05.伝説の吸血鬼を相手にチート結界無双する
幼なじみのフレアとともに旅立とうとしたその夜、夜の女王が現れた。
いにしえの時代に生きていた、最強の吸血鬼。
だがそんなのが相手だろうと、俺がやるべきことは変わらない。
「フレア、おとなしくその中で待っててくれ。君に指一本触れさせやしない」
彼女は俺の作った結界の中にいる。
フレアは不安げな視線を向けてきたけど、すぅ……と深呼吸していう。
「うん、がんばって!」
フレアは俺の力を、言葉を、信じてくれたようだ。
俺が必ず勝つと信じてくれている。
うれしい……俺の存在を認めてくれる、彼女のことが愛おしくてたまらない。
俺と彼女の幸せな旅を……邪魔するやつは容赦しない。
「馬鹿な人間もいたものだ。このわらわを、夜の女王と知った上で抗おうとするなんてな」
彼女の銀の髪の毛が……赤く染まる。
「奇妙な業を使うようだが、所詮は猿芸。真なる祖たる吸血鬼の術には敵うまい!」
ぶわあ……! と彼女から何か力の波動が感じられる。
しゅううう……と草原の草が一瞬でしおれていく。
「なにが起きてるのっ?」
「多分、生命力を吸ってる」
やつの周りにある草花などの、生命が、やつに吸われていく。
「エネルギードレイン……! わしに近寄るだけで命は吸われる。古竜だってひとたまりもない!」
「そうか」
「なんじゃとぉおおおおおお!?」
なんか知らんが、夜の女王は驚いていた。
「なぜ生きている!? どうして立っていられる!? 古竜の生命エネルギーすら一瞬で吸い取るのじゃぞ!?」
「結界を張ってるからな」
「結界……結界魔法!? 馬鹿な! ありえん!」
あり得ない……?
「結界は物理攻撃をはじく、単なる魔法の盾じゃろう!? エネルギードレインを防ぐことは不可能なはず! どうして無事なのだ!?」
「なんだ、長く生きてるくせに、そんな浅い理解しかしてないのか」
「なにぃい!?」
結界とは、とどのつまり、空間を操る魔法なのだ。
結界の中に別の、安全な世界を作る。
単なる物理的な壁ではないのである。
「俺の張った結界は、害をなそうとする【攻撃】全てを防ぐ」
「な、なんじゃそれは!? そんなの聞いたことがないぞ!」
「そうか。じゃあ覚えて死ね」
俺は結界を発動。
「結界変形。攻式の一【星】」
俺の周りに無数の、小さな結界が出現する。
まるで弾丸のように固く小さなそれが……。
ものすごい勢いで照射された。
どががががががっ!
「くっ……! あれはまずい!」
バッ……! と夜の女王が空を舞う。
彼女の背中には、赤い色の翼が生えていた。
「血の翼……か?」
「そうじゃ! わらわの力は【紅血操術】! 血を操る術じゃ!」
なるほど、血を自在に形を変えることができるわけか。
「くたばれ人間! 【血線】!」
広げた血の翼が輝く。
そして、翼から無数のレーザーが照射された。
あれは超圧縮された血液を、高速で打ち出す技だろう。
「【結】」
俺の周りにドーム状の結界を作り出す。
血のレーザーが俺の結界にぶつかる。
ズガガガガガガガッ……!
だが、血のレーザーは防いだだけじゃ消えない。
ぐっぐっぐ……と押し込んでくる。
「そのまま串刺しになるがよい!」
確かにこのまま我慢比べになると、結界をぶち抜いてくるな。
ちら、とフレアを見る。
彼女は目を背けず、黙って俺を見てくれていた。
俺が勝つと、信じてくれている。
その信頼を裏切りたくない。
俺が死ねば彼女が狙われる。
そんなことはさせない。
俺は誓ったんだ。
フレアを守るってな。
「結界変形。防式の三。【弾】」
その瞬間……。
俺の周りの結界が、プリンのように柔らかくなる。
ぐにゅうううう……と一瞬だけ壁がへこむが……。
ボヨォォオオオオオオオオオン!
「んなっ!? 馬鹿な……!? 血線が弾かれたじゃと!?」
飛んできた血のレーザーをすべて打ち返した。
反射されたそれが、夜の女王の体を貫く。
「うぎゃぁあああああああああああああああああ!」
血の翼を失い地面に落下する、夜の女王。
「ば、ばかな……ありえん! 血線を打ち返すじゃと!? なんじゃ!? どうなっておる!? あれは、魔神の体すら貫く最強の矛じゃぞ!? なにをした!?」
「結界で反射させた」
「結界で、反射!?」
「ああ。防式の三。【弾】は、結界の材質を柔らかくさせ、あらゆる物理攻撃を弾くことができる」
「そ、そんな……使い方ができるとは……」
結界魔法はただ敵を弾く壁をはるだけじゃない。
形を変えて攻撃を加えることもできる。
防御にしても、ただ壁を張るんじゃ無くて、形や材質を変えることで、あらゆる攻撃を無効化できるのだ。
ほとんどの人は、ここまでやらない。
だが俺は結界魔法しか使えないから、極めたのだ。
「! 体が再生してる」
「そうじゃ、不死者に攻撃が通っても、またすぐに再生するのじゃ!」
「結界変形。攻式の四。【圧】」
「うぎゃぁああああああああああ!」
ぐしゃり……!
地面に転がっている夜の女王が、上から見えないなにかに、押しつぶされてるようになる。
「な、んじゃこれは……体が……重くて……動けぬ……!」
「攻式の四。【圧】。巨大かつ高質量の結界を作り、上から押しつぶす技だよ」
今やつには見えてないだろうが、巨大な球体の結界が、夜の女王にのしかかっているのだ。
「な、め、るなぁあああああああああああああああああ!」
ぼこりと夜の女王の体から血が噴き出す。
ドパァアアアアアアアアアアアアアン!
大量の血液を勢いよく吹き出すことで、で【圧】を押し返した。
「ぜえ……! はあ……!」
「なんだ、息が上がってるじゃあないか。たかが人間を相手に、随分と苦戦してるな」
「だ、だまれ……! 貴様は……貴様は何者じゃ!? あり得ないぞ! 吸血鬼をここまで追い込む人間なんて!」
何者……?
「結界魔法しか使えない、欠陥魔導師だよ」
「う、嘘をつくなぁ……! くそっ! なめるなよ、わらわは高貴なる血族の【ひとり】! 人間ごときに負けるわけにはいかぬのじゃ!」
高貴なる血族の……ひとり?
なんか、もやっとする言い方だな。
まるで……他にも居るような言い方じゃないか。
「うおおお! 【血流強化】……!」
彼女の体に、赤い痣が浮かび上がる。
ドンッ……!
「っ!」
一瞬で夜の女王が近づいてきた。
「この距離なら結界は張れないなぁ……!」
なるほど、結界は術者を中心に、ドーム状にバリアを張る。
つまり、超接近されると、バリアが張れない……。
夜の女王は俺に抱きつく。
振りほどこうとするが、逃げられない。
なるほど、さっきの【血流強化】は、血流を速めて、身体能力を向上させる技か。
「喰らえ! わが奥義……! 【奪命脱血】!」
その瞬間、夜の女王の体から無数の血の触手が伸びる。
どすどすどすっ!
触手が俺の体に突き刺さる。
ぞぞぉおぉおおおおおおおおおお!
「ふははは! 至近距離から直接血をぬいて、命まで吸い取る技よ! 一瞬じゃ……! 一瞬で貴様の命は朽ち果てる……!」
「生きてるぞ」
「なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
驚愕する夜の女王。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? なぜじゃ!? 貴様は結界を張れないはず!?」
「張ってるよ、よく見てみろ、俺の体の周りを」
すると光の薄い膜のようなものが、俺を包んでいるのがわかるだろう。
「結界変形。防式の五、【鎧】。体にぴったりと張り付く結界だ」
結界の形をかえて、服のようにして纏う技である。
「俺の体には極薄の結界が張ってある。おまえのちんけな吸血技なんて効かないよ」
「なんじゃ……おまえ……ほんとに人間か?」
ぶるぶる……と夜の女王が震えている。
伝説の吸血鬼が、である。
まあ、だからなんだって話だがな。
「どうした吸血鬼? 人間風情とかほざいてなかったか?」
「くそっ! 人間がここまで強くなっているとは予想外じゃ……!」
バッ……! と夜の女王は俺から離れる。
翼を広げて、空へと飛び上がる。
体のダメージは再生されてる。
やはり倒すんじゃなくて……
「今日のところは見逃してやる! じゃが、次はない! 次こそ殺してやるからな……!」
びゅんっ、と凄い早さで逃げようとする……。
が。
ばきんっ!
「ふぎゃああ……!」
「次なんてない。ここで俺がおまえを滅するからな」
夜の女王は、空中でとどまっている。
「なんじゃ!? ここに……なにか固いものがあって、行く手を阻んでおる!?」
「ああ、俺が結界を張ったからな」
「なんじゃと!?」
周囲を見渡すと……。
超巨大な結界が、夜の女王を囲って、逃がさないようにしているのがわかるだろう。
「補助式の六、【鳥籠】。結界はな、敵の攻撃をふせぐだけじゃなく、こうして相手を囲って動けなくすることもできるんだよ」
「く、くそ……! くそおぉおおお!」
さて、あとは仕上げだな。
俺は右手を結界の鳥籠にむける。
「悪いがあんたを封印させてもらう」
「封印じゃと!?」
「ああ。あんたは不死者。つまりどんな攻撃を加えても死なないんだろう? なら……その存在を、封印させてもらう」
たら……と夜の女王の額に汗がたれる。
「そうかこいつ……! いにしえの時代、我ら【高貴なる血族】を封印した……! 結界師の末裔! 我ら不死者に、唯一対抗できる、無二の天敵!!!!」
俺は左手で右手首をつかむ。
広げた右手を、ゆっくりと閉じる。
すると夜の女王を包んでいた結界が徐々に、徐々にと小さくなっていく……。
「いやじゃ……! せっかく自由になったのに! また封印されとぉない! いやじゃあああああ!」
結界が小さくなっていき、夜の女王の体をぴったりと包む。
まだまだ小さくなっていく……。
「奥義……【悪鬼封緘】」
「うぎゃあああああ!」
やがてその結界は、1本の小さな十字架へと変わる。
不死者を封印した結界の十字架は……ちゃりん……と地面に落ちた。
「よし、封印完了」
俺は落ちた十字架を手に取って、振り返る。
フレアがホッ……と安堵の息をついていた。
「お疲れ様、リク。すごいよ! 伝説の吸血鬼を封印しちゃうなんて!」
褒められたこともうれしかったけど、フレアが無事でいることのほうが、俺は嬉しかったのだった。
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