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俺に彼女はいつ出来ますか?  作者: 夢乃間
プロローグ
7/99

金属バットVS人体

 風呂から上がると、一件のメールが届いていた。木村さんからのメールだ。内容は、近くにある公園で話があるとの事。明日は日曜日で学校が休みとはいえ、もう時刻は二十一時。遊びの時間はとっくに過ぎている。真面目な木村さんの事だし、直接相談をしたい事があるのかもしれないが、その真面目さ故に怪しい。


 例え罠だったとしても、俺は行く。俺がこの誘いを無視すれば、木村さんを夜中の公園に一人佇む事になる。陽が昇っている時とは違い、夜は道も暗いし、人の目も少ない。そこを狙って悪事を働く奴は、どこにでも存在する。


 部屋から出ると、丁度帰宅してきた水樹と出くわした。


「あら? こんな夜中に散歩?」


「そんなとこ。水樹こそ珍しいな。まさか、朝に言ってた調べものを今までずっと?」


「そんなとこ。ご飯食べた?」


「作ってくれる人がいなきゃ食えないだろ。水で腹を満たせってか?」


「じゃあ作っておくから。一時間以内には帰ってきなさい」


「はーい、ママ。じゃあ行ってくる!」


 アパートから離れ、俺は急いで公園に向かった。制限時間は一時間。それを超えた場合、俺は空腹のまま朝を待たなければいけなくなる。腹が満たされていなきゃ、寝ても寝た気がしない。何があっても一時間以内にアパートに帰らなければ。


 公園に着くと、昼間の時の賑やかさからは考えられない程に、静寂に包まれていた。携帯を確認すると、既にニ十分が経過している。戻りにニ十分だと考えると、残りニ十分で木村さんの用事を片付けなければいけない。


「……なんか変だな」


 夜とはいえ、空気が重い。科学的なものじゃなく、人の感情がそうさせている。経験上、夜にこんな空気になっている場合は……なるほど、これは罠だな。 


「はいは~い! 魚が餌に噛みつきましたよって!」


 木の後ろ、茂みの中、周囲のありとあらゆる場所から物騒な男共が姿を現した。全員ジャージに金髪、おまけに手にはバットやら竹刀やら。典型的なヤンキー集団だ。


「ヤンキーアイドルってのは興味がそそられるな。初ライブは刑務所か?」


「今から俺達君をボコるけどさ、悪く思わないでよ~。お金くれる人が悪いんだから~」


「ヤンキーも援助してもらう時代か。ベッドでのご奉仕もさぞ儲かるんだろう?」


「とりあえず骨の五、六本は折れちゃうけど、死なないようにするからさ」


「誰か一人くらいはツッコんでくれよ」


 俺の言葉の意味を勘違いしたヤンキー共は、武器を振り上げながら突っ込んできた。先陣切って来たヤンキーの腹に蹴りを放つと、後ろに並んでいた連中に吹っ飛んでいった。


「ストラーイク!!! 十点獲得!」


 蹴飛ばしたヤンキーの足を脇で挟み、武器として振り回した。人体を武器にして振り回したのは初めてだったが、取り扱いに難があるが、意外と打撃力がある。


 順々にヤンキーを倒していくと、残るヤンキーは一人となった。最後の一人の手には、金属バットが握られている。


「お、お前頭イカれてんのか!? 死にかけてんぞソイツ!?」


「金属バットと人体! どっちが硬いか検証しようぜ!」


「ヒッ!? お、鬼だ! 鬼だぁぁぁ!!!」


 まるで化け物を見たかのような慌てぶりで、ヤンキーは転びながら公園から走り去っていった。武器にしていたヤンキーを地面に放り投げ、改めて俺の周りを見ると、死屍累々となっていた。


「ツッコミが無けりゃボケになんないだろ……」  


 倒れているヤンキーのどれかから着信音が鳴り出した。一人一人ポケットの中を確認していき、ようやく着信音が鳴っている携帯を発見した。着信主の名前を見ると【金ヅル君】と表示されている。多分、俺を襲撃するよう依頼してきた人間だろう。


「毎度お世話になっております~。こちらボコボコ代行、新人の相馬です~」


『……は?』


「今の時代、金さえ払えばどんな依頼でも引き受けてくれるなんて、便利な時代になったな~。金で心は買えないって言われてきたが、その言葉も時代遅れか」


『ふ、ふざけんな! お前、どうやってあの人数を!?』


「一、二、三……たった九人だろ。あ、逃げ出した奴も入れれば十人か」


『ッ!? くそっ!』


「あ? もしもし? もしもーし! 切られちゃったよ……こっちはまだ何も聞けてないってのに」


 自分の携帯を取り出し、木村さんに電話を掛けた。二度目のコール音の後、木村さんの声が聞こえてきた。


『もしもし、相馬君? どうしたの、こんな夜中に?』


「ちょっと確認したくてさ。木村さん、俺にメール送った?」


『メール? ううん、送ってないよ』


「おかしいな。実は今、公園にいるんだけどさ、木村さんからメールを貰ったからなんだ」


『え? ちょ、ちょっと待ってて……本当だ。私、相馬君にメールを……もしかして』


「もしかして?」


『う、ううん! 何でもないです! えっと、その……私、相馬君にちょっぴりイジワルがしたくなって! それで、そのメールを!』


「イジワルって。木村さん、いつの間に悪戯っ子になっちゃって。昼に読んだ小説がそうさせたのか?」


『ア、アハハ……ご、ごめんね! ほんと、ごめん……このお詫びは、必ずしますから! それじゃ!』


 通話が切れた。木村さん、嘘が下手だな。あんなに動揺されたんじゃ、何か隠してますよって教えてるもんだ。


 謎に包まれているが、木村さんが俺を罠に嵌めたわけじゃないと知れてホッとした。木村さんのような真面目な子にも裏があったら、俺は人間不信になってしまう。


「……あ、時間!?」 


 携帯の時刻に目がいくと、タイムリミットまで残り十分を切っていた。俺は全速力で帰路につき、息も絶え絶えになりながらアパートに着いた。


 自分の部屋の扉を開け、食卓に駆け込むと、テーブルには空の食器と、一枚の書き置きがあった。


【時間切れ。明日の朝までお預けです】


 膝から崩れ落ちた。汗まみれになって戻ってきたのに、間に合わなかったどころか、余計腹を空かせる結果になるなんて。


 こうなった原因は、俺を罠に嵌めたアイツだ。俺の晩飯を抜きにした罪、その報いを必ず受けてもらうぞ。

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