疲れてないとは言っても一人でじっとしてるのは退屈だし、眠気もくるんだよね。だから今晩、対価として俺の話し相手になって欲しいんだ」
『ソンナ事デ良イノ? 分カッタ、話シ相手スル』
「じゃ、契約成立だね」
そうして俺は次の当番であるクロさんが起きてくるまで、センジュの為に白濁球を作り与えながら、会話を楽しむのであった。




