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昨日は大変でした。
事件の後片付けでママ達は引っ張り凧状態で。
私達子供は、帰る様に言われたんだけど、この状況で子供だけ帰宅?しかも、家が狙われる可能性もあるよね?
だけど大人達は後片付けがある。
結果、皆で白鳥家に帰宅する事になりました。護衛の代わりに金山さんと、樹先輩の執事で尚且つ金山さんの長年のライバルである銀川さんがついてくれて。
客室を全て解放して、お風呂も準備して、疲れMAXな私達は直ぐに眠りに着いた。
で、爆睡した私は今こうして棗お兄ちゃんの横で二度寝しようかどうしようか考えてる最中であります。
棗お兄ちゃんも爆睡中で起こすのも躊躇ってしまう。
ふみ~…どうしようかな。
でも、朝ご飯、皆食べたいよね?うん。ご飯の準備しよう。
起こさないようにそっと抜け出し、部屋に戻って手早く着替えて、洗面所へ行き身だしなみを整えてリビングに入る。
キッチンへ行って材料を覗く。
そう言えば大晦日に皆で作ったお餅があったな。うん。お雑煮にしようっ!ちょっと邪道かもだけど具を一杯いれて。
私はお汁粉にしようかな。
鍋を二つ用意してテキパキと準備を進める。あぁ、そうだ。洗濯機も回さなきゃ。
材料を切って、鍋に水を入れて下準備を終えたら、洗面所へ走り洗濯機を回す。
そのままキッチンへ戻って料理を続ける。
後はお餅を入れるだけの状態になると、リビングのドアが開けられて、そこには樹先輩が立っていた。
「先輩、部屋が冷えるので閉めてください」
キッチンから言うと、私の姿に一瞬驚きながらもドアを閉めてキッチンの向かい、カウンター席からこちらを覗き込んでいった。
「何してるんだ?」
「朝ご飯の準備ですが?」
「お前がか?」
「そうですよ?私がこの家の家事を全てやってます」
ちょっと、その嘘だろって顔はどういう意味?
そんな事も出来なさそうに見える訳?…いや、違うか。小学生がここまで料理出来るって普通思わないよね。
いけないいけない。つい自分が小学生だって事を忘れそうになる。
……ここまで来たら今更か。
「樹先輩はお雑煮とお汁粉どっちがいいですか?」
「甘い物は苦手だ」
「あ、じゃあお雑煮にしますね」
お餅何個あれば足りるかな~…。これだと別に煮込んでお餅を用意してた方がいいかもしれない。
私はつい面倒で鍋に突っ込んじゃうんだけど。食べ盛り男子が一杯いるし、それじゃあ足りないかもしれないし。
決まったら即実行。切った伸し餅を茹でる準備をしていると、
「料理も出来る…家事も万能…白鳥の跡取り…綺麗で可愛い…ライバルが大勢…なんだ、このハードルの高さ…」
何かぶつぶつ呟いてるけど、ほとんど聞き取れなかった。
暫くして猪塚先輩、棗お兄ちゃん、葵お兄ちゃん、優兎くん、鴇お兄ちゃんの順で起きてきた。
優兎くん以外皆お雑煮を希望して、私は大きめの木の器に盛りつけて運ぼうとした。すると、
「この金山にお任せをっ!」
「私銀川も運びましょうぞっ!」
突然現れて二人が運んでくれた。
折角なので、ソファを少し動かして、ラグの上に大きな机を用意して皆で座って食べる事にした。
金山さんと銀川さんの分は椅子のある机の方へ運んでおく。二人共お汁粉を希望した。…仲良いんじゃね?
箸も用意して、頂きますと食べる事にする。
「…んっ…むぐむぐっ…美味しいっ!美味しいよ、白鳥さんっ」
「えへへ、良かったぁ。お代わりもあるから一杯食べて下さいね、猪塚先輩」
「お汁粉も美味しいよ、美鈴ちゃん」
「ちょっと甘み足りないかなって感じだけどね。優兎くんが気に入ってくれてるならいっか」
「鈴。お雑煮食べたらお汁粉も食べたいな」
「あ、僕もっ。鈴ちゃん僕の分もっ」
「うんっ。分かったっ。お餅まだあるから作れるよっ」
「…凄いな。素人でしかも小学生でこの味…」
「ふふっ。樹先輩。美味しいですか?」
「お前、そのどや顔止めろ」
「ふふふふふ」
「………美鈴。お前のお汁粉、餅が一つも入ってないように見えるが?」
「そ、ソンナコトナイヨー。鴇オ兄チャン」
樹先輩にどや顔してる所を鴇お兄ちゃんに釘を刺されたりとわいわい騒ぎながら食事をしていると、突然玄関の方から音がして話し声が近寄ってきた。
リビングのドアが開き、ママと誠パパ、お祖母ちゃん達がただいまと入って来る。
四人共げんなりと疲れた顔をしていた。
「お帰りー。お雑煮食べる?それともお汁粉?」
立ち上がりキッチンへ向かいながら聞くと、
「お雑煮貰えるかい?」
「私はお汁粉がいいねぇ」
「あぁ、じゃあ私もお汁粉で」
「ブレンドでっ!」
と返ってきた。誠パパはお雑煮、お祖母ちゃん達はお汁粉。んで最後ママがブレンド。…ってブレンドって何っ!?
「ブレンドでっ!」
もう一度きつく言われたので仕方なくママにだけお雑煮とお汁粉をブレンドした。うん。多分不味いよ。
お兄ちゃん達のお代わり分を作り、もう一度席に戻る。
「美鈴、このブレンド不味いわー。ないわー」
「でしょうねっ!ブレンドさせないでよっ!!」
このやりとりに皆が呆気にとられる。何故か誠パパだけが肩を震わせ笑っていたけど。
皆食事を終え一段落した所で昨日の話の顛末を聞いた。
ママ達は記者会見会場で、突如ナイフを持って乱入してきたお祖父ちゃんに咄嗟にマイクを投げて応戦。驚いたお祖父ちゃんにママが突進。お祖父ちゃんの両肩の骨を外し事なきを得たそうだ。
その後誠パパ達と連携を取りテロリストを全て捕獲。ママに殴られて意識をいまだ取り戻さないのが数名。
事件は記者会見場で起きた為、日本国内所か世界中に報道されたものの、白鳥財閥の見事な手腕により全員が無事だったと良い様に情報は塗り替えられたという。日本指折りのお金持ちが揃った会場だとそうなるよね。皆金に物を言わせたかな。黒いわー。大人の世界は黒いわー。
まぁとにかく、お祖父ちゃんの件としては離婚は成立していた訳だし、今も昔も白鳥財閥総帥はお祖母ちゃんな訳だから、他人であるお祖父ちゃんが今更どうあがこうが無駄って事ね。
あ、因みにお祖父ちゃんと伯母さん達は揃って逮捕。だって当然でしょう。爆破テロ起こしたんだから。それで逮捕されないって思ってた方が驚き。お祖父ちゃん、牢屋の中でじっくり自分の事を振り返って反省するんだよー。
ママにもう少し詳しく聞きたい所だけど、特に乙女ゲームのイベントに関して聞きたい所だけど、それは後にする。
朝ご飯も食べ終わり、デザートであるレモンムースを食べて皆で流れている昨日の事件のニュースを見ていると、突然お祖母ちゃんに名前を呼ばれた。
「ねぇ、美鈴?」
「なぁに?お祖母ちゃん?」
「私は、樹君がいいと思うわ」
「………は?」
突拍子もない、って言うレベルじゃない。お祖母ちゃん、意味わからない。
「私は、是非優兎を押すわっ!美鈴ちゃんと一緒になってくれたら嬉しいものっ!」
「ん?」
美智恵さん、いきなり何の話なの?
「私は、猪塚くんも有りだと思うわよ、美鈴」
「いや、だから…」
一体何の話なのママ。
「私は、私の息子の誰かであればいいと思うよ」
「あのね」
誠パパも参戦してるけど何の話なのよっ!私を置いていかないでっ!
四人でぎゃのぎゃの騒ぎ出したけど、だから一体何なのっ!?
すーっと助けを求めるように視線をやると、何故か皆一斉に視線を逸らした。なんでじゃっ!
でも、樹先輩だけがニヤニヤとこっちを見ている。これはこれで何か嫌。
「もう、皆して何なのよ」
「簡単な話だろ。お前の婚約者は誰にするかって話だ」
「……………………は?」
こん、やく、しゃ?
おーう…脳が上手く働かないのー。
こんやくしゃ。コンヤクシャって何だったかしらー?
まさか、『婚約者』とか言わないよねー?
「俺としては美鈴が婚約者になるなら喜んで婚約するぞ?」
「あ、僕も僕もっ!願ってもない事だよ」
「僕は…美鈴ちゃんが幸せになれるなら誰でもいいと思う。でも、僕を選んでくれるなら僕頑張るよ?」
三者三様。傲慢な樹先輩に紳士的な猪塚先輩に柔和な優兎くん。言い方は皆違えど内容は一緒だ。
皆婚約に好意的だ。むしろ好意的過ぎる。ちょっと何でっっ!?
いやいやいや、駄目でしょうっ!!
「ちょっと三人共っ!そんなあっさり今後の人生定めていいのっ!?」
驚きながらも、迫られたら嫌だから鴇お兄ちゃんの背後に隠れつつ訴えてみると、何か問題でも?とキョトン顔された。
うおーいっ!若人達よ、早まるでないっ!
ヒロイン補正が入ってるからって、中身おばさんだから、おばさんだからーっ!!
………なんか自分で連呼し過ぎて凹んできた…。
膝抱えちゃうぞ…落ち込んじゃうぞ…。
部屋の片隅に移動して暗くなっちゃうぞ…。
「鈴、鈴、帰っておいでっ」
「そうだよ、鈴ちゃんっ。大丈夫だからっ」
ふらふらとキッチンの収納棚に消えそうになった私を双子のお兄ちゃんが必死に止める。
「ほら、親父たちもそこまでにしとけ。男が苦手な美鈴に婚約者とか考えさせんなよ。可哀想だろ。それとな。今回の祖父さんの事件だってその婚約者って縛りがあったからって捉える事も出来るんだからな。そこちゃんと踏まえとけって」
「そうそう。鈴ちゃんが可哀想だよ。ほら、鈴ちゃんこっちおいで」
「鈴。大丈夫。僕達が鈴に変な虫をつけさせたりしないから」
お兄ちゃん達がキッチンに消えかけた私に苦笑しながら手招きする。
うぅぅ…優しい…。
「鴇お兄ちゃん、葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん…」
お兄ちゃん達が何?と優しく微笑む。うぅぅーっ!
「お兄ちゃん達大好きっ!」
近くにいた葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんにまとめて抱き着き、ぎゅっと腕に力を入れる。すると頭を撫でられたので微笑んでから離れると鴇お兄ちゃんにも駆け寄ってぎゅっと抱き着く。
「……なんかムカつく」
「時間の差、かな?」
「うぅ…白鳥さん…」
何かお兄ちゃん達以外が呟いてるけど私には届かない。
ママ達もどうしようもないって顔で笑ってる。…でもね、ママ。これ言いだしたのママ達だからね。
どうしようもないって言いたいのはこっちだから。
何か釈然としないながらも、席に戻ろうとしたら丁度良く、先輩達のお迎えが到着した。
双子のお兄ちゃんと一緒に玄関へ行き、猪塚先輩が一足先に帰ったのを見送り、樹先輩を見送ろうと外へ出たら運転手さんと話していた樹先輩がこっちに歩いてきた。
「美鈴、手出せ」
何故突然、手?
怖いんだけど…?
恐る恐る手を出すと、そこには小さなリングのついたネックレスが乗せられた。
「えーっと、…これは?」
「やる」
「え、いら」
「いらないとか言うなよ。本当なら俺が自らつけてやりたいが、お前は嫌だろうから渡すだけで済ませてるんだ」
ちょいちょい。それを世間は押し付けるって言うんだよー、樹先輩。
「じゃあな、美鈴。また学校で」
―――チュッ。
「ふみっ!?」
頬にかすめるようなキスを残し、樹先輩は颯爽と去っていった。
驚きやらなにやらで固まった私の頬を葵お兄ちゃんがハンカチでゴシゴシと拭いてくるのが地味に痛い。
……樹先輩。知っててやってますね?
装飾品を贈る意味。それは『貴方を縛りたい』って意味があるって事。
うぅ…これってそういう意味ですか?そうなんですか?
断固として断れば良かった…。
玄関からリビングに戻ると、私達とは別の意味で空気が凍っている。
「え?なに?どうしたの?」
私と双子のお兄ちゃん達が問いかけると、一人凍っていないママが何でもない風に手を振って笑った。
「いいのよ、気にしなくてー。ただ、また子供が出来ちゃったかもって伝えただけだから」
……それはケロッと言う事ですか、ママ。
私達子供組は盛大に溜息をついて、今後を憂うのであった。
汁粉と雑煮。ブレンドはちゃんと味見をしながらやればもしかしたら美味しくなる…かもしれない。




