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第二十二話 未正宗

背中にふかふかの感触。

これは…もしかして、もしかするのかな?ベッドですよね?

私実は倒れた事、覚えてるんです。

バスで帰る間際だったので、ホテルに逆戻りの可能性よりは、きっと家に帰りついている可能性の方が高い事でしょう。

うふふ…怖くて目が開けらんないわー。

唐突に訪れた眠気。

あれって、何でだろうって思ってたけど原因は、近江くんが投げつけた丸薬かなぁ?

けどこんなイベントあったかなぁ?

近江くんとのイベントって確か二年目にある勉強合宿で起きるんじゃなかったっけー?

…いや、そんな事より。

今何時だろう?

私、目を開けたらまた視界全開にママの顔が待ってるのかと思うと、そして下手するとお説教が待っているかと思うと怖くて目が開けらんない。

さて、どうしよう。

いっそこのままもう一度眠ってしまおうか…。

「………鈴。起きてるね?」

あ、ダメだ。

隣に棗お兄ちゃんがいる。きっといつもの様に一緒に寝てくれてたんだ。

だから悪夢を見ないで済んでたんだ。爆睡出来た訳だ。そんな棗お兄ちゃんに起きてる事がバレた訳だから、起きないと、だね。

私はゆっくりと目を開いた。

そこは既に薄暗く、夜になっている事が解る。

って事は私が倒れたのは朝だから、結構な時間が経っている、と。

薄暗い部屋に目が慣れて、視界に天井がしっかりと映る。

見慣れた私の部屋の天井に、やっぱり帰って来てたのかと納得する。

「調子はどう?」

「寝過ぎて体がギシギシ言ってる、かな?」

「そっか。それは仕方ないね。地面に倒れて怪我をしなかっただけ良かったと思わなきゃ」

それはそうだ。

誰が助けてくれたか解らないけど、しっかりと頷く。

「棗お兄ちゃん、今何時?」

「今?」

棗お兄ちゃんは私を抱きしめつつ、携帯を弄ってたみたいで。

腕枕してくれていた腕を少し動かして、私の頭越しに多分スマホを動かしてる。

「っと…六時半ってとこかな?」

「AM?」

「いや、PM」

念の為に確認したら、やっぱり午後だったみたい。

「鈴。佳織母さんが起きたら教えろって言ってたから、僕一旦起きるね。水分持ってきてあげるからちゃんと部屋で待ってるんだよ?」

「うん。分かった」

頭を撫でられる。

棗お兄ちゃんはそれに安心したように微笑んでベッドを降りると部屋を出て行った。

出て行くついでに部屋の電気も付けてくれる。

うおー、すっげ眩しいっ!

目をコシコシと擦って、ふと改めて自分の置かれてる状況を思い出す。

多分勉強合宿は終わったんだよね?

私の鞄は…あ、机の上にある。

携帯は…枕の横に置いてある。鴇お兄ちゃんが置いといてくれたのかな?

その携帯を手に取って体を起こすと、自分がパジャマを着ている事に気づく。

これは…真珠さんが着せ替えてくれたのかな?

スマホを起動して、画面を見て私は一瞬引く。

え?ちょ…スマホのメールアプリの件数が1200件以上になってるんだけど…?

グループメールの方かな?

開いて会話を確認する。

一番最初に華菜ちゃんの「大丈夫?美鈴ちゃん、大丈夫なのっ!?」から始まって四聖や御三家お兄ちゃん達、その他にも沢山の友達やクラスメートの私の身を案じてくれる言葉が連なり、そして華菜ちゃんの「大丈夫っ!?美鈴ちゃーんっ!!」の言葉で締めくくられていた。

まさかの1分置きに華菜ちゃんのメールがあるとは…。

えっと、とにかく今目を覚ました事を伝えて。それから大丈夫だよって事も書いて送信する。

するとまた一気に光の速さで返信が届いて、どんどん画面がスクロールされていく。

追い付けないよーっ!

私の返信にも同じく凄い速さで既読数が加算されている。

えっと…とりあえず心配かけてごめんと謝罪も入れて置こう。

…突然倒れて心配かけてごめんね…、体調的には何の問題もないから気にしないでね…送信。

これでよしっ。

頷いていると、ガチャリとドアが開いた。

「あ、ママ…ふみーーっ!?」

ママが、ママが般若の顔してるーっ!?

超こえーっ!!

ど、どうしようっ!!

どっか逃げ道っ!!

そうだ、京都へい…って違うっ!布団の中へ潜ろうっ!!

わたわたっ。

スマホを枕に放り投げ、布団の中へもぐっ…。

「美鈴…?」

あ、ダメだこれ。本日二度目の観念です。

だって本気で怒ってるパターンだもん。

こう言う時に逃げるとママは更に怒るので。

私は覚悟を決めて布団から出て、ベッドの真ん中で正座して項垂れた。

「美鈴。油断したわね?」

「……はい……」

ママは私の前にボスッと勢いよく腰を降ろして、私の顔を両手で挟んで上向かせ強制的に視線を合わせてきた。

「あらかじめ解っていた事でしょう?近江虎太郎のイベントで有名な所なんだから」

「…………へ?」

「へ?って、美鈴…貴方もしかして、近江虎太郎を攻略してないの?」

「し、したよっ。ちゃんと攻略対象キャラ皆コンプしたもんっ!」

「コンプ、ね…。…さては、美鈴。貴女コンプリートしたのはEDだけねっ!?」

ぎくっ!!

バレたぁーっ!!

そうなのです。

私は確かにフルコンプしました…が。それはED…エンディングだけなのです。何故なら、このゲーム、スチルもイベントも差分…要するに夏服や冬服の違い、イベント発生時期の違い等々内容が同じでシチュエーションが同じってのが結構あるのです。

となると、全部見るのが面倒で…そのキャラのイベント等は見たけれど、全てを網羅したのかと言われるとそれは話が別だったり…。

「…その様子を見る限り、同級生組は同時攻略兼早送りでスピードクリアしたわね?」

「うぅ……はい……」

全部見破られてーら。

でもママがこう言うって事は、もしかしなくても今回の私のこの状況もイベントだったって事?

私が思い到った事を問いかけるとママはしっかりと頷いた。

手を離して私の頭を優しく撫でてくれる。

「美鈴は近江虎太郎のイベントをどのタイミングで見たの?」

「二年の勉強合宿で」

「二年?」

「そう。森の中を桃と主人公、近江くんともう一人好感度の高いキャラクターの四人で遭難して」

「途中綾小路桃が毒蛇に噛まれて、その血清を飲ませようとしたけれど、その薬の副作用として綾小路桃が眠りについてしまうって言うあれね?」

「そう、それ」

「成程。良い?美鈴。近江虎太郎のイベントは実は毎年発生させることが可能なのよ」

「へ?そうなの?」

「えぇ。正しくは同級生組の四人、風間犬太、巳華院綺麗、近江虎太郎、未正宗が毎年発生可能なのよ。この四人はこのゲーム中最も簡単な攻略対象キャラクターと言っても良いくらい簡単なの。イベントも毎年発生して攻略パラメータも低い」

「もしかして、今回のこれも…?」

「そう。近江虎太郎のイベントよ。私は毎度このイベントを見ていたし、二年、三年で発生するイベントも見ていたから確かよ」

「そうなんだ…」

ママのゲームのやりこみ具合はこの際置いておき、私の体が何かしらおかしい訳ではないみたいなのでホッと一安心。

「じゃあ、一年生の時にこのイベントを発生させると、主人公は眠りについちゃうのね?」

「いいえ」

「なぬっ!?」

ちょ、違うのっ!?

さっきママ、これはイベントだって言ったじゃんっ!

疑いの眼差しでママを見ると、ママはママでこっちをじっと見据えてきた。

「このイベントで近江虎太郎に丸薬を使われるのはあくまでも綾小路桃よ」

「えー?だって、じゃあ私は何で」

「そこは誤差としか言えないわね。美鈴、他にもあったりしないの?そう言う事」

「他に…?」

あったかなぁ?

記憶を探る。

ってそんなに探らなくてもボロボロあるわ。つい最近だってあったじゃない。

「巳華院くんのイベントの時も本来あるべき形じゃなかった、かも?」

「…しっかりと前例があったんじゃない」

「ふみ~…」

しょんぼりと肩を落とす。

「美鈴。さっきも言ったように油断のし過ぎよ」

「ごめんなさい…」

素直に謝るとママは苦笑しながら私を抱きしめてくれた。

「美鈴。貴女は最近男を以前より怖がらなくなったわね」

「それは、うん。そうかも…」

「とても良い事だと思うわ。前世むかしと違って味方も沢山いるしね」

「うん」

「でもね、美鈴。だからって油断しては駄目よ」

「……ママ?」

ぎゅっと抱きしめてくれる腕に力がこもる。ママ…?

「美鈴。ちゃんと意識しておきなさい。ここはあくまでも『ゲームの世界』なのよ」

「ママ、それを言うなら『現実の世界』じゃないの?」

普通小説などで転生した主人公達が認識する事とママは真逆の事を言う。

それも真剣な眼差しで。抱きしめていた私を離して真っ向から見据えて言った。

「この世界はどこまでも私達が以前生きてきた世界に『酷似』している。けれど、それはあくまでも『酷似』に過ぎないの」

良く解らず首を傾げてしまう。

「ここは…私達が『今』生きているこの日本は、『私達が生きて暮らして生涯を終えたあの日本でも地球でもない』のよ。美鈴。ゲームの世界にいるって事をもっと自覚しなさい」

「ゲームの世界…」

「私達が暮らしていた地球の日本であれば、そんな馬鹿なと笑い飛ばせるような事も、この世界では『あり得る』事象になりえるのよ。もしかしたら、私達はその小さな笑い飛ばせるような事で命を落とす可能性だってあるの。一つの油断が命取りになるのよ。その一つの油断で家族の命を失うかもしれない」

ハッとした。

そうだ。ママはゲームの中の世界だからこその経験をしているんだ。


『嶺一パパの死』と言う、愛する者を失うと言う苦しい経験を…。


愛した人間の死を素直に受け入れれる筈がない。きっとママは抗っただろう。

けれど、嶺一パパの『死』は抗い続けたであろうママに無情にもその現実はおとずれた。

それはここがゲームの世界だからだ。

コツン…。

額にママの額がくっつく。

「このゲーム世界と美鈴が進む道は繋がっているわ。今まで回避出来ていた事も、高校生になった事によって、ゲーム世界が動き出し、それがまとめて振ってくる可能性だってある。美鈴、貴女がどんな人生を選ぶのか、『お母さん』には口出し出来ない。けれど、絶対に自分を傷つける道だけは選ばないで。前世むかし貴女を一人置いて逝った私が言えた事ではないかもしれない。でもお願いだから、『お母さん』を置いていかないで…『華』…」

「……お母さん…」

まるで泣きたいのを我慢しているような表情を見せて苦しそうに微笑んだ。

「…美鈴は幸せにならなきゃダメよ。絶対に絶対に幸せになるの。それ以外の人生なんて私は絶対に認めないわ。私の娘ですもの。幸せと言うルート以外選択するのは絶対に許さないから」

「ママ…」

ママの気持ちが嬉しくて。思わずママを抱きしめた。

「それとね、美鈴。もう一つ忘れてはいけない事があるわ」

何だろう?

私はママの言葉の続きを待つ。

「ヒロインやヒーローっていう物は、トラブル体質だって事」

ママ、そんな身も蓋もない…。

釣られて溢れそうになった涙が一気に引っ込んだわ。

「主人公っていう物は数々の困難を乗り越えて行く。でもその困難って言うのは普通の人には決して訪れない困難。一般人は引き寄せないようなトラブルも引き寄せる。それが主人公ってものよ。貴女はそんな存在に生まれ変わったの」

それは、確かに。

「トラブルは向こうから何をせずとも山程美鈴に降り注ぐわ。だから…何度でも言う。決して油断しては駄目よ」

「ママ…。うん。分かった。気を付けるよっ」

私は大きく頷く。

ママと視線を合わせて互いに微笑み合うと、コンコンとドアがノックされた。

「入るよ、美鈴」

「誠パパ?」

ドアが開き誠パパが部屋へ入って来る。

仕事から帰って真っ直ぐ私の部屋に来てくれたのか、スーツの上にコートを羽織ったままだ。

「事情は鴇から聞いたよ。大丈夫かい?」

「うん。眠いだけだから大丈夫だよっ」

「そうか。…あまり無理をしてはいけないよ。…二人共泣いていたのか?」

誠パパの手が私とママの二人の頭を撫でた。

この撫で方、お兄ちゃん達とそっくりだよね。…違うか。お兄ちゃん達が誠パパに似たんだよね。ふふっ。

昔お兄ちゃん達も撫でられたって事を考えると知らず笑みが浮かぶ。

「それで?」

「うん?なぁに?誠パパ」

「美鈴を海に落とした命知らずの男は何処のどいつだい?」

にこにこにこ。

笑顔が怖い。

この手の笑顔は、葵お兄ちゃんと重なるなぁ…。

って言うか、そもそも誠パパ、さっき鴇お兄ちゃんに事情は聞いたって言ってなかった?

じゃあ犯人も誰か知っているのでは?

「誠パパ、鴇お兄ちゃんに事情聞いたって…」

「肝心の犯人が誰なのか教えてくれなかったんだよ。男だと言う事しか」

あ、そっか。成程。

鴇お兄ちゃん、真珠さんに気をつかったのかな?

近江虎太郎くんは真珠さんの息子だって言ってたもんね。あれにはびっくりしたなぁ。

でも、苗字が違うよね?真珠さん、もしかして旧姓名乗ってるのかな?でも、旧姓だったら金山になるんじゃ…?

んんん?良く解らないなぁ…。

「美鈴?どうしたの?」

「え?うぅん。なんでもないよ」

どうしてだろう?誠パパのいる前で今近江くんの名前出しちゃいけない気がする…。

「さて。昔話はここまでにして。そろそろ貴女の現状をどうにかしましょうか」

「うん?」

「貴女のその眠気。RPG風に言うなら状態異常って奴ね」

状態異常。

まぁ確かにそうだけど、ただ眠いだけだよ?

今は全然眠くないって言うか、むしろ目が冴えてさえいる。

……体も全然違和感ないし。正直体調が良かったり…。

コンコンッ。

自分の体の事がいまいち良く解らず首を傾げていると、ドアがノックされて、棗お兄ちゃんを先頭に鴇お兄ちゃんと葵お兄ちゃん、そして金山さんが部屋へ入って来た。

あれ?珍しいなぁ。こう言う時って金山さんは影でひっそりしてるタイプなのに。

「いつもならそうしておりますが、今日はそうも言ってられないようですからな」

「金山さん、お願いだから心読まないでーっ」

「……私の親族がご迷惑をおかけしたようで…。こちらが治癒丸薬でございます」

「薬?」

近江くんが真珠さんの子供だって言うなら、金山さんは確かに親族で。だったら真珠さんも、金山さんだって忍者って事になるよね?

そう考えると…うわー…色々納得出来る点がわんさか…。

「お嬢様?」

「あ、ごめんなさいっ。飲みます、飲みます」

眼前に差し出された銀トレイの上に錠剤二つにお水の入ったコップ。

素直に受け取って錠剤を水で一気に飲みこむ。

………う~ん?特に変化は感じられないんだけどなぁ…。

「美鈴。どうだ?」

「うぅ~ん…変化?らしい変化はないんだけど…」

そもそも、眠気以外は別に体に問題はないんだし…。


「―――ッ!?」


って、思ったんだけど…っ、あ…、体がっ、あっつぃ…っ!


バシャッ。

持っていたコップを落としてしまったけど、でもそれ所じゃない。

体をくの字に折り曲げ暑さに耐える。


「おいっ!?美鈴っ!?」

「お嬢様っ!?」

「美鈴っ!?」


体が、燃える…っ、声も、出せないっ…。

耐え切れなくて体を丸める。

胸をきつく握って、この暑さをやり過ごそうとした。

皆が私の周りに集まって、ママはきつく私を抱きしめてくれる。

赤い煙が私から溢れだして…ママと私を包む。

皆が私の名前を呼んで近寄ろうとしてくれるけど、煙がそれを拒んでいるようだ。

それでもママだけは私を離すまいとしてくれていた。

どれだけ煙の中にいただろう?

10分か、それとも一時間か。

解らないけれど、煙が晴れ始めた時には、私の体が発する熱は収まっていた。

「美鈴…、大丈夫…ッ!?」

大丈夫かと聞かれたら体が物凄くだるいけれど、何とか。

それより、どうしてママは目を丸くしてるの?

すっごく驚いてるんだけど。ママがこんな顎を外しそうな程驚くのって珍しいよね。だって、私達は前世でこの世界の事を知っていたのだから驚く事ってそうないだろうし。あっても予備知識があるかないかで冷静さを保てるし。

煙がどんどん薄くなって辺りに視線が行き届くようになって…。

「佳織っ、美鈴っ」

叫ぶ誠パパの声が聞こえ、それに続くようにお兄ちゃん達や金山さんが私達の名を呼ぶ。

そして、何故か驚き固まった。

だから何でそんなに驚くの?

視線は…え?私?

皆、私を見てるの?え?何かおかしな所ある?

頭、あるよね?ちゃんと触って人の形である事を確認する。

肩、あるね?そもそも手があるんだから肩はあって当然……うん?手?


………………小っちゃくね?


待って。待って待って待って?

足を見ると小さいとかそれ以前に履いていたパジャマのボトムは空っぽで。

周りを見ると皆驚いたまま。

すっごく嫌な予感がする。


「美鈴。また随分と懐かしい姿になったな」

「そうだね。出会った頃みたいだよ、鈴」

「鈴ちゃんが可愛いのはやっぱり変わりようがない事実だけど…」


これは…やっぱり…そうなの?そうとるしかないの?

「お嬢様。これを」

金山さんが手渡してくれた手鏡を受け取ってその鏡を覗き込むと、そこには転生した事を思い出した当初、六歳前後の私の姿が写っていた。

「ふみゃあああっ!?若返ったぁっ!?肌がぴちぴちにぃーっ!!」

「美鈴、ズルいわっ!」

「おい、こら。美鈴、それに佳織母さんもだ。そんな事言ってる場合か?」

あぁ、そうだった。こんな事言ってる場合じゃなかったよね。

まさか、若返るとは思わなかった。けど、どうしてこうなった?

「原因は私の持って来た丸薬。それ以外ないでしょう」

「また、心読まれた。ってそれは一先ず置いといて。確かに丸薬を飲んでこうなったんだし、原因は丸薬だとは思うけど…」

私はすまなそうに跪く金山さんの肩を短い手で何とか叩きながら慰めて首を傾げる。

「こんな非常識な丸薬ってあるの?そもそも金山さん、私の体を癒す為に丸薬持って来たんだよね?」

「えぇ。その通りでございます。私が持って来たのは里で伝わる万能薬でございました」

「万能薬?」

「左様でございます。どのような丸薬の効果も打ち消すと言われている万能薬。けれど、何故このような効果が…」

「金山さんも分からない効果が出たって事?」

神妙に頷かれた。

そっか、予想外だったのなら仕方ないよね。

むしろ下手な事にならなかっただけマシと言うか、何と言うか。

それに、中身と外見が伴わないって状況はもう慣れっこだしね。とは言え、この姿じゃ学校には行けません。

「金山。その万能薬には美鈴に起きたような現象を起こす力はないんだな?」

「はい。むしろ、どんな効果も打ち消す効果を持つのです。それが」

「だとするなら、美鈴が近江に投げられた丸薬のどれかが、化学反応を起こして違う効果を現した、って所だろう」

「私もそう考えておりました」

「……真珠を呼び出すか?」

「はい。そういたしましょう」

パチンッ。

指を金山さんが鳴らす。

……反応なし。いつもなら真珠さんは瞬時に、言葉通り瞬時に現れてる筈なのに。

皆で反応を窺っていると、申し訳なさそうにママが口を開いた。

「ごめんなさい。真珠さんなら私お仕置きで、のしちゃった。てへっ☆」

てへっ☆って、ママ?

お仕置きってなんの…?とか聞いても…駄目?やっぱり駄目?駄目か~…。

深く追求したい所だけど皆は納得してるみたいだからいいのかな?

何はともあれママの所為で真珠さんが来れないのは解ったよ。うん。

「……出来るなら真珠に金山と一緒に成分分析をして治癒丸薬を作りだして欲しかったんだが、無理そうだな。だったらひとまず近江に話を聞くしかないだろ」

「それしかなさそうですな」

金山さんと鴇お兄ちゃんの間で話がまとまったらしく、鴇お兄ちゃんは私の方まで歩み寄りぐりぐりと頭を撫でた。

「お前は暫く学校は休みだな。上手くやっとくから心配するな。何かあった時の為に棗は置いて行くから安心しろ」

「……兄さん。この前から僕の扱い雑じゃない?勿論鈴の側にいる事に異論がある訳じゃないけど」

「で、でも棗お兄ちゃん、学校は?」

私完全に迷惑でしょ。

そっと棗お兄ちゃんの顔を窺い見ると、棗お兄ちゃんはふんわりと優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ。僕も葵も必要な単位は全て取り終わってるから」

「そうそう。だから鈴ちゃんは家で棗とのんびりしてなよ」

「そう、なの?…じゃあ、お兄ちゃん達に甘えようかな。えへへ」

お兄ちゃん達が私の頭を撫でてくれる。

所で、皆。

フラグって言葉、知ってる?

もしかしてさ。

ママのあの一言ってフラグだったりしないかな?

この世界はゲームの世界なんだからどんな事だってありえるってあの言葉。

ママの言葉を言葉の通りとるのであれば、今私がこうなってるのもゲームの世界だからって事で…。

「言っておくけど美鈴」

「なぁに?ママ」

「私は今のこの状況を知ってたりしてフラグを立てた訳じゃないからね。美鈴が小さくなるってのは全然想像つかなかったわ」

「あ、そうなんだ…」

でも言霊って言葉もあるし。

うん。今後不用意な事を口にしないと決めた。

高校生編は実は美鈴の活躍があまり…|ω・)

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