21.天秤のリブラ
ダンジョンで上位種である吸血鬼と遭遇した。
普通の吸血鬼と比べてなるほど、魔力量が圧倒的だな。
「ぐぐうぅう……」「ぐぎゃあう……」「がああ……」
上位種の周りにはゾンビが居る。
だがそのゾンビたちは、ダンジョンないで見かけたやつらとは違うようだ。
誰もが、どこか達人を思わせるたたずまいをしている。
『ど、どうするのじゃ……? あのゾンビ、なんだかただ者ではない雰囲気を感じるぞ』
「だろうなぁ」
『だろうなぁ……って』
「ま、俺には関係ないからさ」
ゾンビ集団が一斉にこちらに襲ってくる。
剣、弓、槍などの武器を手に、俊敏な動きで接近。
なるほど、武術のプロか。
その死体を操ってるんだな。まあ……。
彼らの武器が、俺の体に触れることはなかった。
結界術、【鎧】。
文字通り体に薄い結界の幕を張り、敵の攻撃を防ぐ防御術式。
『! 近くで見て確信を得たが……こやつらいにしえの武術のプロ。しかも、彼らが持っているのは神器じゃ!』
「へー」
『知ってるのか!?』
「知らん」
『しらんのかい!?』
まあ、どんな武器であろうと、俺の鎧は攻撃を通さない。
「んじゃおかえしで、【弾】」
盾の素材をゴムのように弾く軟質なものへ性質を変化させる。
ばうんっ! と彼らが背後に吹っ飛んでいく。
『やはり、その結界ずるすぎるのじゃ……』
「そう? 向こうだってすごい武器使ってんだろ? ならすごい防具をこっちが使ってもいいだろ。でなきゃ不公平だ」
『そりゃ……まあ……』
悠然と座っていた上位種が、「ほぅ……」と興味深そうに言う。
「少しはやるようだな」
若い女の声だ。まあ、吸血鬼たちの見た目と中身って違うから。
声が若くても、実年齢は結構いってるだろう。
「なにをしに来た、人間?」
「あんたを封印に来た」
吸血鬼は不死の存在だからな。
討伐は難しいだろう、だから、封印する。
「はっ! 面白い人間だ。この我を、上位種の一人だとわかってるのか?」
「まあね。でも関係ないよ。あんたが上位だろうが下位だろうが、俺は仕事をまっとうするだけだ」
旅の資金がほしいからな。
「面白い虫けらだ。いいだろう、少し……遊んでやる。この【天秤のリブラ】がな」




