27.移動
俺たちは別の街へ移動することにした。
天使であるフレアを、あまり一カ所に長く置いておきたくなかったのだ。
フレアを狙う敵に、彼女の存在を気取られてしまうからな。
「良い天気だねぇ~」
俺たちは乗り合い馬車に乗って街を出る。
馬車の中には、俺たちの他にも客が乗っている。
商人、女子供、そして頭からマントを被った訳ありそうな男も。
『あのマントの男、怪しいが、大丈夫なのか?』
陰の中で、カーミラが尋ねてくる。
まあわからんでもないが。
結界で直ぐに防御できるし、問題ない。
それにまだ敵だとはわからないからな。
仮に敵だったとしても、直ぐに襲って来ないあたり、バカではなさそうだし。
『相手のリアクション待ちってことかの』
そういうことだ。
敵なら対処すれば良し、襲ってこないならそれにこしたことはない。
「はー……ぽかぽかだねぇ」
確かに今日は良い陽気だった。
窓から差し込む日差しが実に心地よい。
子猫のように目を閉じて、俺の肩に凭りかかってくるフレア。
……ああ、なんて可愛いんだろうか。
彼女を見ているだけで、日々の疲れが吹き飛んでいく。
やっぱり俺は、フレアとずっと一緒に居たい。
……む。
『どうしたのじゃ?』
敵だな。この気配は魔物。
『わ、わかるのか?』
ああ。周囲に薄い結界を張ってる。
敵がこの結界を通ると、俺にその存在を知らせるようになってるからな。
『不意打ちのきかぬやつじゃな……』
俺は手で印を組む。
攻式結界術、【星】。
馬車の外に無数の結界の弾丸が出現。
そして、魔物の急所を的確に打ち抜く。
ズドドドドッ……!
『どうじゃ?』
さくっと倒したよ。
『なんと見事な……マジで主はすごいな。不意うちが完全に無効とは。無敵じゃな。この感知の結界があるかぎり』
いやでも、いちおう苦手なものはある。
『ほぅ? それは』
相手が人間の場合だ。
魔物は全て敵だから、間合いに入ってきた瞬間倒せば良い。
しかし人間の場合は異なる。
間合いに入ってきたからといって、敵かどうか、区別がつかないからな。
そのときだった。
がたんっ!
馬車が急に停車する。
そして、荷台に男が乗り込んできた。
「強盗だ! てめえらおとなしくしろい!」
……ほらね。
こういうパターンには、弱いんだよ俺。




