小話39 妹の読み聞かせ(美鈴小学6年)
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
「反撃スキル『池になんでも落としてんじゃねーよっ!』が発動っ」
「えっと…回避スキル『舞踏会からの逃走』を発動っ!」
「シンデレラの舞踏会のカードから、回避スキル『舞踏会からの逃走』発動っ!池の女神の攻撃が回避されたっ!」
「ついげきーっ。こうげきスキル『まさかりアタック』発動っ!」
「追撃、金太郎のアイテムカードから攻撃スキル『マサカリアタック』発動っ!!池の女神に1900のダメージっ!!残り3042っ!」
「さらについげきーっ。こうげきスキル『おばあさんにあげるワイン』はつどうっ!きょうりょくたいしょう、マッチうりのしょうじょっ!」
「あかずきんときょうりょくっ!こうげきスキル『うれのこったマッチ』はつどうっ!」
「赤ずきんちゃんのアイテムカードから攻撃スキル『お祖母さんにあげるワイン』発動っ!協力対象にマッチ売りの少女を選択っ!マッチ売りの少女が協力許可っ!マッチ売りの少女のアイテムカードから攻撃スキル『売れ残ったマッチ』を発動っ!協力技発動っ!強力スキル『強力火炎瓶』の攻撃っ!池の女神に3000のダメージっ!」
「あと一押しだよっ!蓮、蘭、燐っ!」
『おっけーっ!』
「池の女神、最終スキル『女神の怒り』が発動っ!この攻撃は圧倒的な攻撃力を持った超ド級の技です。発動まで3分あります。その間に4万の攻撃を耐えれるように防御スキルの重ねがけをしましょう。よーいスタートっ!」
美鈴が砂時計をひっくり返した。
下の弟達はカードボックスをひっくり返して必死に防御スキルのあるカードを集めている。
でもなぁ…。
ざっとカードを見る限りだとこいつら皆攻撃スキルのカードばっかり集めている。
まぁ唯一やりこんでいる旭と、防御スキル中心に集めている蘭はどうにかなりそうだが…。蓮と燐は駄目だな。
暫く様子を見ていると、案の定蓮と燐は即行でやられて。
防御スキルを何とか集めていた旭と蘭もギリギリの所で守り切れず、ゲームオーバーとなってしまった。
「…ねぇ、鴇兄さん」
「うん?どうした、葵」
「今日僕達三人揃ってるし、ちょっと僕達もやってみない?」
棗が悪戯に誘うかのように俺に言ってくる。
下の弟達は美鈴にこうしたら駄目だ、この手は良かったなどレクチャーを受けていて。
それを眺めていたら、確かに今日ならやってみてもいいかもなと思う。
俺は椅子から立ち上がり、そっと蘭の後ろからカードを一枚とってそのカードをマジマジと見る。
色々細かいスキルが書かれているが…ふむ。
「美鈴」
「?、なぁに?鴇お兄ちゃん」
「たまには俺達にもやらせろよ。このゲーム」
「いいけど…え?俺達って事は、葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんもやるの?」
「うん」
「いいかな?」
「あの…お兄ちゃん達?本気?」
俺達三人は揃って頷いた。
「うぅー…分かった。ただし、ルールは変更するよっ。お兄ちゃん達は旭達と違って単純な読み聞かせで満足してくれなさそうだしっ」
「分かった。で?どうするんだ?」
「取りあえず、シナリオを決めよう。メインシナリオは何にするの?」
美鈴が小首を傾げる。
この読み聞かせってのを最後まで見た事はないが、多分、全てをクリアする条件は、
『ストーリーをストーリー通りに終わらせること』
だと思われる。
そのストーリーにそわないようにする為に、美鈴は合っているようで合っていないアイテムカードや役職カードを与えているんだろう。
となるとメインシナリオは…アイテムを必要としない、もしくはアイテムを上手く活用出来るストーリーにする必要があるな。
…それを考えると…。
俺は旭達が持って来ていた絵本の山を横目で軽く確認する。
…『シンデレラ』『白雪姫』『かちかち山』『青い鳥』……あぁ、いいの見つけた。
「メインシナリオはこれだ。『うさぎとかめ』」
「うっ…」
怯んだ美鈴を見る限り、俺の選択は間違ってないようだ。
「鴇兄さん、サブシナリオどうする?」
サブシナリオ、か。
双子の話を聞く限り、メインシナリオに付属させるストーリーを選ぶとそのストーリーの登場人物が出て来て、色々仕掛けてくるらしい。
なら、サブシナリオは選択しないのが良いだろう。
「サブシナリオは無し、だな」
「うぅっ…」
更に怯んだ美鈴を見るとこの選択も間違いではないんだな。
「と、鴇お兄ちゃん。……本気すぎない?」
「やるからには本気で、だろ?」
「ふみぃ…」
美鈴がしょんぼりしている。
…が、何か美鈴の中のプライドが刺激されたのか、エプロンのポケットの中を確認して、俺をじとっと睨んできた。
闘争心丸出し。
いいな。面白くなりそうだ。
「メインシナリオが『うさぎとかめ』だったね。じゃあ、えっと…役職カードを配るね」
「あぁ」
「何の役職がくるんだろう?」
「わくわくするな。旭達もこんな気持ちだったのかな?」
葵と棗が期待しながら美鈴のくれるカードを心待ちにしている。
すると俺達の対決が気になるのか、旭が美鈴の横、蓮が俺の、蘭は葵の、燐が棗の横に座った。
美鈴が俺達に一枚ずつ役職カードを配った。
俺のは…『桃太郎』の役職カードだな。
そういや、俺が初めて美鈴の読み聞かせを聞いたのは桃太郎だったな。
あの時は桃太郎が出てくるまで物凄い時間を要したが…。まぁ、あの時はプレイヤーが旭だったからって事もあるが。
じっと受け取ったカードを見る。
【役職カード:桃太郎
タイプ:攻撃特化型
プレイヤー修得可能スキル:
攻撃スキル『技名:桃刀乱斬 概要:刀で乱れ打ち攻撃を仕掛ける。 効果:プレイヤーの攻撃力×5の攻撃力』
防御スキル『技名:桃の加護 概要:生まれた時に体を守っていた桃が現れて体を囲う籠になる。 効果:500以下のダメージを無効化』
レベル:1
体力:100
精神力:20
攻撃力:18
防御力:2
行動力:10
特殊スキル:呪い無効化
キャラクター説明:桃から産まれた未知なる生命体。聖木である桃の能力を持ち、魔を払う力がある。童話『桃太郎』の主人公である割に登場するまでのくだりの方が面白い。】
……桃太郎の絵が滅茶苦茶上手く、少女漫画に出てくるようなイケメン風なのはこの際置いておく。
そんな事より、桃太郎の防御力だろっ!
2ってペラ過ぎるっ!
そしてもう一枚カードが渡された。
これはプレーヤーカードだな。
【プレーヤーカード:鴇お兄ちゃん
タイプ:オールマイティ型(……ちょっとくらい隙があっても良いと思うの…)
レベル:1
体力:500
精神力:200
攻撃力:150
防御力:300
行動力:20
特殊スキル:なし
修得スキル:未取得】
おい、美鈴。特殊スキルなしってなんだ…?
これは俺だけなのか?それとも…。
気になって隣にいる葵のカードを見ようとしたら、何故か蘭が遮った。
「蘭?」
「みちゃダメー。プレイヤーカードとやくしょくカードはみちゃだめなのー。おはなしをきいてるあいだに『しる』のはいいけど、みるのはルールいはんなのー」
成程。会話から情報を得る分には良いが見たら駄目なのか。
「会話は制限されないから、情報共有はしても良いけど、カードをまんま見るのは駄目なの。勉強にならないから」
「勉強?」
「そう。お兄ちゃん達はもう必要のない事だけどね。掛け算とか暗算、漢字や日本語の読み書き、あとは歴史だったり理科だったり英語もだけど、ちょこっとずつ難しいのを増やしてるんだ」
「……美鈴。お前な…」
「読み聞かせってのは本来そう言う意味でしょ?」
ふふふっと笑う美鈴に俺達は呆れてしまう。
確かに普通の小学一年や園児はこのレベルの漢字を読んだり、桁の多い計算や掛け算割り算は出来ないだろう。
いつの間にか美鈴に教育されていたって事か?
ふと隣に座る蓮に視線を送ると、にこにこと笑っている。
こいつらの末が少し恐ろしくなってきた。
……今日から勉強する内容をもう少し増やすか…。
美鈴が来てから正直休みなく勉強をし続けている気がする。…まぁ、兄のプライドとしてもやめるつもりはないがな。
「葵、棗。お前らの役職とプレイヤータイプは?」
「僕は防御特化の浦島太郎。プレイヤータイプはファイター型。役職カードの攻撃力がびっくりするくらい弱いよ。攻撃力3だって」
「浦島太郎は確かにストーリーを考えると、移動や防御特化っぽいもんな」
「うん。でもプレイヤー能力で多少のカバーは出来そう」
「成程な。棗はどうなんだ?」
「僕は回復特化の金太郎だね。プレイヤータイプもどうやらアシスタント型で癒し系のタイプみたい。プレイヤーカードの精神力の能力値が半端なく高い。380ある」
…成程。これは…分かりやすいな。
このカードを見せたら駄目な理由が分かった。
役職のカードとかは見ても別段問題はないんだろう。
きっと美鈴はこのプレイヤーカードを見られたくないんだな。
何故なら、美鈴が…例えば俺のカードなら俺をどう思っているかが有体に分かってしまうからだ。
美鈴は俺をオールマイティタイプ、何でも出来ると思ってるんだな。同じように葵は率先してた戦うような強い人間だと、棗は癒し系の人間だと思ってる訳だ。
そう気付くとこのカードも可愛いものだと思えてくる。
ついつい口を隠して笑ってしまうと、それに気付いた美鈴が顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。
久しぶりに無性に美鈴の頭を撫で回したくなる。
その衝動をぐっと堪え、美鈴を見ると美鈴は自分の前にも一枚のカードを置いた。
美鈴が書いているカードだ。内容はもう頭の中に入っているんだろう。
カードを見る事なく、もう一枚のカードを取り出した。
という事は一つはプレイヤーカードでもう一枚が役職カードって事だな。
「あと、メインシナリオが『うさぎとかめ』だから、グループカードも渡すね」
言って俺達三人の真ん中にくるように、亀の絵が描かれたカードが置かれた。……蛇が巻き付いている亀。…これ、四神の玄武だろう…。
絵が上手いなとかそう言うレベルじゃない。
「私の前にもグループカード」
『うさぎとかめ』の話上、亀が主役だから、美鈴の前に置かれるのは兎のカード。……うん?ウサギのぬいぐるみがすっごいホラーチックなんだが…。腕と口に粗い縫い目があり、片腕はとれかけていて目のボタンは片方が外れて落ちている。洋館風のお化け屋敷に置いて居そうなウサギのぬいぐるみだ。
「さ、始めましょうか。あ、そうそう。お兄ちゃん達。三対一なんだから、一つだけハンデ貰うからねっ」
そう言ってもう一枚カードを目の前に置いた。
「あんまり使いたくないカードだけど…。ううん。使わないようにするんだからっ!」
美鈴がグッと両手を拳にして覚悟を決める。
「では、うさぎとかめ、始まり始まり~っ♪てってれてれー♪ある所にテンションあげあげなチャラい兎さんと立派な会社員の亀さんがおりました。亀さんはそろそろストレスが胃に溜まり、休憩を取ろうと思ってベンチに座って日光浴をしていました。そんな時、女づれのチャラい兎さんが通りかかりました。「え?ちょ、おま、何休んでんの?」「え?」「亀がここで休んでたら、俺遊べねーじゃん。マジちょっと真面目に働いてくんね?」「はぁ?てめぇ何言ってんの?」「はぁ?お前こそ何言ってんの?亀の癖に口答えしてんじゃねぇよ」「さっきから亀亀ってうっせーんだよ。って言うかてめぇが仕事しろよ。馬鹿な種ウサギがサボってる所為でこっちまで仕事が回って来てんだっての」「てめぇ、調子こいてんじゃねーぞっ」「調子こいてんのはてめぇだろうがっ!」「あぁっ!?なんだとっ!?」「なんだよっ!?」『そこまで言うんなら勝負だっ!!』争いが勃発っ!!」
……うさぎとかめ。…現代社会版?
「勝負方法は山の頂上にどちらが早く到達するかで決める事になりました」
あ、そうでもなかったな。
「かめがダンジョンに入りましたっ!ててててってーっ♪ミッション『うさぎを追い越せっ!』開始っ!!」
美鈴がポケットからサイコロ六個を取り出した。一個ずつ俺達に渡し、三つは自分の手に残す。
「全員の出した目の合計が私の出した目の合計より高ければ追い付けます」
サイコロか。昔から悪い目が出た事ないんだよな。
受け取ったサイコロを振る。予想通り6が出る。
葵が5、棗が6を出す。
「ふみっ!?勝てる気がしないっ!?」
だろうな。これに勝つにはサイコロ全て6を出すしかないからな。
笑って美鈴がサイコロを振るのを待つと、出た目は4、4、4とぞろ目。
「まさかの4が三つっ!?どうせ負けるなら1が三つとかの方が良かったっ!」
「ははっ。鈴ちゃん。ある意味奇跡っ!」
「確かにっ!あははっ」
「うむむーっ。えーっと…。ミッションクリアっ!亀がウサギに追い付いたっ!戦闘開始っ!」
戦闘、か。
旭達と違ってアイテムを手に入れてないから、役職カードだけで戦う必要があるな。
「じゃあ、僕が先手。浦島太郎の防御スキル『亀ジェット』を発動。味方全体の回避能力の底上げ」
「なら、僕も行こうかな。金太郎の回復スキル『癒しの手』で時間経過で味方の体力を徐々に回復」
「鉄壁だな。なら、俺は桃太郎の攻撃スキル『桃刀乱斬』を発動」
「ふみぃーっ!?フルボッコーっ!?なら、こっちは、かぐや姫の攻撃スキル『竹鉈乱投』発動で鴇お兄ちゃんの攻撃を受け流しつつ、逃走スキル『月からの使者』を発動」
「逃走?ずるくないか?美鈴」
「ずるくないよっ!それに、ちゃんとサイコロ振るよ。旭達の場合は逃走スキルを使う時は旭達がやばそうな時だけだったけど、今は相手が鴇お兄ちゃん達だし、ちゃんと公平にする。サイコロの目が奇数なら逃走成功。偶数なら逃走失敗。えいっ」
サイコロが転がり、目は…1だ。
「やったっ!逃走成功っ!うさぎは走る。全力で走り、距離が開きました。山の中腹まで逃走」
「……う~ん。このままだと多分、うさぎはストーリー通りの休憩はしないでゴールされちゃうよね。…もう少し疲れさせて追い付かないと…。だとしたら、浦島太郎の特殊スキルを発動。『亀ジェット移動型』で味方全体の移動力を加速させる」
「ふにゃーっ!?追い付いてきたーっ!?戦闘開始ですっ!」
ちゃんと対応はするんだな。
「じゃあ、さっきと同じく」
「させないもんっ!防御スキル『五人の僕』発動っ!」
「え?」
五枚のカードが出される。
あぁ、そうか。『かぐや姫』にはかぐや姫に求婚する五人の男がいたな。石作皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂、だったか?
っと待てよ。そうすると敵が一人から五人に増えたのか。
これは、きついな…。
こっちはレベル1な訳だし。
カードの絵が百人一首っぽいのはまぁ置いておくとして。
さて、どうするか?
「ねぇ、お姉ちゃん」
「うん?なぁに?旭」
「どうして、アイテムカードを使わないのー?」
「あぁ、それはだって、鴇お兄ちゃん達まだアイテムゲットしてないもの。だから私も使わないの。勝負は対等に、でしょう?」
「ふぅん。そうなんだー」
ちゃんと真っ向から勝負するって事か。確かにそれがゲームをやるものとしての礼儀だよな。
「でも今の内に逃走しちゃうよー。逃走スキル『月からの使者』を発動。えいっ」
俺達が考えている間に美鈴がサイコロを振って、5を出して逃走に成功した。
「あぁー…そっか。なるほど。浦島太郎の特殊スキル『愛用の釣り竿』を発動準備」
「ぎくっ」
「あ、なる程ね。そう言う事か。じゃあ、僕は金太郎の攻撃スキル『まさかりアタック』で攻撃。追加効果で『恐怖』の発動。敵全体へ状態異常攻撃」
「ぎくぎくっ」
「蓮、状態異常の『恐怖』ってのは?」
「てきのこうどうりょくをはんぶんにするよっ」
敵の行動力を半減。要するに回避能力や命中率、移動速度が下がるのか。成程。
「『愛用の釣り竿』発動。『石作皇子』から『仏の御石の鉢』を盗む」
「ぶみゃーっ!アイテム盗られたーっ!」
あぁ、本来は倒した時に入手出来るはずのアイテムを盗んでしまったのか。棗の放った状態異常効果でサイコロを振る必要もなくなって確実にスキルが成功するようになってるし。となると、相手の武器がなくなるから…。
「なら、俺がここで『桃刀乱斬』を発動しとくか」
「あぁっ!?た、倒された…。パターンが見破られた…ふみぃ…」
後は流れ作業だな。アイテムを盗み取って、弱体化した所を俺が止めを刺す。
葵がアイテムを五つゲットして、棗の能力で加速して、うさぎに追い付く。
間にミッションで迷路も渡されたが、制限時間の半分も使わずにクリア。
経験値も結構たまって、プレイヤーレベルが揃って15、役職レベルが57まで跳ね上がった。
「うぅー。最後の戦闘です。これが終われば、クリアですっ。では戦闘開始っ!」
「先手必勝で行くか。『桃刀乱斬』発動」
「防御スキル『巨大な竹』発動っ!攻撃をガードっ!反撃っ!反撃スキル『結婚したくないって言ってるでしょっ!』を発動っ!敵単体に『沈黙』の状態異常発動。暫く行動不能になりますっ!サイコロを振って1、2が出たら成功っ!えいっ!」
……3か。失敗だな。
「追い打ちをかけようかな。攻撃スキル『まさかりアタック』で攻撃」
「うわぁんっ。防御スキル『巨大な竹』で防御っ!って言っても攻撃スキルの方が強すぎて、竹破壊ーっ!?やばいーっ!こ、こうなったら、奥の手だもんっ!召喚スキル発動っ!」
「召喚スキル?」
美鈴がひそひそと旭に何やら耳打ちをすると、旭は大きく頷いて駆けだしていった。
「鈴ちゃん、召喚スキルって?」
俺も概要を聞きたくて頷きかけて…。
……何か嫌な予感がする。
「おい、葵、棗っ。早期決着つけるぞっ。嫌な予感がするっ」
盛大な隠し玉な気がする。
今この時を逃すと勝てない気がしてならない。
そんな俺の予想は的中した。
リビングのドアが開き、
「あら?本当に懐かしいのをやってるのね」
佳織母さんが懐かしいものを見る目とは到底思えない獰猛な瞳でこっちを見ていた。
旭に手を引っ張られるまま、佳織母さんは美鈴の横に座って、今の現状をちらりと確認する。
「美鈴が召喚スキルを使うなんてよっぽどよね。…うふふ。じゃあ、行きましょうか」
「はい。ママ。ママ専用のカード」
「ありがと…って、美鈴。あなた良く私のレベル覚えてたわね」
「…一度も勝ててないからねっ!」
美鈴にとっては余程不本意な状況なのだろう。
かと言って負けたくもなかった。そう言う事か?
「では、早速。攻撃スキル『桃太郎に剣術を教えたのは私よっ!!』発動っ!!」
「はっ!?」
「役職カード、桃太郎のお祖母さんの攻撃スキル『桃太郎に剣術を教えたのは私よっ!!』発動っ!!桃太郎に精神ダメージ300のダメージっ!」
ちょっ、嘘だろっ!?
精神攻撃ってズルいだろっ!これで技が出せなくなったっ!精神力ってのは要するにMPの事だ。
折角温存してたのに。
っと駄目だ、反撃しなければ。だが、精神力がプレイヤーも役職からもなくなってしまった。
「考え込んでる時間はないわよ?攻撃スキル『きびだんご乱舞っ!!』発動っ!!」
「攻撃スキル『きびだんご乱舞っ!』発動っ!!きびだんごの乱れ打ち攻撃っ!全体に400のダメージっ!!」
「おいおいちょっと待てっ!?なんだ、その桁違いな強さはっ!?」
「鴇兄さん、助けるよっ!アイテム使用っ!防御スキル『火鼠の裘』を発動っ!!」
「防御スキル『火鼠の裘』発動っ!!火を纏い、防御力アップっ!」
「僕も加勢するよっ!金太郎の特殊スキル『熊ターボ』発動っ!!」
「金太郎の特殊スキル『熊ターボ』発動っ!!熊にまーたがり、おーうまのけいこー♪行動力アップっ!!」
「うふふ。無駄よ、無駄無駄。攻撃スキル『誰に逆らってるのっ!?』発動っ!」
「攻撃スキル『誰に逆らってるのっ!?』が発動っ!!防御力無視の貫通攻撃。サイコロを振って1が出たら、自分のHPが1になる代わりに敵全体に5000のダメージっ!」
「5000っ!?即死じゃねーかっ!!」
「そうよ~。そのかわり、サイコロは20面あるサイコロを使うのよ」
確率としては20分の1。
確かに大博打だ。
俺達は美鈴が出したサイコロを佳織母さんが振るのを見守っていた。
そして、出た目は……まさかの『1』だった。
「攻撃成功っ!!全体に5000のダメージっ!!かめは倒されたっ!!ゲームオーバー…てれてれてん♪」
「…美鈴。お前の言ってたハンデカードって佳織母さんの事か?」
「うん、そう。このゲームで一番最強なのはママが持ってる、ママのプレイヤーカードなの」
だから佳織母さんを呼んだのか。確かに召喚だな。
しかし佳織母さんのプレイヤーカードか…。気になる。
「…そのカード見てもいいか?」
「駄目よ。プレイヤーカードは見せちゃダメってルールがあるでしょう?」
「だが、美鈴は見てるだろ?」
「それは美鈴がゲームマスターだからよ。ゲームの進行上仕方ないもの」
「でも、佳織母さん。こんな圧倒的に倒されたんだから、せめてレベルくらいは知りたいよ?」
「うん。僕もそう思う」
「お兄ちゃん達、ママのレベルはね?∞なの」
「……………は?」
「私も小さい時からレベルを上げて上げまくって挑んでるんだけど全然敵わないのっ!この読み聞かせを考えたのはママだから。流石というか何というか…小説家の想像力には全くもって敵わなくて…」
……。
沈黙が過る。
「そう言われると…」
「うん。勝ちたくなるよね…」
双子がぼそりと呟く。
「…全員で挑めばいけるかなっ?」
「お姉ちゃん、こんどは僕たちもっ!!」
弟妹の闘争心に火が付いた。そして、その火は…。
「それ、いいな。子供全員で挑んでみようぜ。美鈴。お前の持ってるカードを全部出せ。どうせ、今旭達が持ってるカードは昔お前が手に入れたカードなんだろう?全てを駆使して勝つぞっ。佳織母さんにっ!」
『おーっ!!』
当然俺にも点火された。
「ふふふっ。かかってらっしゃいっ!!」
俺達は全員でラスボス…いや、佳織母さんに勝負を挑んだ。
なんだかんだで何度も何度もゲームオーバーになり、何とか、何とか辛うじて勝ったのは、夜が更けて親父が帰宅した時だった…。
読み聞かせなんですってばー!
白鳥家一家の団欒風景でした。




