表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/170

※※※

「で?どこのどいつだ?美鈴ちゃんの髪を、私の天使の髪をこんなにしたのは?」

怒れる七海お姉ちゃんの前で私は苦笑していた。

昨日、髪の毛をあいつに捕まれて逃げる為に髪を切ったものの、あんまりにザンバラ髪になってしまったので、どうしようか考えてた所、透馬お兄ちゃんとすれ違った。

そして私の髪を見て物凄いショックを受けたらしく、その場に崩れ落ちた。そのままお家へ棗お兄ちゃんごと連行されて、軽く直してくれたんだけど。

それでも納得いかないらしく、手直しするから明日も来てくれと言われたので、今日もまた学校帰りにこうしてお家に寄らせて貰ったのである。

透馬お兄ちゃんの部屋の中に新聞紙とビニールが敷かれていて、その上に椅子が一つ。座る様に促されてそこへ座ると首の周りにビニールが巻かれた。間にタオルが挟まってる所が手慣れてる感を感じる。

七海お姉ちゃんが補佐としてついてくれるらしく、二人の共同作業が開始された。

で、ザンバラな私の髪を整えていたら怒りが復活したようで、最初のセリフに戻る訳だ。

「全くだ。おい、七海。ここの右側、どう思う?」

「もう少し、短い方が可愛いと思うっ!…折角髪が伸びてほわほわの天使ちゃんだったのに…」

「大地ん所なんて家族全員が報復しに行こうと頑張ってたぞ」

「嵯峨子のお姉達だって拳鳴らしてたよ」

話ながらも的確に髪を切り揃えてくれる。透馬お兄ちゃんて本当に器用だよね~。因みに今部屋にいるのは私達三人だけ。学校まで七海お姉ちゃんが迎えに来てくれたから、お兄ちゃん達はしっかりと部活に出てる。

「美鈴ちゃん。本当に誰なの?こんなことしたの」

「だから、自分で切ったんですって」

「それは疑ってねぇよ。ただな、姫。俺としては姫がどうして切らなきゃならなくなったのかを知りたいんだよな~?」

うぅ…鋭い。ここは一つ。明るく話して流そうではないかっ!

「えっとねっ、無理矢理キスされて、身の危険を感じたので掴まれた髪を切って逃げたのっ。えへへっ」


―――ピシッ。


んん?二人の動きが止まったぞ。あれ?極力明るく子供らしく言ってみたんだけど、駄目?失敗?

「透馬。ちょっと、あれ貸してよ。この前お遊びで作ったって言うメリケンサック」

「待て待て、七海。直ぐ改良してやっからもう少しだけ時間寄越せ」

うふふ、あははって二人共怖い怖いっ!!

「あぁ、そうだ。お姉達に知らせないと」

「おぉ、俺も大地に知らせといてやらないとな」

え?え?二人共何処行くのっ?この中途半端な状態でいなくなるのっ!?それは嫌なんだけどっ!!

「ふ、二人共置いてっちゃやだぁっ」

カムバックっ!!

涙目で訴えると、部屋のドアの前にいたはずの二人は元の位置に戻っていた。

瞬間移動を目の前で見た気がする。これは金山さんだけの特権ではなかったのか…。

まぁ、なんでもいいや。二人共戻って来てくれたし。

でも、またいなくなられたら嫌だから二人の服の裾を握っておこう。きっとそれくらいは許される。

「……やべ、可愛い…」

「くっ…ぐりぐりしたいっ…透馬っ、早く終わらせてっ」

「了解っ」

ここからの二人の連携は素晴らしかった。

あっという間に髪を整えてくれたのだ。斜めに切られた場所も上手く隠されて、ファッションでわざとこうしてるんですよーって感じになってとってもいい感じ。

出来上がって部屋の片づけを手伝って、全てが終わった時私は七海お姉ちゃんに全力でハグされた。

ひたすら頬擦りされたのは、解せなかったが…。

どうやら考えても答えは出ないようだから考える事は放棄した。

折角透馬お兄ちゃんの家に来たので、ついでにお肉を買ってホクホクしながら帰宅する。

家に帰って皆に切って貰った髪形を見せると大絶賛。

どうやら、似合ってたみたいです。良かった良かった。

しかも、なんと!この日から冬休みに突入まで葵お兄ちゃんの友達であるアイツが接触してくる事が無くなり安心して過ごす事も出来た。

冬休みに入り、毎日家事に追われつつ充実した毎日を送り、クリスマスパーティも楽しく過ごした。

プレゼントも皆に喜んで貰えたし、何より、華菜ちゃんに送った猫耳付のシュシュ超可愛かったっ!思わず鼻血出しそうだったよっ!

そして、クリスマスパーティと言えば、解せぬ事があった。

何故か私に山ほどプレゼントが届いたのだ。中には名前も知らない人のもあったりして。

流石に開くのは怖くてお兄ちゃん達に開けて貰ったりしたりもした。でもよく考えたらお兄ちゃん達にも山ほどって言うか宅配便業者の人がトラックの中身全て白鳥様宛ですと配達してきたから私のは少ない方かもしれないね。


色々ありつつ、新年です。年を越しました。

本日は1月1日。元旦。

皆様あけましておめでとうございます。

でもそんな事より、誰か教えて欲しいです。

何故元旦の夜に私はドレスなんて着て、こんな場所にいるのでしょう?

こんな高級ホテル最上階のパーティ会場に…こんなに男性がうじゃうじゃいる場所に…。

「うぅぅ……辛いよぅ…」

「鈴、頑張って」

「鈴ちゃんっ、佳織母さんが睨んでるから耐えてっ」

「うぅぅー…お兄ちゃ~ん…」

取りあえず棗お兄ちゃんに抱き着いておく。

今日は白鳥家主催のパーティ。しかも日本でトップを争う財閥のパーティな所為で人数も権力も尋常じゃない位高い人達が一同に会すると言う…。

要するに今日は依然良子お祖母ちゃんが言っていた、後継者披露パーティなのです。欠席不可のあれ。

ママは誠パパと一緒に挨拶回りをしている。良子お祖母ちゃんは美智恵さんと一緒に挨拶回り。

残された息子娘孫である私達は暇だろうと思いきや、私達は私達で話しかけてくるお客さん達に挨拶。

うふふふふ……来る人来る人みーんな男の人なのよー…。

私のHPが…ライフが減っていくー…。

意識が遠のくわー……たーすけてー……。

なんて遠い目をすると、お兄ちゃん達が現実に戻してくれる…んだけど、いっそ旅立った方が私的には幸せなんでは?

「あら?貴方達が白鳥のお孫さん達ね?初めまして」

「こちらこそ、お初にお目にかかります。白鳥美鈴と申します。以後お見知りおきを」

きりっと切り替える。棗お兄ちゃんから離れて、きちんと挨拶をして、暫くにこやかで穏やかな会話を繰り広げ、爽やかにお相手が立ち去るのを見送って、棗お兄ちゃんに抱き着く。今日はこれの繰り返しである。

「…美鈴。お前器用だな」

呆れたように鴇お兄ちゃんに言われたけれど、仕方ないでしょ。こうでもしないと耐えられないのっ!

やることはちゃんとやってるんだからいいじゃんっ!むー…。

「っと、そろそろ時間だな」

鴇お兄ちゃんが腕時計を見て、舞台を見た。まずそこで良子お祖母ちゃんが後継者を発表して、後に記者会見会場で世間様に発表する予定。

立食パーティ形式で皆挨拶周りを優先したのか歩いていたけれど、お客さん達も時計を見て動きを止め始めた。

「…嫌な予感だけがあるんだよね~…」

ずっと胸がざわざわしてる。この嫌な予感は一体何なんだろうねぇ~…。

「美鈴ちゃん、しっかりっ」

「ありがとー、優兎くんー」

すっかりおどおどしく話す事も無くなり、むしろ私をこうして応援してくれる優兎くん。ありがたいやら情けないやらでお姉さんすっかり脱帽です。

会場の電気が落とされて、舞台のみライトアップされてお祖母ちゃんが着物を完璧に着こなし颯爽と舞台へと上がる。

「皆様。本日はお忙しい中をお集まり頂き誠に有難う御座います」

そう言ってスタンドマイクの前で綺麗な礼をする。拍手が鳴り響き、静まってからもう一度マイクへ向き合う。

「兼ねてからご連絡させて頂きましたように、漸く全ての事に片が付き本日そのご報告と相成りました。これも全て皆様の助力あってこそで御座います。心よりの御礼を申し上げます」

良子お祖母ちゃんの挨拶が続く。

かっこいいね、お祖母ちゃんっ!でもごめんっ!我々子供組は校長先生の話を聞いてるみたいで眠くて仕方ないよっ!

優兎くんに至っては隣で目を擦ってるよっ!赤くなるからあんまり擦っちゃダメよっ、って問題はそこじゃないか。

私にも何だかんだで眠気が襲来し、子供用のドリンクを受け取る。あ、ブドウのジュースだ。…って駄目じゃね?子供向けの飲み物に汚れが目立つような物用意すんなよ。

うーん、零しはしないと思うけど、念の為鴇お兄ちゃんにそれを渡し、私は透明感のあるサイダーをもう一度給仕の人に貰う。ん、これなら平気。

コクコクと飲んでいると、鴇お兄ちゃんに声をかけられた。

「…おい、美鈴」

「んー?どうしたの?鴇お兄ちゃん」

「お前滅茶苦茶見られてんぞ」

「誰に?」

鴇お兄ちゃんがくいっと顎で示す先。…良子お祖母ちゃんでした。超ガン見されてる。

え?なんで?

視線が合うと良子お祖母ちゃんはそれはそれは綺麗に微笑んだ。

その笑みがなんか凄い怖いんだけど…?

「さて。本日の本題である、私の後継者を発表致します。私は白鳥財閥を含む全遺産を孫娘である白鳥美鈴へ相続しますっ」


―――ブーッ!!


思わず口に含んだサイダーを噴き出した。

ボタボタ口から零れて、葵お兄ちゃんが必死に口元を拭いてくれてるが、今は気にしてられない。っていうか、何言っちゃってんのっ!?良子お祖母ちゃんっ!!

「えっ!?えっ!?なんでっ!?なんでそうなったのっ!?」

鴇お兄ちゃんのスラックスの裾をぐいぐいと引っ張り問いかける。

「いや、俺に聞かれても困る」

ですよねーっ!でも納得がいかないと言うかっ!ぶっちゃけ家族の中で私だけが血縁関係にないから、ある意味家族で一番の部外者よっ!?

でも良子お祖母ちゃんは私の慌てっぷりが想定内だったのか、微笑みながら言葉を続けて行く。

「美鈴は身内の欲目抜きにしてもとても賢いのですが、いかんせんまだ幼い。その為、一時的に私の息子である誠に管理を任せます。その補佐として、孫息子である鴇、葵、棗を任命致します」

はぁっ!?って声が周囲から聞こえてきた。

そりゃそうなるよねっ!どうだ、分かったかっ!私の気持ちっ!

舞台に誠パパが上がった。そこから話はまた進んで行く。

えーっと、私どうしたらいいのかな?

この置いてけぼり感。私達の間に流れる沈黙をどうしたら?

「……えーっと、美鈴ちゃん、ファイト?」

「アリガトー、優兎クンー」

遠い目再び。良子お祖母ちゃん。なんつー重いものを背負わせてくれるのよ…。

えーっと、どうしたらいいのかしら?

「そもそもさ?鴇お兄ちゃん」

「…どうした?美鈴」

「今の白鳥財閥の手掛けてる範囲と業績ってどうなってるわけ?基本的に何を主軸にしてる財閥なの?海外にはどれだけ進出してるの?」

「待て待て。俺だって殆ど知らないっての。…あー…後で親父に聞きに行くか」

コクリと兄妹全員で頷く。

今まで誠パパが関わらずとしていた白鳥財閥。当然私達も関係のないことだと思っていたので全く関わって事なかったツケが今一気に降ってきた。

しかも私達はこれで爆弾が全て投げられたと思っていたのだけれど、良子お祖母ちゃんが更なる爆弾を私達に投下した。

「そして、ご報告がもう一つ。本日をもって、私達白鳥財閥は海外を拠点としておりますFIコンツェルンと合併が決定いたしました」

FIコンツェルンって?

私が首を捻ってると、斜め前に立っていた優兎くんの顔が凍り付いた。

舞台に美智恵さんが上がり、深く深く礼をする。そして、顔を上げた彼女はまるで戦いに行く戦士のような凛々しさを帯びて説明を始めた。

「詳しくは私の方から説明させて頂きます。皆様もご存じの通り、総帥である夫が亡くなり遺産を巡り私達はとても愚かな争いを繰り広げ、その結果娘と息子がこの世を去りました。私は一人残ったFIコンツェルンの宝である優兎を助ける為と遺産を放棄するつもりでした。しかし、ここにいる白鳥様のご恩情により何とかこのFIコンルェルンを取り戻し、傘下にいる全ての従業員を救う事が出来ました。それも合併という白鳥様には不利でしかない条件で」

そうか。FIコンツェルンって美智恵さんの所の会社だったんだね。要するに優兎くんはそこの跡継ぎって事か。ゲームでは美智恵さんが亡くなった後に出会って庶民になってたから解らなかったよ。

うんうんと頷きながら話の続きを聞く。

難しい話に喉が渇くね。再び手に持っていた飲み物を呑む。

「白鳥様はとてもお優しく、合併と言う形で新たな財閥の名を考えようとも仰って下さいましたが、私達の為にそこまでして頂く訳にはいきません。私達も自らの足で立たねばならないのです」

「…美智恵さん?」

「この場ではっきりと公表致します。私達FIコンツェルンは白鳥財閥の傘下へ入らせて頂きますっ」


―――ブーッ!!


ちょっと待ていっ!!

それは実質上、FIコンツェルンを白鳥財閥が吸収したって事じゃんっ!!

そんな事したら私の財産が増えまくるじゃないかっ!!

重いっ!!重いよっ!!私の未来が重すぎるっ!!

ダラダラと口から零れるジュースを再び葵お兄ちゃんが必死に拭いてくれる。

なんか舞台の上でお祖母ちゃん達二人が友情を確かめ合ってるけど、困るっ!!

美味い事話は進んで、とても美談みたいになってるけどさー…あー…無理。現実が私を苛めるー…。

「何か、凄い事になってきましたね」

「えっ?猪塚先輩っ?」

スーツ姿の猪塚先輩が現れた。え?なんで?

さっと鴇お兄ちゃんの背後に隠れつつ、猪塚先輩の姿をみると、彼はにっこりと微笑んだ。

もうすっかりきちんとした日本語を覚えて…って言うかやっぱ乙女ゲームの攻略対象キャラなだけあって頭は良いのよね、うん。あっという間に言語が修正されて、ゲームでは言葉が荒れ放題だったのに、今じゃかなりの紳士。元々イタリア語で話してた時は紳士的だったしね。

……いや、そうでもないか。嫌だって言ってるのに抱き着いて来ようとする辺り紳士的ではないな。うん。

「あぁ、そうか。君の所にも招待状が行ったのか。当然と言えば当然だね。猪塚グループの跡取りだし」

「そういうことです」

あははははっ!聞いてないっ!聞いてないよーっ!!

猪塚グループの跡取り?お金持ち設定はあった気がするけど、跡取り何て聞いてないよー。

ゲームだと人物背景カットしがちよねー。。

もう、なんなのー?脳内処理追い付かないんだけどー。

「鴇お兄ちゃん」

「どうした?」

「帰りたい」

「……俺もだ」

舞台上では企業としての説明やら何やらが詳細に説明されている。

あのね?人一人が持てる財産ってさ。限度があると思うんだ。それを越えた財産ってのは人の為にはならないと思う訳で。

…結局何が言いたいかと言われると、私には無理って事かな。

逃げたいわー。逃げたいよー。助けてーっ!

軽く現実逃避をしていると、突然、入口のドアが開いた。

一斉に視線がそちらへ向けられる。勿論私も。

すると、そこにはいつぞやの―――葵お兄ちゃんを苛めた―――伯母さんがいた。

後ろには以前と同じく取り巻きの伯母さん達を引き連れて。

ずかずかと会場の真ん中を歩き、舞台の上にいる良子お祖母ちゃんを睨み付けた。

「ちょっ、やばいってっ」

私は急いでママ達の側へ移動する。

お兄ちゃん達や優兎くん、猪塚先輩も異常を察知して付いて来てくれた。

ママ達もすぐさま私達に合流し、一緒に舞台脇まで移動した。誠パパも舞台の上でいつでも良子お祖母ちゃん達を守れる態勢をとっている。

「お母様。これは一体どう言う事ですの?」

「これ、とは?」

「私達、このようなお話聞いておりませんわっ。お父様の許可なくこのような」

良子お祖母ちゃんの目がすっと細められた。

冷ややかな瞳が彼女達ではなく、ドアの方を向けられる。

そっと私も視線だけをそちらへ向けると、そこには、

「……祖父さん…」

順一朗お祖父ちゃんがいた。ぼそりと鴇お兄ちゃんが呟いたから、きっと皆の視線もそちらへ向けられているだろう。

「これは一体どう言う事だ?良子」

お祖父ちゃんがゆっくりと歩を進め、舞台の下から良子お祖母ちゃんと対峙する。

けれど、良子お祖母ちゃんはそれに真っ向から向き合った。

「どう言う事とは?」

「恍けるなっ。儂の財閥を勝手に持って行き、更には合併だとっ!?」

怒鳴るお祖父ちゃんに、お祖母ちゃんは俯き肩を震わせた。そして、

「おーほっほっほっ!!」

盛大に笑いだしたのだ。これが私達の家ならばきっとお腹を抑えて床を叩いていた事だろう。

お祖母ちゃん意外に庶民生活堪能してるんだよね。きっと性に合ってるんだろうな。

って今はそんな事どうでもいいね。

私達は固唾を飲んで、お祖母ちゃんの次の言葉を待つ。

「おかしな事を言いますわね。財閥は一度たりとも貴方の物になった事はないと言うのに」

「なんだとっ!?」

「私と前総帥である私の父と。生前に交わした約束がございます。それは貴方を『養子にしない』と言う事」

意味を理解したお祖父ちゃんが驚愕した。

「え、っと、どう言う事?」

誰にも聞こえ無いくらいの小さい声で優兎くんが聞いてくる。それに私は同じく小声で答えた。

「要するに結婚だけしたって事よ。もともとお祖母ちゃんが白鳥財閥の跡取りだったってのは知ってるよね?」

「うん」

「だから遺産の相続権は全てお祖母ちゃんにあった。そして本来ならば婿養子に入ったお祖父ちゃんに相続権は行く筈だった。でも、お祖父ちゃんはあの性格で遊び呆けて自分の娘を大事にしないって事を曾祖父ちゃんは知ってたんだね。だから、白鳥の姓だけを名乗らせて権利は全て娘のままであるように養子縁組を組まなかったんだよ。そもそも婿養子ってのは嫁の両親とするものだからね」

「そうなんだ…。あれ?でもそれだと…」

「うん。白鳥の経営を出来る訳がない、でしょ?でもそこがお祖母ちゃんがお祖父ちゃんに対する甘さだったんだよ。優しさともとれるし、まぁ惚れた弱みって奴だね。お祖父ちゃんが好きだったお祖母ちゃんはお祖父ちゃんを繋ぎとめておきたくて、経営をお祖父ちゃんに任せたんだよ」

でも、その惚れた弱みって奴も、この前の葵お兄ちゃんの一件でどうやら無くなってしまったらしい。

お祖母ちゃんの優しさで薄皮一枚繋がっていた総帥と言う立場は、その優しさが失われたが故に一気に断ち切れてしまった。

「貴様は儂をずっと謀っておったのかっ!?」

「あら?貴方が言えた事ですか?貴方は何度私を裏切ったの?」

「ぐっ」

「最後のチャンスもちゃんと与えたというのに。貴方は一向に動かなかったじゃありませんか。自分の子に向き合う。ただそれすらも出来ず、最後まで私を裏切った」

お祖母ちゃんの瞳にはもうお祖父ちゃんに与える優しさは全て消え失せていた。

「貴方とは離婚も成立しましたし、もう赤の他人です。そして、貴方のような立場の人間がここに来る事を許可した覚えはありません。…金山っ」

「はい。大奥様」

「この者達を連れ出しなさいっ。二度と、私達の前に姿を表せないで」

「畏まりました」

金山さんがパチンと指を鳴らすと、数人の男性が何処からともなく現れ、お祖父ちゃんと伯母さん達を拘束する。

…しまった。金山さんに旭預けたままだった。ごめん、折角のカッコいいシーンにおんぶ紐。ごめん、ごめんね、金山さんっ。

颯爽と立ち去る後姿の背中にいる爆睡中の旭。……本当に旭は大物だね。お姉ちゃんびっくりだよ。

そして、どうするのか、この空気。

本来話す必要のなかったことも言っちゃったんだよね、お祖母ちゃん。

少しずつひそひそと話す声が聞こえ始める。

「まずいな」

「うん。これじゃあお祖母ちゃんが何を言っても聞いて貰えないし、それに」

「これをどうにか出来ないようじゃ総帥はやっぱり祖父さんの方が良かったのではって声も出てくる可能性があるしな」

鴇お兄ちゃんの言葉に私は頷く。

どうにかしないと…って、あっ!いいものあるじゃないっ!

キョロキョロと何かないかと探して、私は発見した良い物に向かって駆け出す。

蓋を開けて、椅子に座りポロンと音を鳴らす。うん、ちゃんと調律もされてる。

久しぶりに弾く…と言うか、前世ぶりに弾くピアノだけど、どうにかなりますようにっ!

私は鍵盤に指を走らせた。

圧倒させるにはそれなりに技術の高い曲にしなきゃっ!

最初は指慣らしで…さ、切り替えるよっ!難曲で有名な「ラ・カンパネッラ」にっ!

子供の指は小さいから鍵盤辛いよーっ!

心の中で叫びながら、何とか弾いていく。

突然始まったピアノ演奏に、話声は静まり皆耳をこちらへ向けてくれる。

ふと視線を感じてそちらへ意識を向けるとお祖母ちゃんがぽかんとしていた。

いやいや、そんな顔してる場合じゃないでしょ。ウィンクをしてお祖母ちゃんを促すと、はっと我に返ったお祖母ちゃんが頷き、再びマイクの前で今起きた事への謝罪と話しきれなかった先程の続きを告げて無事全ての公表を終えた。

お祖母ちゃんが話してる間は音を低めにして大人しめな曲に切り替えて、最後にまた派手な曲に戻して終わらせた。

拍手に包まれて、きちんと腰を折ってお礼する。

何とか乗り切った。そう思ってお兄ちゃん達の下へ戻ろうとしたら、

「美鈴様っ、是非アンコールをっ」

突然前に大人の男性が現れてそう言ってきた。急いで距離をとりつつ、

「え、で、でも、私の拙いピアノなんて…」

ふるふると頭を振り断る。こんな堂々と弾いといて何言うかって感じだろうけど、でもね?さっきは咄嗟だから出来た訳であって、今出来るかと言われたらまた別問題なのよ。

だっつーのに、アンコールの声はどんどん増えて行く。どないせいっちゅーんじゃっ!

お兄ちゃん達の方に視線を飛ばして助けを求めるが、どうにもお兄ちゃん達は楽器が出来ないらしく、助けは無理と苦笑された。

そんな絶体絶命な私を助けたのは、予想外の人物だった。

「やったらいいじゃないか。もし一人が恥ずかしいのなら僕も一緒に弾こう」

葵お兄ちゃんの友達で私の髪が短くなった原因。何故あんたがここに?

ってそんな事より、一緒に弾く?そう言えば手にヴァイオリンがある。

「じゃあ、僕も参加しようかな」

「猪塚先輩?」

彼の手にはヴィオラが握られている。

「それなら僕もいいかな?美鈴ちゃん」

「優兎くん」

そう言って彼は飾られていたチェロを手に取った。

そんな風に言われては否とはもう言えない。仕方なくもう一度ピアノの前に座る。

「曲はどうしますか?」

「ブラームスの交響曲第一番とかどうだ?」

「ありえない。殺す気?」

「でも美鈴ちゃん、ラ・カンバネッラ弾いてたから出来るんじゃない?」

「……はぁ、分かった。優兎くんにそう言われると出来ないって言えないよ」

私達は楽器を手に、互いに目配せをする。

そして私の合図で曲は始まった。かなり難易度の高い曲なのに皆弾きこなす所か、アレンジまでいれてくる。

もう。こんな風にアレンジ入れたら纏まらないじゃんっ!

仕方なく私と強制的に優兎くんを巻き込んでフォローにまわり、何とか一曲を奏で終わった。

盛大な拍手の中、私達は揃って礼をして、私は今度こそお兄ちゃん達の下へと戻る。

何故か鴇お兄ちゃんに呆れられたんだけど…頑張ったのに解せぬ…。

その後無事に立食パーティに移り、何人もの人にもう一度跡取りとして挨拶をされた。

立食パーティで食べたいものを食べて、やっとパーティも終わり皆各々用意されたホテルの部屋へと戻る。

これから記者会見場で公式な発表があるから、それを各自部屋で確認するのです。

ママや誠パパ、金山さん達はお祖母ちゃん達に付き添っている。

私達は部屋でテレビの前に陣取りぐったりとソファに座りこんでいた。

もう眠りたい。眠ってしまいたい。疲れ切ってうとうとと船を漕いでる私の頭を棗お兄ちゃんが肩に乗せてくれて、いよいよ本格的に眠りが訪れる。

棗お兄ちゃんの放つアルファー波の誘惑に抗えなくて素直に眠りへと落ちて行った。


夢の中で私はゲームをしていた。久しぶりに見た悪夢以外の夢がゲームとか私どんだけ…。いやいや、今は考えるな私。

因みにやっていたゲームは『輝け青春☆エイト学園高等部』だった。画面をみるとそれは誰を攻略していても強制的に発生するイベントの『襲撃』のシーンだった。

このイベントはメインヒーローである樹龍也が気に入った人間をパーティに招待すると言うものだ。そのパーティで事件が発生する。それが樹龍也に敵対する人間がホテルに爆弾を仕掛けると言うなんともゲームにありがちな現実感のないイベントだ。

これは好感度関連のイベントで、樹龍也に招待されるのは、ヒロインとの好感度が上位三名と下位三名と設定されている。上位下位どちらかに樹龍也も換算される事もあるが、まぁ簡単に言えば好感度上位下位合わせて六名、攻略対象キャラが選抜されて招待されるのだ。

その六名がホテルに泊まった時、事件は起こる。敵対する奴らがホテルの人間全員を眠らせ、体がマヒする薬をばら撒き、更に爆弾で爆破する。よく考えなくても普通にテロだ。やばい。まぁゲームだからねと納得は出来るけれど。

で、何故かヒロインだけは睡眠薬に抗う事が出来て、尚且つ麻痺を解除する薬を発見する事が出来るのだ。うん。素晴らしきご都合主義。

そこからゲーム特有のミニゲームが始まる。『好感度を上げたい人を助けて、ホテルを脱出しようっ☆』と画面にタイトルが出て、ミニゲームに突入。

ヒロインを操作して、好感度を上げたい人を回収し、下げたい人を放置して迷路を脱出。すると、一緒に脱出した人は好感度が爆発的に上がり―――命を助けられたんだから当然―――脱出出来なかった人は好感度が一気に底辺まで下がり暫く学校へは出て来ない――爆破に巻き込まれ重傷を負ってるんだから当り前―――と言う結果になる。

夢の中の私は必死にそのミニゲームをやっていた。何度も何度もやり直しリセットしている。その理由は今でも覚えている。それは、皆を助けたかったから。だって、最高で三人までしか助けられないっておかしいじゃないっ!

そういう仕様になってるって分かってるけど、無駄に挑戦した。誰だって一度はこんな事してるはずだっ!攻略対象キャラじゃないのに攻略しようと頑張るみたいな!そんな経験は乙女ゲーマーには必ずあるはずなんだっ!

……って、ちょっと待って?

私今夢の中の自分を見てるけどさ?こうして、ミニゲームの概要を思い出してる訳だけどさ?

これってもしかして…今これからこの状況になるって事?

優兎くんの例を考えてみて、私。事件が起こる寸前に詳細を思い出したじゃない?

もしかしなくてもこれってそう言う事?

………ふっふっふっ…。

ドS神様死にさらせええええええっ!!


「死にさらせええええええっ!」

ガバッと唐突に起き上がりダンッと床を叩いた。

全く、いっつもいっつも中途半端に情報提供しやがってっ!!

イライラしつつも目を覚ました私は辺りに視線を巡らす。真っ暗闇だけど微かな光で理解した。

案の定、夢で見たイベントで、ヒロインが最初に閉じ込められた部屋だ。睡眠薬を使ってそれぞれ重要人物を隔離したんだろう。

体の麻痺は…大して酷くないって言うか殆どないね。子供だからって大量に使わなかったのかもしれない。

私は立ち上がり、部屋を物色開始。ここは明らかに私が眠った部屋じゃない。だって暗いし、目を凝らしてみると大量に椅子が積まれてる。要するに倉庫だよ、倉庫。ホテルのね。

ミニゲームが開始されるのは、皆が起き始めてから。ターゲットである樹龍也が目覚めた所で館内放送が流れ犯人から爆弾を仕掛けたと告げられるんだ。

でも、私樹龍也に出会ったっけ?

本来の出会いイベントは高校に入ってからでしょ?

いや、でもなー。他の例もあるし一概には言えないか。

ガタガタと椅子を踏み台にして戸棚を開けると、『懐中電灯』が手に入る。それを使って辺りを照らし、倉庫の電気を点けた。

ここは窓がないから電気を点けても、敵方に違和感を持たれない。言うなれば安全地帯って奴だ。

さて、お次は『館内地図』だ。それは確か逆の方にある棚に…。ごそごそと棚の中を漁って一つの袋を取り出した。

犯人がいざという時の為に用意しておいた『館内地図』と『解毒剤』である。その『解毒剤』を一口のみ蓋を締める。

これでよし。少し残ってた麻痺もこれで完璧に消えるだろう。

後はこっからが勝負だ。

ミニゲームでは従業員とかの事は全く考えられてない。それはそうだ。だって人が死ぬこともないし、ゲームオーバーの一言で片づけられて、リセット、やり直しが出来るんだから。

(でも、ここは現実。爆破されたらホテルで働く人間以外にも、隣の建物や道を歩く関係のない人をも巻き込むことになる。そんな事絶対に許されない)

今は私の記憶だけが頼り。しっかりしなければ。

まずは招待客とホテルの部屋の照合。パーティ会場と記者会見会場は隣接してるからそちらはママがどうにかしてくれる。となると、ママ達のいる会場に最上階から通じてる裏口のドアを通して、ママが従業員の避難を誘導してくれる筈。

逆に言えばママの方に私達が行く訳にはいかないから、×印を書いておく。でもって、今現在の位置はここ。

袋に一緒に入っていた赤ペンで24階建てのホテルの13階の端に丸を付けて現在地と記入する。

このホテルにいる人全員を助けるには、仕掛けられた爆弾を解除する事が必要不可欠。爆弾は同じ型のを量産して設置してるはずだから解除方法は一緒。

問題は解除する人物、か。そもそも攻略対象キャラは誰々来ているの?

それも照合してみなければ。その相手によって手に入るアイテムや合流する場所が変わってくる。

(一番近くにいる人が好感度が一番低いキャラだった。一番近い部屋はこの倉庫の隣。備品保管庫ね。そこに一人必ずいる筈。誰か想像つかないし、行ってみよう)

ガサゴソと袋の底に一枚カードキーが出てくる。犯人達が作った偽物のカードキー。これはどんなドアでも開けるけれど、一回しか使えない。

この倉庫はヒロインがいる部屋って事で何故か鍵がかかってない。なので、このカードキーは攻略キャラのいる部屋に入る時に使う結構重要な鍵。

(なーんて。現実でそんなに大人しくしてる訳がないじゃない。普通ならドアを破壊してでも逃げるわよ。危機的状況ならね。でも今は爆弾の問題もあるし…)

私はドアの方へ行かず、倉庫の奥へと椅子や机を掻き分けて潜りながら進む。勿論さっき手に入れたアイテムは袋に詰めて持っている。

(あ、あったっ!)

急いで進むと、そこには小さなドアとそのドアの横には三角と逆三角形のマーク。

(あると思ったんだよねー。運搬用エレベーター。これ大人だと乗れないけど私は小学生だから乗れるのよ。ふふふ)

しかも、隣の備品保管庫と繋がってるのだ。急いでドアを開けて中に入って、更に反対の方にあるドアを開ける。やっぱり真っ暗なので懐中電灯を始動っ!

照らしながら、奥へと進む。備品、と言うかここ予備のシーツとかそう言うのが置かれてる場所だから洗濯洗剤の匂いが凄い。

慎重に進んで行くと、誰かが倒れている。慌てて駆け寄り、その人を確かめる。銀色のサラサラの髪。

え?この人攻略対象だったの?

待って待って。誰なの?記憶のフィルターの所為で思い出せないわー…はい、ごめんなさい。ウソです。大体想像は付きます。

例え記憶にフィルターがかかっていたって、このイベントが発生する条件。攻略対象キャラが鴇お兄ちゃん、葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん、優兎くん、猪塚先輩と五人しかいないって事は必然的に、この人はメインヒーローである樹龍也としか考えられない。

マジか…。私メインヒーローにキスされた訳?なんでやねんっ!思わず奏輔お兄ちゃん風に突っ込みを入れてしまった。

兎に角今は彼を起こさないと。

―――ベチンッ!

頬を態と音が出る様に叩いてみる。

すると彼は目を覚ました。そして驚く。

きっと私がいる事ではなく、体が動かない事の方だろう。

薬の量を多めに使われた?だとしたら、私のはある意味ヒロイン補正だったのかもしれない。

「先輩、飲めますか?解毒剤です」

手を伸ばそうとしてる意気込みだけは感じるが、先輩動けてません。…仕方ないな。

そっと距離をもう少しだけ縮めて、彼の口に薬の瓶を突っ込んだ。この薬もご都合主義でさー、即効性なんだよね。だから、

「こ、殺す気かっ!」

直ぐに動けるようになる、と。

『生かす気だから飲ませたんですよ。それと犯人に気付かれると厄介なんで声を抑えてください』

フランス語で囁くように言うと、彼は一瞬驚き目を見開くが直ぐにその瞳は細められ、現状を把握するために辺りを見渡した。

『…誘拐か?』

『いいえ。違います。詳しくは隣の部屋で説明します。それより今は』

『おい?』

確か、この部屋の右側の棚。進むとその後ろを先輩が付いてくる。あんまり近づいて欲しくないけど、今は非常事態だから我慢する。けど限度があるからやっぱりそこそこ離れて欲しい。

棚の前に立ち、棚を見上げる。

『美鈴?』

『ちょっと待っててくださいね』

キョロキョロと辺りを見渡すと、丁度良く枕が積み上がってる。これを足場にしよう。

枕をよじ登り、棚の上に辿り着く。

『おい、危ないぞっ』

『大丈夫です』

『だがっ…ちっ』

先輩は舌打ちをして反対側から棚の上に上ってくる。私達はそのまま棚の中央に移動した。

『おい、これ…』

さっきから先輩驚きっ放しだね。まぁ仕方ない。何せ目の前にあるのが爆弾なんだから。

『爆弾です。…えーっと』

解除の手順は…。記憶を頼りに私はボタンに手を伸ばす。

ん?あれ?まだ起動されてないんじゃん?そっか。まだミニゲーム開始前だから。要するに爆破予告が出てないから爆弾自体は起動されてないんだ。だったら、尚良い。

まず爆弾を取り出さなければ。電子ロックのかかってる箱の起動ボタンを押す。

画面に数字を記入せよと書いてあるから、『12』と入力する。すると鍵はあっさりと開いた。

本来この数字は助ける事が出来る攻略対象三人からヒントとして渡される紙があってそこから導き出さなければいけない。

因みにヒントは、


ヒント1『二ケタの数字』

ヒント2『エイト学園』

ヒント3『マイナス(い)』


である。大抵は1のヒント『エイト学園』って所で戸惑う。これは3のヒントである『マイナス(い)』と二つ一緒に使って考えるもので、『エイト学園』の『エイト』から『い』を抜くと『干支』になる。干支で連想される数字のある単語と言えば十二支。結果答えは『12』になるのだ。

「…嘘だろ」

鍵を解除した事に先輩はぼそりと呟いた。ごめん、感心してるとこ悪いけど私、答え知ってたからさ。それに今はタイムロス出来ないし。

次は爆弾の起爆コードを切断する。

って、そうだっ、切るものがないっ!

『先輩、鋏とかナイフとか切るもの持ってませんかっ?』

『切るもの?いや、俺は持ってないが…。あぁ、でもここ備品保管庫だろ。多分、裁ち鋏か何かあるんじゃないか?ちょっと待ってろ』

そう言いながらいとも簡単に棚から音も立てず着地して、棚を探る。

腹が立つほど身軽なんだけど…。まぁそっちを先輩がやってくれるなら任せてしまって、私は記憶を探る。

えっと、確か赤、青、黄、緑の四色のコードがあったはず。爆弾を確認すると1、2、3…うん、四本あるね。持たないように周囲をくるくる回って確認したけど四本しかない。

でこの各色四本のコードのどれか一つが起爆コード。その一つを切ってしまえば爆発はしない。まぁ、ド定番の爆弾とも言える。

で、問題は『どのコードを切るか』なんだけど。よく見ると、赤色のコードが繋がっている場所に1・5・9、青に2・6・10、黄に3・7・11、緑に4・8・12と数字が書いてある。これは赤から順番に数えて行くという事を記している。赤青黄色って感じにね。でもってそう記してるって事は、裏を返せば『何かを順番に数える』必要が出てくる訳だ。その何かとは、勿論『干支』である。

だってエイト学園のテーマだからね。から順番に数えて行くのだ。そしてさらに、注目すべき点がもう一つ。『閉じ込められていた人間が誰か』って事だ。例えばここにいたのは『樹龍也』で『辰』である。辰は十二支順で『5』番目。

『あったぞ、鋏』

戻って来た先輩から鋏を受け取り、私は躊躇いなく『赤のコード』を切った。下手に繋がれてもう一度爆弾の役割を果たされても困るので二か所(コードの始まりと終わり)に鋏を入れて中のコードを没収。よし、これで大丈夫。更に念の為に、箱に戻して鍵をかける。

『さ、行きましょう。先輩。爆弾が停止したと言っても、爆発しない保証はありませんから、脱出しなきゃ』

『あ、あぁ』

シーツの山にダイブして降りると、二人揃ってこそこそと運搬用エレベーターを通り、倉庫へと戻って来た。

証拠隠滅する為にドアやらは元の状態に戻してある。そして、ここなら普通に会話しても平気だ。

「先輩。今の状況を説明するんで、ちょっとこの地図見てください」

手招きして、床に広げた地図を二人で覗き込む。

「今、私達はここにいます」

「十三階?何故分かる?」

「このホテルに椅子が置かれてる倉庫は三か所。その中でも備品保管庫が隣接してるのはここだけなんです。それにエレベーターのボタン。上下でありましたよね?」

「成程。他の倉庫は最上階と一階だからか」

「そう言う事です。で次に、さっき見た通りこの建物の各所に爆弾が仕掛けられています」

こくりと彼は頷く。

「あれは見る限り量産型。爆弾が一つだけなんて事は有り得ないでしょう。最低でも後五つはあるとみても良い」

「五つ?」

「はい。さっき先輩の閉じ込めれれた部屋に一つありました。それは何故か。先輩が犯人にとって邪魔だからです」

「跡取りだから、か?」

「そうです。そして、この会場には跡取り、もしくは跡取り候補がいます」

「白鳥の兄弟、猪塚、花島か」

コクリと頷く。

「だが、そんな事を言ったら、お前が一番狙われやすいだろう?事実上、日本一の財閥の跡取りだ」

「いいえ。私はそんな財閥の跡取りだからこそ狙われません。利用しなければなりませんから」

「女だから、か」

「そう言う事です。私が婿をとるように仕向ければいい。まぁ、無理矢理犯して既成事実でも作って、更に子供を作ってしまえばどうとでもなると思ってるのでしょう」

「……お前、女がそんなヤバい事をはっきり言うな」

「女だからですよ、先輩。私はもう男にそう言う面で期待はしていません」

はっきりと言い切ると先輩は少し悲しみを含んだ瞳で私を見た。同情すんな。同情するなら金、げふんっ。

「あわよくば隣の爆発に巻き込まれて足の一本や二本無くなってくれれば万々歳って所じゃないですかね」

「……下種だな」

「えぇ。下種ですよ。うちのお祖父ちゃんは」

「…お祖父ちゃん?」

「はい。今回の犯行は間違いなく白鳥順一朗の仕業です。どこぞのテロリスト集団を金で雇ったんでしょう」

ここがゲームと違う点だと思う。だって先輩は今回招待される側なのだ。狙うなら確実に参加するであろう樹財閥のパーティにする筈だ。だけど今回は白鳥財閥にて行われたパーティ。先輩の参加の可否だって解ってないし、今後の取引の事を考えると樹財閥に手を出す事はしないだろう。

と言うかそもそも、今日パーティに乱入してきたやつが一番怪しいに、お祖父ちゃんが犯人に決まってる。

はぁ…。溜息が出るわ。おっといけない、次の説明に行かないと。

「話を戻しますね。恐らく、今からそんな時間を置かず、犯人の方から爆破予告をしてくると思います。そうすると先程の爆弾が一斉に起動してしまう。ただあれは『時限』爆弾です。爆発するまでに猶予がある。そこを狙って爆弾を解除していきますっ」

「助けを呼ばないのか?」

「呼んでる暇はないと思います。あのタイプの爆弾だと、精々制限時間は30分程でしょう」

「短いな…」

「はい。だから急がなければいけません。先輩、これは私の予測なんですが」

予測でもなんでもないけどね。前世の知識で知ってるから。先輩を誤魔化すためにそう言ったまで。

私は赤ペンで23階の2317号室、21階の食材倉庫、18階の1801号室に丸を付けた。

「ここにお兄ちゃん達がいると思います。先輩。そこへお兄ちゃん達を助けに行って貰えますか?」

「お兄ちゃん達って、葵達だな?分かった。だがお前は?」

「私は、ここから下の階11階の1120号室と9階の会議室へ行きます」

そこに優兎くんと猪塚先輩がいる筈だから。好感度って点で家族であるお兄ちゃん達が低い訳がないと思うの。となると上位三人はお兄ちゃん達に決まってる。

遠い場所で本来なら確実に爆弾解除出来るかつ家族である私が行くべきなんだけど、あえて先輩に頼むのは理由がある。

一つは、先輩の方が圧倒的に足が速い事。そしてもう一つは爆弾の解除が簡単な事。何せ三人共『白鳥』で『酉』なのだ。だから先輩に頼んだ部屋の爆弾は全て10番目である青のコードを切ればいい。迷う事がないのなら足の速い人が行った方が確実性が高い。

「先輩。そこで爆弾を解除してください。覚えてください。箱の鍵のナンバーは『12』。そして、切るコードは『青』です」

「分かった」

「あと、先輩。その手にあるカードキーですけど」

そうさっきから先輩はカードキーを握っていた。犯人が作った偽物カードキーだ。

「あ、あぁ、これか。さっき鋏を探した時に拾ったんだ」

「それ、犯人のカードキーです。どんなドアでも一回だけ開ける事が出来ます。爆弾を仕掛けた犯人達が逃げる為に用意していた鍵で、閉じ込めた子供達がいる場所に必ず一つあるようです。ほら」

そう言って私は袋から鍵を取り出す。

「なんで逃げ道を作ってるんだ?馬鹿か?」

ゲームですからねぇ…。とは流石に言えず。

「馬鹿ですよねー」

と同意しておいた。

ゲームではヒロインが一人で走るから三人しか助けられなかった。でも、残念ながら現実は手分けが出来るのだよ。犯人さん?

お祖父ちゃん、脱出したら叩き潰してくれるから覚悟して。人の命は安い物じゃないんだからっ。

っといけない、忘れる所だった。

確かこの倉庫にはもう一つ予備の解毒剤があった筈。

「美鈴?」

訝し気に見られるけど、今はどうでもいい。戸棚を漁り、出て来たのは解毒剤2本。あとアイテムなかったっけ?

ちょっと、隣の備品保管庫に戻って戸棚を漁りに漁って戻る。

先輩の前に持って来たアイテムを並べた。

『裁ち鋏』『解毒剤×3』『館内地図(書き込み済)』『懐中電灯(電池残量多)』『カードキー×2』『特製目潰しスプレー(美鈴印)×2』

って所か。好感度が低い人からは確実に貰える『鋏』と『カードキー』それから『解毒剤』。

爆破予告があると電気は全て消える。となると、この中から私が持つのはスプレーとカードキー1枚のみ。

あとは全て先輩に預ける。

「先輩、お兄ちゃん達をお願いします」

「あぁ、任せろ」

私の事を疑問に思うのは止めたらしい。それが正解ですよ、先輩。今は余計な事を考えない方がいいです。私も今だけは男性恐怖症に耐えて頑張ります。

「携帯は使えません。既に電波妨害が入ってると思ってください。連絡は取れないのでお兄ちゃん達を助けたら、こっちの非常階段から逃げてください。ここは1階まで直通です」

地図に赤で矢印を引く。

「私達もこっちから行きます」

途中から合流出来るもう一方の非常階段を指で示す。

そして今度は手早く廊下に×を付けて行く。

「この×印の所は通れません。多分防火シャッターが非常事態の為に降ろされるでしょうから」

「分かった」

これで作戦会議はオッケーな筈だ。後は行動あるのみ。

私達はドアの前に行く。

「それじゃあ、先輩、また後でっ!」

「了解だっ」

バンッとドアを開けて左右に分かれて走り出す。

私はまだ動いている内にとエレベーターに乗り込み、11階を目指す。

二階下。直ぐにエレベーターは到着する。

急いで1120号室へ走り、発見次第カードキーを使い中へ侵入する。

「猪塚先輩っ!」

倒れていた猪塚先輩は意識があるらしく、私に向かって口をパクパク動かしている。

部屋の中を漁り隠されてる解毒剤を取り出し彼の口に突っ込む。

各部屋に解毒剤は隠されてるんですよ。ゲームですから。なら何故樹先輩に渡したのか。タイムロスを避ける為です。

私は何処に隠されてるか大体想像がつく。けれど彼らは違う。知らないものを探すのにかかる時間は結構痛い。

他にも『館内地図(爆弾設置場所印有)』と『鋏』と『カードキー』を手に入れた。

驚き無意識にイタリア語で話しかけてくる彼に私は切り返す。

『白鳥さん、どうしてここが…』

『説明は後です。動けますかっ!?』

『うんっ。大丈夫っ』

先輩が立ち上がるのを確認しながら隠されていた爆弾を処理する。『亥』である彼の所にある爆弾のコードは『緑』。問答無用でぶった切り私は猪塚先輩と一緒に走りだす。

エレベーター使えるかなっ!?間に合うかなっ!?

駆け込み、更に下。九階に降りた地点で電気が突然消えた。

「えっ!?」

「九階に来た時でラッキーだった…。行こうっ、猪塚先輩っ」

予備電源が動いてる内に行かなきゃっ。擦れ違う客がいないのを見る限り、皆ママ達がいる会場にいるって事だ。

きっと今日はホテルを貸切にしてるんだろう。でなければ、こんなに人とすれ違わない訳がないもの。

従業員も多分、緊急体制をとってるはず。九階の会議室に到着してカードキーを突っ込み鍵を開ける。

机の上に優兎くんが倒れている。何故そこに寝かせたし。いや、今はそんな事より、会議室の隅にある段ボールを開けて中から解毒剤を取り出す。

『猪塚先輩っ、優兎くんを無理矢理でも起こしてっ。それからこれを飲ませてあげてっ』

即理解して貰う必要があるからイタリア語で頼みこみ、薬を投げて渡す。

慌ててキャッチした先輩は頷き、優兎くんに向き合った。

それを横目で確認して私は他にもアイテムは無いか探す。後爆弾も。

爆弾は直ぐに見つかり、解除。優兎くんは『卯』。4番目で『緑』のコード。ってあら?こっちも同じ色だったね。でも足の速いのは先輩だし、うん。やっぱり選択は正しかったと思う。

アイテムを探していると『懐中電灯(電池残量少)』、『カードキー』をゲット。

よし、これで地図を見る余裕が出来た。

猪塚先輩と意識を取り戻した優兎くんが駆け寄ってきた。

地図を開いてみる。…ん?

ちょっと待って。爆弾の数が何個か多いぞ?それともフェイクかな?

いや…そうじゃない。…そうかっ!!そうだよっ!!この場所、他の攻略キャラが待機してる場所だっ!

しまった。盲点だったっ。他のキャラがいなければ設置されてないってそんなのゲームの中だけだよね。実際は全部に設置されてるに決まってるじゃないっ。

どうしようっ!?透馬お兄ちゃん達の場所は何となく覚えてるけど、他の攻略キャラの場所覚えてないよっ!ってかキャラの名前すら思い出せてないんだけどっ!

待て待て。落ち着け私。今解る所を埋めて行こう。地図の場所と記憶の中のキャラを照らし合わせてみるしかない。

まず爆弾位置の確認だ。さっきも言った通り好感度で場所が左右する。一番好感度が低いキャラはヒロインがいた倉庫の隣、備品保管庫にいる。これだけは絶対である。で今回は樹龍也だった。そして最下位以外のキャラが入るであろう場所が二つある。

例えば鴇のお兄ちゃんの場合。好感度が上位ならば23階の2317号室。下位ならば11階の自販機ルームにいる。順位が上位なら遠い23~18階の間におり、下位ならば12~9階の間にいることになる。

そして攻略キャラのいる場所に爆弾はある。それを踏まえて爆弾の位置を確認する。


22階の2219号室は透馬お兄ちゃんのいる場所。

22階の2216号室は大地お兄ちゃんのいる場所。

19階のトレーニングルームは奏輔お兄ちゃんがいる場所。


この三か所は多分これであってる。で解除する色は、


透馬お兄ちゃんは『午』だから黄色のコード。

大地お兄ちゃんは『丑』だから青色のコード。

奏輔お兄ちゃんは『子』だから赤色のコード。


これで問題ない。地図を見る限り13階より上の印はこれで全部だ。

となると問題は、この13階より下の印だ。

×印は四つ。…四つっ!?

いや、あと出て来てないキャラは最低で五人はいるでしょっ!

だって十二支に当てはまってないのは残り『寅』『巳』『未』『申』『戌』の五つ。

なのに四ってどゆことっ!?

落ち着け落ち着け私っ!まずキャラを何とか思い出せないか考えてみようっ!

えーっと、確か、寅…虎…あっ!思い出した、私っ!偉いぞ、私ぃっ!!


近江虎太郎おうみこたろう


だったはずっ!

この調子で他も思い出そうっ!!

脳みそフル回転だ。


風間犬太かざまけんた

巳華院綺麗みかいんきれい

未正宗ひつじまさむね


そして、三人は思い出せた。フィルターが緩くなってるのか。いやでもそんな事どうでもいい。

あと一つが思い出せないっ!

頭を抱えて苦悩してると、優兎くんと猪塚先輩が心配そうに覗き込んできた。

そうね。そんな事してる暇ないわねっ。

残る部屋は、……ん?折角場所を特定出来そうだったのに、見つけてしまった。

ママ達の方にある三つの×印。これってもしかして…あっちの方にも爆弾があるって言うのっ!?

うぅぅ…。

落ち込みそうになった時、消えていた筈の電気が一斉に点灯した。

「えっ!?」

「なんでっ!?」

私は思わず天井を見上げ、そして、走った。

会議室にだってテレビはある筈だから。

リモコンを発見してテレビを点ける。すると、そこには誠パパがお祖父ちゃんを捕まえてる映像が映っており、お祖母ちゃん達が客を誘導する様子が映っている。

そして、マイクを持っているママがカメラに向かい叫んでいる。

『ゲストは無事に逃げていますっ!白鳥順一朗とテロリストも全て確保っ!残すは爆弾のみっ!繰り返します…』

「流石ママっ!!」

ぐっと拳を握る。まだ下位の爆弾がどれがどれに対応してるか確定してないけど、出来る事はやるっ!

そうだっ、ここは優兎くんがいた会議室っ。

もう一度ごそごそと段ボールを漁ると出て来た『通信機』っ!!

「猪塚先輩っ!」

猪塚先輩にヘッドマイクの通信機を五つ手渡す。

「これを上の階にいるお兄ちゃん達に渡してください。階段を降りてくるはずだからっ!」

地図をさして、降りてくる道を示す。

「一つは猪塚先輩がつけてください。その通信機は私の持ってる本機に全て通じています。私が中継をとりますっ!」

「分かったっ!じゃあ行ってくるっ!」

駆けだした猪塚先輩を見送りつつ、私は優兎くんにも通信機を渡す。

「優兎くん、お願いっ、鋏を渡すから、今いる階の0915号室に行って爆弾の解除をっ」

「えっ!?でも僕が解除何て」

「私が指示するから大丈夫っ!」

真剣に優兎くんの目を見詰めると、彼は頷き私から通信機と鋏を受け取り走って行った。

電気が回復してるからエレベーターは動いてるはず。

テレビを流しつつ、机の上に地図を広げて私は場所と適応しているキャラを思い出そうと必死だ。

『緊急っ!テロリストの一人が一瞬の隙をついて爆弾を起動したっ!』

驚きバッと顔をテレビに向ける。

『電気はもう通常に戻りましたっ!エレベーターは動きますっ!あと、ホテルのオーナーに頼んで全ての部屋のオートロックとセキュリティは解除っ!繰り返します…』

ママ、偉いっ!!

じゃあ後はカードキーの心配もいらないっ!

喜んだ瞬間、通信機に連絡が入る。

『美鈴っ!無事かっ!』

「鴇お兄ちゃんっ!こっちは大丈夫っ!」

『お前が言ってた爆弾は全て解除したっ!』

「ありがとうっ!でも後10個あるのっ!」

『マジかよっ!だったら逃げた方がっ!』

「それだと助かる可能性が低いのっ!お兄ちゃん達、今から爆弾の在処を教えるから、走ってっ!」

『わ、分かったっ!』

「お兄ちゃん達今何階にいるのっ!?」

『16階と15階の間だっ』

「だったら、まず葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんは22階へっ」

『了解っ!』

『俺はっ!?』

「先輩は19階にっ!」

『分かったっ!』

「鴇お兄ちゃんは10階まで降りてきてっ!」

『了解っ』

「猪塚先輩は12階の事務所っ!」

『分かったっ!』

一斉に行動が開始される。

すると、そこにまたテレビの情報が流れた。

『こちら側の爆弾は全て解除っ!なお、爆弾の数は三つで『申』を解除っ!!』

全て『申』っ!?

ママっ!最高だわっ!!

これで何とかなるかもしれないっ!

テレビの上の時間を見ると、12時45分。さっき起動したとママが言ってたのは43分。起動してから連絡までの誤差を考えても、もう5分は経過してると思ってもいい。

後はお兄ちゃん達とどれだけうまく連携が取れるかにかかってくる。本当なら私も走って行きたいけど、私は多分一番足が遅いから足手まといになる。だから、ここで指示を出す。皆と一緒に無事に生還するんだっ!


―――残り25分。爆弾残数7。


『美鈴ちゃん、着いたよっ!』

「優兎くんっ、中に『花瓶』はあるっ!?」

『ないよっ!』

「壁にある絵は『海』?『山』っ?」

『海だよっ』

「『未』の部屋だっ!なら、そこは窓の下っ!カーテンの影に爆弾があるよっ!」

『分かったっ!』

『美鈴っ!10階についたぞっ!』

「鴇お兄ちゃんっ!1001号室にっ!」

『了解っ!』

『美鈴ちゃんっ!爆弾があったよっ!この箱だよねっ!』

「そうっ!それっ!数字が入れれるようになってるでしょっ!?そこに12って入れてっ!」

『入れたよっ!』

「箱を開けて、緑のコードを切ってっ!」

『分かったっ!』

『ついたぞ、美鈴っ!』

「鴇お兄ちゃんっ!中に『花瓶』はあるっ!?」

『あるぞっ!』

「じゃあ、『寅』だっ!鴇お兄ちゃん、花瓶の中に何故か鋏がある筈だからそれを使ってっ!12、に黄色のコードっ!」

『了解っ!』

『美鈴ちゃん、終わったよっ!』

「ありがとうっ!優兎くん、12階へっ」

『分かったっ!』


―――残り20分。爆弾残数5。


『美鈴っ!1001号室解除完了だっ』

「鴇お兄ちゃん、次は1020号室っ!」

『了解だっ』

『美鈴っ!着いたぞっ!』

「先輩っ、そのままトレーニングルームへっ!一つだけ色違いのエアロバイクの下にありますっ」

『箱のナンバーは同じかっ!?』

「はいっ!赤のコードを切って下さいっ!」

『分かったっ!』

『着いたぞ、美鈴っ!』

「鴇お兄ちゃんっ!今度はベッドの下っ!12の青のコードっ!」

『任せろっ!』

『鈴っ!着いたよっ!』

「棗お兄ちゃんっ!葵お兄ちゃんもいるねっ!?」

『うんっ!いるよ、鈴ちゃんっ!』

「棗お兄ちゃんは2219号室へっ、葵お兄ちゃんは2216号室へっ!二人共行く前に、同じ階にある簡易備品室から鋏を持って行ってっ!」

『分かったっ!』

『了解っ!』

『美鈴っ!終わったぞっ!』

『美鈴っ!終わったっ!』

「鴇お兄ちゃん、先輩っ!流石っ!今、優兎くんが12階へ向かってるから合流してっ!一緒に向かってっ!」

『了解っ!』

『分かったっ!』


―――残り15分。爆弾残数3。


『鈴ちゃん、着いたよっ!』

「葵お兄ちゃんっ!中に入ってデスクの引出しに爆弾が入ってるのっ!12って入力して、箱を開けて青のコードを切ってっ!」

『分かったっ!』

『鈴、僕はっ!?』

「棗お兄ちゃんは、洗面所の隅っ!12の黄色のコードっ!」

『了解っ!』


残り10分になろうとしている。

なのに12階に行った人達が一切連絡を寄越さない。

なんでっ!?

今この状況だと途轍もなく不安を感じる。

そんな中、双子のお兄ちゃん達から連絡が来て解除が完了したと連絡が来る。

そのまま12階へ行くようにお願いした。

なんで、連絡が来ないの…?

心配で心配で仕方ない。いっそ行ってみようか…。でも…。

悩んでいると、

『白鳥さんっ』

「猪塚先輩っ!」

『大変なんだっ!この事務室っ!ドアが壊れて中に入れないんだっ!』

「えっ!?」

『今皆で抉じ開けようと頑張ってるんだっ。後どれくらい時間は残ってるっ!?』

「残り10分きっちゃうよっ!」

『分かったっ!急ぐからっ!』

「うんっ!」

通信が切れる。

私が出来るのは次の連絡を待つのみだ。

時計は刻一刻と時を進めて行く。

そして、5分を切ろうとしたその時、再び連絡が入る。

『ドアが開いたよっ!鈴ちゃん、どこにあるのっ!?』

「窓側のデスクの裏側にあるよっ!」

『待て待てっ!ないぞっ!美鈴っ!』

「えっ!?」

となるともう1か所の方っ!?

そんな訳ないっ!!会ってすらいないのに好感度がある訳がないっ!

それに地図には×印がちゃんと書いてあるっ!

『緊急っ!!地図に書かれた印の一つは嘘だと犯人が供述っ!繰り返します…』

テレビでママが叫ぶ。

嘘って、もしかして、12階の事っ!?

なら、正しい爆弾の在処はどこなのっ!?

攻略対象の所はさっきの事務室で最後の筈なのに…。

そう思ってハッとした。

さっきも思ったじゃないっ!ここは現実だってっ!

狙われたのは跡取り。そして爆弾は確実に跡取りを狙っていた。

あの時私は先輩の言葉を否定した。でも、それは違ったんだ。

自分でも言ったじゃないっ、足の一本や二本折れたりしたら万々歳ってっ!

爆弾のある場所は私が最初閉じ込められていた倉庫だっ!!

私は走りにくい靴を脱ぎ棄て、駆け出す。


―――残り時間4分。爆弾残数1。

ゲームの展開って突拍子もない事だってありますよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ