小話23 初詣
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
「流石に三が日過ぎると人がいないな」
「出店も辛うじて残ってる程度ですしね」
優兎が俺の言葉に同意した。
親父や祖母さんは事件の後片付けに翻弄されて、佳織母さんは忘れていた締め切りに追われている。
腹に新しい子供がいるかも?とか軽く言うから一瞬冗談かと思ったが。その爆弾発言後病院に行って確認したら妊娠していると宣言されたと笑って帰って来た後の締め切りラッシュ。
美鈴に怒られるのは仕方のない話だ。
「ねぇ、鈴」
「なぁに?棗お兄ちゃん」
「どうしてお着物着なかったの?」
「歩き辛いもん。やだ」
あぁ、そう言えば言われてたな。祖母さんがこの前着物を買ってきていた。美鈴に似合うからと言って。
でも確かにこうやって歩く事の多い場所で着物は辛いか。
「でも、鈴ちゃん。ニットワンピースも似合ってるよ?可愛い」
「そ、そう?ありがとう、葵お兄ちゃん…」
顔を隠して照れてるのを隠そうとされると、無性にその顔を見たくなる。
ぐっとその衝動を堪えて、俺達は参道を歩く。勿論手水は済ませている。
真っ直ぐ本殿へ向かい、参拝する。代表して美鈴が鐘を鳴らし、俺があらかじめ渡しておいたお賽銭を五人で入れて、二拝二拍一拝。
何やら弟妹達は真剣に祈ってるが、俺は神頼みをするほど信仰心はない。
けど、一応家族の健康を祈っておいた。俺の事は祈る必要はないが、家族の事は俺一人でどうにかならない時もあるからな。
参拝も終わって、俺達は社務所へ向かう。
「安産祈願買わなきゃっ」
「だな。後は破魔矢と家族分の御守りも、だな」
「鴇兄さん、絵馬は?」
「書きたいか?」
「書きたいっ!」
棗が俺に聞いたはずなのに、美鈴が元気よく手を上げた。
そんな美鈴の頭を撫でつつ、俺は社務所で店番をしている巫女さんに注文をする事にする。
えっと、親父と双子、優兎は緑、美鈴は赤の交通安全の御守りだろ。それから佳織母さんには出産祈願の御守り。祖母さん達と旭には健康祈願。あと俺には一応受験の事も考えて学業成就か?
んで、破魔矢と熊手、更に絵馬が四つだな。
思い浮かんだ順に注文を終わらせて、少し待つ。
「ね、ね、鴇お兄ちゃん」
くいくいとジーパンを引っ張られる。
「どうした?」
「おみくじ、やってもいい?」
おみくじ?
あぁ、これか。社務所の横の方に御籤筒がある。
「どうせなら皆でやるか」
財布から五百円を取り出して、近くにある小さな賽銭箱に入れる。そして二つある御籤筒を美鈴と、優兎に手渡す。
「お待たせしましたーっ☆」
良く解らないテンションの巫女さんに金を渡し、御守り等が入っている紙袋を受け取る。
その横から御籤筒から棒を出した二人が俺に向かってそれを見せてきた。
「鴇お兄ちゃんっ、私八十八番っ」
「鴇さん、僕は五十三番です」
「どれ…八十八に五十三な」
俺が御籤棚から紙を取っている間に、双子が御籤筒を振る。
「鴇兄さん、僕は七番」
「鴇兄さん、僕は十一番」
「葵が七番で、棗が十一番、と」
美鈴と優兎の御籤を手渡して、双子の分を棚から取る。それを手渡して、後は俺だけだな。
御籤筒を振って出て来た番号は…二十九か…これだな。
自分の番号の紙をとって中身を確かめる。
確かこの神社の御籤の順は、大吉、中吉、吉、小吉、凶、大凶だったよな。これって神社によって吉の順番変わるとか言うからちゃんと確かめてから結果を見ないと。
えっと、俺の結果は……中吉、か。まぁ、そこそこよりやや上って感じか?悪くはない、かな。
で、皆の結果はどうだったんだ?
「美鈴ちゃん、どうだった?」
「……吉。微妙ー…。優兎くんは?」
「え、えーっと…その、大吉」
「わぁっ!凄いねっ!」
「う、うん」
「お兄ちゃん達は?」
「僕と棗は二人揃って小吉」
双子も自分の結果に微妙な顔をしている。
いっそ、凶ならもう少し盛り上がれるんだがな。
「鴇お兄ちゃんは?」
「俺か?俺は中吉だ」
「おおっ!優兎くんの次に良いっ」
美鈴が楽しそうで何よりだ。にしても御籤って基本的に大雑把な事しか書いてないよな。良くも悪くも教訓として受け取る様にって事だろう?
だが、この御籤は…。御籤に書いていた内容を少し読みこんでみたが、一般的な待ち人がどうの失せ物がどうのとかは書かれていない。
俺の引いた内容は、『小さきモノの幸せを願うならば、大きなモノを拒め』だった。全くもって意味が分からん。
「このおみくじ、意味が分かんない。分かんないけど…的を得てそうでめちゃ怖い」
どうやら美鈴も同じ事を思っていたらしく、上から美鈴の御籤結果を覗き込む。
『男難の相あり。数十年の覚悟を持つべし』
……何と答えて良いものやら。
確かに怖いな。むしろ当たって欲しくないだろう、美鈴としては。
ちょっと面白くなり、優兎のも覗いてみる。
『柵から解放されて、超ラッキー☆』
……御籤?それは本当に御籤の内容か…?疑問を覚える。
まぁ優兎が嬉しそうだからいいか。
双子は何て書かれてるんだ?
『実力の差を見せつけられる事あり。精進せよ』
ふむ。葵のは普通な感じもする。
『特攻回避。殴れ』
………おい?殴れってなんだ、殴れって…。
何とも微妙な空気が流れる。
「えっと、大吉と中吉は御守りになるから持って帰って、他は確か木に括るんだよね?左手だけでやればいいんだっけ?」
「正しくは効き手と逆手で結ぶといいんだ」
俺と優兎以外が木にお御籤を結ぶ。双子は別として美鈴は手が小さいからかなり苦戦している。仕方なく両手でやってみるも木の枝が高くて、爪先立ちでプルプル震えていた。
こう言う所、素直に可愛いよな。
枝を掴み、軽く引っ張って美鈴の手に届きやすい様にしてやると、美鈴は嬉し気に微笑む。
その顔をみて葵が何故か結び終わった御籤と俺を交互に見ていた。
?、一体どうした?
問いかける前に、
「そ、そこにいるのはっ!?」
声が響いて振り向く。あれは猪塚とか言うガキか?
「おみくじを引こうと思って来たら、白鳥さんに会えるなんてっ!ラッキーだっ!白鳥さーんっ!」
駆けて来るそいつに、咄嗟に動く俺達。
俺は買った物が入っている紙袋を優兎に渡し、美鈴を抱き上げる。
葵は優兎を避難させ、棗は渾身の右ストレートを猪塚の顔に叩き込んだ。
「…きゅぅ…」
倒れるそいつを無視して俺達は絵馬のかかっている場所へ移動した。
「…おみくじ、当たってた。……でも、あれっておみくじと言うより占いじゃ…?」
一瞬納得しかけたが、それはそれで何か神様が図に乗りそうな気がして、それが癪で棗の呟きは聞かなかった事にした。
絵馬の方へ行くと、そこにはペンが数本置いてあり、書く事が出来る。
美鈴を降ろして、優兎から袋を受け取り中から絵馬を取り出して四人に渡した。
喜々として書きに行くのを見ながら、他の奴らはどんな事を書いてるのかとぼんやりと眺めていた。
(ん?これは透馬の文字か?えっと何々?『妹が弟に変化しませんように』…いや、しないだろ。最近お前の妹、彼氏出来て増々女らしくなってきただろうが。それとも家の中じゃ違うのか?……その隣のは、大地か?『彼女ってどうやったら出来るの?』って神様に聞くなよ。って隅に小さく文字がある?『神の采配次第じゃね?』…これ書いたの誰だ?…ここまで来たら奏輔のもありそうだな。…っと、これか。『お姉達がさっさと、さっさと嫁に行きますようにっ!!』……切実だな。二回も書く位だからな)
くっくっくと喉で笑っていると、
「あれ?そこにいるの、白鳥くん?」
背後から声をかけられて振り向く。中学の時の同級生女子が二人が晴着を着て立っていた。…けばい。
「あーっ、やっぱりそうだーっ」
「えーっ、新年早々私達超ラッキーじゃんっ」
面倒なのが来たな。
こういうのが面倒でエイト学園に進学したってのに…。
「ねぇねぇ、白鳥くん。今暇っ?暇でしょっ?遊びに行こうよっ」
「うんうんっ。何なら天川くんとか呼んでもいいよっ?」
決めつけるな。暇なんて一言も言ってない。
しかも、透馬とか呼んでもいいよ?ってお前ら何様だよ。
はぁ…面倒くせぇ…。
どうすっかな?
悩んでいると、横から袖を引っ張られた。
「…誰ですか?」
金色が一つ目に入り、今度は逆の方から袖を引かれる。
「…馬鹿そう…」
葵、棗。本音を言うな。俺もそう思うがな。
「きゃーっ、可愛いっ。なに、この子達っ!?」
「もしかして白鳥くんの弟っ!?」
「えーっ!?それにしては似てなくなーいっ!?」
「異母兄弟とかーっ!?うけるーっ!!」
おい。ふざけたこと言ってんなよ。
俺が顔を顰め、隣の双子は『何言ってんだこの馬鹿女』と顔が分かりやすくかつ雄弁に語っている。
「でもやっぱり男の子だよねーっ」
「可愛いって言っても、やっぱどっか凛々しいって言うかーっ?」
「ねっ、ねっ。お姉ちゃん達と一緒に遊ぼうよっ!」
「美人なお姉さんと遊べるのは嬉しいでしょーっ?」
自分で美人とか、マジで引く。いや、それ以前にお前ら美人でも何でもないからな。
「脳味噌」
「すっかすか」
「だな」
双子と無意識な意思疎通。
いい加減言い返す必要があるな。だが、正直こいつらに言い返した所で脳内に届くとは思えない。
「鴇さん?大丈夫ですか?」
葵の影からひょいっと優兎が顔を出した。
「更に可愛い子が来たっ!?」
「うそーっ!?恰好からすると男の子?だよねっ!?やだ、可愛いっ!!」
「私達と並ぶんじゃないっ!?可愛さっ!?」
烏滸がましい。
「じゃあ、皆で行こうよっ!」
何が「じゃあ」だ。
「ほらほら、白鳥くんっ。天川くん達に連絡してよーっ!」
手を引っ張るな煩わしいっ!
流石に嫌気がMAXになった、その時。
ぼふっと足に何かが突撃して来た。
驚いて頭だけ振り返ってその正体を確認すると。
「鴇お兄ちゃん、行っちゃうの…?」
「美鈴…」
お前、解ってやってるな?
「お兄ちゃん達も優兎くんも行っちゃうの…?置いてっちゃやだぁ…」
うるうると瞳を潤ませて俺を見上げてくる。
そのわざとらしさが面白くてついつい笑みを浮かべてしまう。
隣にいた棗に持っていた紙袋を渡し、振り返って美鈴を抱き上げる。
「安心しろ。何処にも行かないから。ちゃんと美鈴の側にいる」
「ほんとに?」
ぎゅっと首に抱き着いてくる。
……こいつが本気出して甘えてくると、わざとだと知っていてもヤバいな。可愛い。
「……何、その子…」
「超可愛いんだけど…」
ぼそりと聞こえる。
美鈴のくれた反撃の機会を逃す手はないよな。
「可愛いだろう?俺の妹は」
「い、妹?」
驚くそいつらに、葵と棗が追い打ちをかける。
「そうだよ?僕達の妹。とっても賢いんだよ?」
「そうそう。家族水入らずで過ごしてるのに邪魔してくるどこかの馬鹿女達と違ってすっごく賢いんだ」
結構言うなぁ。葵も棗も。止める気は勿論ないがな。
「うんうん。葵さんと棗さんの言う通り。それに、お姉さん達みたいに化粧なんかで顔を作らなくてもとても綺麗だしね」
優兎が止めを刺した。
お前達ほどほどにしろ。でないと笑いを堪えるのが辛い。
優兎曰く、化粧で顔を作った女二人が顔を真っ赤にして震えている。
「な、なんなのっ!?わざわざこっちから誘ってあげてるのにっ!」
ピクッと美鈴が反応した。
かと思うと、ゆっくりと俺から顔を離して、女二人をじっと見る。
へぇ。美鈴。お前怒ると瞳がアイスブルーに変わるんだな。
その顔と瞳で睨まれたら、確かに身が竦むかもしれない。
現に二人がヒッと呟いて数歩後退した。
「悪いけど、お兄ちゃん達はアンタ達レベルの女に誘って貰う程、女に飢えてなんかいないのよ。少なくとも、お兄ちゃん達が言った嫌味も分からないような馬鹿女達に大事な大事なお兄ちゃん達をあげる気にはならないわ。とっとと帰ったら?」
きっぱりと言ってのけた。
佳織母さんにそっくりな言い方。そして、茫然と口を開けて美鈴を見る馬鹿女二人。
あ、もう駄目だ。大分我慢したつもりだが、もう我慢出来ない。
「あはははははっ!!」
笑いが止まらない。
突然笑いだした俺に女達どころか美鈴まで目を丸くして驚いている。
「と、鴇お兄ちゃん…?どうしたの?精神やられちゃった…?」
心配そうにぺたぺたと俺の顔を触ってくる美鈴が可愛くて仕方ない。
一頻り笑ったけれどまだ込み上げそうな笑いをどうにか抑え込み、俺は心配顔の美鈴の頬にキスをして微笑んだ。
「ありがとな、美鈴。お前達もありがとな。もう、用は済んだし。帰るか」
俺の言葉に双子と優兎が嬉し気に笑う。
「ちょ、ちょっとっ!」
「白鳥くんっ!?」
女達に背を向け歩きだした俺達に怒りと焦りの混じった声が呼び止める。
俺は顔だけで後ろを振り向き、
「うるせぇんだよ、さっきから。俺の大事な弟妹が代弁してくれてただろうが。馬鹿な女を相手にするほど俺は暇じゃねぇんだよ。まして、人の感情の機微も分からねぇ屑につき合う義理もねぇ。二度と俺の前に顔を見せるな」
ギッと睨み付け、怯え顔を更に白くさせたのを確認して俺は再び前を向いて歩きだす。
「鴇お兄ちゃん、カッコいー」
「茶化すな、美鈴」
「でも、本当にかっこよかったですよ、鴇さんっ。憧れますっ」
「ははっ。ありがとな、優兎」
「僕もカッコ良かったと思う、けど。鴇兄さん?」
「うん?どうした?葵」
「どうして直ぐに追い払わなかったの?」
「あぁ言う女は俺が何を言おうと無駄なんだよ。声も出さずに腕を振り払って帰った方が後々楽なんだ」
「そうだったんだ…。じゃあ、僕余計な事したかな?」
「いや。そんな事はないぞ、棗。俺は嬉しかったしな」
言うと皆とても嬉しそうに微笑んだ。
こんな可愛い弟妹を置いてどっか行くなんてあり得ないだろ。
神社の鳥居を抜けた時、ふと思い出す。
『小さきモノの幸せを願うならば、大きなモノを拒め』
あの御籤ってこの事を言っていたんだろうか…?
大きいモノと言って良いのか分からないような小者だったけれど。
(まぁ、こいつらが幸せなら、それでいいか)
そう心から思い帰路へとついた。
鴇って家族構成説明する時、八人兄弟の長男です、って言うのかー…それだけで苦労が知れるなぁ(笑)
優兎も入れたら下に八人いる事になるんだけど、そうなったらきっと御三家も数としてプラスされるだろうから±ゼロかな(`・ω・´)キリッ
あれ?ならないですか?ww
遅ればせながら明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。




