小話20 恥ずかしいのっ!
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
「えっと、右足が前で、左足が後ろ…」
「美鈴ちゃん。違うよ~。逆だよ~。左足が前で右足が後ろ」
「え?うそっ」
美鈴ちゃんが動きを止めて私の持っていた振付の載った紙を覗き込む。
今度の授業参観が丁度体育の授業で。その日はお父さん達にパフォーマンスを見せるとかで私達は今頑張って練習をしていた。
勿論家の中だと出来ないから、美鈴ちゃんと待ち合わせした公園で。
「ちょっ、棗っ。足、逆っ」
「え?あれ?」
向こうで美鈴ちゃんの双子のお兄さんも同じくパフォーマンスの練習をしていた。
双子のお兄さん達のクラスも授業参観の日は体育らしく、私達のクラスともう一クラス。そしてお兄さん達のクラスの四クラスの合同パフォーマンス。
だから、覚える内容は一緒。ただ難しさは双子のお兄さん達の方が学年の違いもあって上なんだけど。
「華菜ちゃん。今の所、私が言った形であってるんじゃないかな?」
「え?どれ?」
「だって、こっちから見ると…」
つい意識をお兄さん達に向けがちだったけど、視線を戻して美鈴ちゃんとあーでもないこーでもないと言い合う。
「もう一度、やってみよう」
「うん」
曲はないからテンポで振付を覚える。
「1、2、3。2、2、3」
二人並んで踊る。手を振って、横に流して、はいポーズ。片足出して、くるっと回転、お尻を振って、はいポーズ。更に右足、左足、腰に手を当てて、はいポーズ。
うん。バッチリっ!
完璧だと思って横を見ると、美鈴ちゃんが顔を隠してしゃがみ込んでいた。
「ど、どうしたのっ?美鈴ちゃんっ」
慌てて隣にしゃがみこむと、美鈴ちゃんは耳まで顔を赤らめて、
「は、恥ずかしいよぉ~…」
と苦しんでいた。何が恥ずかしいんだろう?分からなくて首を傾げるしか出来ない。
「大丈夫?」
「大丈夫…大丈夫なんだけど…。これお兄ちゃん達に見られたら私羞恥心で死ねるかもしれない…うぅぅ…」
あ、なるほど。それが恥ずかしかったんだぁ。美鈴ちゃん、可愛いっ。
「なら、美鈴ちゃん。今度は女子パートじゃなくて、混合パートの練習しようよ。丁度パートナーのお兄さん達いるんだし」
「そ、そうだね。そっちなら、なんとか…」
顔を真っ赤にしたままで美鈴ちゃんが立ち上がる。自分でほっぺをむにむにと引っ張って羞恥心をとばそうとしてるその姿は堪らなく可愛いかった。
「葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん。混合パートの練習しよー」
美鈴ちゃんが双子のお兄さんに呼びかけると、二人は動きを止めて微笑みを浮かべながら頷いた。
女子は人数が少ないから混合パートのパートナーを自由に選ぶことが出来る。しかも四クラスの中から自由に選べるから、美鈴ちゃんは迷いなくお兄さん達を選んだ。
ここで不思議なのは他の女子からのやっかみが一切ない事。
でも大体想像はつくなぁ。だって、美鈴ちゃんがお兄さん達に頼む前に、既にお兄さん達は美鈴ちゃんを選んでたんだもん。あんだけ溺愛されてる妹にやっかみなんてぶつけたら…好きになって貰うどころか確実に嫌われる。視界の隅にも入れて貰えなくなる。
「華菜ちゃん?どうかした?」
目の前で手を振られてハッと我にかえる。葵さんが振っていた手を止めてにっこりと微笑んだ。
「いえ。なんでもないです」
微笑みかえしながらハッキリと答える。
「じゃあ、早速やろうか」
「はい」
返事を返して、横にいる美鈴ちゃんを確認すると、こっちを見て頷いていた。
「行くよ。…1、2、3、はい。右、左、…右、左、左」
右足出して戻って、左足出して戻って、腕を組んで右に出て戻って、反対向いて逆に腕を組み直して左に出て、左回転…背中を合わせて、はい、ジャンプ。前方にジャンプしたらくるっと振り返って、葵さんを馬にその背を跳んで、はいポーズ。
そのまま横に移動して、美鈴ちゃんと向かい合って握手して、右足出して戻して、左足出して戻して、手を離して、横に並んで腕を組んで、前にジャンプ、ジャンプジャンプジャンプ。また振り返って、葵さん達と向き合ってはい、ポーズ。
「はい、オッケー」
渡された紙の半分を終了した時点で私達は動きを止めた。
「鈴。そんなに照れなくても…」
「だって、だってぇ…私の年齢でこのはいポーズは辛いよぉー…」
「年齢って…。鈴、僕の妹だよね…?」
棗さんが何か呟いてるけど美鈴ちゃんの耳には届かず、顔を真っ赤にしてまたしゃがみこんでしまった。
「うーん。鈴ちゃん、華菜ちゃんと少し休んでて。棗、ちょっと男子パートのBパートの所なんだけど…」
「うん?」
二人が相談を始めてしまったから、私は葵さんの言う通り美鈴ちゃんと休むことにした。
ベンチに腰掛けて、二人で振付の載った紙を確認しつつ、双子のお兄さんの動きを確認していた。
花形の二人は、ちょっとハードなパートがある。
鏡移しのようにぴったりと息の合った演技をして、棗さんが手を組んで前に差し出して、葵さんがそこへ足をかけると棗さんの手に押し上げられて、勢いよく跳びあがり、宙でくるっと回転して着地した。
「わぁっ、葵お兄ちゃん凄いっ」
「うんっ。すごいねっ」
そこからバク転、側転とアクロバティックな演技をしていく。本当に花形だ。こんなの他の子出来ないよ。
「バク転、かぁ…。私も出来るかなぁ」
「え?美鈴ちゃん?」
「ちょっと、やってみようかな?」
「え?え?美鈴ちゃん、ちょっとっ」
私の制止も聞かず、美鈴ちゃんは立ち上がるとベンチから離れ、腕を振って勢いをつけると高くジャンプして綺麗なバク転を見せた。
すごい…。すごいけど…。
「鈴っ!スカートで何してるのっ」
「……あ」
「あ、じゃないよ、鈴ちゃんっ。もうっ」
そうなるよね。
「ご、ごめんなさい…。お兄ちゃん達がくるくる回ってるの見てたら、つい…」
しょんぼり。もう、仕方ないなぁ。私と双子のお兄さん達は呆れ半分の苦笑い。
「じゃあ、罰として、鈴ちゃんにはこの女子パートのDパートをやって貰おうかな」
「ふみっ!?」
Dパート…美鈴ちゃんが一番恥ずかしがるパート。何気にちゃんと見てるんだね、葵さん。
「華菜ちゃん。鈴一人だと恥ずかしいだろうから、一緒にやってあげてくれる?」
「分かりました」
頷いといてなんだけど、飴と鞭ってこういうこと?それとも棗さんも美鈴ちゃんの踊ってるの見たくて外堀を固めた?
「うぅー…やるけど。やるけど、お兄ちゃん達、揶揄わないでよ?」
「うん。分かったよ」
「ちゃんと可愛いって褒めるから安心して」
「………既に揶揄われてる気がするよー…」
えーっとDパートはー…。もう一度美鈴ちゃんと二人で確認して、頷き合う。
二人並んで立って、手を猫の手にして。
「せーのっ」
私の掛け声と同時に、右に向かってにゃんにゃんにゃん。左に向かってにゃんにゃんにゃん。左を向いて、美鈴ちゃんの肩に手を置いて前にジャンプ、後ろにジャンプ、前に三回連続ジャンプ。反対向いて、同じくジャンプ。そしてもう一回右に向かってにゃんにゃんにゃん。左に向かってにゃんにゃんにゃん。そしてはいポーズ。
「………ぷっ……」
うん?笑い声?
私が双子のお兄さん達を見ると、必死に自分達じゃないと顔の前で手を振る。
なんであんな必死に…あ、美鈴ちゃんが真っ赤になって睨んでる。
でも確かにお兄さん達じゃなさそう。だってそっちから声はしなかったもん。
声がしたのは確か…首を横に向かせ、大きな木が茂るそちらへ視線を向けると、
「あっ、おいっ。透馬っ。お前が笑った所為でバレたでっ」
「なんだよっ、お前だって大地だって笑ってるじゃねーかっ!」
「だって、姫ちゃん可愛いすぎーっ、あははっ」
商店街三大美形が笑い合っている。
「うぅぅー…っ」
美鈴ちゃんが真っ赤になって私の後ろに隠れた。
「全く。いきなり俺をここに呼び出すから何かと思えば…」
あれ?鴇さん?
三人に気を止める事なくその長い足で近寄ってくると、美鈴ちゃんを抱き上げた。
「パフォーマンスの練習か?」
「………うん」
「ああいうのは中途半端にやると逆に恥ずかしいぞ。開き直れ」
「だ、だって…恥ずかしいものは恥ずかしいんだよー…似合わないし、私がやっても可愛くないよ…」
…いやいやいや。美鈴ちゃん。何を言ってるの?美鈴ちゃんが似合わなかったら他の誰が似合うって言うの?
私が心で叫んでる言葉を双子のお兄さん達が代弁している。
「そうそう。開き直りも大事だぞっ。はははっ」
「それに可愛いでっ。ははっ」
「うんうん、可愛いー。ははははっ」
笑ながら言われても説得力ないよね。
美鈴ちゃんがむーっと眉間に皺を寄せ始めた。あ、これやばいんじゃない?
「……気にするな。美鈴。思い切り言ってやれ」
「うん。鈴ちゃん。言っちゃえ」
「鈴。ハッキリとね」
お兄さん達の許可が出た。
美鈴ちゃんはすーっと大きく息を吸って、
「お兄ちゃん達なんて大っ嫌いっ!!」
叫んだ。
鴇さんの首に抱き着き、うるうると真っ赤な顔で涙目になっていた美鈴ちゃん。
突然の嫌い宣言に衝撃を受けた三人は一斉に崩れ落ちた。けど、これに関しては自業自得だよね。
今日の練習はここまでと私達は公園を後にした。
後に、美鈴ちゃんに三人が土下座をして謝ったそうだけど、暫く美鈴ちゃんは許してあげなかったみたい。




