小話8 お寝惚け美鈴
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
午前中の畑仕事も終わり、昼食も食べ終わった。
程よい運動と満たされたお腹。となると残るは…。
「…すー…すー…」
昼寝である。
(とは言え、流石に俺は寝る気になれへんなぁ)
透馬は透馬で銀細工モチーフを探しに出かけたし、大地は山探索してくるとか突進して行った。あいつは熊だ。…いや、それは熊に失礼やな。
鴇は縁側で足を降ろして何やら本を読んでるし、それなら俺もそれに付き合おうと本を開いていて廊下で寝そべっているのが今の現状。
今俺達がいる縁側と隣接している部屋の畳の上で座布団を枕に双子に挟まれて気持ち良さそうに眠ってるお姫さん。…和む。
「奏輔。お前は何を読んでるんだ?」
三人を起こさないように小声で話かけてきた鴇に、読んでいた本を閉じて表紙を見せた。
「シンデレラ…?お前、どうした?気でもふれたか?」
「失礼な事言うなや。ってか、鴇。お前ドイツ語も読めるんかい」
「美鈴が覚えようとしてたからな」
そうまでして負けたないのか…。徹底し過ぎやろ。
まぁ、人の事は言えないか。俺だってお姫さんが読もうとしてたから、つい年上のプライドが刺激されて俺も読もうと思ってしまったのだ。正直何を書いているのかさっぱり分からないが、話の流れを知っているから、大体意味を理解して感じ取っている。読めないから感じ取るとしか言いようがない。
いっそ、ドイツ語の辞典でも借りて来てやろうか…。
「ドイツ語の辞典だったら、俺のがある。貸してやろうか?」
「……おう。借りるわ」
人の思考を読むな。とは思ったものの、借りれるなら借りたいから言わないでおく。
「そういや、鴇は何読んでるん?」
「俺?俺のは…」
鴇も俺と同じくパタンと本を閉じて表紙を見せた。
えーっとなになに?……『弟と妹への接し方』…?
「…って、なんでやねんっ」
思わず典型的な突っ込みを入れてしまった。
「必要ないやろ」
「俺もそう思ってるんだが、読んでみたら意外と面白くてな」
「面白い?」
「あぁ。面白いほど、当てはまらないんだ。こいつら」
「あぁー……規格外やもんなぁ」
納得してしまった。確かに双子もお姫さんも当てはまらないだろう。そもそも、鴇も含め子育てに悩む必要はなかったんじゃないか?
二人で昼寝中の双子とお姫さんを眺めた。
すると、唐突にお姫さんがむくりと体を起こした。
「美鈴?」
不思議に思ったのは鴇も同じだったようで、お姫さんの名を呼んだ。
けれど、それには一切反応なく、キョロキョロと周りを見て、隣で寝ていた棗を揺らした。
「ん、んー…?どう、したのー…?鈴」
目を擦り起きる棗に満足したお姫さんは、今度は葵を揺すって起こす。
「…ん…?、鈴、ちゃん…?」
葵も起きた事によってお姫さんは更に満足して。立ち上がると二人の手を引いてこちらへ歩いてきた。
「お姫さん?」
一体何がしたい?お姫さんの目を見ると、完璧におねむの目だった。むしろ半分以上閉じてる。
双子から手を離すと、何故か次は鴇をぐいぐいと引っ張り始めた。因みに手を離された双子は崩れ落ちる様に互いに背を合せ眠っている。
「お、おい?」
縁側から庭に足を降ろす形を取っていた鴇は、強制的に俺が寝そべっていた廊下の方へ引っ張られ庭に降りていた足は完全に廊下に伸ばされていた。障子戸のサッシに背を預けた状態になった鴇の顔は意味が分からんと有体に語っている。
すると、お姫さんは鴇の右足を枕に棗を寝かせ、反対の左足に葵を寝かせた。
それにさらに満足そうな笑みを浮かべて、お姫さん本人は鴇の膝の間に入り、胸に背を預けて再び眠る態勢に入ってしまった。
「………美鈴。お前、何がしたかったんだ…?」
お姫さんに問うも聞こえてくるのは寝息だけ。その表情は何とも幸せそうだ。
双子も眠気に勝てなかったのか、鴇の腿を枕に眠っている。
「お姫さん、寝惚けながら甘えるなんて、可愛いなぁ」
鴇を揶揄うようににやついて言うと、逆に口の端だけ上げた不敵な笑みを返され。
「羨ましいか?」
と逆に切り返される。
羨ましいか?だと?
全く、そんなの、答えは決まってるだろ。
「羨ましいに決まっとるっ…」
心の奥底からの叫びだった。
ふみみ~?…すよ~…。




