35.目覚める、十二聖座《ゾディアーツ》
リクトが水の剣士を倒した……一方その頃。
王国の北西に広がる、奈落の森と呼ばれる場所にて。
ここは木々に覆われており、昼間であろうと、夜のように暗い。
奈落の森の中央には、1本の巨大樹があった。
巨大樹の根元には、複数人の吸血鬼たちがいて、噂話をしていた。
「聞いたか? リブラ様がやられたそうだ」
「ああ。我らの頂点に立つ、12の上級吸血鬼がひとり、天秤のリブラ様が……まさか人間ごときにやられてしまうとは……」
「相手はどんな恐ろしいやつなんだ? 我らは不死なる存在なのに……」
すると、巨大樹の枝に、突如として、1人の吸血鬼が出現する。
根元にいた吸血鬼たちは、バッ……と頭を下げる。
並の吸血鬼では、失神してしまうほどのプレッシャーを放っていた。
その中のひとり……長身の、美しい吸血鬼が言う。
「おい、そこの」
「は、はひぃ!」
人間に対して恐怖心を抱いていた、吸血鬼が、びくんっと体をこわばらせる。
「貴様、人間ごときに恐れを抱いたな……?」
「あ、あの……」
「黙れ」
どさっ!
……吸血鬼が、その場に倒れる。そして、灰となって消えてしまった。
周りに居た吸血鬼達に緊張が走る。
能力……ではない。
今のはあの長身の吸血鬼が、黙れといっただけ。
言葉に載せた殺意、ただそれだけで、不死の存在たる吸血鬼を殺したのだ。
「私は嘆かわしいよ。生物の死という理から超越した、不死の存在たる私たちは、生物の頂点。……だというのに、人間等と言う下等種に、殺されるなどという軟弱モノが、我らの家族の中からでてしまうなんて……」
おそらくは、リブラの話をしてるのだと思われた。
「吸血鬼共よ。さがせ、リブラを葬った、そいつを。そしてここに連れてくるのだ」
「「「「はっ!【サジタリウス】様……!」」」」
長身の吸血鬼……サジタリウスの前に、一般吸血鬼達が頭を垂れる。
彼らは闇に消える。
「十二聖座を超越する力を持つ人間……か」
サジタリウスの脳裏に、ひとりの女の姿が浮かぶ。
それは、リクトに戦い方を仕込んだ、美貌の魔女。
あの魔女が十二聖座を倒したのなら、まあ、わかる。
だが……。
サジタリウスは目を閉じて、眉間に指を載せる。
瞬間、彼の頭の中に大量の情報が流れてきた。
ふぅ……とサジタリウスは息をつく。
「あの女の気配を、この世界には感じぬ」
死んだか、あるいは、この星にいないか。
いずれにしろ、地上にはあの魔女がいないことが確定した。
「では……誰がリブラを? 十二聖座最弱とはいえ……高貴なる血族の頂点に立つものを倒した……となると……」
あの魔女の子孫か、あるいは、その力を受け継いだ弟子か。
いずれにしろ、サジタリウスの【目的遂行】の邪魔でしかない。
早めに滅ぼしておきたい。




