小話50 お説教
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
やられた…。
いや、俺が悪いのは知ってる。それは理解している。
流石にそれを理解しない程馬鹿ではない。
馬鹿ではないのだが…。
「そもそも龍也っ!相手の同意もなしにキスをするのは犯罪ですよっ!」
3時間も正座で説教を受けるとは思わなかった。それも…。
「そういうどうでも良い所を勅久から血を分けられたのかしらねぇ」
女二人がかりで。
うぅ…。足が痺れて感覚がなくなって来た…。
「龍也。本当に反省していますかっ!?」
「は、はいっ。してますっ」
じとっと睨まれる。
本意を探るかの様に真っ直ぐ見られている。
「……嘘ね。貴方、全く反省していないわね」
「そ、そんな事はっ」
「なら、美鈴さんが目の前にいたら抱き締めないでただ微笑むって事が出来るかしら?」
……出来ない。
「ニッコリ笑って龍也先輩って呼ばれたらキスしないで我慢できるかしら?」
出来ない。
「美鈴さんがパジャマ姿で目の前歩いてたら押し倒さないで理性を押し込める事出来るかしら?」
しない。
出来ないじゃなく『しない』。
だってそうだろう?
据え膳食わぬは何とやらって奴で…。
―――ガンッ!
「痛ッ!?」
頭に衝撃が走る。
…目の前に母上のスカートが見える…って事は…。
そっと上を向くと怒れる母上の顔とその横に付属する拳。
「龍也…。ちっともこれっぽっちも反省してないようね…」
うんうんと椅子に座ってる明子さんまでもが大きく頷いている。
それを明子さんの子供の三つ子が楽しそうに見ている。
……こうなってくると俺だけ怒られてるのは不公平じゃないか?
「母上。俺がこうして怒られてるのは美鈴に手を出したから、ですよね?」
「当り前でしょうっ」
「なら、そこの三人だってそうですよね。同意もなしにキスをしたんですから」
ビクゥッ!!
三人が分かりやすく飛び跳ねた。
「な、何で知ってっ!?」
「ぼ、ボクは電話越しだったしっ!」
「……………指先に、だけだ………」
どこであろうとしたことには違いないだろ。
「……陸実、海里、空良…。龍也くんの後ろにお座りなさい」
え?俺の後ろっ!?
お、おいおいっ、お前らもスゴスゴと大人しく俺の後ろに三人並ぶなっ。
正座するなよっ!
「(お、おい。お前ら、何で逆らわないんだっ)」
「(出来る訳ないだろっ)」
「(母さん先生怒ると、もう終わりなんだ…)」
「(……誰も、止められない……)」
…マジか。
俺はもしかしてやってはならない事をしたのか…?
「まさか、私の子供達までもこんな事をしていたなんて…。常識は教えていた筈なんですけどね…。覚悟なさい。貴方達」
うっ…声が一段階下がった…。
母上が一歩後ろ、明子さんの後ろへと下がった。
選手交代?そんな優しいものではないか。
騎士が下がって死神が来た、みたいな…。
「とりあえず、龍也くん。貴方はちゃんと人の目を見て、人の話を聞きなさい。…他の事を考えるなんて事は許さなくてよ?」
「は、はいっ」
そこからまた1時間の説教が続いた。
これは本当に怖かった。
口答えなんて許して貰えなかった。
「あ、あの奥様方、もう、それ位で…」
銀川の制止が、ほんと神様の声に聞こえるほどにこの説教は怖かった。
しかし、折角銀川が制止してくれたのに。
「もう、四時間もそうお説教をしては、ふぐっ!?」
突然現れた真珠と言う名の女が突然現れて、銀川の口を塞ぐと、
「どうぞ、奥様。遠慮なくお続け下さいませ」
また突然姿を消して銀川を連れて行ってしまった。
これでもう助けはないな。
「……所で龍也」
「はい、母上」
「ずっと考えていたのだけれど、貴方美鈴さんにキスしたの、一度ではないわね?」
ギクッ!?
い、いや、駄目だ。ここで顔に出したら負けだ。
笑顔で流せ。
「いいえ、母上。そんな事は…」
「貴方がそうやって笑顔を見せる時は何か隠したい時。母にそのような嘘が通じる筈がないでしょう」
……うぅ…。
「…一度貴方は頬を腫らせて帰って来た事がありましたね。葵君に殴られたと」
「……はい」
「その時に美鈴さんにキスをしたんではなくて?きっと他にも何かしたのでしょう?」
自分の母親ながらその察しの良さに恐怖を覚える。
「何をしたの?怒るから言ってみなさい」
「怒られるのなら言える訳がないでしょうっ!」
「怒られるような事をしておきながら何を言っているのっ!さっさと白状しなさいっ!」
「うぅっ…。…そ、の…美鈴が逃げるから、捕まえてキスしたのですが…逃げようとするから髪を掴んで捕まえようとしたら、美鈴がナイフで髪を切って逃げて…」
「…………はああぁぁ…」
盛大な溜息をつかれた。
「(あんた、綺麗な顔してやる事がひでぇな)」
「(鈴先輩、男性恐怖症、って知ってるんだよね?)」
「(……………最低…………)」
後ろからも何やらやいのやいの言われている。
「それで…?龍也。貴方謝ったのですか?許して貰える貰えない以前に、きちんとした謝罪はしたのですか?」
…………えーっと……。
静かに視線を逸らす。
その時、コンコンとドアがノックされたかと思うとドアが開かれた。
そこに立っていたのは…。
「棗…?」
「やぁ、樹。君のお母様に頼まれて、僕の母さんを連れて来たよ」
「え…?」
棗を押し退ける様に姿を表した年齢を全く感じさせない綺麗な女性。
「ごきげんよう、皐月さん、明子さん」
「ふふっ。何も私達に向かって奥様装わなくても」
「あら?そう?じゃあ、何時も通りで」
にこにこと三人が笑顔で会話してるのに、何故だ寒気が…。
「さて、と。龍也くん?美鈴の代わりにそれなりの報復は受けて貰うわね?」
「え?え?」
「さ、行きましょうか。棗。連れて来て。ついでだからその三人もね」
「流石に四人も担げないよ、佳織母さん」
「大丈夫よ。私は女の子だけど最高六人担いだことあるから。イケるイケる」
「佳織母さんと一緒にされても…。仕方ないなぁ」
ひょいっとあっさり俺は棗の肩に担がれ、何か嫌な予感がした三人は逃げようとした。
けれど赤髪メッシュの奴は俺を肩に担いだ棗に、他二人は佳織さんにとっ捕まってズルズルと連行される。
俺達の後ろを母上たちが付いてくる。
連れて来られた場所は、ダンスパーティ会場。
今は何もないだだっ広いフロアだが。
そこで俺達は問答無用で稽古をつけられた。
棗とやらされるのかと思ったら佳織さんに容赦なく。
ぽいぽいっと投げ飛ばされる。佳織さんは息一つ乱す事なく……化け物か。
「…龍也くん。私は美鈴を口説くなとは言わないわ。キスも、まぁ手段としてはありだと思ってる。謝罪しないのも龍也くんの気持ちの問題だろうしね。でもね…美鈴の心も体も守れない人間を私は認めるつもりはない。覚えておきなさい」
床に潰れた俺を見降ろして言った佳織さんは母上何て比べものにならないほど怖かった。
俺は震える体を抑えて小さく頷いた。
佳織さんに言われたから謝罪するのは何か違うと思ってるから謝罪はしない。
でも俺の中にある美鈴を好きな気持ちは揺るぎないし、あいつを俺だけのものにしたいと言う気持ちは本物だ。
だったら俺は俺のやり方で美鈴を口説くし手に入れる為の力を身に着ける。
「…それはそれとして。母親としては娘の唇を無理矢理奪ったり、髪を切らせる暴挙に出るのは如何なものかと怒りを感じるのは当然よね?もう少し投げ飛ばさせて貰うわね?」
「えっ!?」
何を言われてるのか理解する前に俺は再び宙を舞った。
何回も何回も宙を舞った後、棗が静かに歩み寄ってぶっ倒れてる俺の側で笑顔を見せて。
「佳織母さん、僕や葵、鴇兄さん達より強いから。下手すると金山さんや銀川さんより強いから」
「それ、早く言ってくれ…」
ぐったりと床に崩れた俺に、
「さ、まだまだ行くわよっ」
と更に地獄に突き落とす声が聞こえた…。
女が強い話が私は好きです(*´ω`*)




