記憶1-2 ルート 999
※ ifストーリーのルートの一話です。下手なネタバレ、キャラに興味が無い人達は読み飛ばしオッケーです。尚、こちらは最初を少し乗せたお試し版ですので、全編が気になる方はアルファポリスさんの方へどうぞ(⌒∇⌒)
パソコンの画面が揺らぐ…。
文字の羅列が自動的に打ちこまれていく…。
『三猿の成長~緑の言わ猿編~
どの文字の犯人を捕らえるか。
二行目の女子感がある文字の犯人が一番探しやすいかな、と思ったんだけど。
女子だし。女子でアッフェを恨んでるって中々ないと思うんだよね~。
……派手に振られでもして逆恨み、的な?
なくはないと思うんだけどさ。……ユメに聞いた方が早い気もするけど…。
「……姫さん?」
「?、あれ?奏輔お兄ちゃん?」
「何してるん?」
「え?ズタボロにされたあの子達の制服を繕ってる」
「繕うって、あの惨状はもう買った方早ない?」
「んー…そうなんだけど。あの子達悲しそうな顔してたから。明子さんに買って貰った制服だろうしね。戻せるだけ戻しておいてあげようかな、って」
「成程な。けどな、姫さん」
「なぁに?奏輔お兄ちゃん」
「あいつらももう高校生なんだから、アップリケはやめてやってや」
「ふみぃっ!?可愛くないっ!?このお猿さんっ!?」
「いや可愛いか可愛くないかで言われると可愛いけども。そのアップリケが通じるのは流石に小学生までちゃうか?」
「……なんと言う…」
しょんぼりと肩を落とす。
なんてことなの…。アップリケ刺繍がダメなんて…。折角昔に作ったアップリケの活躍の場があると思ったのに…。
因みにこれ皆分あるんだよね。皆をモデルにして作ってるから。樹先輩の龍のアップリケを作るのどんなに苦労した事か…。鱗がある生き物は大変なんだからっ。
……話がそれた。
取りあえず、私と奏輔お兄ちゃんはあの子達に新しい制服を用意して、仕事が終わるのを待ちそのまま寮へと送り届けた。
私がアップリケを縫ってしまった制服は、私が預かり捨てるのも勿体ないので縫いぐるみのお洋服としてリメイクして渡す事に決めた。
そして翌日。
彼らを迎えに行った陸実くんの部屋で事件は起こった。
陸実くんが意識を失った状態で水を出しっぱなしにされた密室状態のバスルームに放置されたのだ。
大地お兄ちゃんが駆けつけて、陸実くんは事なきを得たけれど…。陸実くんは病院へ大地お兄ちゃんが連れて行ってくれた。
私達がここに来た時、入れ違いで海里くんが何かを叫んで出て行って、慌てて私も追い掛けようとしたけれど、透馬お兄ちゃんが任せろと言ってくれたから私はその場にとどまる事にした。
水浸しの陸実くんの部屋に入ると、そこには空良くんがいて。ほっぺが赤いんだけど…どっかにぶつけでもしたのかな?
っといけないいけない、今はそれよりも雑巾を持って床を拭いている空良くんに駆け寄る。
「空良くん。私も手伝うよ」
「……………とり先輩。…拭いても拭いても水が溢れてくる…」
「うんっ、まず水道を止めよっかっ!」
「俺が行く。姫さんは空良と一緒に部屋の片づけしとき」
「ありがとう、奏輔お兄ちゃん」
大地お兄ちゃんが壊したんだろう。
シャワールームのドアに穴が開いてて。何で穴なんて開けたのかとドアを見ると何かでしっかりと密封されていた。接着剤?
「…………とり先輩?」
呼ばれて、ハッと我に返る。
「…………どうかした?」
「ごめん、空良くん。悪いんだけど、あのガムテープ。ちょっと取って来てくれないかな?」
「…………?、あのドアに貼られてる奴?」
「そう。出来る?」
「…………余裕」
奏輔お兄ちゃんに頼んでも良いんだけど、奏輔お兄ちゃんも水道を調べてるから頼み辛い。
そして私が空良くんに頼んだのは、脱衣所に入る為のドアの上にまだ残っているガムテープだ。私には手を伸ばしても届かない。椅子に乗って手を伸ばせば届くかもしれないけど…奏輔お兄ちゃんに怒られそうなんだよね。
空良くんは私の代わりに手を伸ばしてあっさりとガムテープを入手して渡してくれた。
お礼を言ってそれを受け取る。
……そこらで売ってるガムテープなのかな……ん?何か、紙が張り付いてる…四つ折りって事は意図的に張り付けてるって事…?
私はそれを取ってその四つ折りの紙を開いた。
文字を呼んだ瞬間、あまりの気持ち悪さにヒッと小さな悲鳴を上げて紙を落としてしまった。
「…………とり先輩?どうし…なに、これ」
一歩、二歩、と無意識に足がその紙と距離をとりたがる。
「『…邪魔なモノは消して、迎えに行くよ…華の体は全て私のモノだ。あぁ…触れたい…君の中に入りたい…華、はな』…?」
「止めろっ、読むな、空良っ」
「むぐっ!?」
奏輔お兄ちゃんの手が空良くんの口を塞いだ。
「姫さんっ、大丈夫か?…ゆっくりでいい。ゆっくり落ち着いて。深呼吸しぃ」
恐怖が勝る前に。
奏輔お兄ちゃんはそう言った。言われた通りにゆっくりと大きく息を吸って、吐いて。唇が震えて上手く息が吐けないけれど、何回か繰り返している内に何とか落ち着いてきた。
「空良。いいか?その紙の文を読んでも良いけど口に出すな。分かったな?」
しっかりと頷く空良くんを確認した後奏輔お兄ちゃんは手を離し、私に駆け寄って来てくれた。
私の顔を覗き込み、私と視線を合わせ、落ち着いてる事を確かめて柔らかく微笑んでくれると、水道の元栓を止めてくるからここに空良くんといろって言って走って行った。
「…………ごめん、とり先輩」
泣きそうな顔をして私の側に来て言う空良くんに私は慌てた。
空良くんが悪い訳じゃない。むしろ、悪いのは。
「私の方こそごめん、空良くん」
「…………なんで謝るの?」
「…多分、私の方が空良くん達を巻き込んだから」
「…………どう言う意味?この紙の書いた人、知ってるの?」
誰だかは解らない。解らないけど、私の前世を知っている関係者だって事は解る。
衝撃だった。…空良くん達がアイドルだから絡まれてると思ってた。でも違って。私に巻き込まれてるんだって。
音ゲーをやり切って、この子達の能力値を上げて。空良くん達の面倒を見れている気になってた。
なのに、まさか私が巻き込んでいた、なんて。
こんな悔しい事あるッ…?
「…帰る、ね。私」
「…………とり先輩?」
「ここにいたらまた皆に迷惑がかかるもの」
家にも帰らない方がいいかもしれない。
迷惑がかかる。じゃあ、どこに…。私はどこに行ったら…?
「…………奏輔様がここにいるように言った意味が分かった。…ちょっとごめんね、とり先輩」
「え?」
聞き返した時には私の手は空良くんにしっかりと握られていた。
急に握られた私はその手を払おうとしたけれど、それを読んでいた空良くんはぎゅっと更にきつく手を握る。
「…………怖いかもしれないけど、我慢して。今とり先輩を離したら、もう二度と会えない気がするから」
「空良、くん…?」
「…………おれ達は、なんでこうも力がないんだろう…。奏輔様が戻ってくるまで、おれはこうしてとり先輩を繋ぎとめて置く事しか出来ないなんて…。無力だ。無力過ぎて悔しいッ…」
「空良くん…泣いて、るの…?」
両手を握られているから、俯いている空良くんの顔を見る事が出来ない。
けれど、私とは別の震えが空良くんにあって。どうしたらいいか解らず私は奏輔お兄ちゃんが戻ってくるまでおろおろするしかなかった。
当然戻って来た奏輔お兄ちゃんに私が一人でここを出ようとしたことを空良くんからリークされて、私は首根っこを掴まれて奏輔お兄ちゃんと空良くん二人がかりで車の中へ放り投げられた。
今は帰すのも危険だと、奏輔お兄ちゃんに言われ空良くんの仕事に付いて行くことになった。
陸実くんの部屋に関しては莉良さんに報告済みとこれもまた奏輔お兄ちゃんに先手をとられていた。
どこにも行かない様に。
多分そんな意味があるんだろうけど。
空良くんが今日歌番組を収録するスタジオに到着しても、私の右手は空良くんが。左手は奏輔お兄ちゃんがずっと握りっぱなしだった。
いや、あの、ここまでされなくてももう逃げませんから。
と言ってみたけれど、一切信用されませんでした。
歌番組の収録だから当然他にもアイドルの子達はいる。
そんな可愛い子達の中に、後方とは言えイケメンと手を繋ぎながら待機してる、ってどうなの…?
空良くんも休憩の度に戻って来て私と手を繋ごうとする。
「……ねぇ、奏輔お兄ちゃん…?」
「……聞こえへんわ」
「ふみぃ~…」
全く逃して貰えません。
もう逃げる気ないって言ってるのにぃ~っ。
観客席に座ってる収録見学の女の子達とか、カメラ向うにいるアイドルの女の子達の目がすっごい怖いんだけどぉーっ!
…試しに、もう一度だけ。
「ねぇ?奏輔お兄ちゃん?」
「女子の視線くらい姫さんには痛くも痒くもない、やろ?」
「ふみぃ…」
そうだけどもぉーっ!
わざわざ敵作らなくてもいいじゃーんっ!!
もう少しで収録終わるかな?
終わる前に最後の休憩時間。
空良くんが駆け寄ってくる。そして私の手を握る。
「……部外者がここにいられると邪魔なんですけどぉ」
「男はべらせて、何様?」
ほらぁ、喧嘩売られたじゃーん。
じとーっと奏輔お兄ちゃんを睨みつけると、何故かフッと笑みを返された。そうじゃない、そうじゃないんだよぉーっ!?
「あーあ。この人が事務所管理するようになってから方針変わってやり辛いったら」
ほう?やり辛い?どこら辺が?
にょきっと生える経営者の角。
「前の経営者だったら何が違ったん?」
「そんなの実力をちゃんと評価してくれたからに決まってるじゃん」
「評価やて、姫さん」
「姫ぇ~?アンタ男に姫って呼ばせてるの?いったぁー」
「マジで?イカレてない?アンタ」
私がそう呼んでと言った訳じゃないんだけどね。うん、まぁ、いいけど。
「…………君ら、邪魔なんだけど」
「は?」
「あんた誰に言ったの、それ」
「…………顔だけじゃなくて性格も体型もブスの君達に」
わーお。
私じゃなくて、空良くんが喧嘩買っちゃったよ?
どうするの?奏輔お兄ちゃん。
視線を隣へ向けると、奏輔お兄ちゃんは静かに視線を逸らした。こらっ、奏輔お兄ちゃんっ。
「私達、アンタの先輩なんだけどっ!?」
「…………おれ達が先輩って思ってる女性はとり先輩と後五人の先輩達だけ。他は先輩じゃない」
空良くんが珍しく一杯話してるなぁ…。
現実逃避?否定はしません。
「ムカつく。何コイツ。ちょっと顔がいいからって調子にのってるんじゃないの?」
「そんな態度で歌もあの程度とか、直ぐに消えるから。アンタ」
「…………好きに言ってればいい」
「あっそ。そうやって女と金に縋りつけば上に行けるんだもんね」
「キモー。そっちの男侍らせてる女共々キモ」
プチンッ。
ん、んー?
今の音は何かなー?
私もう怖くて横見れないんだけど。
奏輔お兄ちゃん、どうしてくれるのっ!?
バッともう一度奏輔お兄ちゃんを見ると、奏輔お兄ちゃんは決してこっちを見ようとしなかった。
こらーっ!!奏輔お兄ちゃんっ!!女同士の喧嘩の仲裁一番慣れてる癖にーっ!!
「…………あり得ない」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと落ち着こうかっ、空良くんっ」
「…………その程度の顔でとり先輩を馬鹿にするなんてっ。謝れっ」
「はぁっ!?本当の事言って何が悪いのよっ!」
「とり先輩の事、何も解らない癖にっ!」
「知る訳ないでしょっ!!」
「だったら何で悪口言えるんだよっ!」
あーっ!一触即発な空気になっちゃったじゃーんっ!!
奏輔お兄ちゃんは何故かニコニコ笑って見守り態勢に入っちゃったし。
これはもう私が止めるしかっ!
「ちょっと待っふがっ!?」
口を奏輔お兄ちゃんに塞がれた。
何でーっ!?止めないと殴り合いになっちゃうじゃんっ!
私が見上げると、奏輔お兄ちゃんは私をそっと抱き寄せて、そのまま三人の争いから遠ざかる。
「あー、もうっ、あったまきたっ!!そこまで言うなら勝負よっ!!アンタが勝ったら私達も潔くあの女に謝罪してやるわよっ!」
「その代わり私達が勝ったら、私達の前で土下座して貰うからっ!!」
「受けて立ってやるよっ!!」
「勝負の方法はあれよっ!!」
あれって何?
彼女達の指さした先を見ると、ポスターが貼られている。
何々?アイドル頂上決戦?
「女子の部、男子の部別々だけど、順位が高い方が勝ちっ!」
「最悪同位だったら点数の多い方が勝ちよっ!!」
「勝負内容は歌で良いなっ!?」
バチバチと火花が散っている。
なんか、何となく解ったよ?
「………奏輔お兄ちゃん、これ狙ってたでしょ?」
「空良のやる気を出させるにはこの位やらんとな」
「……奏輔お兄ちゃん、鴇お兄ちゃんに似て来たね」
「酷いで、姫さん。俺はあんなに性格悪ないで?」
火花を飛ばしている三人を見ながら私と奏輔お兄ちゃんは笑った。
しかし、あの子達はこの惨状に気付いているのだろうか?
誰も休憩終わってますと言えずに待機しているこの状況を。
全く、仕方ないな。
私はポケットからヘアゴムを取り出して髪を一つに結い上げた。
何をするか理解した奏輔お兄ちゃんは私を解放してくれたので、ゆっくりと歩いて空良くんと女の子二人の間に割って入った。
「ほらほら。もう休憩も終わりの時間だよ。二人共折角可愛いのに怒ったら勿体ないよ」
必殺、葵お兄ちゃんの真似っ!
「ちょっと、ごめんね」
二人の乱れた髪を優しく直す。
「うん、これでいい。可愛い」
ニッコリ。
二人の顔が真っ赤に染まった。
「な、ななななっ、何してんのよっ!」
「ここここんな事で絆されたりしないんだからっ!」
セットの方へと走って行った二人。うむ、これで良しっと。
結んだ髪を解いて、今度は背後にいる空良くんに向き直る。
「空良くん。ほら、空良くんも行っといで。ちゃんと仕事を終えなきゃダメだよ」
「…………はいっ。行って来ますっ」
闘志が宿った空良くんを見送り、私はこっそりとスタジオを出た。
……んだけど、奏輔お兄ちゃんにあっさりバレて確保されたのは、きっと言うまでもない。』
パソコンの画面が静かに閉じた…。
空良のルートの一部…。




