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最終話 ∞に咲き誇る美しき鈴の華

コンコン。

ドアをノックする音が聞こえた。今顔を動かせないから返事だけすると、鏡越しにドアが開くのが見えた。

「お邪魔しまーすっ」

えーっと…動いても平気かな?

やっぱり鏡越しでメイクをしてくれているスタッフの方に視線だけで問うと、にっこり笑って頷いてくれた。

あ、やっと動いて良いんだ。

ゆっくりと回転する椅子ごと振り返ると、そこには華菜ちゃんと四聖の皆が立っていた。

「ふわぁっ…王子、超きれー…」

「こらこら。イチ。スカートを握りしめたら駄目だって。これから王子の為に歌うんだろ?」

「しゃ、写真撮ろうっ、王子っ」

「愛奈さん。それはカメラではなくポーチですわ」

皆滅茶苦茶動転してる。これから一番緊張するのは私なのに。

真っ白なウェディングドレスを纏って、ヴァージンロードを歩くのだから。

「皆、来てくれてありがとう」

この喜びが伝わる様にと、満面の笑顔でお礼とお出迎えをする。頭は下げられないからね。

「美鈴ちゃん…」

華菜ちゃんがゆっくりと歩み寄ってくれて、そっと手を握られる。

「美鈴ちゃん、おめでとうっ」

「ありがとう、華菜ちゃん。ごめんね、華菜ちゃんより先に」

「そんなの気にしなくていいのっ!それに恭くん、ずっと優兎くんの所で研修やら何やらで追われてて、私も私で覚える事一杯で、式なんて正直やってらんなかったしっ!」

「うん。でも…」

私より先に婚約して結婚までしてるのに式をする時間をあげられないなんて…。

華菜ちゃんは私の秘書となる為に今勉強の真っ最中。それでも鴇お兄ちゃんの見立てによれば、あと数か月で私の秘書としてやっていけるらしい。相変わらず凄いのです。私の親友は。あ、でも、華菜ちゃんが休みたいと言ったらいつでも休ませるつもりではいたんだよ?うちは決してブラックではないので。定時出勤定時退勤は絶対なのです。無理な仕事を回すような上司は…ねっ!勿論上司にだって限界はあるから、部下と上司がきちんと助け合って補える関係が理想です。残業だって一緒にやって一緒に上がれるのが良い。そもそも忘れがちだけれど私達まだ大学生だし、大体経営と言うのは…。

「王子。本当に綺麗だね」

おっといけない。経営論を脳内で爆発させてしまった。意識を戻して、

「円…。ありがとう」

円に素直にお礼を言う。すると桃とユメも祝福してくれた。そして、唯一愛奈だけは…。

「王子。おめでとう。それから…ありがとう」

「……うん。記憶、戻って良かった。ありがとう、愛奈」

あの後…。鴇お兄ちゃんのプロポーズを受けた後の事。

鴇お兄ちゃんは都貴静流との事を包み隠さず全て話してくれた。勿論嶺一パパが実は神様だったって事も聞いた。私がヒロイン補正だと思ってたのは、これ以上酷い目に合わないようにとパパが助けてくれていたのだと言う事も。たまに失敗もしていたと鴇お兄ちゃんは断言していたけどね。それでも嶺一パパは私を見守っていてくれてたんだと思って、また泣いてしまった。

…それで泣き終わった後にちょっとイラッとしたの。だってママが悲しんだ事は確かじゃない?ママは一杯一杯悲しんだ訳じゃない?…私はこの生をちゃんと全うしたら、全力で拳を叩き込みに行くと決めた。そう鴇お兄ちゃんに断言したら、突如メールが届いて、誰かと思ったら愛奈からで。記憶が戻ったと。理由は分からないけど突然取り戻したって。あぁ、嶺一パパのご機嫌取りだったのかなと再びイラッと…。愛奈の記憶が戻ったのは嬉しいけれどやっぱり拳を叩き込むのは決定事項だねと頷いたのだった。

そう言えば、都貴静流の存在。不思議な事に私に関わる人間以外はその記憶を抹消されていた。その存在は無かったことになっていたのだ。都貴静流と言う存在がそもそも生まれていなかったと。都貴の父親である都貴社長も白鳥財閥と関係を持てるほどの大きな会社を築きあげてなかったことになっていて。ここもきっと嶺一パパがどうにかしてくれたんだと納得した。でも、もう少しやり方があったんじゃない?って思うのも確かで。…うん。やっぱり殴ろう☆

「美鈴ちゃん」

「?、どうしたの?華菜ちゃん」

「私ね。美鈴ちゃんと親友になれて良かった。幸せになってね。幸せになろうね?美鈴ちゃん、大好きっ」

「華菜ちゃん…。も、もうっ、お化粧して貰ったばっかりなんだから、あまり泣かせるような事言わないでよ」

華菜ちゃんと二人目が潤む。今は泣くのを我慢して互いに微笑み合う。

「うあああんっ、王子ーっ」

「って、ユメがめっちゃ泣いてるーっ!」

「良かったぁ、良かったよぉっ!王子が幸せそうに笑ってるっ!こんなに嬉しい事ないよぉっ!」

「…だね。イチ。良かったじゃないか。やっと恩返しが出来たね」

「うんっ!うんっ!」

「私もやっと肩の荷が降りた気がしますわ。…王子、本当におめでとうございます。王子の行く末がどうか幸せなものであるよう祈っておりますわ」

「もう、皆して私を泣かせようとしてるでしょうっ」

ゆっくりと皆と目を合わせて微笑む。私、幸せだよ。こんなに私の幸せを祝ってくれる仲間がいて。一緒に幸せになろうと言ってくれる親友がいて。

もう一度皆にありがとうと笑うと、コンコンと再びドアをノックする音が聞こえた。

スタッフさんがドアを開けてくれて、ママが入って来た。入れ替わりにスタッフの人が出て行く。

「あら。すっかり準備終わったのね。皆も来てくれてありがとう」

黒留袖を着て、サラサラの金髪をきっちりと結い上げてるママは私の側に来て、綺麗にして貰った私の姿を見て満足そうに笑った。

「ママ、結局お着物にしたの?最後までドレスで悩んでたじゃない?」

「そうね。あんまりお腹圧迫するのも、と思ってたから」

ママと私の会話に皆がキョトンとする。そう言えば言い忘れてたっけ?

「ママ、今妊娠中なの」

「ふえっ!?」

「ちょっ、えぇっ!?」

「先生。おめでとうございますっ」

「おめでとうございます。佳織様」

「反応の違いが両極端で面白いね。皆」

「でも、この中で一番器用なのは、驚いた顔しながら冷静な声だしてる華菜ちゃんだと思うよ。どこで身につけたの?そのスキル」

ちょっと私にも教えたんさい。…日本語がおかしい。

うん?円?どうしたの近づいて来てこっそり耳打ちなんて。

「王子。王子の所って何人兄妹だっけ?」

「え?鴇お兄ちゃん、葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん、私、旭、蓮、蘭、燐で八人。内、ママが産んだのは私含め計五人」

「…大丈夫なのかい?その、体、とか」

「……色んな意味で問題ないと思う」

経済的には、私達の兄妹の半分が既にお金稼いでるし。そもそも、誠パパの嫉妬が爆発して出来た子だから、誠パパだって責任もって稼ぐだろうし。まぁ、ママだって都貴が持ってた写真を見て誠パパに殴りこみに行った訳だからどっちもどっちだし。あ、あの写真の真相は嶺一パパが残した手紙を預かってた人だったんだってさ。他の写真も然り。

以上の事を踏まえ問題ないとは思うんだけど。円が心配そうにしてるから、ママの方の会話を聞くように促すと。

「大丈夫よ~。私もう五人も産んでるのよ~。これからもう一人くらいどうって事ないわ。それよりも今年の実家での祭りに出られないのが残念なのよねぇ」

……まだ豊穣祭に出るつもりだったの、ママ…。

「余裕そうだね」

同じく円が隣で遠い目をしてくれた。うん。お願いだから大人しくしてて欲しいよね。

「あれ?そう言えばそろそろ受付に戻らないとじゃない?」

「あ、そう言えばっ」

「それでは皆様一緒に戻りましょうか」

桃の言葉に皆が頷きドアへと向かう。もう一度ありがとうと告げ手を振ると、皆また後でねと振り返してくれた。

残されたのは私とママ。

ママはゆっくりと私の側に来ると、衣装が崩れない程度の力で抱き締めた。

「ママ?」

「……うん。やっと美鈴の、娘の晴れ姿を見れたのかと思うと…」

「ママ…」

「本当はドレスにしようと思ったのよ。でもね…華の分もと思ったら、ドレスを選べなかったのよ。華の結婚式に絶対着ようと思って黒留袖、私買ってたの」

「え…?」

黒留袖なんて遺品の中に無かったはず。私がママの遺品整理したんだからそれは間違いない。

「ふふっ。美鈴が見覚えないのは当然ね。だって澪に預かって貰ってたんだもの」

「鴇お兄ちゃんの前世のお母さん?」

「今世のお母さんでもあるけれどね」

「そう、なんだ…」

「約束していたのよ。…私達に産まれる子供が異性ならば結婚させましょうって」

ママ?泣いてるの?

震えるママの声。それでもママは見られたくないのか私を抱きしめたまま顔を見せない。

私もママにかける言葉が見当たらない。

けれど、こうして温もりを感じているだけで、ママの気持ちが伝わってくる。

暫くママと抱きしめ合っていると、コンコンとドアがノックされ、返事をするとぴょこんと顔が四つ。こちらを覗いている。

「あら?どうしたの、息子達よ」

「ママ。息子達よって…」

そう言えば鴇お兄ちゃんが言ってたっけ?ママは滅茶苦茶照れ屋だって。…もしかして、今泣きそうになったの誤魔化してる?

「スタッフさんが呼んでた」

旭が代表して言うと、四人はひゃっと隠れて、それから声が遠ざかって行った。色々やる事があるのかな?

「…呼びに来たみたいだし、ちょっと行ってくるわね」

「はいはーい。行ってらっしゃーい」

ママが部屋を出て行き、残されたのは私一人。…色々、色々あったなぁ。前世を思い出して。お兄ちゃん達に会って。お兄ちゃん達の学校に行ったこともあったっけ。あの時は本当に怖かったけど、ママは私の事を考えて学校内を把握させようとしてくれていた。自分が守れるうちに余計なイベントを全て発生させようとしてくれていた。小学生になって華菜ちゃんって言う親友が出来て、優兎くんや樹先輩、猪塚先輩って言うライバルの様な友達が出来て。中学に入ったら弟が沢山増えて、申護持の三人なんか未だに色んな意味で目が離せないし、それに四聖って言う仲間が出来た。高校生になったら都貴静流の転生体が一杯襲ってきて怖い思いも沢山したけれど、私がこの世界で築きあげてきた絆が私を守ってくれた。そして大学生になって、全てに決着がついて…。

コンコンとノック音がして、がちゃりとドアが開く。

「美鈴」

「鴇お兄ちゃん…」

そして今日、私は鴇お兄ちゃんと結婚式をあげる。

「鴇お兄ちゃん。白いタキシード似合ってるね。でも、…疲弊してない?」

「…あいつらが、祝いと称してやたら絡んできたんだよ。っとに、毎度毎度あいつらは…」

「ふふっ。そんな事言いながら鴇お兄ちゃんだって、透馬お兄ちゃん達に救われて来た癖に」

「それはそれ、これはこれ、だろ」

鴇お兄ちゃんが私の側に歩いて来てくれると、そっと手を持ちキスしてくれる。

「…式が終わらないとキスも出来ないな」

「抱き付く事も出来ないし、噛みつく事も出来ないね」

「待て。美鈴。最後のはいらないだろ」

「安心して。鴇お兄ちゃん。しっかりと歯を磨いて私はいまだに虫歯ゼロだよっ!」

「俺が気にしてるのはそこじゃない」

丁々発止。言い合って、互いに笑い合う。

「あ、そうだ。忘れてた。そこで佳織母さんとすれ違ったんだが、その時これを落としていったんだ」

「?、なぁに?」

渡されたのは一通の手紙。何の飾り気もない白い封筒に入った、封もされていない手紙だ。

「誰宛てだろ?」

「さぁな。ただ、後ろ見てみろ」

後ろ?

くるっと裏返したそこには『愛する娘へ、母より』と書いていた。

「ママの文字で、しかも母より?って事は…私宛?」

「だと思って持って来た。本当なら佳織母さんに返す所だが…。何となくこれはお前に渡した方が良いと思って持って来た」

「私に?」

鴇お兄ちゃんはコクリと頷く。私は中から便箋を取り出し、四つ折りにされたそれを開いた。

そこには鉛筆で殴り書いたような文字がびっしりと書き綴られていた。きっと後で清書するつもりだったんだね。ママらしい。

えっと、内容は…。


『愛する娘へ。

貴女にこうしてお手紙を書くのは初めてね。

何から書いていいのか迷うけれど、まずはこれからでしょう。


「結婚、おめでとう」


私は前世の記憶を取り戻してから、ずっと、ずーっと、娘を、今度こそ貴女を守ろうと思って動いて来た。

それが裏目に出て鴇とぶつかったり、失敗して事件に巻き込まれたりもした。

けれど、やっとその努力が実を結ぶかと思うと泣きそうになる。

何度も何度も壁にぶつかったわ。

何度もくじけそうになった。

もう時効だと思うから書くけれど、大変だったのよ?

貴女に正規のルートだけを選ばせて、各攻略対象キャラのメインイベント発生させるのは。

今になって考えれば嶺一が手を貸してくれていたんだろうと分かるけれど。

何かあれば力を貸してくれていただろうとも思えるけれど。

でも、その時は一切解らなかったから。


必死だったわ。


貴女が気付かない間にどれだけ貴女が命の危機にさらされていたか。

その度に私はどれだけ肝を冷やしたか。

眠れない日もあったし、泣き崩れた日もあった。

何度自分の無力を痛感したか。


それに―――怖かったわ。


貴女を失う事が。


貴女に嫌われる事が。


怖くて怖くて堪らなかったっ。


でも、やっとその恐怖から解放されるわね。


貴女が幸せになったことで。

これからどんな困難な事があったとしても、貴女と鴇なら越えられるでしょう。

私の育てた子達が弱い訳ないもの。

嬉しいわ。

心の底から嬉しい。

前世で見届けられなかった、愛おしい娘の幸せな姿をこの目で見る事が出来るのよ。

それがこんなにも嬉しい。

私の娘はとても孝行ものだわ。

母をこんなにも喜ばせてくれるのだもの。

そう言えば、昔貴女に言ったわね。

私は貴女を嫌いになんてならないって。

例え華が鈴に変わったとしても、って。

今でも…そして、これからも、それは決して変わらない。

こんな孝行娘を嫌いになんてなる筈がないじゃない。


愛してるわ。


ずっとずっと愛してる。


今まで辛い事ばかり乗り越えて来たんだもの。

幸福と不幸は平等に出来ている。

なら貴女にはもう幸せしか残ってないわ。

大丈夫。

もう、大丈夫よ。


愛おしい私の娘。


―――今度こそ、幸せになりなさい。


母より』


一行一行、確かめる様に読んで…。

一行読む毎に、私の目頭は熱くなって…。

さっき折角泣くのを我慢したのに、その努力が無駄になってしまった…。

ボロボロと涙が溢れる。

「美鈴…」

「鴇、お兄ちゃ、んっ…、わた、しっ…」

嗚咽が噛み締めて、我慢するけれど、涙だけはどうしても我慢出来なくて。

零れる涙を鴇お兄ちゃんがハンカチで拭ってくれた。

そんな鴇お兄ちゃんに手紙を渡す。鴇お兄ちゃんにもママが娘にくれた深い愛情を知っていて欲しかったから。

鴇お兄ちゃんはその手紙をゆっくり読むと、ふっと優しい笑みを浮かべその手紙を封筒へとしまった。

「佳織母さんらしいな…。佳織母さんの為にも目一杯幸せになろうな。俺も美鈴を幸せにするし、美鈴も」

「うん。絶対に鴇お兄ちゃんを幸せにするからっ」

涙を拭いて、笑顔で答えると、鴇お兄ちゃんも幸せそうに微笑んでくれた。

その後、戻って来たスタッフさんに化粧を直して貰い、鴇お兄ちゃんは戻って行った。手紙を持って行ったからきっとママに返すんだろう。

「そろそろお時間でーす」

呼びに来てくれたスタッフさんに手伝って貰いつつ移動して、チャペルのドアの前に待機する。

「…あぁ、綺麗だね。美鈴」

「誠パパだって、カッコいいよっ」

誠パパが差し出してくれた腕に自分の腕を絡めて。

入場の曲がドア越しに聞こえてきて、スタッフの合図と同時にチャペルのドアが開き、一歩ずつヴァージンロードを歩く。

ふと、さっきのママからの手紙が脳裏に過る。


ねぇ、ママ?

私をずっとずっと守っててくれてありがとう。

私の方こそ、ママに何時も迷惑をかけてたよね。

ママは隠す事が上手で、私は全然気付けなかった。

こんなに面倒な娘なのに、ずっと愛情注ぎこんでくれてありがとう。


ねぇ、ママ。

私ね、今とても幸せだよ。

皆に祝福されながら、見守られながらヴァージンロードを歩いて愛する人に嫁ぐんだもの。

でもね。幸せってこれからまだまだ増えて行くんだと思う。

勿論辛いこともあるだろうけど。

それでもママ?

幸福も苦労も感じられるのはママが私を産んでくれたから、ママが私を守ってくれてたからだよ。

大好きだよ。ママ。

私はこれからまた転生する時が来ても、絶対にママの娘として産まれたい。

私はママの娘でいたい。

ママの娘って言う立場は誰にも譲りたくないのっ。

だから、ママ。今度の子も男の子を産んでね。絶対だからね。


ふと視線を感じて横を向くと、涙を拭い私をみつめてくれるママがいた。

嬉しさに微笑み、ママに分かる様にウィンクして、真っ直ぐ鴇お兄ちゃんの下へ進む。

そして、誠パパと二人鴇お兄ちゃんの側に到着した。

「…華。幸せに」

「え…」

思わず顔を上げると、誠パパが人差し指を唇の前に置いた。

「……ありがとう。お父さん」

滲む視界。ぐっと堪え私は鴇お兄ちゃんが差し伸べてくれた手に手を重ねた。


式が厳かに進む。


「…では、新郎となる者。白鳥鴇。あなたはここに居る女神の如く美しく、凄まじく可愛らしい白鳥美鈴を妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、何度生まれ変わったとしても、愛し敬い慈しむことを誓えますか?」


……うん?何か文章おかしくない?牧師様。

鴇お兄ちゃんと視線だけを合わせて、でも悩む必要もない事に気づいて。互いに笑みを浮かべて。


「誓います」


はっきりと断言してくれた。


「では、新婦となる者。白鳥美鈴。あなたはここに居る神の親友たる者の力を受け継いだ、神すら嫉妬する程カッコいい白鳥鴇を夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、何度生まれ変わったとしても、愛し敬い慈しむことを誓えますか?」


神…。

あぁっ…。

………嶺一パパ、なんだね。パパも来てくれたんだね。

止まったはずの涙が溢れ零れる。


「誓い、ますっ」


約束するよ。嶺一パパ。

私は何度生まれ変わっても、彼だけを、鴇お兄ちゃんだけを愛し続けるって。


「それでは、誓いのキスを」


牧師さんの体を借りている嶺一パパが私に向かってウィンクしてる。

少し照れ臭くて、でも、幸せで。

鴇お兄ちゃんと向かい合う。

そっとベールが捲られて。

鴇お兄ちゃんと視線があって、互いにちょっと照れ臭くて笑ってしまう。

どちらからともなく瞳を伏せて。

唇が重なった、瞬間。


パアァッと光が私達の頭上から降り注ぎ、


『美鈴。おめでとう』

『鴇。今度こそ貴方も幸せになるのよ。おめでとう』


二人の声が聞こえた…。

突然現れた光に皆が驚いていて。しかも牧師さんは自分が知らない間に皆が騒いでいるものだから大慌て。

「何か、凄い事になったな」

「うん。けど、私達らしくて、良いんじゃないかな」

「まぁな」

残りの式も滞りなく進み、私達は皆の拍手に見送られて退場した。

そして、皆の移動を待って。今度は協会の外へ。

ドアから外に出ると、大きな拍手とフラワーシャワーが待っていた。

拍手に出迎えられながら…。


「ねぇ、鴇お兄ちゃん」

「どうした?」

「あのね?」


私はそっと鴇お兄ちゃんの耳元で小さな声で、告げた。

ずっと黙っていた幸せの欠片の存在を。

鴇お兄ちゃんは目を瞬かせて…。


「本当か?」

「うん。本当。ここに、いるんだよ。私と鴇お兄ちゃんの子供が…」


鴇お兄ちゃんの瞳が潤み、一滴頬を伝う…。

喜んでくれている。

その事が嬉しくて私もまた泣いた。


「何度も言っちゃうけど。幸せだよ。とってもとっても幸せっ」

「あぁ、俺もだ」


告げると、鴇お兄ちゃんはふわりと微笑み、私を抱き上げてくれた。

歓声が上がる中を鴇お兄ちゃんが一歩二歩と歩く。


転生して、記憶を取り戻して、本当に色々あった。

ヒロインだって分かった時はどうなる事かと思った。

男性恐怖症の私は、どうする事も出来ないって。

隠居して田舎で暮らそうとか。

目立たないようにして過ごそうとか。

男の目に触れないようにしようとか。

一杯一杯考えた。

でも、でもね…?



ずっとママが私に、幸せになれって言ってくれていた。

鴇お兄ちゃんが私を支えてくれていた。

皆が…出会った人皆が私の幸せを望んでくれたっ。願ってくれたっ。



乙女ゲームのヒロインで。

男性恐怖症で。

どうしてこうなったと嘆いていたけれど。

私は今最高に幸せっ。

だからっ。


――私を支えてくれた、



―――私の幸せを望んでくれた、



――――私と共に歩いてくれた皆に、



「この幸せと感謝が届きますようにっ!皆、ありがとうっ!大好きっ!!」


私は最高の笑顔で力の限り叫んだ。


「鴇お兄ちゃん、大好きっ」

「あぁ。俺も、愛してる」


抱き締め合って。

キスを交わして。

祝福されて。


きっと、私はこの光景を、この幸せな一瞬一瞬を決して忘れる事はないだろう。

何度生まれ変わっても。覚えてる。記憶になくても心が。魂が忘れない。

また乙女ゲームのヒロインに生まれ変わったとしても―――。


これにて本編は終了でございます。

小話ともう一話が上がったらこの物語は完結となります。

…他のキャラストーリーを読んでみたいと、こちらに上げて欲しいと仰って頂ける方がいましたら、感想などから是非コメント頂けると幸いです(*´ω`*)

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