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小話7 初めての○○…。

※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。

ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)



ホテルの部屋。

ふと目を覚ました。隣を見ると、鈴ちゃんが棗に抱き着いて寝ている。

…羨ましい。

素直にそう思う。嬉しい事があったり、髪を結ったりしている時は抱き着いてくれる。それも時々だけど。

でも棗は違うんだよね。

鈴ちゃんは棗にだけは遠慮なく跳び付く。鴇兄さんにですらたまに躊躇うのに棗には一直線だ。

……何が違うんだろう?

抱き着いてくれない訳じゃないし、こうやって一緒に寝ても平気そうなのに。…いや、平気じゃないのかな?

一緒に寝ていると言っても、棗がいないと多分鈴ちゃんの眠りはこんなに深くならないよね。棗が言うには鈴ちゃんは一人で寝ると悪夢を見るらしい。

それは僕と二人で寝ても一緒。多分棗の安心感でぐっすり眠れるんだろう。そんな棗に対抗したくて、鈴ちゃんの髪を結うのに立候補したけれど。

そう言えば、今日お風呂に入ってる時、鴇兄さんが言ってた。鈴ちゃんは自分で覚悟を決めてさえいれば、男に触れるのに問題はないらしい、と。すると大地さんが言った。今日自分から大地さんの指を握って来たって。あの時は覚悟を決めていた感じではなかったって。だとするならば、それは無意識だったってことかな?それよりも怖い事や気になる事があったってことだよね?

今一解らなくて、僕はそっと目の前で眠る鈴ちゃんの頭を撫でた。

「………ふみぃ……」

くすぐったそうに身を捩って、僕の方へころんと体の向きを変えた。

……可愛い。

考えてた事が飛び去るくらい可愛い。

体の中で方向転換されたからか、棗がぼんやりと目を覚ました。

僕の視線に気付いたのか、ぱちぱちと瞬きをして、覚醒したその目でどうした?と問いかけてきた。

「何でもないよ。目が覚めただけ」

小声で言うと、

「慣れない場所だしね」

棗もあっさりと返してきた。こう言う所は双子だなと思う。棗も眠りが浅かったみたいだ。

「今日の、鴇兄さんの話。覚えてる?」

「うん。僕も今考えてたとこ」

一瞬二人で黙り込み、また棗が口を開いた。

「鈴ってね、葵。こうやって抱き着いて寝る時、一つ特徴があるんだ」

「特徴?」

「そう。それはね。僕の心臓の音を聞いてるんだよ」

言われて、鈴ちゃんを見るといつの間にかまた方向転換して、棗の胸に額をくっつけるようにして寝ていた。

「理由は解らないけど、いっつもそうなんだ。試しに背中から抱っこして寝た事もあるんだけど、駄目。直ぐにこっちを向いてこの姿勢で寝るんだ。鈴は僕に安心してるんじゃなくて、心臓の音を聞きたいんじゃないかな?」

その可能性はなくはない。なくはないだろうけど、でも…。

「それでも、それだけじゃないんじゃないかな?だって、僕がいくら心臓の方へ向けて抱っこしても鈴ちゃんはこんなに穏やかに寝ないと思うし」

「そうかな。…そう言えば、初めて鈴と会った時。鈴って鴇兄さんの膝で寝てたよね?」

「うん。寝てたね」

「あの時は心臓に耳を当ててなんかいなかったよね?」

「いなかったね」

僕と棗は首を傾げた。やっぱり良く解らない。良く解らないけど…。

「棗が羨ましい。鈴ちゃんにこんなにくっ付いて貰えるなんて」

「そう?僕は葵が羨ましいよ?だって、葵。一緒に寝るなんて兄妹としてしか見られてないって事じゃない。その点葵は、鈴といつも遊んでるし、葵が撫でると鈴はすっごく嬉しそうな顔をするし」

……無い物強請りをするお互いに苦笑するしかない。

「僕、鈴が好きだよ。初めて見た時から。女の子って意味で好きだ」

「うん。僕も鈴ちゃんが好き。でも…もし鈴ちゃんが兄としての僕を望んでいるなら」

「……うん。今は兄として鈴の側にいよう。僕達の大事な女の子の為に」

頷き合う。今はこの気持ちを抑えて、兄として、妹である鈴ちゃんの側にいよう。

改めて二人で決意すると、突然、むくりと鈴ちゃんが起き上がった。

今の話を聞かれていたのかと二人で戸惑う。

「……おトイレ、行く…」

目をこしこしと擦りながら、ベッドをもそもそ降りる鈴ちゃんの姿を見て、ほーっと二人して安堵の息を漏らす。

「びっくりした…」

「うん。びっくりした…」

暫く鈴ちゃんが戻ってくるのを無言で待つ。

………あれ?戻ってこない?

部屋を出て直ぐ近くにトイレはあったよね?

視線で棗に見に行く?と聞くと、棗は頷く。二人でベッドを降りて部屋を出る。

すると、鈴ちゃんはトイレからふらふらと蛇行しながら戻ってくる所だった。何事もなくて取りあえずホッとする。

「鈴、大丈夫?」

棗が近寄り、鈴ちゃんの手をとると、ふにゃりと微笑んだ。

うん。可愛い。

「…だいじょ、ぶ…だよ~…」

全然大丈夫そうじゃない。むしろ盛大に寝惚けている。

いっそ抱っこして連れ帰った方が早いのでは?

そう思ったのは僕だけじゃなかったらしい。棗も少し身を屈めて鈴ちゃんを抱っこしようした。

自然と顔が近づく。すると、鈴ちゃんは何故か、顔を近づけて。


―――ちゅっ。


棗の口と鈴ちゃんの口がくっついた。


「―――ッ!?!?!?」


驚きに棗が体を離す。

顔を真っ赤にして、口を手の甲で隠す。

「………おやすみ、なさい、の、ちゅー…?」

何で疑問形?いや、それより、棗が硬直してしまった。

ふらふらと歩きだす鈴ちゃんを慌てて捕まえて、抱っこする。

ゆっくりと棗に近づくと、我に帰った棗が、あからさまに動揺していた。

「…う、わぁ…。嬉しいけど、さっき、決意したばかりだから、複雑…」

そりゃそうだろう。思わず苦笑する。

鈴ちゃんも寝惚けてるし。明日覚えてないんだろうなぁ。

ふと、腕の中の鈴ちゃんを見ると、何故か鈴ちゃんもこっち見ていた。腕に抱き上げてるから、少し高い位置から僕を見降ろしてる事になる。

首を傾げて何だろうと思っていると。顔が近づいて来て。


―――ふにっ。


僕の唇に何か暖かい物が触れた。

え、えーっと…?

目の前には鈴ちゃんのとろんとした水色の瞳。完全におねむだ。…いや、そうじゃない。そうじゃないだろ、僕。

ま、さか…?

驚きのあまり力が抜けかけて、落としそうになった鈴ちゃんを慌てて棗がキャッチして抱き上げる。

「……おやすみ、なさー…い…、おにいちゃん、たち……、すー…すー…」

完全に棗の腕の中で寝てしまった。

寝惚けてた。それは知ってる。けど…けどっ。

顔に熱が集まり、さっき唇に触れた感触を思い出して、つい手の甲で自分の唇を隠してしまう。今になって硬直した棗の気持ちが分かる。

これは、確かに複雑だ。

兄でいると決めた傍から、キス。凄く嬉しいけど…やっぱり複雑。

僕は肺の中の空気を吐き出すように大きく息を吐いて、棗を見た。

「…………寝られないかもだけど、寝よう。棗」

「………うん。そうだね」

僕達は部屋へ戻りベッドへ潜り込む。勿論鈴ちゃんを真ん中にして。

気持ち良さそうに眠る鈴ちゃん。でも僕達はさっきのキスの衝撃が大きすぎて、眠るまで大分時間がかかってしまった…。

実はお寝惚け美鈴は○○魔なんですww

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