表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/68

06.伝説の吸血鬼を下僕にする



 俺は伝説の吸血鬼、夜の女王(ノスフェラトゥ)を封印した。

 ミョーコゥの街の外にて。


「すごい! ほんとにすごいわ、リク!」


 幼なじみにて、恋人のフレア・サリエルが、笑顔で抱きついてくる。

 や、柔らかい……良い匂い……。


「でも、不思議ね。リクってこんなに強いのに、なんでパーティ追放されちゃったの? 吸血鬼を圧倒するくらい強かったじゃない」

「ああ、それは王太子のパーティでは、補助に徹してたからな、俺」

「補助に……徹する?」

「ああ。結界だけ張ってろってさ」


 王太子オチブレルは、どうにも自分が前に出て、活躍したいという強い欲求を持ってるやつだった。

 戦いは全部自分、手柄は総取り。


 つまり俺は攻撃する機会を与えてくれなかったのだ。


「なるほどー。こんなに強くても、強いところを見せる機会が無きゃ、わかってもらえないのね」

「ああ、まあな……」


 フレアの言うとおり、いくら強さを磨いたとしても、見てもらえないと、人ってわかってもらえないからな……強さを……。


「リク。わたしは、わかってるよ」


 フレアがふんわりと笑って、俺を抱きしめたまま、頭を()でてくれる。

 慈しむような手つきで()でてくれる。

 

 そんなカノジョの愛撫に、俺は安らぎを覚えた。


「リクがいっぱいいっぱい、努力したってこと。伝説の吸血鬼を圧倒するほどの力だもの。一朝一夕じゃ身につかないわ。途方もない努力をしたのよね?」

「ああ……」


 俺は師匠せんせいに才能を見いだされて、今日までずっと、結界術を磨き続けた。

 ただひたすらに努力し続けた。


「わかるよ。結界魔法しか使えないってことで、皆から馬鹿にされたのよね? それでも……頑張って技を極めて、宮廷魔導師にまでたどり着いた。それはインチキじゃないわ。あの強さを見れば、誰でもわかるもの」

「そう……かなぁ……」


 思わず、弱音が口をついた。

 今まで誰も俺を評価してくれなかったからだ。


 フレアは笑ってうなずいくる。


「リクはこれからたくさんの人に、認めてもらえるよ。リクは強いって! もし誰にも認められなかったとしても、わたしがずっと側に居て、あなたの力をちゃんとわかってあげます。あなたは強い、すごい、結界師なんだって」

「う、うう……ありがとう……フレア……」


 こんな風に俺のことを、きちんと評価してくれる人は、初めてだ……。

 ああ、俺フレアと一緒になれて、よかった……。


 どんなときでも、何があっても、俺の側に居て、俺を正しく評価してくれる人が居る……。

 こんなに嬉しいことはない。


 ……だからこそ、俺は、カノジョを守らないといけない。

 だからこそ……。


「フレア、ちょっと周りを調べてきていいか?」

「? いいけど……周りを調べるって?」

「ちょっと気になったことがあってな」

「うん、わかった。直ぐ帰ってきてね」


 俺はフレアに結界を張って、その場を離れる。

 そして……。


 地面に落ちている、十字架を手に取って、言う。


「おい吸血鬼。聞こえてるだろ?」


 十字架に向かって……俺は言う。

 これには夜の女王(ノスフェラトゥ)が封印されている。


 通常なら意識も深く沈めて、外と会話することなんて不可能……。

 だが、俺は結界の強度をほんの少しだけ緩めて、やつの意識だけを外に出す。


『う、』

「う?」

『うわわぁああああああああああああああああああああああん!』


 ……夜の女王(ノスフェラトゥ)のやつ、急に泣き出したぞ。

 なんだってんだ……?


『人間にぃいいいいい! 下等生物にぃいいいいいいい! 負けちゃったよぉおおおおおおおおお! うわぁあああああああああああああああん!』


 ギャン泣きだった。

 なにこれ?


 泣いてる姿は(見えないけど)、子供のように見える。

 なんか、かわいそうに思えた。


「ちょっと待ってろ」


 俺は封印を、ほんのちょっぴり緩める。

 すると……十字架が輝き、そこにはひとりの小さな子供が現れる。

 銀髪に、ぶかぶかのドレス。


 頭には俺の作った十字架が載っている。

「な、なんじゃこれは!? なぜわらわが外に出れておるのじゃ!?」

「いや、正確には外に出てないよ。封印術をほんの少し緩めて、おまえの肉体の一部を外に出しただけ」

「? ?? な、何を言ってるのかさっぱりじゃ……」


 ようは、夜の女王(ノスフェラトゥ)の意識と肉体の一部だけを、結界の外に出しただけだ。


「おまえの吸血鬼としての力はその十字架に封印させてもらってる」

「力だけ封印って……相変わらず貴様の結界術は、規格外すぎるじゃろ……」


 さて。


「俺がおまえを一時的に外に出したのは、聞きたいことがあるからだ。正直に応えろよ」

「ふ、ふん……! だれが人間なんぞの……」

「【結】」

「ぐわぁああああああああああああああああああああ!」


 十字架の中に、夜の女王(ノスフェラトゥ)の肉体が収納される。

 地面に1本の十字架が突き刺さる。


「俺の意思で、おまえを十字架の中に閉じ込めることはできるんだぞ? そしてこれを海中深くに沈めることもできるんだぞ?」

『わかった! わかりました! 貴様に……いや、おぬしには逆らいません! だから出してぇえええええ! 暗くて狭いのは嫌なのぉおおおおおおお!』


 俺は封印を緩める。

 十字架から夜の女王(ノスフェラトゥ)が出てくる。


「ぜえ……はあ……くっ! 屈辱じゃ……人間に従わないといけないなんて……」

「【結】」

「ぐわぁああああああああああああああああああああ!」


 ややあって。


「で、なんじゃ……? 聞きたいことって?」


 幼女姿の夜の女王(ノスフェラトゥ)が俺に尋ねてくる。


「まずおまえ、名前は?」

「うぐ……吸血鬼にとって、名前を知られるというのは、存在を握られること……容易く人に教えるわけには……」

「知ってるよ。だからこそ聞くんだよ。言え」

「…………」


 スッ……と俺は右手を前に出す。


「ああわかったよ! 【カーミラ】!【カミーラ・ヴラド・ツェペッシュ】!」

「なるほど、カーミラだな。俺はリクト」

「幼女相手に尋問とか、人間としてはずかしくないのか?」

「俺より年上だろ、カーミラ」


 さて、真名を知れたところで……質問だ。


「カーミラ、おまえさっき、高貴なる血族(ノーブル・ブラッド)とか言ってたな。……あれはなんだ?」

「我ら、真なる吸血鬼の一族のことじゃ」

「一族……つまり、他にもおまえみたいな吸血鬼がいるってことか?」

「そういうことじゃ」


 やっぱりか……。

 オカシイと思ったんだ。


「おまえ、伝説の吸血鬼とか言うわりに、クソほど弱かったしな」

「わらわは弱くない! 貴様がおかしいのじゃ!」

「オカシイって?」

「強すぎるって意味じゃよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 カーミラがフガフガと鼻息を荒くする。


「なんじゃあれは!? 吸血鬼を一方的にボコって! しかも封印の術式を一人で発動させた? あれは、複数人が数時間かけて行う大規模儀式魔法じゃぞ!? 人間じゃないだろおぬし!」

「失礼だな、俺は人間だ」

「単騎で夜の女王(ノスフェラトゥ)を封印できるやつは、人間とは言わないのじゃああああああああああああああああ!」

「いや、人間だけど。おまえが弱いだけだろ」

「むきぃいいいい! はらたつうぅうううううううううう!」


 ゴロゴロと地面を転がるカーミラ。

 変なやつだな。


「おまえの他にも吸血鬼がいることがわかった。そいつらは今どこにいるんだ?」

「長く、封印されておった。じゃが、そろそろ封印が解ける頃合いじゃろう」

「ふむ……おまえはどうして復活できたんだ?」

「わしはかつて結界師の血を吸ったことがある。そのとき、結界術に対するある程度の知識を吸収した。ゆえに、他の連中より早く結界を解くことができたのじゃ」


 血を吸って……知識を吸収?


「わしら真なる吸血鬼は、血を吸った相手の力を吸収、我が物とできるのじゃ」

「へえ……じゃあおまえも結界術が使えるのか?」

「貴様ほどじゃないがな」


 なるほど、結界術の心得があったから、他の連中より先に出てこれたと。


「あれでも、じゃあおまえその十字架から出ることできるってわけか?」

「できぬ。おぬしの結界術は、あまりに強力すぎてわらわにも解除不可能なのじゃ。こんな異常な結界は初めてじゃ……やっぱ人間じゃない……」


 なるほど……。

 まとめると、他にも強い吸血鬼はいる。


 こいつは特別に、結界術への耐性があったから、例外的に外に出れた。

 そのうち……他の高貴なる血族(ノーブル・ブラッド)たちが復活する……か。


「そいつらの名前と、能力は知ってるな?」

「まあな。同じ一族……ちょっとまて、ナニを考えてる?」


 俺はカーミラに指を指す。


「カミーラ・ヴラド・ツェペッシュ。俺の従者となれ」

「んなっ!? 人間の、げ、下僕になれと!?」

「そうだ。俺に高貴なる血族(ノーブル・ブラッド)の知識をよこせ。そうすれば、少しの自由を与えてやるよ」

「ふざけるな! わらわは高貴なる……」

「【結】」

「ぬわぁああああああああああああああああああああああああ!」

 

 カーミラが十字架に吸い込まれる。

 俺はそれを手に取って言う。


「悪いがこれは提案じゃない。決定事項だ」

『うう……鬼ぃ~……悪魔ぁ~……』

「吸血鬼に言われるとは光栄だな」


 俺は十字架を手に、フレアの元へ向かう。


『おぬし、なぜわらわを必要とするのじゃ?』

高貴なる血族(ノーブル・ブラッド)ってやつが、他にもいるなら、ぶち当たることもあるだろ。少しでも知識がある方がいい」

『わらわから知識を引き出そうとしても無駄じゃぞ。同胞を売るような真似は』

「永遠に封印されてたいの?」

『すみません……』


 俺の声に怯えて、カーミラがしゃべらなくなる。


「あとなるべくしゃべるな。フレアに気取られたくない」

『で、ではテレパシーで会話できるようにするのじゃ』


 脳内に直接、カーミラの声が届く。

 口でしゃべらず、意識を送ることができるようだ。便利だな。


「リク。大丈夫だった?」


 フレアが不安そうに尋ねてくる。

 俺は笑って、カノジョの頭をなでた。


「問題ない」

「そっか。よかった♡」


 ぎゅっ、とフレアが抱きしめてくる。

 ポケットの中のカーミラがうなる。


『! この匂い……そうか、この娘……まさか……【あれ】の』

「さて、フレア。もたついたけど、いくか」

「うんっ」


 俺は右手を前に出す。


「結界変形。奥義。【万物生成】」


 すると目の前に、馬車と荷台が現れた。

「さ、フレア。乗ってくれ」

「うん!」

『ちょおおっと待ったぁあああああああああああああああああああ!』


 頭の中にカーミラのキンキン声が響く。

 なんだ、うるさいな。


『え、え、なに!? なに!? 馬車!? おぬし今なにしたの!? 馬車が出てきたけど!?』


 ああ、結界で馬車を作ったんだが?


『おぬしは一体何を言ってるのじゃ!? 結界で作れるわけがないじゃろ!?』


 ?

 結界で【原子】を作れば、可能だけど?


『原子じゃとぉおおおおおおおおおおおおお!?』


 この世のあらゆる物体は、原子っていう、小さなつぶつぶが集まってできている。

 俺は結界を極限まで小さくすることで、擬似的な原子を作り出すことに成功。


 あとはその原子(結界)で形を作ることで、万物を生成することができるということだ。

 簡単だろ?


『簡単じゃない! 全然簡単じゃない! やっぱりおまえはオカシイ! 異常すぎる! やばすぎじゃろおまえええええええ!』


 まあ何はともあれ、うるさい吸血鬼を1匹下僕にして、俺たちの旅はスタートしたのだった。

【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】


良ければブックマークや評価を頂けると嬉しいです!


現時点でも構いませんので、

ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると幸いです!


ポイントが入ると、更新を続けていくモチベーションが上がります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 後々(煩いけれど)使えそうな従者ですな。
[気になる点] >貴様がおかしいのじゃ!」 >「オカシイって?」 >「強すぎるって意味   このやり取り面白いですか?
[一言] この作者のメインヒロインは大抵人外だから普通の人間?って思ってたらなんかあるんかいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ