再会
三十分後に、元彼は迎えに来てくれる事になった。
私は、化粧をして着替えようとしたが、あっという間に三十分が経ち軽い化粧だけで終わってしまった。
「まあ、ちょっと会って話すだけだから」と、思いつつ、ジャージー姿で家を出た。
家の前には、遠い記憶の中にある見慣れた車が止まっていた。意外にもあの時みたいに自然にその元彼の車に乗ることができた。
「本当にジャージーで来たんだね。うける」
あの時と全然変わらないその姿には、正直ビックリしたのと、普通、第一声は「久しぶり」もしくは「綺麗になったね」だろって思ったりしたのだ。
「で、なんなの?」
「まあ、ちょっとドライブでもしようよ」
元彼は、そう笑顔で言いながら、ウィンカーも出さずにアクセルを軽く踏んで車を動かした。
「まだこの曲聴いているの?」
車内に流れる、少し前のHIT曲。
「別に良いでしょ、好きなんだから、俺の勝手でしょ」
そんな事を言って、曲に合わせて歌詞を口ずさんだ。
「またいつものが始まったよ」なんて思いながら私は、いつも見慣れている近所の流れる風景を眺めた。
あの時みたいに、それを当たり前の様に聞き入る自分がそこにはいたのだ。
少しの間、会話も無く元彼の歌だけを聴いていた。そして、不思議な事に訳の解らないままに元彼と一緒にいるのに、「何の為にここにいるのだろう」って思うことも無く、とても自然なままに。
二人の車は、静かに家から遠ざかっていった。