表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5 普通

僕たちの生活は、何事もなかったかのように再び動き出した。

けれど、その動きには微妙な違いがあった。

彼女の言葉や仕草にはどこか慎重さが混ざるようになり、僕はその変化を見逃さないようにと、いつも以上に注意を払った。


普通の毎日は続いていた。けれど、それは以前と同じではなかった。


週末、彼女とスーパーに行った。

狭い通路に並ぶカートを避けながら、彼女は一つ一つ丁寧に食材を選んでいた。

「何か食べたいものある?」

そう聞きながら、カゴの中にトマトを転がす。


「特にないけど、今日はあなたが作るんだよ。」

彼女は笑いながら、僕の腕にブロッコリーを押し付けてきた。

「また俺かよ。君が作るの楽しみにしてたのに。」

「毎回同じパターンじゃん。たまには自分で考えなよ。」


そんな他愛もない会話が、僕たちの時間だった。

彼女が「これでいいよ」と言って手に取る調味料や、カートに突っ込んだままの雑誌の表紙を見て、僕は彼女の選択が彼女そのものだと感じていた。


帰り道、小雨が降り始めた。

彼女は突然立ち止まり、空を仰いだ。

「傘、持ってくればよかったね。」

「そうだな。」

僕は小走りで近くのコンビニに駆け込み、傘を一本買った。

戻ると、彼女は歩道の端にしゃがみ込み、落ち葉を指でなぞっていた。


「何してるの?」

「これ、すごく綺麗じゃない?」

彼女が拾い上げた葉は、雨粒を受けて表面が艶やかに光っていた。

「確かに綺麗だね。」

僕が言うと、彼女は満足そうに微笑んで、落ち葉をそっと元の場所に戻した。


夜、僕たちはささやかな夕食を囲んだ。

彼女が器を拭きながら、ふと呟いた。

「ねえ、普通って何だと思う?」

「普通?」

「うん、普通の生活とか、普通の幸せとか。」

僕は少し考えてから答えた。

「多分、自分がそれでいいって思えることじゃないかな。」

彼女は小さく頷いた。


「そっか。じゃあ、今は普通かな。」

その言葉にどんな意味が込められているのか、僕には分からなかった。

ただ、それを否定する理由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ