表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/170

小話11 唯一の汚点

※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。

ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)



あの女二人に関して、調査を進めていたら結構な埃が出て来た。

これは佳織も美鈴も、そして佳織の両親ですら知らない結果だ。


二人は、この村の住人ではない。

嶺一と佳織の同級生で、高校へ入学した時に嶺一に一目惚れし、ファンクラブを発足。

この時、佳織は既に嶺一と付き合っていたが、それを秘密にしていた。互いに美形だったため、余計な噂を立てられるのが面倒だったからだ。

だから、二人は嶺一は誰のモノでもないと安心し、彼氏を作った。彼氏の事を彼女達は彼女達なりに愛していた。

それは間違いではないだろう。現に今の旦那はその時の彼氏である。

そして高校卒業間際。

実は佳織と嶺一が付き合っていた事を知る。

その事実を知り、彼女達は憤った。佳織と付き合えるのであらば自分達にもチャンスはあったのではないかと。

何とも傲慢な考えで愚かな怒りだったが、二人は佳織の存在により自分達でもどうにかなると考えてしまった。関係を隠す位の仲だと。ならば壊すのはたやすいのではないかと。そう結論に辿り着いてしまった。

二人は早速行動に移った。

彼氏にはばれないように。嶺一との接触を図った。

しかし、嶺一はそれを冷たくあしらった。当り前だ。自分には彼女が、二人には彼氏がいたのに嶺一に色目を使ってきたのだから。そんな愚かな人間とどうにかなる人間だと自分は思われていたのかと腹を立てた。

あまりにも冷たくあしらわれた二人。しかし嶺一はそれから一切二人を自分の側に近づく事を許さなかった。

ならばと佳織に挑んだが、佳織にはあっさりと返り討ちにあった。美しさ、知性、力、全てにおいて叶わなかった。しかも佳織に手を出した事により嶺一は二人から更に遠ざかってしまった。

二人は落ち込んだ。

落ち込みに落ち込み、側にいられないならせめてと、彼氏と入籍し彼の産まれた村へと移住した。

年上の二人の彼氏は村の住人だった。愛しているとはいいつつも、そんな打算があった。しかし彼氏二人はそれでも構わなかった。それぞれ自分の妻を愛していたし、昔から嶺一の見目の美しさを知っていたから。

村での生活は平和そのものだった。村の中には嶺一に振られた女が数人いたし、傷の舐めあいではないが仕方ないと諦め、自分達の旦那を心の底から愛せるようになっていたのだ。

そんな時、ある情報が村に届いた。

佳織と嶺一が入籍したと言う情報だ。

嶺一は村長の息子だ。しかも佳織の実家もほぼ村長の家と同じと言ってもいい。

となれば、嶺一が村に帰ってくる。

もしかしたら…もしかするかもしれない。

ここでいい印象を与えさえすれば、自分達はもう一度嶺一に近づけ、延いては体を繋げる事が出来るかもしれない。そこで子さえ作れたら佳織と同じ位置に立てる。

そう考えてしまった。

だが、二人の予想に反して、嶺一も佳織も村へは帰って来なかった。

それどころか、風の噂で子が出来たと流れてきたのだ。

二人は佳織と自分との差を見せつけられた。

佳織は最高の夫を手に入れ、最愛の夫の子を手に入れた。なのに、自分達はこんな辺鄙な村で、『愛してもいない旦那』と地味な暮らしをしている、と。

そう、―――思ってしまったのだ。

愛しているはずの旦那を愛してもいないと考えてしまった。違う。自分達は旦那を愛している。そう考えれば考えるほど、心の中が荒んでいく。何故なら二人が本当に欲しいと思っていたのは嶺一だったから。嶺一を好きな事は否定できない。けれど旦那を愛しているのもまた事実。だけど、愛していないと思ってしまった。そんな事はない。でも、じゃあ、何で…?ぐるぐると見えない迷宮に二人は足を突っ込んでしまう。


『愛していると思っていた旦那』と『手に入れたくて仕方ない嶺一』


二人は、二つの想いに苛まれ、―――最終的に狂ってしまった。

考えに考え過ぎた思考は、ねじれにねじれまくり、最終的に。


『自分は旦那を愛してる。けれど、嶺一も愛している』のだと。


歪んだ答えに辿り着く。

どっちも自分達は欲している。なら答えは一つしかない。


―――どちらも手に入れればいい。


旦那の事は愛している。その穏やかな空間を失くしたくはない。けれど、嶺一も欲しい。

その二つを手に入れるにはどうしたらいい?

考えた結果。邪魔だったのは…佳織だった。

二人は佳織を消す手段を考えた。

旦那の事は愛している。だから旦那に手を貸して貰う訳にはいかない。だって愛してるから。

誰かに依頼しよう。里帰りを理由に村を出て。里帰りの理由にはもっともな理由が必要だ。なら、両親に孫の顔を見せる為とすればいい。

そうだ。そうしよう。愛する旦那の子を宿すのはきっと幸せな事だ。

二人は子を成し、里帰りをした。そして、ネットを通じて人に依頼したのだ。殺して欲しい人がいる、と。

足をつけずに依頼が成功した事を知り、二人は村へと帰る。

そして、そこで待っていたのは佳織ではなく、嶺一の訃報だった。

車の事故に見せかけると言う話は聞いていた。そして、その依頼をしたのは自分達の両親だと、親を売る形にしてアリバイを作り村へ帰って来たのだ。

なのに、もたらされた情報は、佳織はその車に乗らず、嶺一が乗っていたという事。

自分達が欲しかった男が、この世からいなくなった。


欲しくて欲しくてやまなかった最愛の男がこの世から消え去った。


二人は更に狂い始めた。

二人の心の中にあった『旦那への愛と嶺一への愛』が『旦那への狂愛と佳織への憎悪』へ変わったのだ。

佳織へいつか復讐を。

そう願って罠をはり、佳織が村へ帰ってくるのを今か今かと待ち構えていた。

だが、やはり佳織は帰って来なかった。

佳織へ向くはずの憎悪は全て旦那への愛へと切り替わっていく。

二人は旦那を束縛した。何処へ行くのも一緒。それこそトイレだって一緒に行くくらいだ。

束縛に疲れ果てた旦那二人。旦那からの注がれていた暖かな柔らかな愛は日を増す毎に薄れ、最終的に二人への愛は風前の灯となりかけていた。

しかし、旦那二人は彼女達二人を見放す事が出来ない理由があった。


それは―――旦那二人もまた惚れた女がいたから…佳織に惚れていたからだった。


手の届かない高値の花。それに恋い焦がれ狂いそうになる気持ちを理解出来たからだ。

結局は、この二組の夫婦は皆それぞれ恋に狂い愛に狂わされたのだ。

そんな自分達の間に産まれた子供。四人は思った。

せめて狂った自分達でも、子供だけは守ろう。育てて見せよう。

そう決意した。

そして子育てを必死に頑張り、心が微かに落ち着きを取り戻したと言うのに。

佳織が子供達を連れて里帰りして来た。

旦那への愛が子供への愛が、全て佳織への憎悪へと塗り潰された。

なんとしても佳織を苦しめ、その存在を消したい。

だが、結局は佳織に返り討ちにあった。


どうしようもない女達だ。狂ったのだって所詮、美形じゃないと自分には釣り合わないと思った下らないプライドからだろう。つくづく腐った女達だ。これに関しては旦那の方も、同罪だな。

知っていても言わなかった事が腐る程あるに違いない。

今はあの女達は牢獄へ入れられてる。きっと、数日も持たないだろう。

あれだけ精神がやられているのだから。

ふぅと溜息をつき、報告書に調査結果を書く手を止めた。

一応書くだけ書いたけれど、これは提出すべきか否か。迷う所だな。

正直、嶺一の事をあまり表に出したくない。

「……全く。面倒な事だけを押し付けて行く癖をどうにかしろ」

凝り固まってしまった肩をほぐすように動かすと、いきなり部屋の襖が開けられた。

「誠さん。ご飯で来たって。行きましょう?」

和室の窓際にある机に向かっていた体を動かして、声のした方を向く。

そこには苦笑した佳織の姿があった。その苦笑の理由は直ぐにわかった。

「鈴ちゃんっ、待って待ってっ。まだ髪が濡れてるよっ」

「鈴、せめてタオルで拭いてよっ」

「大丈夫だよ~。これくらい。今日も夏日で暑いし。直ぐに乾くよ~」

「駄目だってのっ。こら、姫っ」

「逃げたらあかんてっ。お姫さんっ」

「姫ちゃん、つっかまえーたーっ、ってあれ?」

「へへー、捕まらないもーんっ!わきゃっ!?」

「ほい、捕獲。ほら葵、タオル貸せ」

「みぎゃーっ!わしゃわしゃされるーっ!?」

……元気だな。

家中に響いてるんじゃないか?

双子と鴇の友達達が美鈴を捕まえようと躍起になってる側からあっさりと捕獲成功した鴇の姿が目に浮かぶ。

「……ねぇ、誠さん?」

「うん?なんだい?」

「私は……ううん。何でもない」

また、そうやって我慢する。私は立ち上がり佳織を抱きしめた。

「佳織。愛してるよ」

「………私も、愛してる」

軽く触れるだけのキスをする。

そして、私達は子供達の待つ部屋へと向かった。


パパも頑張ってるんですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ