会話
懐かしい曲が耳に流れてくる。
付き合っていた頃に良く聞いていた曲。もう少しでサビという所で、曲は切れ、これもまた懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、もしもし、ごめんね、いきなり電話掛けて…」
少し照れながら言う、あの時と同じ声。
「どうしたの?急に。何かあったの?」
あたかも興味の無い様に振舞う私の態度。本当は、「何ですか?!」って、気持ちだけどその気持ちは押し殺したのだ。捻くれ者のなのだ私は。そうでもなければ、きっと私にも今頃、新しい彼氏もいる筈だ。
「いや、別にどうしてるのかなって、元気にしてんのかなって思って」
この返事のシュミュレーションはしていた。さては、私と別れて後悔でもしてるのか、新しい彼女に振られて、元カノの私に寂しく電話掛けてきたのか、きっとその二つの内にどれかだろう、って、私は勝手に決め付けていた。
「別に元気だけど、で、何?」
元彼の腹の内を探ろうとした。
「別に要は無いんだけど、近くに来たから久しぶりに会わないかなって、思って」
あの時と変わらない素直な奴。
私は少し間を空けて考えた。暇だから会っても良かったけど、ちょっと会うのも怖かった。少しだけ私の心の中をフラッシュバックしてみたのだ。そして、私の出した答えはこれだった。
「今、ジャージーで、素ッピンだから無理!」
「ぷっ、」
確かに笑った元彼。
「別に、ジャージーで素ッピンでもいいよ。そんなの何回も見た事あるから」
そりゃ、何回も見た事もあるかも知れないけど、今はそういう問題じゃないでしょ! って、心の中で思ったのだ。反撃する間も無く元彼は、己の素直な気持ちで言うのだ。
「会うのはどうしても無理?」
どこか切なく、力のない様に聞こえた。
その問いかけに私は、また少し間を空けて、
「なら少しだけならいいよ…」
三年間、私と一緒に暮らしていた元彼。たまにだけ私に見せていた元彼の弱い所が私は好きだった。だからその問いかけた言葉に、私の心は無性に会いたくなってしまったのだ。
久しぶりとか関係無しに、共に過ごした三年間。そして別れてからの三年間。同じ三年間でも、気持ちの中では、身の有った三年間の方が強いから、たった三年間会わなかっただけで元彼を他人には出来ない自分がいた。
そして、何よりも、何となくだけど、今の元彼が私を必要としていると思ったのだ。