33.引き分け
シアンとか言うヤバい男と戦闘している、俺。
自分を液体に変えることのできる相手に対して、俺は結界で器を作り、閉じ込めた。
「……正直、驚いた。ここまで強い化け物を、おれは見たことがない」
瓶の中で、シアンがそういう。
はっ。
敵に褒められても全然嬉しくはないし、おれは違和感を覚えた。
「だからなんだよ」
「……いや。敵ながら見事だと思っただけだ。その術技を、ここまでのモノに昇華するのに、どれほどの時間と労力をかけたか」
……引き続き、別にこいつに褒められても嬉しくはない。
だが、やはり違和感があった。なんだこの男……やけに饒舌だ。
「あんたをここで滅することは容易い。が、俺とフレアに二度と関わらないというのなら、見逃してやっても言い」
別に俺は無差別殺人者じゃない。
……まあ、フレアに敵対するやつには容赦しないが。
敵対しないというのなら、少し時間を置いて、封印を解いてやってもいい。
「それには及ばん。おれは自力でここから脱出する」
ずぉ……! とシアンの体……いや、シアンから魔力があふれ出す。
『時間稼ぎじゃと!?』
慌てるカーミラをよそに、シアンが攻撃を放ってきた。
ビチュンッ……!
早すぎて、最初何をされたのか理解できなかった。
だが、目の前の【それら】を見て、俺は気づく。
「なるほど……水圧カッターってやつか」
超圧縮した水を、高速で打ち出すことで、金剛石をも切れることがあるという。
その原理を利用し、シアンは瓶を破壊して見せたのだ。
「…………」
瓶から脱出したシアン。
彼は目を大きく剥いていた。
「……何故生きてる?」
やつは瓶を破壊すると同時に、俺の心臓をも打ち抜こうとしていた。
だが、俺の目の前には、何重もの結界が張られている。
「あんたが時間を稼いでるのがわかってたからな、こっちも対策させてもらったよ」
「……そうか、バレていたか」
急にこいつがおしゃべりになった時点で、何かの準備をしてることは明らかだった。
だから、その時間をこちらも利用させてもらったのだ。
「あんたの手の内はわかった。これ以上やるなら、こっちも本気を出すぞ?」
シアンに対して俺は奥義を使っていない。
【 】を使えば、こいつを構成する水は全て、一瞬で蒸発するだろう。
俺の発現、そして力を見て……。
シアンは刃を納めた。
「……ここは手を引かせてもらおう」
「賢明だな」
やつからの申し出を聞いて、ほっとする俺。
正直、あまりフレアの前で戦いたくないのだ。
殺すことは容易いが、な。
「……また会おう。次は、お互い全力で」
「もう来んな」
俺は【保険】をかけておく。
シアンはパシャッ、と水となってその場から消えたのだった。




