第102話、大奮発
赤い炎と黒い焔が創り出す幻想的な光景は、神木二面樹の爆散により終わりを告げる。
そしてその大きさのため、黒い霧が風と共にボス部屋中を覆い尽くした。
「はぁはぁはぁあっ、はぁはぁはぁ……」
リアさんはと言うと、一人恍惚な表情で悦に浸っているようで完全に思考が停止していた。
そこでスイッチを切り替えたかのように、リアさんの人格を押し退け七番目さんが表に出てきた。
そして俺へ労いの言葉と共に身体に戻るよう促してきたため、俺は七番目さんに呼吸を合わせる。
そして今回は引き抜くようにして力強く仰け反る事により、ヴィクトリアさんの身体から飛び出しを試みることに。
『いぐっ! 』
そうして七番目さんが息を詰まらせながらあげた苦しい声を聞いたのを最後に、俺は自身の身体に戻ってきていた。
瞳がかなり重いため、目を開ける気にならない。
ちょっと、疲れてしまったかも。
「——あら、お帰りなさい」
そこで暗闇に優しい声色が響く。
これはアズの声だ。
気だるい感じで重い瞳を開けると、俺はアズに膝枕をされている状態で頭を撫でられていた。
しかし凄い事になっているな。
現在俺たちの周りは、ただでさえ薄暗いダンジョンに黒い霧が合わさっているため、見渡す限り真っ暗闇。
ただボスだから例外という訳ではなく、他のモンスター同様、黒い霧は先程から時間と共に晴れていっている。
と言うか、このまま寝ていたら心配をかけてしまう。
俺は細いけど張りのあるアズの太ももから上半身を起こすと、アズの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ありがとう」
しかしなぜか彼女は、そこでソッポを向いてしまう。
「べつに、大したことしてないし」
「いや、そんな事はないよ。……そうそう、アズはもう大丈夫なの? 」
すると今度は頬を膨らませる。
「この私が、いつまでもあのままなわけないでしょ? 」
「ふーん、そうなんだ」
……。
…………。
そこで湧いてきたいたずら心が抑えきれなくなってしまう。
「こちょこちょこちょこちょ」
手をわさわさしながらそう呟いてみた。
するとアズの顔がヒッと引きつり、怯んだ身体を守るようにして両腕を自身の身体に巻き付ける。
そして——
「ちょっとユウト! 」
頬をピンクに染め涙を浮かべるアズに睨まれてしまった。
「ごめんごめん、つい出来心で」
アズの色んな表情を楽しめて良かったです。
でもこれって上手く使えれば、今後アズが無茶とかしそうになった時とかに止められるかも、だよね?
そこで真琴とクロさんがこちらに向かって歩いてきているのを確認した。
二人とも無事か。
あとは七番目さんだけ未確認だけど、大丈夫かな?
「アズ、ちょっとヴィクトリアさんのほうに行ってくるね! 」
「わかったわ、……気をつけて、ね」
アズに見送られる中、大体の目星を付けて歩き始める。
そうして目を凝らし進んでいると、遠目にヴィクトリアさんの姿を確認出来た。
彼女は女の子座りをしたまま俯き、痛みに耐えるようにしてハァハァ言っていた、のだけど、こちらに気づいたようで一度こちらに視線を送ると軽く手を上げる。
あの感じだと全く動けなくなった真琴の時よりはマシそうである。
移動の時に手を貸すとして、取り敢えず一人にしても大丈夫そうだね。
そこで安堵のため息一つ。
みんな何事もなくて、安心しました。
『ヒューン』
風切り音が聞こえた。
続けてドスッと言う音。
見れば近くに拳ほどの煌めく石が地面に落ちてきていた。
これは……宝石!
つまり、ドロップアイテム! ?
『ヒューン、ヒューン』
見上げればまだ少し残る黒い霧を切り裂き、火山の噴火の際に見られる火山弾のようなものが、辺り一帯に降り注いでいた。
ちなみにその数が半端ない事になっている! ?
と言うかこれ、凄い奮発してアイテムをドロップしているみたいだけど、間違って直撃でも喰らえば生死に関わりそうだ。
そうだ、みんなはまだしもヴィクトリアさんは危険かも! ?
しかし遠目に見えていたヴィクトリアさんは、ちょうど落ちてきた飛来物である宝石の塊を、俯いたまま片手で見事にキャッチした。
いらぬ心配だったみたいです。
『ひゅんっひゅんっひゅんっひゅんっ』
そこで他と違う異音を耳が捉えた。
この音、プロペラが回る音に似ているけど?
しかもなんか近づいて来ているような?
見上げてみるがまだ僅かに残る黒い霧と暗いダンジョンに邪魔をされ、飛来物を目視出来ない。
仕方なく聴覚に意識を集中させるが、やっぱり近づいて、いや、もうすぐ近くから聞こえて——
そして鈍器で叩かれたような芯から響くような衝撃が頭に走った!
「いたたっ! 毎度頭に直撃とかどんだけ! ? 」
地面を見れば、直径3センチ長さ20センチくらいの木の棒がコロコロと転がっていた。
落ちてきたのはこれか!
石じゃなくて助かったけど、……しかしなんで棒なんだろう?
ボスは全て黒い霧に変わったから、ボスの一部でもないだろうし。
……いや、普通に考えたら、これも神木二面樹が落としたドロップアイテムではないのか?
じっと木の棒を眺めてみる。
なにかの魔法アイテムとかなのかな?
でも見るからにただの棒である。
そこで助けを求め視線を彷徨わせると——
ダンジョンに詳しいクロさんが目に入る。
クロさんならなにか知っているかも!
そこで宝石を回収して回っているクロさんの元に持って行き直接聞いてみようと、俺は棒を右手で拾い上げてみた。
うわっ、この棒、見た目以上に重いぞ。
とその時、拾い上げた棒が小刻みに震えだす。
そして形状がグニャグニャに崩れてきたかと思うと、次の瞬間蛇みたいにグネグネしだし先端が尖ってきた。




