03.勇者は国王から叱られる
《勇者Side》
リクト・ガードマンが追放されたと、ゲータ・ニィガ国王が知ったのは、数日後のことだった。
「なんてことだ……なんて、愚かなことを!」
部下の報告を聞いて国王は怒り心頭だった。
「今すぐ馬鹿息子を連れてこい! 今すぐにだ!」
「は、はい……」
「それとリクトを追い返した門番の馬鹿は、逮捕し、犯罪奴隷として鉱山送りにしろ」
国王の部下は汗をかきながら尋ねる。
「そ、そこまでする必要があるのですか?」
「なんじゃ? 貴様も鉱山に行きたいか?」
「い、いえ……ただ、陛下は少々、リクト・ガードマンを過大評価しすぎてないでしょうか?」
ため息をついたあと、国王は説明する。
「あのものは天才だ。100年、いや、1000年に一人のな。貴様、王都全体を包んでいる結界について知っているか?」
「魔物除けの結界ですか? もちろん、存じております。あれのおかげで我が国の王都は世界で一番安全で……」
「あれはリクトが施した結界じゃ」
「な!? そ、そんな……! ありえない、王都全体を包み込める結界なんて、聞いたことがない!」
結界とは通常、自分ともう一人を守るくらいの代物なのだ。
優れた結界の使い手でも、せいぜい、半径3メートルくらいの結界を張れるくらい。
町全体を包み込む結界を張るなんて、人間業ではない。
「それに、先日飛竜の大軍が観測されただろう?」
「え、ええ……ですが一瞬で消えたとか」
「あれも、リクトがやったのだ」
「はああ!? け、結界魔法で、どうやって飛竜を倒したというのですか!? 防御の魔法ですよね!?」
「それが、できるのだ。あやつは天才だからな」
陛下は飛竜の件の報告を受けている。
100はいる飛竜を、一瞬で消し炭にしたと。
「結界を使って、どうやって消し炭にしたというのですか。Bランクとはいえ相手は竜ですよ? それをひとりでどうやって?」
「あやつの結界術には、奥義が存在する」
「奥義……」
「ああ。人智を超えた力を発揮するという。それを使えば飛竜100匹を一瞬で消し飛ばすことなんて容易かろう」
「そんなことができるなんて……どうして御存じなので?」
「魔法学校の校長とは古なじみでな。あやつもいっておった、リクトは天才だとな」
そう、そこまですごい人物だからこそ、息子につけてやったのだ。
それを知らずに追い出すなんて……。
「せめてあの馬鹿が、リクトを追放したことを反省していればよいのだがな。今頃パーティは弱体化してるころじゃろうし、さすがに気づいてるか……」
と、そのときだった。
「父上聞いてください!」
ばん! と国王の部屋の扉が開くと、息子……オチブレルが帰ってきた。
バカはまだ呼びにいってないので、おそらく偶然の来訪なのだろう。
果たしてその表情はというと……。
「血税を無駄遣いしていた、重罪人のリクト・ガードマンを国外追放にしてやりましたよ!」
なんとも晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら、オチブレルがやってきた。
国王は怒りのあまり顔を真っ赤にして、ぷるぷると肩を震わせ……。
「ばっかもぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
「ひぃい! ち、父上? どうなさったので……」
「この愚か者が! なんて馬鹿なことをしてくれたのだぁ!」
「ば、ばか? 完璧なこのボクがどうして馬鹿なのですか?」
「それがわからぬから馬鹿だといってるのだぁ……!」
かくして、最強の結界魔法使いは野に放たれた。
その波紋は世界中に広がっていくことになっていく……。