困った時の神頼み
気が付くと真っ白な空間にいた。
普通なら、驚き混乱するところだが、またかという気持ちしかわいてこない。
なぜなら、この空間を知っているからだ。
つまり、もう何度もこの空間に来た事があるという事である。
なんせ、ここに来るのは二桁近いからな。
ふうとため息を漏らす。
そんな事を思っていると、後ろの方から声が響く。
「よく来ましたね、勇者様」
聞き覚えのある声だ。
凛々しいながらにもかわいらしい響きのある女性の声。
多分、初めて聞いた人は、ドキドキとするかもしれない。
でも、もう何度も聞いているので、そんな感じは微塵しないので、おざなりに返事をしつつ振りむく。
目の前には、神々しい光に包まれた身目麗しい女性がいた。
奇麗であり、かわいい感じのする、まぁ、いい女だ。
なお、その姿は見ている者によって違うらしい。
なんでも、その者の好みの姿に映るらしいのだ。
だから、いい女だと思うのは仕方ないのである。
「来たじゃなくて、強引に連れてきたの間違いだろうが」
そんな言葉に、声の主である女性は悲しそうなこえで言い返す。
「そんな……、私は……どうしてもあなたの力が必要なのです。だから……」
「わかった。それで、今度は何ですか?」
すでに何回も呼び出されているので、さっさと要件を済ませたい。
そんな気持ちしかわかない。
そんな態度に、女性(多分女神なんだろうな)は口をとがらせる。
「なんでそう言ういい方されるのですかっ」
くっ。
好みで可愛い分、わかっているのにダメージを負う。
くそっ。駄目だ。
割り切ってやるんだ。
「なんせ、もう何回も連れてこられてますからね。だから、またですかって気持ちになるのは普通じゃないですかね」
もちろん、ため息を追加するのを忘れない。
そんな容易と言葉に、女神の顔に浮かぶのは、駄々っ子のような表情だ。
「だあってぇぇぇ……」
「だあってぇぇぇ……じゃありません。こんなにちょくちょく呼び出されるこっちの身にもなってください。大体、あなた女神さまですよね。異世界から人を召喚できる力の持ち主ですよね。だったら、御自分の力で何とかしてやろうと気思わないのですかっ」
すると、女神の表情が拗ねたようなものになった。
「そんな事言ったってっ。確かに女神さまですよ。でもね、神様の世界にもいろいろあるんだよぉ。制限だって……。あれはダメ、これはペナルティが、これは協定違反とか……もういろいろあるんだよぉ」
その様子は、まさに中間管理職の哀愁さえ漂っている。
あー、お気軽そうにこの女神も苦労してるんだな。
そう思わせるのに十分すぎるものだった。
「でも、やり方色々あるんじゃありませんか?」
そう言うと、遂に一線超えたのだろう。
女神は子供のように泣き出した。
「でぎだいんだもん」
そして泣きつつ愚痴りまくる。
「どうせ、私は駄女神ですよっ。上司の嫌味言われて、ぺこぺこして、扱き使われてっ。もうやだぁ……」
段々と泣き方は派手になっていく。
可哀そうとは思う。
だが、どう見ても犯しを買ってもらえない子供が、お菓子コーナーで泣いて駄々をこねている様に見えるのは気のせいだろうか。
ともかくだ。
仕方ない。
ため息を吐き出して、言う。
「で、何をやればいいんですか?」
その言葉に、女神が泣き止んだ。
「やってくれるの?」
「今度が最後ですからね」
念のためにという気持ちで、強く言うが女神はうんうんわかってるってという。
その態度は、実にお気軽でニコニコ笑っている。
まさに、小さい頃に聞いたことのある『泣いたカラスがもうワロタ』という言葉が思い浮かんだ。
「本当に、本当に最後ですからね」
「うんうん。わかってる」
そこで女神の言葉が止まったが、「でもまた助けてくれるんでしょう?」という続きが聞こえてきそうだ。
くそっ。
またノセられたっ。
しかし、やるといった以上はやるしかないか。
自分にそう言い聞かせて、依頼を聞く。
どうやら、以前のように魔王を倒して世界を平和にすればいいらしい。
「じゃあ、さっさと送ってくれ。ちゃちゃっと終わらせてくる」
そんな言葉に、女神は楽しそうだ。
「じゃあ、送還するね」
女神が呪文を唱えると魔法陣が浮かび上がり、光が自分を包み込んでいく。
そしてゆっくりと身体が転送されかかる。
そんな時、女神の言葉が聞こえた。
「ふふふっ。困った時の神様の頼みを聞く。これって、あなたたちの世界では『困った時の神頼み』って言うんでしょ?」
その言葉ではっきり分かった。
なんで、何度も呼び出されて扱き使われるのかを……。
身体が光の粒になっていく中、叫ぶ。
「そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
だが、その言葉は、恐らく聞こえなかったのだろう。
なんせ、依頼を終わらせて現世に戻って一週間もしないうちにまた呼び出されたのだから。
だから、はっきりと言わねばならない。
女神様、あんたは間違ってると。
そして、呼び出すのは、もう最後にしてくれと。
今度こそ、今度こそ……。
《end》