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俺に彼女はいつ出来ますか?  作者: 夢乃間
プロローグ
1/99

最後の青春舞台

 彼女が出来ない。それが俺の唯一の悩みだ。頭は悪いが体は動く方だし、自分で言うのもなんだが、顔も普通以上の出来栄えだと思っている。コミュニケーション能力だって普通程度にはあるし、過去に知り合った女性は少なくない。

 

 それでも、彼女が出来ない! 告白とかそれっぽいシチュエーションになる前に、何故か! 俺の前から去っていく! 

 

 神の悪戯か、あるいは悪魔の遊戯か。どっちにしろ同じ事だ。一度や二度なら偶然だと呑み込めるが、流石に偶然の範疇を超えた必然になりつつある。友人以上の関係に進めない絶対的な壁が存在しているようだ。


 そうして現在。俺は高校生にまで進んだ。青春と呼ばれる期間は高校生活の三年間。それ以降は青春とは呼べない泥のような時代だ。彼女がいる、いない、ではなく、いたかどうかで泥の深みが低くなる。大人になれば、経験が物を言う。 


 だが、妥協で彼女を作るつもりはない。しっかりと恋愛感情を抱き、誠実なお付き合いを末永く約束してくれる彼女をつくる。その為に、生徒数が全国で上から数えた方が早い高校に入学した。一般枠は毎年激戦らしいが、なんか頑張ったら受かった。


 そして今日。入学式を終えた次の日の今日こそ、運命の初登校だ。仏壇で笑顔を浮かべている家族一同に気合を入れてもらい、胸に熱を宿して家を飛び出した。


「お、今日は来るじゃん」


 アパートの隣の部屋に住んでいる水樹が俺の部屋の前で待ち構えていた。


「おはよう、水樹」


「おはよ。入学式に来なかったから、てっきり不登校になるのかと思ってた」


「昨日は行く途中でトラブルに遭ったんだよ」


「頬の絆創膏からハミ出てる傷の事? 結構大きいじゃん。もっと隠せるのを貼りなよ」


「俺の部屋にある物じゃ、これが一番デカいんだよ」


「ふーん……ちょっと待ってて」


 水樹は自分の部屋に入ると、すぐに戻ってきた。俺の頬に貼っていた絆創膏を剥がし、四角状の絆創膏を新しく貼ってくれた。


「これでも少し足りないけど、さっきよりは傷が隠れてるよ」


「おぉ! ありがとな! 用意が良い!」


「アンタがすぐに傷を作るのは、昔から知ってるからね。ほら、学校行こう」


 彼女は星野水樹。俺が小さい頃から面倒を見てくれる家族の一人娘。同い年だから色々と交流があって、俗に言う幼馴染の関係だ。髪は短髪で、面倒見も良く、昔から運動部に所属しているからスタイルも良い。強いて難点をつけるなら、俺よりも女子にモテる所くらいだ。

 

「そういえば、アンタと私、同じクラスだから。席も隣」


「窓側? 廊下側?」


「窓側。ちなみにアンタが窓の方」


「やった! 授業中に退屈しなくて済む!」


「空を眺めて暇を潰すなんて、私には無理だね。真面目に授業聞いてた方がマシだよ」


「そんでそんで?」


「……はぁ。女の子、でしょ? 学年ごとに推薦と一般に分けられていて、一年はそれぞれ五クラス。どのクラスにも可愛い子はいるけど、うちの二組は特に可愛い子が集まってる」


「よっしゃラッキー!!」


「でも、それに比例してイケメンも多いよ。初日から、もうキャーキャーうるさくってさ」


「くそっ! 出遅れたか……!」  


「いや、なに自分も同じ反応されると思ってるの? アンタはイケメンとは程遠い場所にいるんだよ」


 隣を歩いている水樹に言われると、言葉の重みが凄い。水樹はいつだって、男女問わずに黄色い歓声を浴びてきた人物だった。世が世なら、おそらく玉座に鎮座していただろう。


「なぁ、水樹ってなんで恋人を作らないんだ? お前ほどの実力者が、今まで一人もそういった関係を結んでいないなんてさ」


「なんの実力さ。私は恋人なんか作らない。これまでも、これから先も」


「なんか寂しいな!」


「アンタがいるから寂しくないよ」


「いやぁ、俺をアテにしてたら駄目だろ。明日にはポックリ死んじまってるような人間なんだからさ」 


「……そういう所、嫌いだよ……じゃあさ、約束してよ」


 水樹は俺の前に立ち塞がると、小指を立てて俺に向けてきた。


「今日から危ない真似はしない。身に危険が生じる可能性がある場で、動かない事。それを守れるなら、朝昼晩の三食用意してあげる」


「マジで!? そんなの約束するに―――」


「約束を破ったら、実際に針千本飲んでもらうからね」


「何を念押しに。危ない真似さえしなければいいだけだろ? そんなの簡単さ!」


 俺は水樹と小指を結び、約束した。水樹は俺の事を全く信用していないのか、険しい表情を浮かべていた。


 それにしても、今日は朝からツイてる。朝昼晩の飯の面倒を見てくれる事になるだなんてさ。飯代はあれど、俺は自炊なんて出来ないし、かといって弁当暮らしはすぐに飽きが来る。水樹は水樹の母親に似て、料理の腕が良いから、飽きる事は無いだろう。

 

 登校を再開し、しばらく歩いていくと、目的地である学校に辿り着いた。小学校や中学の正門とは比較にならない大きな門を通ると、広い敷地に様々な建物や広場があり、それらを埋め尽くす勢いの生徒の数。元は遊園地だったと言われても信じてしまう程に広大だ。

 

「ここが今日から俺が通う学校。俺の、最後の青春舞台だ」


 俺の青春は、残り三年。

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