小話49 桃とダンス
※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。
ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)
1、2、3…1、2、3…。
美鈴ちゃんと僕は生徒会室でダンスを踊っていた。
正しくは…。
「美鈴ちゃん、そこのステップ少し違う」
「え?え?ど、どこが違う?」
「そこはね…こう、やって、こう」
「えっと…」
美鈴ちゃんにダンスを教えている、だ。
だから僕と美鈴ちゃんは横に並んで、同じステップを踏んでいるのだ。
どうして僕が女性パートを踊れるのかと言えば、お祖母様が教えてくれたから。
『女性をリードするには女性パートを理解していなくてはっ』
と断言されたらもう逆らうのは無理な話だ。
「こう…で、こう?」
「うん。そうそう。それじゃあ一度合わせてやってみる?」
「うん。足踏んだらごめんね、優ちゃん」
「美鈴ちゃんに踏まれた所で痛くないから大丈夫だよ」
軽いから…ってのは飲みこんで置こう。
美鈴ちゃんに手を差しのべると、美鈴ちゃんは僕の手に手を重ねてくれた。
美鈴ちゃんがもう一方の手を僕の肩へと乗せたのを確認して僕は美鈴ちゃんの腰へと手を回した。
それからステップを確認しつつ踊っていると、生徒会室のドアが開いた。
「あら?」
「あれ?桃?どうしたの?」
ステップを止めずに入って来た桃ちゃんに美鈴ちゃんが問いかける。
すると直ぐにドアを閉めた桃ちゃんがにっこりと微笑み。
「書類の確認をと思って来たのですが。お邪魔でしたかしら?」
「ううん。大丈夫。でもごめんね。このステップだけ確認してもいいかな?」
「勿論ですわ。お待ちしてます」
途中で止める気はなかったんだね。
美鈴ちゃんと最後までステップを確認して動きを止める。
すると、桃ちゃんがそれはもうキラキラと憧れの眼差しで美鈴ちゃんを見ていた。
「素敵でしたわっ」
「あはは、ありがとう」
僕から離れて美鈴ちゃんは桃ちゃんの所へ駆け寄り書類を受け取った。
「あー…文体祭の予算編成かぁ…。これちょっと面倒なんだよねぇ…」
渋々美鈴ちゃんが生徒会長のデスクに乗っかってる自分のペンケースからシャーペンを取り出して、隣に置いていたメモ帳にカリカリと何か書き始めた。
「それにしても、王子も流石ですが優兎さんも凄いですわ。確か以前パーティで踊っているお姿を拝見した事がございますがその時よりも腕に磨きがかかっておりますわね」
「そう?だとしたら、それは…」
兄達の所為、だよね。
小学校の時、美鈴ちゃんが学校代表の生徒に選ばれて樹先輩と踊ってから、兄達が怒って。
三人で練習しまくった。
僕は昔からやっていた所為か双子の兄達より上手くて。
只管練習に付き合わされたのだ。
まぁ、そのおかげかどうか知らないけれど、樹先輩と踊ったのが好評だったという事で再びお披露目する事になった場では葵兄が、兄達の卒業式のPTAの送別パーティでは棗兄が、そしてそれ以降、兄達が卒業した後のパーティでは必ず僕と美鈴ちゃんが代表として踊る事が出来た。
「それは?」
小首を傾げて問いかけてくる桃ちゃんに、思考の渦から引き戻された僕は苦笑した。
「…やむにやまれぬ理由があってね」
深く言うつもりはないので、言葉を濁しておく。
それに気付いたのか、美鈴ちゃんは書類に顔を向けたまま。
「桃は?ダンスはどうなの?」
「私、ですか?私は得意では…」
「あれ?そうなの?何でも出来そうなのに」
「まぁ。ふふ。王子程ではありませんわ」
口に手を当てて笑う桃ちゃんに僕も心の中で大いに同意した。
「私?私は何でもなんて出来ないよ。むしろ出来ない事が多過ぎて…鴇お兄ちゃんに負けっ放しで…がるる…」
美鈴ちゃんが唸ってる。
とは言え、鴇兄に勝つのは無理に等しいと思うんだよね。鴇兄はやる気にさえなればどんな事もポストを黒くすることですら一瞬で出来そうだし…。
「ねぇ、優ちゃん。鴇お兄ちゃんに勝つにはどうしたらいいかな?…もう一服盛るしかないかな?」
「美鈴ちゃん。怖い事は言わないように。それに鴇兄だったら一服盛っても多分何か怪しんで盛った器を美鈴ちゃんのと入れ替えて逆襲されると思うよ」
「………だよねー…うぅ…悔しい…ぎゃふんと言わせるにはどうしたら…」
そろそろ諦めても良い頃なのに、まだぎゃふんと言わせようとしてる美鈴ちゃんがちょっと可愛く見えるのは僕が色々と末期って事だろうか?
「まぁ、鴇お兄ちゃんの件は置いといて。これで予算編成は大丈夫だと思うけど、優ちゃん確認してくれる?」
そう言ってメモ帳を渡される。清書は後回しにしてざっと編成を書いたんだろう。
僕は素直にそれを受け取って中身を確かめる。
「その間桃は私と踊ろうよっ」
「え?で、ですがっ」
「大丈夫大丈夫っ。一応私は男性パートも踊れるからっ」
言いながら桃ちゃんの手を取り美鈴ちゃんは戸惑う桃ちゃんをリードするように踊り始めた。
最初は躊躇っていた桃ちゃんも、顔を赤らめて美鈴ちゃんとのダンスを楽しんでいる。
桃ちゃんは苦手だと言いながらも、十分上級者なみの腕前だった。
そっちを見ながらも手元の予算編成を確かめて、…うん、おかしな所は特にない。あぁ、でも、ここは…。
僕もシャーペンを持ちサラサラと考え付いた所を書きとめて、それを終え美鈴ちゃん達のダンスを眺めた。
楽し気に踊ってるのを見ていると、一通りの流れが終わったのか礼をしあって、二人が僕の側に戻って来た。
メモを美鈴ちゃんに渡すと、
「あぁー…そうか…。でも、この案を取り込むとー…」
と再び考え始める。一度仕事をし始めると美鈴ちゃんはそれに没頭してしまう。
だから、僕はさっきダンスに誘ったのに。
僕が眉間に皺を寄せていると、それに気付いた桃ちゃんが申し訳なさそうな表情を作った。
それに僕はゆっくりと頭を振って、気にするなと意思表示をして、再び美鈴ちゃんを仕事から引き離す為に口を開いた。
「美鈴ちゃん。さっきステップ、何か所か間違ってたよね?」
「ふみっ!?」
「桃ちゃんもいることだし、もう少し練習しよっか?」
僕は美鈴ちゃんの為ににっこりと微笑んだ。
中学生編=優兎の災難編と思っているそこの貴女っ!
その通りですっ!!(`・ω・´)ゞ




