表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ゆめ

作者: ヨガ


突然、夢を見た。


何のわけもなく、

前触れもなく、

ただただ唐突で、

夢を見てしまった。


それは、姉さんが自殺した夢。


****


1:58 AM


……時刻は深夜二時。


こんな真夜中で、俺は悪い夢を見てしまった。


“はは……何言ってんだよ……俺らは別にそんなに仲が良いわけではないだろう?”


この話がきっかけで、夢の中に俺の目の前の景色が一転した。


散乱した髪がボサボサで、目の下にちょっぴりクマができて、憔悴しきった女性の顔。


この女性は、俺の姉さん。


その顔に悲しい目つきが、手に持った受話器から俺の“……俺らは別にそんなに仲が良いわけではないだろう?”という言葉が出た途端、全て虚ろになった。


“……うん。そうだね。”と、彼女がそう言った。


そして、あの受話器から、まだ何もわからない声が出てきた。


“全くもう……深夜二時だから、寝かせてよな。”


この話を聞いて、どんな顔色になったのかわからない。


ただ、彼女この後の声色は、とっても無力で……唇は何が言いたくても、言えそうにない震えていた。


“……ごめんね。”出たのは……たったこの一言。


プツン。


電話が無情に切られた。


そして、どれくらい経ったのかわからない。


突然、彼女はゆっくりと立ち上がった。


どこから取り出した縄を結び、椅子に立った――


ああ――


見たくない景色。


****


1:59 AM


40


……思い出すだけで、嫌になる。


“夢は覚めた後すぐ忘れる”と、よくこんな話が聞こえるけど、全然そんなことじゃない。


50


……思い出せる人は全然思い出せる。


特に、悪夢は。


55


もうそんなことを考えないようにしよう。


58


もう一度――


59


寝ようか――


00


ドドデンドドンデンドンドンド♪


と、俺がもう一度寝ようとそう思った瞬間、スマホから電話かけられたチャイムの音が鳴った。


2:00 AM


時刻は……深夜二時。


ドドデンドドンデンドンドンド♪


ZONYのデフォルトのチャイム。


ほとんどの連絡人がかけてくれた時、俺はどんな人がかけてくれたのか識別できるように、音楽を設定したが……俺は唯一設定してないのは、家族だけ。


ドドデンドドンデンドンドンド♪


最初は、“いや、きっと父さんや母さんだろう”と、ずっと無意識に嫌な予感拭えるように強く考えてた。


ドドデンドドンデンドンドンド♪


しかし、スマホのモニターから出た連絡人の名前を見て、やはり嫌な予感が的中した。


“姉さん”


ドドデンドドンデンドンドンド♪ 


俺は恐る恐る、スマホを手に取り、わずかに迷っている。


……電話に出ていいのかな?


……もし、夢みたいに――俺は自分の失言に姉さんが自殺した景色が脳内に蘇る。


一瞬、電話を切ろうとも思った。だって、失言しないようにするのは、何も話さないのが一番適切だと思う。


だけど、直接電話を切ることは、それはそれで……まずいと感じていた。


ドドデンドドンデンドンドンド♪ 


電話がまだ鳴っている。


……俺は、指で緑色アイコンのところに横スライドし、電話を出た。


「……もしもし?」俺は細く、細く声をかけた。


『あ!やっと電話を出た!』受話器から聞こえたのは、姉さんの明るい声色。


……?


なんだ……全然明るいじゃん。


一瞬ホッとした俺だったが、違和感を感じてる。でも、何の違和感なのか、うまく説明できない。


「……なに、どうしたの?」


「いや、なんか突然、弟君の声が聞きたくて……」ヘラヘラみたいな感じに言っているけど、何となく感じてる。


“何それ。俺らは姉弟だろう。別に(恋人みたいに)仲が良いわけではないだろう”というツッコミが脳内によぎっていたが、姉さんはきっと……ツッコミなんか求めてない。


そもそも、姉さんはあまり冗談を言うタイプの人じゃない。


姉さんはふざけようとした時、大体何かを隠しているのだ。


そして、俺はさっきの違和感が何なのか気付いた。


姉さんはこんな深夜に明るい人ではない。深夜テンションという状況は、姉さんの身に発生しない。彼女は夜更かししようとしても、必ず途中で眠ってしまうから。


彼女が本当に眠れない時は……心に何かが引っかかっている時だけ。


『ごめん……』俺がずっと返事してなかったからだろう、姉さんいきなり謝った。


『……迷惑だった?』声色が、何となく消沈している感じがした。


俺の脳内に、再び夢の中の景色が蘇った。


向こうが見えないとしても、俺は首を横に振った。


「……ううん。全然。」


俺の言葉にびっくりしたのか、それともどう言えばいいかわからないのか、数秒間、俺たちは何も喋っていなかった。


「……いつでもかけていいよ。俺の声が聞きたいなら。」


『……ふふ。何それ。姉さんに言う言葉じゃないだろう。』


「別にいいだろう……それに今、家族デートというものがあるらしいよ。」


『……本当?』


「嘘です。」


『……この野郎!』


「へへ。」


……よかった。まだお茶目の部分がある。この一瞬だけ、俺は向こうがちょっと緩い雰囲気を感じた。


『……でも、本当にいいの?』


「家族デートのこと?」


『違う!電話のこと!』


「電話?」俺は知らんぶりをする。


『……いつでもかけていいって。』


 1秒。


「うん。いい。」


『……』向こうはまだ何が言いたそうとしているが、俺は先に話を遮った。


「俺も……時々姉さんの声が聞きたいから。」


 1


2


3


4……そんなに長くない沈黙だったが、長く感じる静寂。


『……そう。』


「うん。」


また数秒間が経って。


『……ありがとう。』


「うん。」


『本当……ありがとう。』


「……うん。」


『それじゃ、また。』


「うん。またかけて。」


プツン。


俺は時間を一瞥して、スマホのモニターに見つめる。


2:10 AM


……これで、いいんだろうか?


わからない。


俺は不安を抱えたまま、ベッドに寝付く。


でも、色んな思い込みと、無茶苦茶な思考のせいで、四時まで俺はずっと眠れなかった。


****


翌日


1:25 PM


「はぁあー」俺はあくびをして、ビッと、ギイィウゥン……タイムカードが機械の中に吸い込まれて、機械はコピー機みたいな音を出している。


ドゥンク、ビー、ドゥンク、ビィー……ギイィウゥン


再びタイムカードが出てくると、退の部分に、13:25の数字が刷り込まれていた。


「今日はやたらと眠いねー田中くん。」肩が誰かさんに掴んで、身体が密着な状態になった。


この人は同じ会社の高橋さん。同僚という言葉を使わないのは、俺たちが同じ会社にいるだけ。業務が全く関わっていない。


「……まあな。昨日の夜ちょっと電話があってね。」


「いたずら電話?それとも彼女?」彼は小指を立てている。


「違う。」


「じゃあ何?」


「君と関係ないだろう。」


「こっちが心配して言っているのに。」スッ


……やっと手を離してくれた。


「それはどーも。」俺は言いながら、自分のカバンをまとめて、次に彼に言った。


「とにかく、俺は今日早退するんで。」


俺は歩き出そうとする瞬間、高橋さんが返事する。


「あぁーあ!羨ましいな~真面目な人は早退しても文句言われないし……」


「お前も真面目に仕事をやればいいんじゃない?そうすると休みを取る時、なんでって深く追及されないはず。」


「そうか……考えとくわ。」


“高橋~!”と、室内の奥に怒鳴っている声が伝わってくる。


「うわっ、やべっ。俺なんかやっちゃったのか……」


「しっっかり怒られてこい。それじゃ。」


「……じゃあな!夜はしっかり眠っとけよ!」


俺は振りかえずに、適当に手を振った。


****


2:30 PM


明日は平日。だが、すでに休みの許可を取っておいた。そしてその後は週末。


だから大丈夫。


今はしっかり眠ってもいい。


****


夢はいつも唐突で、現れる。


今回、また夢を見た。


また……姉さんが自殺した夢。


――ああ。


やだ……


見たくない。


見たくない!


****


2:58 PM


……時刻は午後3時。


生活リズムを調整するために、今少し寝ようと思ったんだが……


俺はまた……悪い夢を見てしまった。


“いや姉さん。こちらは今、出勤している最中なんだよ……言いたいことがあるなら、帰ったら聞くから。”


今回の夢は、俺が会社にいて、ちょうど忙しい時に返事できない業務の最中だった話。上司がいて、あんまり電話ができない状態。セリフも情景も、会社のそのまんま。


額から汗が掻く。


昨日のこともあって、嫌な予感がした。


俺は時計を一瞥して、時間を確認する。


2:59 PM


40


いや……まさかな……


50


そんな偶然――


55


ありえないだろう。


俺は自分のスマホを見つめて、時間が経つのを待っている。


57

58

59

……


3:00 PM


一瞬の静寂。


なんの音も出さないスマホを見て、俺ははっと鼻で笑った。


ほらな、そんな偶然――


ドドデンドドンデンドンドンド♪ 


3:01 PM


俺は思わず息を呑んだ。


予感が的中した。


ドドデンドドンデンドンドンド♪ 


“姉さん”


ドドデンドドンデンドンドンド♪ 


一瞬ためらったけど、俺はすぐ電話を出た。


「……もしもし?」


『お!早いね。』姉さんの声。深夜と同じく、明るい声色。


でも、今ならわかる。彼女は無理やり明るく振る舞っている。


「……そりゃあ、今は昼だから。」


『おお。それもそうか……って、あれ?じゃあ、会社は?君の会社はたしか――』俺は彼女が言う前に、話を遮った。


「早退した。」


『え?!なんで?!もしかして私が昨日――』「なんか会社に嫌な雰囲気があったから、早退した。」


『……そう。』


……沈黙。


『いじめられてない?』


「ない……あったとしても、仕返しする。」


『……すごいね。君は。』


「そう?」


『うん。君はすごい。』


これは、本当に俺に向かって言いたいことなんだろうか……もしかして、彼女は実は自分に言い聞かせたいんじゃないのかな。


正直、こちらが少し踏み出していいのか全然わからないけど。


でも……


「……それで?」


『うん?それでって、どういう?』


「姉さんの会社は?」


『……いい感じだよ。うん。いい感じ……』


「……本当?」


『……うん。』


声色が……消沈していく。


本当は、もう少し言いたかったんだろう。“大丈夫だよ”とか、“もう大人なんだから”とか、無理やり明るく振る舞うなら、そういう感じの明るさを出すつもりかもしれない。


沈黙が続く間、いつの間にか……電話が切れた。


****


それから、この後何日も同じ状況が続いていた。


俺が夢を見て、その次の瞬間に電話が来る。


4:15 PM


6:40 PM


続いて、続いて――


00:30 AM


4:30 AM


続いて、続いて……


9:10 AM


3:50 PM


終わりの目途がつかないくらいに続いて、通話していた。


そして、ふと、俺は気付いたんだ。


もし夢は夢であれば、


俺にとっての現実は、なんの現実なんだろうか。


夢はいつも唐突で、目の前に現れる。


俺の目の前にあるのは……


現実なんだろうか?


****


「姉さん。」


『……どうしたの?』


「君は本当に……俺の姉さんなのか?」


『……』


沈黙。


長い長ーい、沈黙。


『……気付いたんだね。』


「この間、ずっと電話だけしていたから、流石に気付くよ……」


俺は、ずっと姉さんに会っていない。たとえ会いたいと言っても、はぐらかされる。


俺は……電話されている日以来、姉さんに会ったことがなかった。


『……後悔している?』


「ああ。するよ……そりゃあ。ずっと後悔している。」


『じゃあ、現実を見る勇気は?』


「ない。ないからこうなっている。」


俺は、姉さんの死から逃れるために、夢を見続けている。


自分が作った(幻覚)に。


『もしかして、まだチャンスがあるかもしれないよ?』


「もうないんだよ!チャンスなんて……」


『いいえ、まだあるよ。』


「……何言ってんだよ。もうそういうチャンスがないから、俺は――」


『これは、まだ夢の範疇だから。』


固まる。


全てが固まる。


世の中の全部、その全てがぐにゃりと歪んで、固まる。


『もう一度、チャンスをあげる。』


“今度は何をすべきか、もう見失うなよ!”


****



突然、夢を見た。


何のわけもなく、

前触れもなく、

ただただ唐突で、

夢を見てしまった。


それは、姉さんが自殺した夢。


まるで人生のように、とても長い長ーい悪い夢。


本当、嫌な感じだった。


けれど、夢はすぐ忘れる。



なぜなら、俺はやるべきことがわかっている。


1:58 AM


時刻は深夜二時。


俺は、電話が鳴る前に、先に向こうの番号に繋がる。


「もしもし?姉さん……ううん。ただ姉さんの声が聞きたくて。」



いったい……どこから夢なのか、現実なんだろうか……



夢は唐突で現れることがあれば……


突然、終わることもある。



プツン。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ