06.伝説の吸血鬼を下僕にする
俺は伝説の吸血鬼、夜の女王を封印した。
ミョーコゥの街の外にて。
「すごい! ほんとにすごいわ、リク!」
幼なじみにて、恋人のフレア・サリエルが、笑顔で抱きついてくる。
や、柔らかい……良い匂い……。
「でも、不思議ね。リクってこんなに強いのに、なんでパーティ追放されちゃったの? 吸血鬼を圧倒するくらい強かったじゃない」
「ああ、それは王太子のパーティでは、補助に徹してたからな、俺」
「補助に……徹する?」
「ああ。結界だけ張ってろってさ」
王太子オチブレルは、どうにも自分が前に出て、活躍したいという強い欲求を持ってるやつだった。
戦いは全部自分、手柄は総取り。
つまり俺は攻撃する機会を与えてくれなかったのだ。
「なるほどー。こんなに強くても、強いところを見せる機会が無きゃ、わかってもらえないのね」
「ああ、まあな……」
フレアの言うとおり、いくら強さを磨いたとしても、見てもらえないと、人ってわかってもらえないからな……強さを……。
「リク。わたしは、わかってるよ」
フレアがふんわりと笑って、俺を抱きしめたまま、頭を撫でてくれる。
慈しむような手つきで撫でてくれる。
そんなカノジョの愛撫に、俺は安らぎを覚えた。
「リクがいっぱいいっぱい、努力したってこと。伝説の吸血鬼を圧倒するほどの力だもの。一朝一夕じゃ身につかないわ。途方もない努力をしたのよね?」
「ああ……」
俺は師匠に才能を見いだされて、今日までずっと、結界術を磨き続けた。
ただひたすらに努力し続けた。
「わかるよ。結界魔法しか使えないってことで、皆から馬鹿にされたのよね? それでも……頑張って技を極めて、宮廷魔導師にまでたどり着いた。それはインチキじゃないわ。あの強さを見れば、誰でもわかるもの」
「そう……かなぁ……」
思わず、弱音が口をついた。
今まで誰も俺を評価してくれなかったからだ。
フレアは笑ってうなずいくる。
「リクはこれからたくさんの人に、認めてもらえるよ。リクは強いって! もし誰にも認められなかったとしても、わたしがずっと側に居て、あなたの力をちゃんとわかってあげます。あなたは強い、すごい、結界師なんだって」
「う、うう……ありがとう……フレア……」
こんな風に俺のことを、きちんと評価してくれる人は、初めてだ……。
ああ、俺フレアと一緒になれて、よかった……。
どんなときでも、何があっても、俺の側に居て、俺を正しく評価してくれる人が居る……。
こんなに嬉しいことはない。
……だからこそ、俺は、カノジョを守らないといけない。
だからこそ……。
「フレア、ちょっと周りを調べてきていいか?」
「? いいけど……周りを調べるって?」
「ちょっと気になったことがあってな」
「うん、わかった。直ぐ帰ってきてね」
俺はフレアに結界を張って、その場を離れる。
そして……。
地面に落ちている、十字架を手に取って、言う。
「おい吸血鬼。聞こえてるだろ?」
十字架に向かって……俺は言う。
これには夜の女王が封印されている。
通常なら意識も深く沈めて、外と会話することなんて不可能……。
だが、俺は結界の強度をほんの少しだけ緩めて、やつの意識だけを外に出す。
『う、』
「う?」
『うわわぁああああああああああああああああああああああん!』
……夜の女王のやつ、急に泣き出したぞ。
なんだってんだ……?
『人間にぃいいいいい! 下等生物にぃいいいいいいい! 負けちゃったよぉおおおおおおおおお! うわぁあああああああああああああああん!』
ギャン泣きだった。
なにこれ?
泣いてる姿は(見えないけど)、子供のように見える。
なんか、かわいそうに思えた。
「ちょっと待ってろ」
俺は封印を、ほんのちょっぴり緩める。
すると……十字架が輝き、そこにはひとりの小さな子供が現れる。
銀髪に、ぶかぶかのドレス。
頭には俺の作った十字架が載っている。
「な、なんじゃこれは!? なぜわらわが外に出れておるのじゃ!?」
「いや、正確には外に出てないよ。封印術をほんの少し緩めて、おまえの肉体の一部を外に出しただけ」
「? ?? な、何を言ってるのかさっぱりじゃ……」
ようは、夜の女王の意識と肉体の一部だけを、結界の外に出しただけだ。
「おまえの吸血鬼としての力はその十字架に封印させてもらってる」
「力だけ封印って……相変わらず貴様の結界術は、規格外すぎるじゃろ……」
さて。
「俺がおまえを一時的に外に出したのは、聞きたいことがあるからだ。正直に応えろよ」
「ふ、ふん……! だれが人間なんぞの……」
「【結】」
「ぐわぁああああああああああああああああああああ!」
十字架の中に、夜の女王の肉体が収納される。
地面に1本の十字架が突き刺さる。
「俺の意思で、おまえを十字架の中に閉じ込めることはできるんだぞ? そしてこれを海中深くに沈めることもできるんだぞ?」
『わかった! わかりました! 貴様に……いや、おぬしには逆らいません! だから出してぇえええええ! 暗くて狭いのは嫌なのぉおおおおおおお!』
俺は封印を緩める。
十字架から夜の女王が出てくる。
「ぜえ……はあ……くっ! 屈辱じゃ……人間に従わないといけないなんて……」
「【結】」
「ぐわぁああああああああああああああああああああ!」
ややあって。
「で、なんじゃ……? 聞きたいことって?」
幼女姿の夜の女王が俺に尋ねてくる。
「まずおまえ、名前は?」
「うぐ……吸血鬼にとって、名前を知られるというのは、存在を握られること……容易く人に教えるわけには……」
「知ってるよ。だからこそ聞くんだよ。言え」
「…………」
スッ……と俺は右手を前に出す。
「ああわかったよ! 【カーミラ】!【カミーラ・ヴラド・ツェペッシュ】!」
「なるほど、カーミラだな。俺はリクト」
「幼女相手に尋問とか、人間としてはずかしくないのか?」
「俺より年上だろ、カーミラ」
さて、真名を知れたところで……質問だ。
「カーミラ、おまえさっき、高貴なる血族とか言ってたな。……あれはなんだ?」
「我ら、真なる吸血鬼の一族のことじゃ」
「一族……つまり、他にもおまえみたいな吸血鬼がいるってことか?」
「そういうことじゃ」
やっぱりか……。
オカシイと思ったんだ。
「おまえ、伝説の吸血鬼とか言うわりに、クソほど弱かったしな」
「わらわは弱くない! 貴様がおかしいのじゃ!」
「オカシイって?」
「強すぎるって意味じゃよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
カーミラがフガフガと鼻息を荒くする。
「なんじゃあれは!? 吸血鬼を一方的にボコって! しかも封印の術式を一人で発動させた? あれは、複数人が数時間かけて行う大規模儀式魔法じゃぞ!? 人間じゃないだろおぬし!」
「失礼だな、俺は人間だ」
「単騎で夜の女王を封印できるやつは、人間とは言わないのじゃああああああああああああああああ!」
「いや、人間だけど。おまえが弱いだけだろ」
「むきぃいいいい! はらたつうぅうううううううううう!」
ゴロゴロと地面を転がるカーミラ。
変なやつだな。
「おまえの他にも吸血鬼がいることがわかった。そいつらは今どこにいるんだ?」
「長く、封印されておった。じゃが、そろそろ封印が解ける頃合いじゃろう」
「ふむ……おまえはどうして復活できたんだ?」
「わしはかつて結界師の血を吸ったことがある。そのとき、結界術に対するある程度の知識を吸収した。ゆえに、他の連中より早く結界を解くことができたのじゃ」
血を吸って……知識を吸収?
「わしら真なる吸血鬼は、血を吸った相手の力を吸収、我が物とできるのじゃ」
「へえ……じゃあおまえも結界術が使えるのか?」
「貴様ほどじゃないがな」
なるほど、結界術の心得があったから、他の連中より先に出てこれたと。
「あれでも、じゃあおまえその十字架から出ることできるってわけか?」
「できぬ。おぬしの結界術は、あまりに強力すぎてわらわにも解除不可能なのじゃ。こんな異常な結界は初めてじゃ……やっぱ人間じゃない……」
なるほど……。
まとめると、他にも強い吸血鬼はいる。
こいつは特別に、結界術への耐性があったから、例外的に外に出れた。
そのうち……他の高貴なる血族たちが復活する……か。
「そいつらの名前と、能力は知ってるな?」
「まあな。同じ一族……ちょっとまて、ナニを考えてる?」
俺はカーミラに指を指す。
「カミーラ・ヴラド・ツェペッシュ。俺の従者となれ」
「んなっ!? 人間の、げ、下僕になれと!?」
「そうだ。俺に高貴なる血族の知識をよこせ。そうすれば、少しの自由を与えてやるよ」
「ふざけるな! わらわは高貴なる……」
「【結】」
「ぬわぁああああああああああああああああああああああああ!」
カーミラが十字架に吸い込まれる。
俺はそれを手に取って言う。
「悪いがこれは提案じゃない。決定事項だ」
『うう……鬼ぃ~……悪魔ぁ~……』
「吸血鬼に言われるとは光栄だな」
俺は十字架を手に、フレアの元へ向かう。
『おぬし、なぜわらわを必要とするのじゃ?』
「高貴なる血族ってやつが、他にもいるなら、ぶち当たることもあるだろ。少しでも知識がある方がいい」
『わらわから知識を引き出そうとしても無駄じゃぞ。同胞を売るような真似は』
「永遠に封印されてたいの?」
『すみません……』
俺の声に怯えて、カーミラがしゃべらなくなる。
「あとなるべくしゃべるな。フレアに気取られたくない」
『で、ではテレパシーで会話できるようにするのじゃ』
脳内に直接、カーミラの声が届く。
口でしゃべらず、意識を送ることができるようだ。便利だな。
「リク。大丈夫だった?」
フレアが不安そうに尋ねてくる。
俺は笑って、カノジョの頭をなでた。
「問題ない」
「そっか。よかった♡」
ぎゅっ、とフレアが抱きしめてくる。
ポケットの中のカーミラがうなる。
『! この匂い……そうか、この娘……まさか……【あれ】の』
「さて、フレア。もたついたけど、いくか」
「うんっ」
俺は右手を前に出す。
「結界変形。奥義。【万物生成】」
すると目の前に、馬車と荷台が現れた。
「さ、フレア。乗ってくれ」
「うん!」
『ちょおおっと待ったぁあああああああああああああああああああ!』
頭の中にカーミラのキンキン声が響く。
なんだ、うるさいな。
『え、え、なに!? なに!? 馬車!? おぬし今なにしたの!? 馬車が出てきたけど!?』
ああ、結界で馬車を作ったんだが?
『おぬしは一体何を言ってるのじゃ!? 結界で作れるわけがないじゃろ!?』
?
結界で【原子】を作れば、可能だけど?
『原子じゃとぉおおおおおおおおおおおおお!?』
この世のあらゆる物体は、原子っていう、小さなつぶつぶが集まってできている。
俺は結界を極限まで小さくすることで、擬似的な原子を作り出すことに成功。
あとはその原子(結界)で形を作ることで、万物を生成することができるということだ。
簡単だろ?
『簡単じゃない! 全然簡単じゃない! やっぱりおまえはオカシイ! 異常すぎる! やばすぎじゃろおまえええええええ!』
まあ何はともあれ、うるさい吸血鬼を1匹下僕にして、俺たちの旅はスタートしたのだった。
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