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3 病気の影

彼女の体調に異変が現れたのは、付き合い始めて3年目の秋だった。

その日、僕たちは休日の午後を使って公園を歩いていた。

特に何をするわけでもなく、ただ落ち葉が敷き詰められた道を、肩を並べて歩いていた。


「最近、疲れやすいんだよね。」

彼女がふと立ち止まり、ベンチに腰を下ろしながら言った。

「ちゃんと寝てないんじゃない?」

僕は軽い調子でそう返し、ポケットから水のボトルを取り出して彼女に渡した。

彼女はそれを受け取ると、小さく頷きながら蓋を開けた。


「寝てるんだけどね。朝起きても疲れが抜けてない感じ。」

そう言って水を一口飲む。

彼女の横顔は普段と変わらないように見えたけれど、その瞳にはどこかぼんやりとした影が差していた。


僕はそれ以上何も言わず、彼女の隣に座った。

落ち葉を踏む音が遠くで聞こえ、風が少し強く吹いて、彼女の髪を揺らした。

その瞬間、僕の中で微かな違和感が芽生えた。

彼女が自分の疲れについて言葉にすることは珍しかったからだ。


数週間後、彼女は体調不良が続くと言って病院に行った。

その日は平日で、僕は仕事を理由に付き添うことができなかった。

「大したことないと思うから心配しないで。」

電話越しの彼女の声は穏やかだったが、どこか遠い場所から響いているように感じた。


夜になり、彼女からの連絡が来た。

「とりあえず、検査結果はすぐに出るものじゃないって。次の予約が来週だから、またその時に分かるって。」

彼女は簡潔にそう言った。僕は何か言葉を探したが、結局ありきたりな返事しかできなかった。


「そっか。じゃあ、無理せず休むんだよ。」

「うん、大丈夫。」


僕たちはその後も何事もなかったかのように過ごした。

彼女は普段と変わらないように見えたし、僕もあえて深くは聞かなかった。

けれど、時折彼女が胸元に手を当てる仕草をするのが目に入った。

彼女は何事もないように笑顔を作るけれど、その動きが僕の中に小さな不安を植え付けた。


ある夜、二人でいつものカフェに行った時、僕は思い切って聞いてみた。

「最近、本当に大丈夫なの?」

彼女は少し驚いたように目を見開き、次に薄く笑った。

「心配しすぎだよ。ちゃんと検査してるし、何かあればすぐ分かるから。」

「でも、なんか辛そうに見えるんだ。」

僕の言葉に、彼女は少しだけ視線を落とした。


「……ありがとう。でも、私は本当に平気だから。」

そう言って彼女はまた笑った。その笑顔は穏やかだったが、どこか無理をしているようにも見えた。


彼女の言葉を信じたいと思った。

けれど、胸の奥で何かがざわついているのを、僕は止められなかった。


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