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俺に彼女はいつ出来ますか?  作者: 夢乃間
プロローグ
10/99

強行手段

 金田信一から事の経緯を聞いた。俺に仕向けたヤンキー共には予め報酬を払っていたが、あの場から逃げ出した一人が報酬が足りないと金田信一に文句をつけてきた。仕事を全く果たしていないから、金田信一は支払わないと拒否。その対応にキレたヤンキーは、所属している組織に報酬が未払いだと嘘をつき、強行手段に出た。


 ルームミラーから後部座席に座る金田信一の様子を見ると、膝を抱えてすすり泣いていた。自分勝手な奴だ。元はといえば、危ない連中と繋がっていた自分が原因だというのに被害者面。金さえ払えば意のままに操れると思っていたのだろうか。何の旨味も無い子供相手に義理を通す程、連中は優しくない。


 しばらく辺りを走らせていると、水樹から連絡が来た。木村さんを連れ去った車の現在位置を特定したとの事。相変わらず手段は分からないが、心強い。マップに位置を設定し、出てきたルートに従って車を走らせた。


「……いい加減泣き止めよ。もう高校生だろ」 


「……う、うるせぇ……お前の所為で、何もかもおしまいだ……!」


「責任を擦り付けるな。お前が金で人を雇った瞬間から、こうなる運命は決められたんだ」


「俺は、ただ……俺の事を馬鹿にする奴が、許せなかったんだ……!」


「見返す方法を間違えたな。お前は一生、今日という日を忘れられない。目を開けても閉じていても、鮮明に思い出す。自らの罪と罰を背負って、生きていけ」


 殺せるものなら殺したい。だが俺は木村さんと約束した。金田信一を許す、と。こんなクズでも、木村さんにとっては大切な幼馴染だ。家族を失った今、木村さんに残された繋がりはコイツしかいない。


 目的地に辿り着くと、そこは取り壊し途中の廃工場だった。工場の前には木村さんを連れ去った車が停められている。


「お前は車の中で待ってろ。妙な真似をしたら、今度こそ殺すからな」


 俺の問いに、金田信一は顔を歪ませながら激しく頷いた。車から降り、携帯を確認すると、水樹からメールが届いた。内容は【十分後に警察に通報する】との事。十分の間に、木村さんの安全確保と、中に隠れている連中を無力化させる。


 工場内に忍び込み、ベルトコンベアの陰に隠れながら進んでいくと、二階に上がる階段前に見張りが一人突っ立っていた。足元にあった小石を投げて音を鳴らし、その音に釣られて見張りが俺の前を通り過ぎていく。背後から首に腕を回し、一気に絞め上げて気を失わせた。


 二階に上がってすぐにある操作室に、二人いた。割れた正面窓から飛び入り、一人を蹴飛ばし、すかさずもう一人の喉を突いて回し蹴りで気絶させた。蹴飛ばした相手が立ち上がる前に組み付き、両腕を足で抑えた状態で首を絞めて気絶させる。


 奥に進んでいくと、左右それぞれに部屋があった。左側からは多人数の声が聞こえ、右側からは息を荒らした男の声が聞こえてくる。今度は外さない。


 右側の扉を蹴り破ると、豚のようなデブが木村さんの上に圧し掛かっていた。ズボンを下ろしていた分、動くのに手間取っていた隙をつき、顔面を蹴り飛ばした後、ついでに股間を潰した。


「木村さ―――」


 木村さんの安否を確認しようとした矢先、騒ぎを聞きつけた隣の部屋にいた連中が雪崩れ込んできた。最小限の動きで捌きつつ、隙を見て大振りの蹴りや拳を当てて一人ずつ倒していく。


 最後の一人を頭から壁に投げ飛ばすと、部屋の中は静寂に包まれ、血と汗の臭いで充満していた。


「これで全員か? 木村さん、大丈―――」


 木村さんの姿に言葉を失った。顔や首に痣があり、服は強引に破かれ、下腹部は血に塗れている。喉の奥から湧き上がってくる叫びを飲み込み、木村さんの肩を揺さぶった。


「起きて、木村さん。起きるんだ」


「……んぁ……ッ!? 嫌ッ! 嫌ァァァ!!!」


 暴れる木村さんを強く抱きしめ、耳元で何度も「大丈夫」と声を掛け続けた。徐々に大人しくなると、木村さんは俺の背にしがみつき、泣いた。俺は「大丈夫」としか言えなかった。何も、大丈夫じゃないというのに。


 俺の上着を木村さんに着せ、工場から出ると、パトカーのサイレンが近付いてきた。工場に入ってきた複数台のパトカーから警察が降りてくると、この場と工場内に分かれて動き始めた。女性警官に木村さんを預け、ふとここまで乗ってきた車の方を見ると、金田信一も保護されていた。


 ひとまず安堵する俺のもとに、一人の中年警官が俺に近付いてくる。


「またお前か、響」


 澤木金治。何度も顔を合わせてきた警官だ。


「最近の若い奴はネットで悪さするというのに、お前は俺の時代の悪童っぷりだ」


「悪い事をしたつもりはないんですけどね」


「相手が悪党でも、暴力は悪だ……これ何度目の台詞だ?」


「さぁ? 一応、中にいる悪党は―――」


「分かってる分かってる。いつも通り全員ぶっ倒したんだろ。相変わらず無茶な真似を。そんじゃ、いつも通り手を出してください」


「たまには手錠無しでもいいじゃん」


「一般市民が手錠付けずにパトカーに乗れるわけねぇだろうが」


 大人しく両手を差し出すと、痛みを感じる程にキツく手錠を締められた。この感じ、博打で負けてイラついてるな。警官が博打をするなんて、どっちが悪だか。


 パトカーの後部座席に座ると、隣のパトカーで木村さんが事情聴取を受けていた。俺が着せた上着にしがみつきながら、俯いていた。


「響。警官としては、お前の行いは褒められたものじゃない。だが俺個人としては、まぁ……良くやったな」


「……結局、間に合いませんでしたけどね」


「俺だってそうさ」


 金治さんは口に咥えたタバコに火を点けると、パトカーのエンジンを点けた。

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