20.上位種
ダンジョン内部を進んでいく俺たち。
道中ゾンビに出会うも、俺は結界で相手を閉じ込め、さらに内部の時間を巻き戻すことで、ゾンビ達を元通りにしていく。
『しかし……そなたは本当に規格外だな』
「なんだ、急に?」
今し方ゾンビから人間に戻した人を、街へと送り届けてきたばかりだ。
俺のカゲからカーミラが出てきて言う。
「そもそも、転移の魔法はすごい高度な魔法なのだ。どうして魔法適正のないおぬしが、しかも、結界術しか使えぬおぬしが転移できるのだ?」
「前にも言ったが、結界ってのはようするに空間魔法なんだよ」
師匠から教わった知識によると……。
結界を張ることで、外、そして中。二つの空間を作り出す。これが結界術。
転移は今この場という空間、そして転移先という空間。
二つの空間を作り出し、その間をつなげる。そうすることで、二点間を一瞬で行き来できる……という仕組みだ。
「仕組みを聞いてもなおわからん……まるで【彼ら】のようじゃな、そなたは」
「彼ら? なにそれ」
「わしら吸血鬼の……いや、なんでもない」
「?」
カーミラの言葉が気になった。しかし口を閉ざす。うーん……。
「言いなさい」
現在俺はカーミラの主人だ。
主従関係を結んでいる以上、カーミラは俺の命令には逆らえない。
「もが……い、いえぬ!」
「なぜ?」
「あのものたちの名を言えば……わらわが、死ぬ!」
……嘘ではないらしいな。しかし、だれだ?
あの者達……? 複数形だった。カーミラが上位だと言う存在。
「吸血鬼の……上位種とか?」
モンスターでもボスというものが存在する。
それと同様に、吸血鬼にも上位の存在が居たとしたら……?
……帰ったら調べてみるか。
カーミラはこれ以上情報を吐かないだろうし。
その後も俺はダンジョン内部にいるゾンビを元に戻していく。
やがて、一つの扉のまえに到着した。
「ここが最深部か」
ここにゾンビ化の原因となる存在がいるようだ。
ゾンビ達から話を聞いたところによると、みなこの扉の前までの記憶はあるようだ。
しかし次の瞬間、気づいたら意識を失っていたという。
「いくぞ」
俺は扉を開く。
なかは広く、どこか神殿のような荘厳さがあった。
奧へ続く絨毯。
その先にいるのは、椅子に悠然と腰掛ける……一人の女だった。
顔をベールで覆う、若い肉体を持つ女。
気配でわかった。
「あんたが、吸血鬼の上位種か」
「! そ、そなた……どうしてそれを知ってる……?」
「なんとなく、いそうだなって思ったんだ。さっきのおまえの口ぶりから」
ベールで顔を覆うその女の両隣には、精気を失った若い女達が立ってる。
片方の女は、果物ののった皿を。
もうかたほうの女は、天秤を持っていた。
上位種は果物を、女に食べさせる。
魔法を使わず、人を使役してる。正体不明の力を使う……上位の吸血鬼か。
「んじゃ、ま、さっさと討伐しますか」




