小話17 旭の誕生
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
俺達は今病院の一室にいる。
「あら、遅かったわね」
その佳織母さんの一言にポカンと口を開けて呆けてしまう。
いや、これは俺達は悪くないと思うんだ。ほんのついさっきだぞ?親父から俺と葵、棗に一斉送信のメールが来て、慌てて自宅へ引き返し親父の車に乗って急いでここへ来たんだ。
だと言うのに、既に赤ん坊、俺達にとっての末の弟妹になる赤ん坊が佳織母さんの腕の中にいる。驚いて当然だろ。
「佳織さん。お疲れさま。因みにどっちだい?」
全然呆気にとられずにいた祖母さんが佳織母さんに近づいて微笑む。
「男の子ですよ」
にこにこと笑う佳織母さんにハッと我に帰り、俺達もぞろぞろと佳織母さんのベッドの側へ行く。
親父が佳織母さんの側へ寄って、お疲れさまと囁きその頭を撫でた。
「うふふ。全然疲れてないわ。私の体、本当に安産型みたい」
言いながら、佳織母さんはそっと親父へ赤ん坊を渡す。
「あぁ…。俺の子だな」
「ふふっ、そうね。誠さんそっくりだわ」
親父が祖母さんへその子を受け渡した。
「あら。骨がしっかりしてるのね。誠の小さい時と同じ。本当にそっくりなのねぇ」
祖母さんが懐かしそうに目を細めた。
「ほら。鴇も抱っこしてみなさい。弟よ」
佳織母さんに言われて、産まれたばかりの弟を受け取る。
小さくて、でも暖かい…。
「葵と棗が生まれた時もこうやって抱っこしたな」
あの時は赤ん坊がこんなに軽い何て思わなかったっけ。
「鴇兄さん、僕にも見せてっ」
「僕も見たいっ」
双子が俺の足にまとわりついて催促してくる。それが少し餌を強請る小鳥の様で思わず笑みが浮かぶ。
抱く腕をそのままに俺は膝を折った。
「父さんと同じ髪の色」
「目は何色だろう?」
「可愛いね」
「うん。可愛い」
双子がじっと弟を眺める。
……ん?そう言えば美鈴は?
こう言う時、真っ先に来そうなもんだけどな。
その姿を探すと、美鈴は病室の入り口に立っていた。
近寄りたいのに近寄れない。そんな苦し気な表情をして。
「…どうした?美鈴。こっちに来い」
俺が呼ぶとハッとして美鈴はゆっくりと近寄ってくる。
そして、俺の側へと立つと、弟の手をそっと自分の指の腹でつついた。
何してんだか。ふと呆れ半分で笑みを浮かべて美鈴を見て、俺の顔から笑みが消える。
「美鈴…、お前…」
美鈴がその瞳からぼたぼたと涙を零していたから。
「鈴っ!?」
「鈴ちゃんっ!?」
双子が慌てて美鈴の頭を撫でた。突然泣き出したのだから慌てて当然だ。
俺だって今内心ではかなり慌ててる。
「…え?あ、…私、なんで…」
ゴシゴシと手の甲で美鈴は涙を拭うが、涙は止まらないようだ。
「美鈴…。おいで」
「……ママ」
「ほら、こっちにおいで」
両手を広げ自分の下へ来るように言う佳織母さんに美鈴はふらふらと近寄り抱き着いた。
「大丈夫。ほら、ママの心臓の音、聞こえるでしょう?」
「う、ん……」
「ママは大丈夫。それどころか新しい命を一つ、産み出したのよ?美鈴に家族が増えたの」
「うん…」
「私はちゃんとこうして美鈴の側にいるわ。安心して、いいのよ…」
「うんっ…」
佳織母さんの胸に顔を埋めて美鈴は泣いた。
何を思い出したのか、どうしてあんなに苦しそうに泣いたのか。俺には見当もつかない。
ただ、俺達が分かるのは、泣いている美鈴を佳織母さんがその慈愛に満ちた笑顔で美鈴の全てを受け入れ包みこんでいるという事だけだった。
その数分後、唐突に泣きだした旭に全員が驚くのはまた別の話。
美鈴にとって病院は、母の命を失った場所であり、そして…。




