32.VSシアン
水の男が牙を剥いてきやがった。
やつの纏う気配から、かなりの使い手であることがわかった。
「フレア! 他の連中も、にげ……」
「逃がすと思うか?」
男が剣を抜いてる。
だがその刀身が、半ばで消えていた。
あたりに水蒸気が漂っている。
「り、リク……」
水蒸気がフレアを始め、乗客の首元にただよっていた。
……あれからも力を感じる。
恐らく水をどうこうするのだろう。
水蒸気をたとえば水の刃に変える、みたいな。
「……動くな。動くと……」
「はっ! だからなんだ。【結】!」
ドーム状の結界を張る。
ばふん!
俺と水の男、そして水蒸気が、結界の外へと追い出される。
「…………」
男が目を剥いていた。
そらそうだ。見たことないだろ、こんな結界術の使い方なんて。
『な、なんじゃ……一体今なのをしたのか?』
カーミラは気づいていないようだ。
「結界を張り、内部にいる特定の人物だけを外に出したんだよ」
結界の対象を、一般人だけにして、それ以外は外に弾くように設定したのだ。
『なんという緻密な空間操作……すごい……』
フレア達だけを街に、このまま転移させることはできる。
だがフレアを、俺の目から離したくなかった。
現状、この水の男はかなりできる。
そしてこの男にフレアが目をつけられてるのだ。
この状況でフレアを遠くに飛ばすと、たとえば、そこで仲間が待ち受けてる……っていうこともあり得る。
だが、目で見える範囲内で戦う。
「見事な技だ……が、それも人外の技だ。おれたち牙狩りは、それを許さない」
「牙狩り……ね。別にあんたらに許してもらう気は無い」
俺は構えを取る。
水の男も構えを取る。
「……蒼剣のシアン、参る」
シアンと名乗った男が剣を構える。
「名前は言わないぜ? あんたには興味ないからな」
すぅ……。
ざんっ!
一呼吸で、シアンが近づいてきた。
かなり、鍛えてるのがわかった。
『はやっ!?』
「おせえよ」
ガキイィイイイイイイイイン!
シアンが俺の首を躊躇無く切り飛ばそうとした。
だが俺は結界を鎧のように全身に纏うことで防ぐ。
「【杭】!」
結界を杭にして、シアンを串刺しにする。
『やったかの!?』
「いや……手答えがない」
傷口からは血液がもれて……なかった。
人間では無い何かを突き刺してるような感覚。
「その程度か?」
杭が突き刺さった状態でシアンが攻撃をしてくる。
「まさかだろ」
かーん!
【星】を飛ばし、剣の先端に当てる。
剣が弾かれて、シアンの手から離れる。
虚を突かれたような彼。
その懐に俺は入り込むと、
「ぜやぁ!」
俺は男のみぞおちに一撃を入れる。
ずぶ……。
『やはり身体が水のようになってて、打撃がきかん!』
「わかってる。相手が悪かったな、あんた」
俺は手で印を作る。
「不死の存在については、スペシャリストだから、俺。【結】!」
俺はシアンに結界を張る。
やつは逃げようとするが……。
「逃げられないだろ。おまえの身体の形にあうよう、結界で檻を作った」
シアンは体を水にできる。
だから、その体にあうように、器を作る。
ガラス瓶に入った水のように、やつは動けなくなった。




