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小話10 双子の油断

※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。

ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)



どうして気付けなかったんだろう…。

僕は目の前でぴくりもせず深く眠る妹を見て、拳をきつく握った。

ずれた布団をかけ直して、じっと妹を見る。

恐怖に泣いて、赤くなった目尻。張られたであろう頬の赤み。

お風呂から上がった時に見えた細い手首についた赤い跡。

知らず、僕の瞳からは涙が流れた。

せめて、嗚咽だけは漏らすまいと、下唇を噛んでぐっと堪える。

目の前の葵にばれたくなかったから…。けれど、

「………くっ…」

苦し気な嗚咽。自分が漏らしたのかと思った。

でも、違う。僕は我慢した。なら…誰が…?

ふと顔を上げると、鈴が寝る布団の向こうで、葵が泣いていた。

「…葵……」

名を呼ぶと、顔を上げて僕を見て。僕も泣いていた事を知って…。

「棗……。僕、悔しい、よ…」

「……葵…。うん、僕、も…」

二人で同時に鈴を見た。

守れなかった事が悔しい。悔しくて堪らない。

「守るって、誓ったのに…」

「なんで、僕達は、油断したんだろう……」

油断…。葵の言葉に僕は少し違和感を覚える。

僕達は本当に『油断』していた。それは確かだ。けど…。

「……ねぇ、棗?……僕達、あの時『油断』したよね?」

葵も自分の言葉に違和感を覚えたんだろう。目に浮かんだ涙をごしごしと拭って、その瞳に強い意志を宿し僕を見据えてきた。

慌てて僕も涙を拭って、そして頷く。

「した。『油断』した」

「僕達が?鈴ちゃんの事で?」

「………あり得ない」

「そう。あり得ないよ。…なのに、『油断』したんだ。なんで…?」

あの夜。

僕達は佳織母さんに言われて、ずっと鈴の側にいたんだ。

勿論絶対離れる気なんてなかった。なのに、僕達はあのオバサン二人に話しかけられて…。

「言い訳に聞こえるかもしれない。でもね、棗。僕、あの時の事、全然覚えてないんだ」

「…僕もだよ」

あのオバサン達が僕達の意識を引こうとしたのは知っていた。

話かけられてウンザリしていた。ウンザリしていた筈なのに。

僕達は、あの時、何故か『繋いでいた筈の鈴の手を離して』いたんだ。

何故離したのか?

僕達があのオバサン達を優先するなんて事絶対にあり得ないのに。

「…その時の事を思い出そうとしても、感情を振り返ろうとしても、まるで心や頭に靄がかかったみたいに思い出せない」

「棗も、なんだ…。僕もだ」

どうして?なんで?

自分の事のはずなのに、しかも前の事ならいざ知らず。今日の事だよ?

思い出せないはずがないのに…。

「なんだ。まだ起きてたのか、二人共」

「父さん…」

戸を開けて部屋に入って来た足音と共にかけられた声に僕達はバッと顔を起こして返事を返した。

「佳織母さんは?」

「とりあえず医者に診せてきたよ。佳織も子供も問題はなさそうだ」

「良かった…」

鴇兄さんが言うには、佳織母さんも体調を崩して父さんと一緒に医者に診て貰いに行ったと言っていたから、僕達は佳織母さんも心配だったのだ。

でも、問題ないと父さんが言っていたから、ホッとする

「それで?お前達はなんで泣いてたんだ?」

父さんが鈴の枕元へ移動して、そっと鈴の頭を撫でながら僕達に問いかけてきた。

「…父さん。僕、鈴ちゃんを守れなかったよ…」

「僕、鈴と手を繋いでいた筈なのに…」

一度引っ込めた筈の涙が再び溢れてくる。

父さんは一瞬驚いたような顔をして、穏やかに微笑んだ。僕達に近くに来いと手招きして、それに素直に従って父さんの両サイドに葵と向かい合う様に座る。父さんは泣いてる僕達の頭をその大きな手でわしわしと撫でた。

「……父さんも同じだ。佳織母さんを守ると言っておきながら、守れなかった…」

「父さん…」

「けどな、葵、棗。守れなかったと言ってそこで止まったら駄目だ。どうして守れなかったか、考えるんだ」

どうして守れなかったのか…。

僕と葵は顔を見合わせて、こくりと頷き、言い訳になるかもしれないけどと前置きをして、父さんに話した。

油断なんてするつもりなかったと。気付いたら鈴と手を離していたと。その時のことを思い出そうとしても全く思い出せないと。

すると、父さんは眉間に皺をよせて何か考え込んでしまった。

「……正か、……成程な」

今何か言っただろうか?

父さんの瞳を覗き込むと、父さんは何でもないと頭を振った。

「…父さん。僕達鈴ちゃんや佳織母さんに嫌われるかな?守るって誓ったのに、守れなかった…」

葵が不安そうに問いかける。僕も嫌われる可能性を感じていたから、きっと同じく不安な表情になっているだろう。

けれど、父さんはそんな僕達の不安をあっさりと笑いとばした。絶対的な確信の言葉を持って。

「ははっ。そんなこと絶対にあり得ないさ。なぁ、美鈴?」

「……………うん」

声が聞こえて、僕達は慌てて父さんの手が置かれた鈴の方を見る。

鈴の目がゆっくりと開かれる。

「い、いつから起きてたの?」

「たった今」

そう言いながらむくりと体を起こして、鈴は葵の手を握った。

「嫌いに何てならないよ。ごめんね、葵お兄ちゃん。迷惑…ううん。心配かけちゃったんだね」

鈴の手が葵の涙を拭う。

「鈴ちゃん…」

「勿論、棗お兄ちゃんも、誠パパの事も嫌いに何てならないよ。絶対に」

言いながら、今度は僕の胸に抱き着いてきた。

「ありがとう…。誠パパ、葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん」

ぎゅっと抱きしめる腕に力が込められ、その暖かさにまた泣けてきた。

腕の中でまた鈴が眠りに落ちて行く。

「あり得なかっただろう?」

父さんがまた僕達の頭を撫でてくれた。僕と葵は必死に頷く。父さんはそれに苦笑した。

「ほら。お前達はそろそろ寝ろ。美鈴と一緒に寝てやれ。私は後片付けをしてくるから。佳織の様子も気になるしな」

そう言って、僕達に布団に入る様に促して。僕達は促されるまま布団へ潜り込む。

鈴を真ん中にして川の字に寝ると、

「……お休み、葵、棗。…そうだ。二人共。これだけは言っておく。『お前達は何も悪くない』からな。だから、気に病まなくていい。美鈴をこれからも守ってやれ」

僕達は何も悪くない…?

手を離したのに?鈴の事に気付けなかったのに?

それでも、父さんの言葉には何か含みがあった。

なら、今はそれを信じよう。父さんの言う通り、鈴を守ろう、今度こそ。

僕は鈴を抱き寄せ、葵が鈴の手を握って。いつもの眠りの態勢をとる。

父さんはもう一度僕達の頭を撫でて、立ち上がり電気を消して部屋を出て行った。

「………誠さん……」

部屋の外から佳織母さんの声がしたけれど、僕達は眠気に抗えずそのまま深い眠りへと落ちて行った。

記憶力には自信があるはずなのに…。

あ、作者は全くないです。聞いてない?そですか(´・ω・`)

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