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小話3 美鈴のおねだり(葵編)

※ 本編の補足、本編に関係のない日常等々です。読まずとも問題ありません。

ただ、読んで貰えたら喜びます(笑)



「葵お兄ちゃん、すきありーっ」

「わっ!?」

驚いたふりをしたものの、気付いていたから全く驚いてない。リビングでラグの上でうつ伏せに本を読んでた僕の上に重さが加わる。

ゆっくりと振り返ってみると、鈴ちゃんが僕の背中の上で十字を作る様に寝転がって楽しそうにしていた。

…可愛い。

以前から棗には自分から抱き着くのに僕には抱き着いてくれないのはなんでだろう?と疑問に思っていた。けれど、男が苦手な鈴ちゃんに無理強いは出来ない。

となると違う方向性でアプローチをかけるしかないかな?と判断して、鈴ちゃんにじゃれついてくれるよう自分からじゃれついてみた。

すると、すっかり慣れてしまった鈴ちゃんは自分からこうやって僕に触れてくれるようになった。作戦が成功した事にほくそ笑んだのは内緒。

「う~ん。鈴ちゃんは悪戯っ子だね。えいっ」

ごろんと態と上に乗った鈴ちゃんを巻き込みながら態勢を変えて、僕は仰向けに寝転がりお腹の上にいる鈴ちゃんの脇を擽った。

「ふにゃっ!?あはっ、あはははっ、葵お兄ちゃんっ、擽ったいよ~っ」

笑いながら逃げようとする鈴ちゃんが変に転ばないように擽る手を止めて、体を起こして自分の太ももの上に座らせた。

「む~…葵お兄ちゃんに仕返し」

「してもいいよ?でも、僕基本的に擽られてもあんまり感じないよ?」

試しにやってみるといい。言うと、鈴ちゃんは脇に手を伸ばして擽りだした。

でも全然擽ったくなく、ただ、一生懸命僕を擽ろうとする鈴ちゃんが可愛いだけだった。

「本当だ…。もしかして、鴇お兄ちゃんも?棗お兄ちゃんも?」

「多分、そうじゃないかな?」

昔お遊びで擽ってみたけど反応しなかったし。何してるの?って棗には言われて、鴇兄さんには無駄だとバッサリ切られてしまった記憶がある。

「むむっ、何かずるいよ?」

「ずるいって言われても。むしろどうして鈴ちゃんがそんなに敏感なのか不思議だよ」

「びっ!?………(なんか、響きが、卑猥)…」

うん?鈴ちゃん今小声で何か言った?

僕が首を傾げると鈴ちゃんは何でもないと首を振った。

「葵お兄ちゃん、重いでしょ?今降りるね」

いそいそと降りようとする鈴ちゃんを僕はぎゅっと抱きしめる。

「重くないから大丈夫」

全然重くない。何より可愛いし幸せだから降りなくていい。むしろずっとここに座ってて欲しい。

本当なら毎日こうしていたいのに。学校はあるし、それに棗と相談して鈴ちゃんの独占時間は交代制だと決めたから難しい。ならくっつける日は思いっきりくっついておかないと。

可愛いなぁ…。

頭を撫でようとすると自分から手にすり寄ってくる。

ほんっと可愛い…。

毎日僕達家族のお菓子を作ってくれてる所為か鈴ちゃんからは甘い香りがして。思わずぎゅっと抱きしめたくなる。

と言うか抱きしめた。だって可愛いんだもの。

すると、カサッと何か音がして床に落ちた。これは…鈴ちゃんのポケットから落ちたのかな?

鈴ちゃんは僕に撫でられてる事に意識が集中してるのか、落ちた紙に気付いていない。

僕はこっそりそれを足の下に隠した。後で確認するとして、今は全力で鈴ちゃんを愛でる事にした。


鈴ちゃんがキッチンに消えたのを確認してから、鈴ちゃんが落とした紙を広げてみる。

…スケート場のチラシ?

へぇ、今度新しく出来たのか。成程。もしかして、行きたいのかな?

十一月の二日にオープン。今日は十二月の五日だから…え?一か月も前から行きたかったって事?

言ってくれたらいいのに。あぁ、でも、場所が遠いのか。だから、か。う~ん。

僕は首を捻る。行くとしたら父さんが休みの日、だよね。今週末の土曜日、とかどうかな?

父さんに確認する分には構わないよね。確か今日は父さん夜に出勤する日だから、まだ部屋にいるよね。

紙をもう一度四つ折りにしてポケットへ詰めると、そのまま父さんの部屋に向かった。

ノックしてドアを開き中を覗く。

「葵か?どうした?」

笑顔で手招きされ、さっさと中に入ってソファに座る。

向かいのソファに父さんが座るの確認して僕は本題に入った。

「あのね、父さん。鈴ちゃんがね」

僕が鈴ちゃんの名を出した途端、父さんが苦笑した。

「なんだ、葵も美鈴の代わりにおねだりしに来たのか?」

「え?」

「前に棗も同じ風に部屋に来たんだよ。美鈴が何か欲しい物があるみたいだってな。ほら、こたつを買いに行った時だ」

「あぁ、あのこたつ。そうだったんだ」

以前棗が父さんと鈴ちゃんの三人で出掛けた事は知っていた。あれは本気で羨ましかった。でも、僕は部活があったし。涙をのんでぐっと我慢したのだ。

「それで?葵は何のおねだりをしに来たんだい?」

言われて我に帰った僕はポケットにしまった広告を父さんに見せた。

「スケート場?」

「うん。鈴ちゃんが持ってた」

「成程。…よし。じゃあ、次の土曜にでも行くか」

「えっ!?いいのっ!?」

「あぁ。いいぞ」

やったっ!!最悪もっと先になると思ってたのにっ!!

まさか父さんの方から言ってくれるとは思わなかった。

「今回は美鈴には内緒にしておくか。準備だけしとくように美鈴に言っておけよ?」

「分かったっ。ありがとう、父さんっ」

僕は父さんの部屋を出て、鈴ちゃんの部屋に直行した。


土曜日。

金山さんが用意してくれた軽自動車に鈴ちゃんと乗り込み父さんの運転でスケート場へ向かった。

「ねぇ、葵お兄ちゃん。何処行くの?」

「着けば分かるよ。ね、父さん」

問いかけてくる鈴ちゃんの頭を撫でながら、父さんに同意を求める。父さんはそうだなと頷いてくれた。

そして、暫く車は走り、到着したスケート場を見て、鈴ちゃんは窓の外に見えるスケート場と僕を驚きながら交互に見た。

車が駐車され、僕はドアを開けて降りる。鈴ちゃんに手を差し伸べると、まだ自分の状況を把握出来てないのかおずおずと僕の手を握り、ぴょんっと車を降りた。

うん。可愛い。

猫耳つきのピンクのコートが増々可愛さを増量してくれている。

「さ、行くぞ」

父さんの言葉に頷いて、僕達は後に続く。

鈴ちゃんの手を引きながら歩いていると、何やら声が聞こえてくるけど無視。聞く価値なし。

本格的なスケート場ではなく、子供専用の遊び場のようなスケート場で、建物の側にはフードコートやちょっとした水族館もある。お土産ものとかもありそうだ。

でもまずはスケート、だよね。受付で靴を借りて、履き替える場所へ鈴ちゃんと二人手を繋いで移動する。靴をしっかりと履き替えて、父さんはスケートリンクの側から見てると言っていたから、僕達二人でリンクに出る。

そう言えば、僕、スケートって初めてだ。

……氷の上を歩く、か。まぁ、出来なくはないでしょ。

一歩氷のリンクに踏み出しても、うん。問題ない。

「鈴ちゃん。おいで」

未だリンクの外にいる鈴ちゃんの手をぎゅっと握って促す。

「あ、葵お兄ちゃん。手、離さないで、ね?」

手を握り返されて、僕は嬉しくなる。

「勿論。絶対離さないから。おいでよ」

「う、うん」

鈴ちゃんが一歩踏み出す。転ばないようにきちんと手を取り、少しの足に力を入れて、滑りだす。

すると最初は恐る恐るだった鈴ちゃんも、直ぐに滑れるようになり僕達は楽しく遊んだ。

慣れてくるとくるくる回るのも楽しい。はしゃぐ鈴ちゃんを可愛いなぁと微笑みつつ頭を撫でて。隠れて、鈴ちゃんに近寄ろうとする男を睨み付ける。

僕の鈴ちゃんが可愛いのは事実だし、近寄りたいと思う気持ちも分かるけど、近づいて来たら殺す。

「葵お兄ちゃん、楽しいねっ」

そんな牽制しまくりな僕には全く気付かない鈴ちゃんが珍しく抱き着いてきた。

嬉しい。そして、可愛いっ!

「そうだねっ」

鈴ちゃんを抱き上げてくるくる回る。楽しそうに笑う鈴ちゃんに僕は大層満足していた。

回転しながらふと父さんが視界に入る。すると微笑みながら時計を指さしていた。

ん?もしかして、時間?

鈴を抱き上げたまま、リンクの外にいる父さんに近寄った。

「そろそろ、お昼だよ。二人共お腹空いただろう?何か食べて、お土産でも見て帰ろうか」

二人でコクコクと頷く。

父さんが良い子だと撫でてくれた。少し照れながらリンクを出て、靴を履き替え返却して。

すっかり冷えてしまったので、フードコートで暖かいスープとここでのみ作られている特製デニッシュを食べて満足する。

展示物の少ないおまけのような水族館を回り、ペンギンで目を輝かせる鈴ちゃんを堪能し、お土産を見に行く。

ぬいぐるみに土産売り場にありがちなクッキーやサブレの包み。後はこのスケート場のオリジナルマスコットがついた文房具。同じくマスコットのグッズなどが並んでいる。

そこまで大きくない売り場だから直ぐに回り終えた。

「葵、美鈴、何か欲しいものはあるかい?」

父さんに聞かれても、正直僕に欲しい物はない。鈴ちゃんはどうだろう?

視線を横に映すと、鈴ちゃんはじーっとペンギンのぬいぐるみをみていた。…うん。分かりやすいね。

「鈴ちゃん。ペンギンのぬいぐるみが欲しいの?」

「ふぇっ!?う、ううん。大丈夫、いらな…い?」

何故疑問形?

じっと僕の顔を見て、そっと僕の肩に手を乗せて背伸びするようになると耳に手を当ててコショコショと話かけてきた。

「あのね。皆で使えるお揃いの、欲しいの。沢山、おねだりしたら、怒られる、かな?」

ストンと背伸びを止めて、真っ赤な顔で僕を見上げる。怒られる訳ない。って言うか、どうしよう。果てしなく可愛い。

でも、鈴ちゃん。鈴ちゃんが本当に欲しいのはペンギンのぬいぐるみじゃないの?

お揃いのが欲しいと言いながら、視線はペンギンのぬいぐるみにむいてるよね。

あぁ、そうだ。なら…。

「父さん、僕、皆とお揃いで何か欲しいんだけど」

「皆?家族皆って事か?」

「うん。でもほら。鴇兄さんとか父さんに同じく可愛い物持たせるのもあれだから。同じペンギン模様したグッズを買おうよ」

にっこりと微笑み言うと、父さんはあっさりと良いぞと頷く。

「じゃあ、鈴ちゃん。選んで」

「えっ!?私っ!?」

「うん。そう。僕と棗にはどれがいいと思う?」

「え、えーっと…」

鈴ちゃんは家族用に次々と選んでいく。父さんと鴇兄さんにはクリスタルのペンギンがついたストラップ。佳織母さんとお祖母さんにはペンギンのついたハンカチ。僕と棗にはペンギンの三色ペン。そして、鈴ちゃんは自分用にペンギンの小さなキーホルダーを選んだ。

うーん。鈴ちゃん。遠慮しちゃったんだ。

「鈴ちゃん。ほんとに欲しいの、それじゃないでしょう?」

ビクリと体を震わす。…分かりやすい。

「父さんにちゃんと欲しいものおねだりして。僕だってこんなにおねだりしたんだから、大丈夫」

安心させるように微笑むと、鈴ちゃんはキーホルダーを戻して、父さんの人差し指を握った。

「誠パパ。あの、ペンギンのぬいぐるみ、欲しい、な」

…可愛い。

あんなおねだりされたら、僕はきっと二つ返事で頷いてしまう。

「よしっ!買おうっ!」

だよね。父さんも僕と同じ気持ちだったってことだよね。

鈴ちゃんは父さんが買ってくれると言ってくれた事に喜び、小さなぬいぐるみを手に取った。

「えへへ。可愛い…」

嬉しそうに微笑む鈴ちゃん。ぬいぐるみと鈴ちゃん。うん、可愛いっ!

そんな鈴ちゃんの手から父さんは何故かぬいぐるみを取り上げた。そしてさっさとそれを戻してしまう。え?なんで?買ってくれるんじゃないの?

鈴ちゃんの悲しそうな顔に一瞬父さんを殴ろうか考えていたら、父さんが美鈴が選んだお土産の入った籠を持ってさっさと会計に行ってしまう。

うん、殴ろうかな。

後を追い掛けて行くと、突然目の前に特大のペンギンが現れた。下手すると鈴ちゃんと同じ大きさかもしれない。

「え?え?」

流石に片手では持てずに鈴ちゃんが僕から手を離してそれを両手で受け取る。

「こちらでお間違いはないですか?」

店員さんに言われ、鈴ちゃんは目を白黒させながらコクコクと頷く。

ぬいぐるみのせいで鈴ちゃんが見えない。それに手を繋いでいないからはぐれてもいけない。僕は鈴ちゃんからぬいぐるみを受け取り、片手で持つと鈴ちゃんと手を繋いだ。

会計を終わらせた父さんが戻ってくる。

「さ、土産も買ったし帰ろうか」

「ま、誠パパ。これ、高いんじゃっ」

「いいんだよ、美鈴。父さん、今日一日眼福だったから」

「父さん。本音が漏れてる」

つい突っ込みを入れてしまう。そして未だ気にしてる鈴ちゃんに僕は微笑み、言った。

「鈴ちゃん。父さんはおねだりが嬉しかったんだからいいんだよ。素直に受け取ってありがとうって言えば良いんだ」

言うと、鈴ちゃんは一瞬戸惑いながらも、可愛く微笑んで、父さんにありがとうと告げた。

父さんが嬉しそうに微笑む。…デレデレだ。

車に戻り鈴ちゃんと二人後部座先に座る。鈴ちゃんの膝の上には買ったペンギンが鎮座していた。

暫くすると、隣から気持ちの良さそうな寝息が聞こえる。

車が曲がると同時に鈴ちゃんの体が傾き、僕に乗っかかってきた。

知らず笑みが浮かび、寝辛いだろうからと起こさないように膝へと頭を移動させ、眠る鈴ちゃんの頭を撫でた。

「……すー…すー…」

可愛いなぁ…。

今日一日ずっとそれを思ってた気がする。…毎日思ってるけど。

「…あ、おい、おにい、ちゃん…」

?、寝言?

「…だい、すき…」

可愛いっ!!

僕は鈴ちゃんを力の限り抱きしめたいのを我慢して、ゆっくりその頭を撫でた。

「……美鈴。父さんは…?」

運転席で父さんが何か悲しんでいたけれど、僕はそれを華麗に無視して、膝の上の可愛い妹を愛でるのだった。

美鈴は心のままに遊びたいままに外で遊んだ経験が殆どないんです。美鈴は今幸せ。再び時系列丸無視の日常。

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